J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年08月号

OPINION2 “60歳定年制”はひとつのチャンス 「脱・福祉的シニア雇用」で 新しい役割に向けた意識の転換を

シニアを戦力化するためには、
まずシニアに成果を期待しない「福祉的雇用」から脱する必要がある。
さらに、シニア自身の意識を変えなければならないと語る今野氏。
シニアには、どのような意識の転換が求められるのか。
そのために企業にできることは何か、話を聞いた。


今野 浩一郎(いまの こういちろう)氏
学習院さくらアカデミー長/学習院大学 名誉教授

1946 年、東京都生まれ。学習院さくらアカデミー長。学習院大学名誉教授。東京工業大学理工学部経営工学科卒業、同大大学院理工学研究科修士課程修了。東京学芸大学教育学部講師、同大学助教授を経て、2017 年3月まで学習院大学経済学部教授を務める。著書に『個と組織の成果主義』(中央経済社)、『正社員消滅時代の人事改革』(日本経済新聞出版社)、『高齢社員の人事管理』(中央経済社)など。


[取材・文]=汐見 忍 [写真]=編集部

シニアの現状は「福祉的雇用」

今の日本の法律では、希望者は全員65歳までの雇用が保障されている。しかし、60歳以上のシニア社員が、企業の中で本当に「活用」されているかというと、はなはだ疑問である。

昨今の日本企業のシニア雇用で最も一般的なのが、60歳定年と同時に一律で給与を大幅に下げるというやり方だ。しかも、そこから65 歳までは評価もせず、成果を上げても上げなくても賃金は変わらない。

本来、経営成果を上げるために社員を有効に活用するには、賃金は「能力や仕事や成果に基づいて決める」のが基本原則である。それにも関わらず一律の賃金制度を取っているというのは、裏を返せば、会社はシニア社員には成果を期待していないということになる。これでは本来の「雇用」ではなく「福祉的雇用」である。

この福祉的雇用に対応する「福祉雇用型」人事管理を続けていくと、どうなるか。次第にシニア社員の不満が大きくなり、最終的には働き方を「福祉雇用型」人事管理に合わせる労働意欲の低い集団が出来上がる。それが少数のうちはまだいいが、大集団となった時には、企業は大量の意欲のない社員を抱えることになる。マクロで見れば、社員の5人に1人はシニア社員の時代を迎えている中では、生産性が大幅に低下し、企業の存続自体も危うくなりかねない。

したがって企業としては、「福祉雇用型」人事管理を脱してシニアを戦力化していく必要がある。

賃金は合理的に決め評価も行う

企業がシニアをしっかり戦力化していくためには、まずは処遇の見直しが不可欠だ。

現在、60 歳以上のシニア社員の職務について調査してみると、職責は下がるものの、それまでと同じような仕事をする現職継続がほとんどである。シニア社員の人数が少なければ、例外的にどこかに新たな仕事を探すこともできるが、だんだん数が多くなってきているため、蓄積した能力や経験を活かしてもらう意味でも、現職継続自体は妥当である。

職責が下がる分、賃金が下がるのは当然だろう。また、働き方が制約的になる分も、企業が賃金を下げるのは妥当である。大企業の総合職等の場合には、現役時代はいつでも全国あるいは海外転勤の可能性があるという働き方をしていたが、60 歳を超えれば、転勤が難しくなるなど、働き方が制約的になる。すると会社にとっては、使い勝手は悪くなるので、その分賃金を下げる。このような、制約に応じた賃金の減少部分を私はリスクプレミアム手当と呼んでいるが、これは賃金の2割程度が妥当といえるだろう。

だが、一律に下げるだけではなく、給料はきちんと評価をして、合理的に決めなければならない。その際におすすめしたいのは、シニア社員を60歳から65歳までの5年間の短期雇用と捉え、今持っている能力で仕事をしてもらい、仕事に見合った賃金を支払うという考え方である。

シニア社員が60 歳を超えた時に就く仕事について、重要度に応じて何段階かのランクに分け、Aランクならいくらからいくらまでという幅を決めて賃金額を設定する。それで職責が下がり、一担当者となった時に、どのランクに入るかを決めるわけだ。

福祉的雇用にしないためには、さらに評価をして、成果を賃金に反映させることは必須である。各ランクの幅の中で、一番下から始まって成果を出せば上に上がっていくというようにすればいいのだ。もちろん会社は皆に納得感が得られるように、どの仕事がどういうランクになるかを明確にして社員に示す必要がある。現在、シニアをうまく活用している会社は、大体このような制度を採用している。

「必要とされる」が意欲の源

シニア社員にとって、会社や周囲から「必要とされる」ことこそが、働く基盤であり、最大のモチベーションになる。必要とされるためには、シニア社員も、稼いで会社に貢献していくことが求められる。同時に、自らの意識も変えていかなければならない。

これまでは年齢を重ねるにつれて、より高いレベルの業務に「のぼる」キャリアをたどってきた。だが、体力の問題もあるし、組織としても将来を考えれば若手に入れ替わってもらわなければならないので、もはや「のぼる」キャリアを歩むことはできなくなる。現状は60歳定年が一般的なので、定年を切り替え時にして、キャリアの転換を図らなければならない。

なお、シニア社員が定年後に取りうるキャリアをまとめると、前ページ図1のようになる。余人に代えがたい一部のプロの専門職などは「横ばい」だが、大半は「下がる」キャリアをたどることになる。

活躍するのは「かわいい高齢者」

だが、そこでキャリアチェンジができないシニア社員も出てくる。

特に問題が多いのが、これまでマネジャー的な立場にあったホワイトカラーだ。例えば、会議で必要な資料は自分で作成しなければならない立場なのに、以前と同様に元部下や若手に資料を作らせる。あるいは自分で資料を作ろうとしても、パワーポイントやエクセルなどが使えないので作れない。さらには、顧客や得意先からの電話への対応も横柄になる。そんな事例は、珍しくない。

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