過去の「J.H.倶楽部会員」限定セミナーのレポートです。

J.H.倶楽部会員セミナー 第4回

人生100年時代のキャリアを考える 2019/8/26 ベルサール東京日本橋

人生100年時代といわれるなか、個人はいかにしてキャリアを築いていけばいいのか。そのために企業はどんな支援をしていくべきなのか――。雇用や人的資源管理を専門とし、キャリア、特に近年では「パラレルキャリア」についての研究を進める法政大学大学院の石山恒貴氏と、働き方改革を土台にキャリア関連施策を進めてきたSCSK開発センターリソースマネジメント部の山本勝也氏にお聞きしました。
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第1部 人生100年時代のキャリアを考える 法政大学大学院 政策創造研究科 教授
石山恒貴氏

第2部 人生100年時代のキャリアを考える
―SCSKの事例紹介―
SCSK株式会社
開発センター リソースマネジメント部
山本勝也氏

1.キャリアの課題

●キャリア自律とは

まずキャリアに関するさまざまな課題を考えてみたいと思います。

企業における「キャリア自律」という言葉は、2000年あたりから使われはじめましたが、その頃から、企業と個人はお互いに対等な関係であるべきだと言われてきました。ところが、会社がキャリア自律を重視すると言い出したものの、社内公募や社内FAのようなことを行っても、実際にはあまり機能しない場合もありました。

たとえば、社内公募に応募して合格したことを上司が知ると「社内公募に受かってよかったな。でも、その代わり二度とうちの職場の敷居はまたがせないから」と言われるようなことが実際にあったと聞きます。つまり、会社として推進しようとしても、現場ではうまくいかないのです。

あるいは、希望退職とセットになっているケースもあります。そうすると、キャリア自律などときれいごとを言っても、実質的には、追い出し施策なのではないかと社員は疑い始めます。また、そもそも論として社員に対して、会社が手取り足取り指導することが、果たして「キャリア自律」といえるのかという疑問もあります。

●キャリア教育と現実のずれ

こういった問題は、企業だけではなく大学にもあります。たとえば、学生に対してはよく、「やりたいことが大事」と説きますが、いざ就活をはじめたら、採用面接で「私は、マーケティングしかやりたくありません」と言ってしまうと面接で評価されない場合もあります。また、企業に入社すると様々な職種に柔軟に対応することが求められます。すると、学生は「大学のキャリア教育と実態はかけ離れているのではないか」と感じてしまいます。

あるいは、とにかく正社員を目指しなさい、ということだけを強調するキャリア教育もあるようです。でも実際には、就職してからずっと正社員でいる人は限られた比率であり、社会に出ると、多様な働き方をしている人のほうが多いのです。

こうしたなか、「キャリア嫌い」の人さえ存在します。大学のキャリアセンターで学生からの相談内容には、「やりたいことを大事にしなさいと言われますが、私はやりたいことなんてありません。そんな私が就職をしても意味がないから、就活もしたくありません」という例もあります。「やりたいこと」ばかりを強調されすぎて、自信を喪失する学生も出ています。

こうしたことは、「やりたいこと」への誤解からくるものではないかと思います。やりたいことには、「外的なやりたいこと」と「内的なやりたいこと」があるのですが、前者だけだと考えてしまっている学生が多いのではないでしょうか。たとえば、「国際業務しかやりたくありません」とか「商品企画しかやりたくありません」といったことが「外的なやりたいこと」です。でも本来、人にはそれぞれ個性があって、これに取り組んでいる自分が最も充実していると感じる価値観のようなものがあるはずです。このことは、学生だけではなく社会人でもわからなくなっている人が多いのですが、これが「内的なやりたいこと」です。

自分の「内的にやりたいこと」が発揮される「外的なやりたいこと」は、実はひとつではなく、たくさんあるかもしれません。それは、いろいろな経験をしてみないとわからない。あたかも「外的にやりたいこと」と「内的なやりたいこと」を1つ結び付けて、「それだけしかない」と思い込むとうまくいかないのです。

2.社会と雇用の変化

●ライフ・シフト:100年ライフ時代

以上、まずキャリア教育上の問題点を挙げてみましたが、現在に至るまで、なぜキャリアがこんなにも注目されているのでしょうか。社会と雇用についてお話ししましょう。

最近よく聞く「人生100年時代」という言葉ですが、これがなぜ注目され始めたのかというと、ベストセラーとなったイギリスのリンダ・グラットンさんが著者『ライフ・シフト』で、「2007年以降に日本で生まれた子どもの50%が、107歳まで生きる」と予言したからですよね。これが衝撃でした。このことは、2007年よりも前に生まれた世代は関係ないのではないかと考えがちですが、そうでもなく、寿命は世代ごとに少しずつ延びていくのです。

そうなると、キャリアの考え方も変わらざるを得ません。今までは、「3ステージモデル」――18歳から22歳まで大学教育を受けて、22歳で就職して60歳で定年退職するまでは仕事オンリー。その後、死ぬまでの余生を過ごすという一方通行の3ステージで考えればよかったのです。しかし、107歳まで生きるとなると、さすがに47年間という時間は、余生と呼ぶには長すぎるのではないか。よって、従来の3ステージから、「マルチステージ」を目指すべきという話になります。つまり、探索・創造(ミニ起業)する時期、同時進行する時期、移行する時期を行ったり来たりするという考え方です。そのことをリンダ・グラットンさんは著書で述べています。

そうなってくると、これからは「見えない資産」が大事になってきます。今まで大事だったのは、貯金、住宅、有名企業での雇用といった「見える資産」でした。他方、見えない資産とは、マルチステージを行ったり来たりするために必要な自分についての知識、多様なネットワーク、健康な体、バランスの取れた生活といった、自分を律することも含めた資産をもっているかが大切になります。

●働き方の変化(オーシャンズ11型へ)

もう一つの大きな変化が「第4次産業革命」です。国として第4次産業革命に対応するために、厚生労働省や経済産業省が相次いで研究会を開き、報告書を出しています。そのなかで最も有名なのが、厚生労働省が2016年に出した『働き方の未来2035』というレポートです。ここでは「2035年には、企業という枠は溶け、働き方はミッションや目的が明確なプロジェクトの塊となる」と述べられています。今までの働き方の中心は、同じ会社で長く一緒にいる人たちで、たくさんの人が関わらないと大きな仕事はできなかった。しかし、2035年には、新しく出会った少人数の人たちでも数カ月間で大きな仕事ができてしまう。そういう社会がやってくるという予測です。

そうすると、会社の外も中もプロジェクトばかりになる。映画『オーシャンズ11』のような世界です。これまでは、「株式会社〇〇の△△さん」というように企業名や肩書が重要でしたが、これからは「□□というスキルをもった△△さん」が重要になる。『オーシャンズ11』に出てくる泥棒のように、それぞれのキャラクターの専門性のほうに価値があるということです。

私自身、かけだしの研究者なわけですが、研究者も、さまざまなプロジェクトを同時に走らせる機会がとても多いと感じています。この間、フリーランス協会さんと約半年間のプロジェクトを行って、『2019フリーランス白書』をつくりました。フリーランス協会の方は、20、30代の方が中心で、子育て中の方も多いため、なるべく時間や場所に拘束されない動き方をしました。顔を合わせたのは、都内のコワーキングスペースでの最初の1回のみ。その後は一度も会わず、「チャットワーク」や「ズーム」といったチャットツールやWEB上の遠隔会議システムを使って打ち合わせを行いました。こういった働き方は、すでに現実になってきているのです。

●日本人は、現在も終身雇用を支持している

ただし、求めていてもなかなか変化できていない状況も見てとれます。たとえば、現在、日本の労働者の約9割は雇用されています(図1)。雇用比率はどんどん上がり、雇用者が絶頂になっていると言っても過言ではありません。

実は、1955年には雇用比率は50%を切っていました。映画『3丁目の夕日』の登場人物にも、雇用されている人はあまり出てきません。戦後から高度経済成長を経て現在に至る過程で、大企業で働くことのほうが効率的になっていったというのが現実なのです。

労働者の意識も、どちらかというと終身雇用を求めています。これは、終身雇用を支持する人の割合を追っているグラフですが(図2)、年々、終身雇用を希望する人の割合が増えており、いまや約9割の人が終身雇用を希望しています。これはシニア世代の人のことだと思われるかもしれませんが、そうではなく、若い人ほど終身雇用を希望しているのです。もしかすると変化ばかりを求める世の中に対して心配になり、その反動で安定を求めているのかもしれません。

図1 就業者に占める雇用比率の推移 図1 就業者に占める雇用比率の推移 図2 終身雇用の支持率 図2 終身雇用の支持率

●学びの意識の二極化

世の中が変化を求めているならば、皆スキルアップにも熱心だろうと思うかもしれませんが、実はそうでもありません。厚生労働省が行った『平成29年度 能力開発基本調査』によると、自己啓発している人の割合は、正社員でも42.9%しかいない。日本の正社員の約半数は1年間に1分たりとも自己啓発をしていないということです。リクルートワークスでもほぼ同じ調査をしていますが(『全国就業実態パネル調査2018』)、自己啓発している人の割合は36.9%と、4割を切る結果でした。

ではなぜ、自己啓発・自己学習をしないのでしょうか。その理由で最も多かったのは、「あてはまるものがない」でした。2番目に多いのは「今後転職や独立を予定していないから」(図3)。つまり、同じ会社にいる限りは学ぶ必要はないと考えているようなのです。この調査結果について、リクルートワークスは、「学ばないことに理由はない」、ただ学ばないのだと結論づけています。また、同じ調査で労働時間の増減についても聞いていますが、労働時間が減った人でも、学びの時間は増えていないことがわかっています。むしろ、忙しくなった人の方が学ぶ時間が増えている傾向も見られるのです。

変化を求めている割には、実際の行動に変化はみられないという実態が見てとれます。

図3 学ばないことに特段の理由はない 図3 学ばないことに特段の理由はない


3.キャリア自律とは

●日本人は働く人のエンゲージメントが低い

続いて、キャリア自律についてです。働き方改革で話題になったことは、長時間労働の是正でしたが、本来の働き方改革とは、働く人のエンゲージメント(仕事への熱意)を高めることではないでしょうか。つまり、価値観の多様化に合わせて、働く人のやる気をどう高めるかが大事なのです。ところが、世界の中で日本はエンゲージメントが格別に低いことで有名です。ギャラップ社の調査(※)によると、熱意溢れる社員は、アメリカには32%いるのに日本は6%しかいない。139か国中132位です。

さらに、日本では周囲に不満をまき散らしている無気力な社員が24%、やる気のない社員が70%だと報告しています。日本人の特徴として、曖昧に回答する傾向があることはあるのですが、他の調査でも、日本の働く人のモチベーションは高くないという結果が出ています。
※ State of the Global Workplace Report、2017年発表のデータ https://www.gallup.com/services/178517/state-global-workplace.aspx

●職業生活と人生

そもそも「キャリア」とは、職業をさす言葉だと考える人もいると思います。ところが、ビジネスライフと並行して、プライベートでは結婚や出産を経験したり、病気で入院したりすることもあるでしょう。そういったライフイベントを無視して職業キャリアを考えることは難しいのではないかと思います。すると必然的にライフイベントも考えながら、職業生活(職業キャリア)=人生(ライフキャリア)までを捉える必要があるのです(図4)。よって、これからの議論でいう「キャリア」とは、人生全体として考えていきたいと思います。

では、「キャリア自律」とはなにか。「じりつ」という字が自分で立つという「自立」と、自分を律する「自律」の2つがあります。「キャリアじりつ」は、なぜ「律」を使うのかというと、自分で自分を律するからです。自分の価値観に基づいて、自分で決めて、自分で考えて、環境変化に適応していく部分の中心が「立」ではなく「律」ということなのだと思います。

図4 図4

●ワークエンゲージメントへの影響要因(フリーランス)

先ほどお話しした『フリーランス白書』では、フリーランスの人と会社に雇用されている人とでは、ワークエンゲージメントはどちらが高いのかを研究しています。ギャラップ社の調査結果だけでなく、ワークエンゲージメントをみても日本は国際的に低いということがわかっています。欧米諸国は6点満点で平均点が4.0くらいですが、日本は2.8~2.9です。しかし今回、これをフリーランスの方だけに聞いてみたところ、平均点は4.0という結果が得られました。ちなみに、同じ質問を雇用されている会社員に聞いてみると、平均点は2.4くらいでした。つまり、フリーランスの人は欧米並みにワークエンゲージメントが高い一方で、会社員は低いという結果が出たのです。

では、何がワークエンゲージメントの高さを決めているのでしょうか。キーとなるのは「職業的自己イメージ」あるいは「専門性」です。職業的自己イメージとは、自分がやりたいことがはっきりしていて、それに向かって準備や勉強をしたいと思う気持ちです。フリーランスの人はこれが高いので、ワークエンゲージメントが高かったのです。

一方、一般的に会社員の職業的自己イメージは低いのですが、彼らの場合でも、職業的自己イメージが高い人はワークエンゲージメントも高い。これは裏を返すと、日本の会社員のワークエンゲージメントが低いのは、自分がやりたいことができていない、はっきりしていないことを意味するのではないかと思います。

また、キャリア自律を進めていくのに大事だとされているのが、「プランドハップンスタンス」、つまり「計画的偶然性」という理論です。たとえば、大学のキャリア教育でキャリアプランを決めたからといって、すべてがうまく行くわけではなく、想定外の出来事もたくさん起こります。そういった想定外の、偶然起きた出来事もうまく利用していくという考え方がプランドハップンスタンスです。ここでは、好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、リスク・テイキングといったことが大事になります。



4.価値観を知る

●自分の価値観を知っているか?

ところで、皆さんご自身が働くうえで一番大事にしている価値観は何でしょうか。むしろ学生の方が答えやすいかもしれないですね。たとえば、ある企業で20年働いた方は、その企業の仕事に適応する一方で、やりたいことや価値観がが見えにくくなっているかもしれません。

では、その価値観を洗い出すためにはどうすればいいのでしょうか。キャリアカウンセリング上のテクニックはいろいろあるのですが、キャリア理論で有名なマーク・L・サビカス氏は、「3~6歳の頃に憧れていた人のことを考えると、そこに自分の価値観が投影されている」と言っています。

私の研究室では、これを真面目に捉えて、小・中・高校、大学、社会人を対象に、自分の好きなキャラクターを紹介しようというワークショップを行っています。これは、自分の好きなキャラクターを持ち寄って、話し合うというものです。私の場合、『となりのトトロ』に出てくる、メイやサツキのお父さんに憧れていました。最近は、『ワンピース』の不死鳥のマルコというキャラクターが好きですが、そういったキャラクターについて、ワークショップで話し合うのです。

北海道室蘭市とタイアップしたワークショップでは、高校生が市内のいろいろな職業の方に価値観を掘り下げるインタビューをして壁新聞をつくるという取り組みを行いました。室蘭市としては地元への関心を高めるという意図があったのですが、この時に印象的だったのは、インタビューされた大人たちがとても盛り上がっていたことです。高校生は、「どんな時にやりがいを感じますか」「どんな時に苦しいと思いますか」「何を支えに働いているのですか」など、ピュアな質問を投げかけてきます。協力していただいた方々はそれに対して、真摯にお答えする。インタビューを受けた皆さんは、「自分は何のために働いているのかを考え直すいい機会だった」「初心に返って自分のやりたいことがわかった」とおっしゃっていました。自分の価値観の振り返りにつながったわけです。

●ジョブクラフティングとは

最近、自分のやりたいことを仕事の中で活かす手法も開発されています。それが「ジョブクラフティング」です。

仕事とは、会社がアサインしたとおりの業務を行うだけと思われがちですが、しかし、自分のやりたいことが分かっていて、仕事への意味づけができた人は、その意味づけに合わせて積極的に仕事を変え、良い結果を出すことができる。これが仕事を創造するという意味で、ジョブクラフティングと呼ばれているものです。

自分の意味づけ・価値観を本当に理解すると仕事にも影響が起こっていく、モチベーションが高まる、ということです。

 資料(配布資料のp30~31)の「実践前・実践後ダイアグラム」(ファティマの例)というのは、このジョブクラフティングを提唱しているレズネスキー氏が投稿した例です。「ファティマ」というのはあるグローバル企業のマーケティングマネジャーで、自分の仕事に行き詰まりを感じていた人なのですが、ジョブ単位で、時間をかけているものとかけていないもので書き出し、次に自身の価値観の分析をしてみたら、動機や強み、情熱がわかったそうです。それに照らし合わせながら先の表のジョブの面積を変えたり、新しい業務を付け加えたりしたことで、再度やる気が高まった、という事例です。



5.ミドル・シニアのキャリア

●ミドル・シニアのキャリア意識の変遷

ミドル・シニアのお話になりますが、私の研究室とパーソル総合研究所が共同研究で、40代~60代の方4,700人を対象にしたアンケート調査を行いました(※)。これを見ると、「出世したい」と「出世したいと思わない」という気持ちは平均42.5歳の部分で、キャリアの終わりを「意識している」と「意識していない」は45.5歳くらいでクロスします(図5)。

ユングは、「40歳は人生の正午」だと言いました。ユングの時代は40歳が人生の折り返しでしたが、現在は長寿化により、折り返し年齢が延びているかもしれません。今回の調査では、「ジョブ・パフォーマンスを認識しているか(成果を出せているか)」という質問で、40代前半で1度下がって、50代前半でまた大きく下がるということもわかりました(図6)。40代から60代はキャリアの節目と言えそうです。
※石山恒貴・パーソル総合研究所(2018)『会社人生を後悔しない40代からの仕事術』ダイヤモンド社

図5 ミドル・シニアのキャリア意識の変遷 図5 ミドル・シニアのキャリア意識の変遷 図6 ミドル・シニア躍進の2つの谷 図6 ミドル・シニア躍進の2つの谷

●リアリスティック・キャリア・プレビュー(RCP)の提案

そこで、この調査で我々が提案させていただいているのがRCP(リアリスティック・キャリア・プレビュー)です。

新入社員が就活する時に会社説明会で、会社の良いところだけを聞いて入社してしまうと、現実を見て幻滅してしまいます。幻滅、つまりリアリティ・ショックが大きかった社員は、10年後に活躍できず、リアリティ・ショックが少なかった社員は、10年後にハイパフォーマーが多くなるという研究結果もあります。

このリアリティ・ショックを防ぐのは、リアリスティック・ジョブ・プレビュー(RJP)です。これは簡単に言うと、会社に入る前にありのままの会社の姿を知っておくということです。そのためには、長期インターンシップやOG・OBからリアルな話をたくさん聞くことが大切になってきます。

 上記の調査結果から我々が考えたのは、40代から60代の人も同じではないのかという仮定です。今後のキャリアから目を背けてしまうと、リアリティ・ショックが起こる。それがよくないのではないかと考えました。そこでRJPのキャリア版、リアリスティック・キャリア・プレビュー(R「C」P)が必要なのではないか、というのが私たちの提案です。

●ポストオフに成功する人、失敗する人

50代、60代になると、役職定年や再雇用が待ち受けている可能性があり、モチベーションが上がる人と下がる人の二極化が起こります。図7を見るとわかりますが、役職定年になった人のうち約2割の人はマネジメントから解放されて、モチベーションを高めました。ポストオフの成功です。一方、4割くらいの人たちは「会社に裏切られた」と感じたというのです。今回の調査でも、自由記述欄には、「モチベーションが維持できず、廃人になると感じた」「なぜ、役職をはく奪されるのか疑問と喪失感で夜、眠れない日が続いた」「会社って一体何だったのか、あっけにとられた」など、ショックを受けたという回答が目立ちました。

では、ポストオフの成功と失敗を分けたものは何でしょうか。成功した約2割の人たちは、退任後の具体的なキャリアプランを計画して備えていました。一方、失敗した約4割の人たちは、備えとして行っていたことは特にないという回答でした。さらに、「役職退任後については極力考えないようにしていた」という回答も見られ、積極的に目を背けていたこともわかりました。ポストオフに成功して役職定年後も活躍している人たちは、キャリアプランを計画している人たちだったということです。

なお、失敗した人の後悔TOP5は、「家族との話し合い」「専門性を広げる・深める」「キャリアプランの計画」「人脈を広げる」でした。このなかで注目すべきは、家族との話し合いです。定年というライフイベントに際しては、家族との話し合いが非常に大事です。ポストオフに失敗した人は、「家族と話しておけばよかった」と後悔しています。家族と一緒にキャリア・プレビューをして、自分の生活がこう変わるから、家族ともこうしたいといったことを考えておくこと、節目から目を背けないことが大事なのです。

図7 役割定年による行動・意識変化 図7 役割定年による行動・意識変化


6.パラレルキャリアと副業

●越境とパラレルキャリア

またトピックが変わりますが、今、重点的に研究しているのが、「パラレルキャリア」「越境学習」と呼ばれているものです。「越境」とは読んで字のごとく、「境界を越えて学ぶ」ことですが、私の解釈では、境界とは「ホームとアウェイのはざま」になります。ホームとは、知り合いばかりで社内用語が通じて、あまり刺激はないけれども、安心していられる場。一方のアウェイとは、知らない人ばかりで社内用語も全く通用しない。でも、とても刺激のある場です。この「ホーム」「アウェイ」という、2つ以上の場所を行ったり来たりしながら、常に学び、刺激を受けているという状態を私は「越境学習」と定義しています(図8)。

よく、「人事異動や出向は、越境学習といえますか?」と質問されることがありますが、私は人事異動や出向と越境学習は区別しています。なぜかというと、人事異動は最初こそアウェイで刺激がありますが、徐々にホームになり刺激はなくなってしまう。一方、越境学習はホームとアウェイを短期間で反復している状態なので、刺激が保てるのです。

図8 越境(ホームとアウェイの往還) 図8 越境(ホームとアウェイの往還)

他方、「パラレルキャリア」の定義は、4つの「ワーク」の2つ以上をもっている状況です(図9)。ここでいうワークというのは、人生の役割と捉えてください。

図9 パラレルキャリア 図9 パラレルキャリア

まず、「有給ワーク」です。人生、お金がないと生きていけないから大切です。有給ワークを2つ以上もつと、「副業」になります。でも、人生のワークはそれだけではなく、家事・育児・介護といった「家庭ワーク」、ボランティア・地域活動・NPO・社会活動などの「ギフト地域ワーク」、学び直し・趣味・社会人大学院などの「学習趣味ワーク」があります。この4つのワークを2つ以上もつことがいいのではないかと考えています。

●サードプレイスとは

最近「サードプレイス」という言葉も使われるようになっていますが、これは職場でも家庭でもない第3の「居心地のいい場所」のことです。例えるならば、仕事帰りに憩いを求めて行くなじみの居酒屋や喫茶店のようなところです。そこから派生して、目的を持って自発的に行き、やらされ感なく学びや刺激が得られる場所です。読書会や子ども食堂などもサードプレイスと言えるでしょう。

そういったサードプレイスでは、上下関係がなく異質性があり、抽象度も高いので、一人ひとりがリーダーシップを発揮できる。多様性や曖昧さに慣れることもできます。また、実験や失敗を経験できますし、「本当はこんなことがやりたかった」「会社では当たり前だと思っていたことが、実はすごい」「できると思っていたけれど、全然できなかった」といったように、自分を再認識することもできます。こうした人材育成上の効果が期待できるのです。

●副業は是か非か

副業をしている人は、総務省の統計によると約4%にとどまり(※)、正社員に限ると2%の人しかいないというのが現状です。話題になっている割には、実際に副業をしている人は多くないということです。また、別の調査によると(※2)、企業側の8割は、「過重労働」「情報漏洩」「利益相反」等を懸念して否定的に捉えていることがわかります。

しかし、副業を解禁されて有名なロート製薬が解禁した理由は、パラレルキャリアと大いに関連します。ある社員が東日本大震災の復興でボランティア活動を行い、その経験が仕事に活きたことから社内でプロジェクトを発足させ、社外チャレンジワーク(社外兼業)と社内ダブルジョブ(社内兼業)を提案したそうです。実際、ロート製薬で副業をされている方々は、コンサル、放送作家、ローカルプランナー、デザイン会社設立など多岐にわたっており、本業雇用・副業雇用ではなく、本業雇用・副業フリーランスのような“パラレルキャリア的”に活動しています。こういうケースだと、特に異質性が高まって学びが深まります。

企業だけでなく、地方自治体も副業の受け入れを行っています。広島県福山市では、全国から5名(東京4名大阪1名)を受け入れています。新幹線代と宿泊代を支給し、週1回で2万5千円というスキームです。これによって、市だけでは考えられなかった新しい発想が生まれました。なお、ロート製薬からも、この福山市の副業支援に参加した人がいます。

福山市は、『崖の上のポニョ』の舞台にもなっており、風光明媚な土地ですが、中国や韓国のインフルエンサーを誘致してSNSで広めてもらったところ、かなりの話題になったとのこと。外から人にかかわってもらうことで生まれた、従来の市役所では考えられなかった新しい発想が、市の観光を活性化させた例です。

※1 総務省統計局『平成29年度就業構造基本調査』
※2 リクルートキャリア(2018)『兼業・副業に関する企業の意識調査』(2271人対象)



7.まとめ

●「銀行型」から「料理教室型」へ

私の解釈では、今の時代のキャリアは、「銀行型」から「料理教室型」に変わるべきだと思います。銀行型というのは、一度学んだことを預金のように引き出して使うことです。これに対して料理教室型とは、料理のやり方さえ学んでしまえば、料理のレシピはトレンドに合わせていつでも自分で開発できるというものです。キャリア自律では、いかにして料理教室型に変えていくかを考えなくてはいけません。

江戸時代の儒学者・佐藤一斎は、「少にして学べば、則ち壮にして為すこと有り 壮にして学べば、則ち老いて衰えず 老いて学べば、則ち死して朽ちず」と言っています。つまり、一生学ぶことが大事だということです。キャリアや学びとは、単純に何かの目的ではなく、「死して朽ちてしまわないような自己実現」という意味で捉える必要がある時代になったのだと思います。

1.キャリア開発の環境整備としての「働き方改革」

●取り組みの全体像

石山先生のお話を受けて、我々としてはどういう仕組みをもち、どういった取り組みをしているのかをお話しさせていただきます。

弊社SCSKは、2011年に住商情報システムとCSKが合併してできた情報サービス業を行う会社です。SCSK単体では約7,200名、グループ全体で約1万2,000名の社員がいます。

人事の分野でSCSKという会社の名前が知られるようになったのは、2014年に日本経済新聞社の「人を活かす会社調査」の総合1位にランキングしたことが大きいと思います。その他、様々な取り組みを行っており、働き方改革についてもメディア等でご紹介いただいております。そんな弊社ですが、2017年度の実績では、月間平均残業時間は16時間22分、年間平均有給休暇の取得日数が18.8日となっています。

本日のテーマは、弊社のキャリア開発に関する制度と仕組みになりますが、まずはそのための環境整備として推進してきた働き方改革についてご紹介します。そのあと、実際の制度や仕組みについて、社内で深める・広げる・振り返る、社外で深める・広げる、と整理してお話していきたいと思います(図1)。

図1 図1 キャリア開発につながる制度/仕組み

●働き方改革の3つの柱

まず、弊社で制作したポスターをご覧ください(図2)。「寝顔にしか会えない、そんな働き方を私たちは変えたいと思いました」というキャッチコピーが入っています。

私が新入社員の頃、「生まれたばかりの子どもが、僕のことを不思議そうな顔で見るんだよ」と話す先輩がいました。平日は帰宅時間が遅くて子どもに会えない。たまに顔を合わせると「この人は誰?」というような怪訝な表情で見るというのです。その先輩は、笑って話していましたが、目は笑っていませんでした。我々IT業界は、ブラックと言われていた時期が長く、長時間労働で休日も少ないという働き方が常態化していました。そこを何とか変えていこうと、弊社では、効率的な働き方(時間)、柔軟な働き方(場所)、健康増進という3つの柱を立てて取り組んできました(図3)。

この3つをしっかりと取り組むことによって生産性高く創造性豊かな仕事でお客様にも社会にも貢献していく。それが、働きやすい、やりがいのある会社という評価につながる。そういう好循環のサイクルを回していくことを目指しています。

図2 働き方改革推進を促すポスター 図2 働き方改革推進を促すポスター 図3 働き方改革の全体像 図3 働き方改革の全体像

●効率的な働き方

施策のスタートは2013年4月です。まず、効率的な働き方ということで、「スマートワーク・チャレンジ」と題して、残業を減らす取り組みを始めました。当時、月間平均残業時間が35時間だったのを、ほぼ半分の20時間に減らそうという目標を立てました。

具体的な施策として取り組んだのは、まず「浮いた残業代を社員に全額還元」することです。残業削減イコール人件費の削減、というネガティブな捉え方をされがちですが、残業削減で浮いた金額は「社員の健康の原資」とし、特別ボーナスとして社員に全額返金したのです。この施策によって、会社の本気度は伝わっただろうと考えています。

2つめが「有給休暇が取りやすい環境」です。年間平均13日しか取れていなかった有給休暇を20日取る目標を立てました。目標を達成するめに、全社一斉の有給休暇取得奨励日を設定するとともに、バックアップ休暇も設定しました。これは、有給休暇をすべて使い切った後に3月末になってインフルエンザにかかってしまったなどといった、やむを得ない事情がある場合は、有給休暇を5日間取得可能にする制度です。

3つめは、長時間労働の是正です。総合職だけでなく、すべての管理者や役員も勤務表をつけて、勤務時間を把握することに努めています。特徴的なのは、月の残業時間が80時間を超える場合は社長承認になるということです。そのような状況になると本部長が社長に勤怠の承認をお願いしに行くことになります。社長承認は本部長の残業削減改善策とセットになるので、状況改善が待ったなしになります。これは一例ですが、制度をうまく使いながら残業削減を促す取り組みです。

4つめは、業務品質の向上です。システム開発においてトラブルの起こりにくい仕組みの導入や、万一問題が起こりそうであれば、予防的に手を打つためにマネジメントを強化するといったことです。こうした4点を組み合わせながら取り組みました。

また、会社からお客様に対して手紙を出させていただきました。「計画的有給休暇取得に関するお願い」と、「過重労働抑制の取り組みについて」というお願いです。さらに、社長から社員の家族あてにも手紙を出しました。本人だけでなく家族にも会社としての趣旨をしっかりと説明して、自分の時間をつくることの大切さをご理解いただくということです。

その結果、2013年に始めた取り組みが徐々に花開いてきて、現在では平均残業時間は月間16~17時間で推移し、有給休暇に関しても、18.8日の取得実績を実現しています。

●柔軟な働き方(どこでもWORK)

「柔軟な働き方」としては、場所にとらわれない「どこでもWORK」というリモートワークの取り組みを進めています。直属の上司による事前承認だけで、年齢・役職・理由を問わず月8回を上限に全社員がリモートワークを実施可能となっています。ただし、妊娠・育児・介護といった特別な事情がある場合は、申請すると限度なしで利用できます。

就業場所については、自宅や実家のほか、自社のサテライトオフィスも利用可能です。なお、時間外勤務、深夜勤務、休日勤務は原則禁止になっています。「どこでもWORK」は2016年にコーポレート部門からトライアルを始め、少しずつ部門を拡大しながら、2017年から全社的に適用してきました。

2017年度には、リモートワークの実施回数に応じて水道光熱費に見合う手当を支給する「リモートワーク定着手当」も試行しています。また「組織チャレンジ」という取り組みも実施しました。これは、上司が月2回以上リモートワークを実施した場合は、定着手当が倍になるというものです。逆に、上司が率先してリモートワークを実施しないと、メンバーに支給される手当が通常額だけになってしまいます。組織チャレンジを入れた理由は、制度がスタートする前にトライアルを行った結果、上司がリモートワークを実施すると部下も実施するという、正の相関関係があることがわかったからです。こうした取り組みを通じて、リモートワークが社内に浸透していきました。

●「健康増進」への取り組み

次は、「健康わくわくマイレージ」です。実は、弊社はタバコが吸えない会社です。就業規則に禁煙が明確にうたわれていますし、会社で実施する懇親会も禁煙です。これは、トップが強い思いをもって進めたものです。その理由は、社員の健康が損なわれると会社にとってリスクになる。個人も会社も健康でなければならないという強い思いが背景にありました。

禁煙のほかには、ウォーキングの推進や朝食摂取率の向上があります。「わくわくマイレージ」は、自分が取り組んだことをWeb上に登録することでポイントがたまり、そのポイントに応じて個人インセンティブを支給するという仕組みです。これにより、ウォーキングであれば、1日に8,000歩という目標設定になっていますが、実施率は開始当初の2014年度の34%から2018年度には74%に伸び、歯科検診の受診率も31%から80%にまで伸びました(図4)。もともと、システムエンジニアは一般的に喫煙率が高いのですが、喫煙率も36%から16%に減っています。

まとめますと、働き方改革でまず企業の風土を変える。それが企業の価値を高めることにつながり、さらにお客様に付加価値の高いサービスを提供できるようになるという好循環につなげていく。本日のテーマからすると、こうした取り組みによって心身ともに余裕をつくっていくこと自体が、キャリア開発の基礎になると我々は考えています。

図4 健康わくわくマイレージの成果 図4 健康わくわくマイレージの成果

2.社内でキャリアを深める

●人材育成のPDCAサイクル

まず「社内でキャリアを深める」です。弊社のキャリア開発のベースとなっているのは、人材育成のPDCAサイクルをしっかり回すことです(図5)。そこで、まずベースとなるのはPlan=計画立案です。組織としての人材育成計画はもちろんのこと、個人もキャリアデベロップメントプログラム(CDP)を通じて自身のキャリアデザインを考える機会を設けています。そのうえでギャップ分析をし、そのギャップを埋めるための組織の育成計画や個人の研鑽活動や業務上の目標設定(MBO)を考えてもらうことになります。

Doの段階では、実務経験を積むだけでなく必要に応じて専門能力教育、共通能力教育を受けてもらうとともに、資格取得も重視しています。Checkの貢献度評価と行動評価は、人事評価です。その下の専門性認定結果は、IT人材としての専門性を評価する仕組みのことで、後で詳しく述べます。

会社側はマクロの視点から計画をつくり実行し、個人はCDPやMBOを作成し一定の基準に基づいて評価される。間にいる上司は、組織の思いと個人の思いを長期的にも見て、バランスをうまくとる役割を担う。このような形でPDCAをしっかり回していくことが重要だと考えています。

システム開発の現場を例にとると、システム開発の際に必要となる技術が複数のカテゴリーに分かれていて、そのすべてのカテゴリーの人材がいないと仕事が進まないという事情があります。上司は、部下の若手社員が将来どのカテゴリーで活躍する人材になってほしいのか――データベースのスペシャリストなのか、アプリケーションの設計が得意な人材なのか、あるいはプロジェクトマネージャなのか――等を本人の適性を見ながらイメージしています。そうしたイメージと本人の志向や実際に仕事をしてみての適性をすり合わせ、将来的に人材のポートフォリオが部署内でうまく回っていくようにしています。

図5 人材育成のPDCAサイクル 図5 人材育成のPDCAサイクル

●7段階の専門性認定

図6は、リソースマネジメント部が今期から本格的に進めている「プロフェッショナルPM育成」という、プロジェクトマネージャの育成施策の例です。

人材育成のPDCAのところで少し説明した「専門性認定」ですが、これはレベル1の新入社員から、業界を代表するレベル7までの7段階でIT人材を評価する仕組みになっています。一般的には、レベル4が一人前のプロフェッショナルといわれるレベルですが、プロジェクトマネージャはその職種の特性からレベル4以上の設定しかありません。この施策は一人前のプロジェクトマネージャから社内トップレベルのプロジェクトマネージャまで、それぞれのレベルのプロジェクトマネージャを1つ上のレベルに育成することを目指しています。

実は、プロジェクトマネージャが身につけるべき知識・スキルというのはさほど多くありません。レベル4に認定された人であれば、基本的なスキルは身についています。とはいえ、プロジェクトの規模が大きかったり複雑だったりすると、知識・スキルを身につけているだけでなく、それらをどれだけ使いこなすことができるかが問われる世界でもあるのです。したがって、レベル4育成は研修を通じて知識・スキルを身につけ、それを実務で実践することが中心になりますが、それ以上のレベルの育成は、研修だけでは限界があります。

弊社の人材育成計画では、各部門で「この人を2~3年後にレベル6にする」といった具体的な計画を立ててもらい、実際にそれに基づいて育成を進めていきます。レベルを上げるためには、より上位のレベルに該当するプロジェクトの実務経験を積ませることが必要となり、そのレベルを目指してもらうためのストレッチアサインをかけなければなりません。また、その人の経験が足らないゆえのトラブルが起きないよう、メンターをつけることもしています。経験豊富なシニアPMが、ストレッチアサインがかかったPMをメンターとしてサポートすることで、育成対象者はメンターの背中を見ながら、自分のスキルを高めていきます。

石山先生のお話で「内的キャリア」というキーワードがありました。ハイレベルPMの育成には一般的な研修は馴染みませんが、本人の内的キャリアに関する気づきを促すプログラムを用意しています。ハイレベルPMが対応する案件は、お客様の要求レベルが高いことがほとんどです。また、プロジェクトメンバのスキルアンマッチなど、想定外の問題が発生することもあります。様々な板ばさみ状況や、プレッシャーがかかるなかでゴールを目指さなければならないという状況に陥ったときに大切になるのが、なぜ頑張り続けるのか、どういう自分でありたいのか、といった内的キャリアの気づきです。

その気づきを得るための機会として、レベル6を目指す人を対象にしたリフレクションワークショップを実施しています。ワークショップでは、2週間に1回、朝の8:30に集まって、これまでのプロジェクト経験や、その中でうれしいと感じたこと、厳しいと感じたことなどを振り返ってもらい、参加者の間で共有しあいます。リフレクションと対話を通じて、何が自分にとっての内的キャリアのキーになっているのかを把握し、苦境に陥ったときにでも前に進む力をつけてもらうといったプログラムです。

図6 図6

●自己研鑽を促進する「コツ活」

話題は少し変わりますが、石山先生のお話に、「自己啓発をしている会社員は約4割程度と少ない」という話がありました。そのことについては私たちも課題意識をもっていて、「コツ活」という自己研鑽促進のための施策を2017年から始めています。

IT業界の事業環境は変化が激しいため、新しい知識を学び続ける文化がないと、会社としても個人としても成長はおぼつきません。そこで、それをサポートする仕組みをつくりました。

自己研鑽の定義としては、業務時間外であれば何でもOKです。会社がお金を出した研修に参加した場合も、それが業務時間外であれば、自己研鑽になります。子育ても見ようによっては自己研鑽となります。要はそこから何を学ぶことができたのかが大切ということです。こうした業務時間外の「コツ活」を申請すると、さらなる「学びの機会」の提供として図書カードがもらえるという仕組みになっています。

申請者数は、施策が始まった2017年度は1,033名でしたが、翌2018年度は2,028名と倍増したので、今年はさらにその倍の4,000人を目指して取り組んでいます。

また、2019年7月からは、「学び手当」の支給も始まっています。さほど多くはない額ですが、とにかく「学ぶ」ということに意識を向けてもらうきっかけにできればと考えています。

ちなみに、「コツ活2018アフターレポート」として、2,000名の社員を対象に自己研鑽の内容についてのアンケートをとりました。その結果、1位は購読、2位は資格の取得、3位は研修、4位はコミュニティ・公的活動となっています。ITの研修も当然ありますが、最近はMOOCのように、大学や大学院がオンラインで無償提供している講義もあるので、そういったものを活用して学んでいる人もいます。

3.社内でキャリアを広げる

●ジョブチャレンジ制度とキャリアチャレンジ制度

「社内でキャリアを広げる」という軸では、ジョブチャレンジ制度(人材公募制度)とキャリアチャレンジ制度(社内FA制度)があります。

ジョブチャレンジ制度は、会社が求人形式で募集をかけるもので、適材適所による組織の活性化や組織貢献を目的としています。短期的な人材不足の調整ということではなく、中長期的・戦略的な事業に対する募集を原則としています。対象は、海外拠点をのぞくSCSKグループ社員となっています。応募したことは、本人と対象の部署、そして人事しか知りません。そして、元の所属部署での拒否権はありません。マッチングが成立したら原則3カ月以内に必ず異動しなければいけない仕組みです。

一方のキャリアチャレンジ制度は、社員が手を上げて求職する形式で、SCSKの社員のみが対象となっています。FAを希望する社員は、自分の希望する部門をいくつか選べます。その後、その部門に情報が開示されて、「この人いいね」となると、具体的な交渉が始まります。FAの場合も、マッチングが成立し所属部門が決まったら必ず異動させなければならないルールです。

年間スケジュールとしては、ジョブチャレンジは年2回、キャリアチャレンジは年1回です。ジョブチャレンジは、グループ会社が国内の拠点を増やすにあたって、そのスタッフを公募するといった臨時的なものもあります。その他、会社が戦略的に行っていることに関しては、このスケジュールにとらわれずに募集・応募が可能になっています。

4.キャリアを振り返る

●スキルレベルの可視化による振り返りの促進

次は「キャリアを振り返る」です。人材育成のPDCAのところで専門性認定の話をしましたが、営業・エンジニアの専門性については、IPA(独立行政法人情報処理機構推進機構)が情報産業にかかわる人材が必要とするスキルを標準化して定義したITSS(IT Skill Standard)に則り、さらにITSSでは足りない職種を追加して、独自の専門性認定制度を運用しています。

これは組織の観点からすると、スキルレベルを可視化して人材育成に活用すること、人材の調達・配置・育成を戦略的に行うことともに、評価の客観性を高めるという使われ方・目的があります。

一方、個人にとっては、今後のキャリア形成に活用できるという利点があります。各職種では、たとえばレベル4であれば「このくらいのことはできる」「こういうスキルをもっている」人材というように定義されています。そうした基準があると、自分自身のステップアップのためにやるべきことが見えてくるのです。また、目標管理やCDPの客観的指標としての活用や、自己研鑽への活用もできます。図7は、7つのレベルと14職種の表です。レベル1~3までは部署認定なので上司が認定しますが、レベル4以上になると、第三者の面談審査が入ります。自分で申請書を書いて、利害関係がない評価者が面談審査をする。そして、それに合格すると始めて認定されるという流れになっています。

レベル1~3は、主に保有知識や実務スキルを見ますが、レベル4以上になると、実務実績や経験、その裏付けとなる実務保有スキルは何かといったことを面談審査で評価します。それぞれのレベルに対して標準的な資格等級が定義されており、その標準よりも早くレベルが上がった人は、昇格推薦の候補になります。高いレベルに認定されると手当が出るので、社員としてはしっかり認定を受けようというモチベーションになっていると思います。実際、約7,200名の社員のうち約8割にあたる6,000名がこの認定を受けています。

逆に、標準よりも2ランク下と認定されてしまった場合は、降格検討の対象候補となってしまいます。昇格も同じですが、必ず降格されてしまうのではなく、あくまで「候補」になる可能性があるということで、人事評価とは緩い関連性をもたせながら運用しています。

専門性認定の結果は、大きくいうと個人で活用される場合と、組織で活用される場合があります。専門性認定の面談審査の結果は、評価表として本人にフィードバックされます。そこには、それぞれの専門性認定項目に対してどう評価されたのかがすべて書かれています。また、技術レベルについても、第三者が評価した結果が伝えられます。さらに、その人の持っている強みや弱みは他の人と比べてどこなのか、またどんな仕事をすればより高いレベルに到達できるかといったアドバイスをもらうことができ、それが本人の目標設定や上司の指導につながっていきます。また、専門性認定を受ける際に詳細な業務経歴書を書きますが、そこには、どのような業種の顧客の仕事をしたのか、どのような技術を使ったのか、また、どのような役割で参加したのかといったことも記載します。それらが履歴として残るので、業務アサインの際にも活用することができます。

組織としては、専門性認定の結果を人材計画の立案で活用するだけでなく、IT人材のスキル底上げでも活用しています。社員の専門性認定の評価表を職種・レベルで集約するとスキルの不足などの弱点が見えてくることがあります。その弱点を補うために業務品質向上のチェックリストに項目を追加したり、教育プログラムを提供したりするなど、その職種を底上げする施策につなげていくことができます。こうした活用を通じて、個人の見える化だけでなく組織として人材の見える化を進めながら、人材育成のPDCAを回しています。

図7 専門性認定 図7 専門性認定

●キャリア研修とキャリアカウンセリング

若手の頃は総合職や基幹職(管理者)に昇格した時の、節目の階層別研修の中でキャリア教育を実施しています。そこから先については、年代ごとのキャリア研修を実施しています。もともとは、シニアに向けた準備段階として、53歳になった社員全員を対象に「実年キャリア研修」を実施していました。ただ、それですと30歳位から53歳までかなり期間が空いてしまいますので、42歳の社員を対象に「ミドルキャリア研修」を追加しましたが、それでも30歳から42歳まで12年間空いてしまうので、2019年から35歳を対象にした「ジュニアミドルキャリア研修」を始めています。概ね10年ごとにキャリアを振り返って、自分自身の将来を思い描く機会をつくるという設計になっています。

キャリアカウンセリングについては、「キャリアカウンセリングルーム」を設置して、専門スタッフ4名を置き、さまざまな相談に対応しています。2014年に開所して以来、5年間で1,000名以上の社員が利用しています。相談内容は、職場や自分自身のことだけでなく、家庭や部下のことも相談しており、利用も伸びています。

5.社外でキャリアを深める

●社外でのプロフェッショナル貢献活動の推進

ここまでは社内を軸にお話をしてきましたが、つぎは「社外でキャリアを深める」です。先ほど説明した専門性認定の評価項目は、実務実績、後進育成、実務スキル、保有知識の4つです。そのなかの後進育成の定義は、「社外に影響力をもつスペシャリスト活動。委員会活動、論文執筆、講演・講師活動」となっています。これが、社外でキャリアを深める活動と関連してきます。

レベル6、7の上位認定になると、この後進育成のカテゴリーの配点が高くなります。しかも、このカテゴリーの得点が60%未満だと、他の項目の得点がどんなに高くても不合格になってしまいます。とくに最上位のレベル7の認定になりますと、社外での活動経験を問われますし、活動していない人は、面談員から積極的な取り組みを促されます。たとえば、大学など社外から講師派遣の依頼をいただくと、レベル7認定者から人選し、社外でキャリアを深める機会を提供するようにしています。

しかし、社外でキャリアを深めるといっても、どのような活動があるのか、どうすれば機会を得ることができるのかを知ることは難しいものです。そこで2018年に、「プロ活ポータル」という社内外でプロフェッショナル貢献活動をする人のための情報ポータルをつくりました。ここでは、レベル6や7に認定されている人が、実際に社外でどんな活動をしているのかを閲覧できるようになっていて、これからハイレベルを目指す人が、自職種のハイレベル人材がどのような社外貢献をしているのかを知ることができます。また、ハイレベル人材が、若手のころからどのようなキャリアを積んできたのかをまとめたチャートも掲載しています。このような情報提供を通じて、社員に自身のキャリアをイメージするうえでの参考にしてもらっています。

6.社外でキャリアを広げる

●副業・兼業に関する規程を整備

最後に、副業・兼業についてです。弊社では、2019年1月1日に副業・兼業制度を導入しました。制度の呼称は「スマートワーク・プラス」です。基本的な考え方としては、社員および会社の成長につなげることを意図していますが、制度導入よる事業影響(悪影響)や健康管理等のリスクを最小限化することにも留意しています。「野放し」にしてしまうよりは、しっかりと状況を把握することでリスクを減らしていこうという考え方です。

制度の目的は、まず、社員個人のスキルアップ、幅広い知見の獲得、主体的なキャリア形成を目指すという人材育成です。2つめの目的は、事業イノベーションの創出。3つめの目的は、人的リソースの維持・拡大ということで、社員のリテンションや、社外の高度専門性人材の活用も視野に入れています。

弊社の制度では、副業と兼業の定義を分けています。副業とは、「SCSKの業務に影響せず、弊社以外の業務に従事して報酬を得ること」。一方の兼業は、「社外で業務従事することで、弊社の業務時間や業務遂行内容に影響が出る場合」です。副業の場合の処遇・労務管理は従来と変わりませんが、兼業を選択すると、どのように働くのかを会社と相談し個別契約を結ぶことになります。

副業・兼業ともにガイドラインを作成しており、本業に影響が出ないよう、本業専念義務が明記されています。また、原則的には許可を必要としない届出制度になっています。ただし、許可制になる場合が2通りあります。1つは兼業の場合で、お互いの会社で取り決めが必要な場合、もう1つは同業他社で副業をする場合です。なお、「同業」かどうかは会社の定款に記載された事業目的に重複があるかで判断されます。弊社ではITのエンジニアをたくさん抱えていますが、ITエンジニアが同業でない会社の情報システム部をサポートするといった場合は届出のみで副業をすることが可能です。

健康管理については、過重労働を未然に防ぐために36協定を準用して健康管理を図ることとしています。副業・兼業によって何か問題が起きることが予想される場合は、会社から是正もしくは副業・兼業の停止を命じることがあるということも謳っています。これらに関する制度運営の留意点について、上司のマネジメント観点からもガイドラインに記載しています。

2019年初めから制度導入に先立ち、前年末に社内説明会が開催されました。人事の担当は、2、3回の説明会で200~300人程度の参加だろうと見込んでいたのですが、ふたを開けてみると2,200名以上の社員が説明会に足を運んだり、スカイプで参加したりしました。副業・兼業に対する社員の関心度は非常に高いようです。

●本日のまとめ

以上、弊社における「キャリア開発」と、その基礎となる「働き方改革」についての施策をご紹介しました。

「社内」と「社外」という軸、そして「広げる」と「深める」という軸。それぞれの軸に紐づく施策を連携させ、パッケージとして社員に提供することが大切だと考えています。ただ、率直に申し上げますと、最初からこのような形に仕上げることを意図して制度を整備してきたわけではありません。事業環境の変化や社内の様々なニーズから個々の施策を立ち上げ、ブラッシュアップしていくなかで、結果的にこのような形で整理ができるようになってきたというのが実態です。

これらの施策を通じて個々の社員が自分の活躍できる場を見つけ、自律的にキャリアを築きつつ、内的キャリアを満たしながら成長していける。そういった環境・風土をつくるためのキャリア開発を目指していきたいと思います。

●キャリア教育は離職率を高めるか

JMAM:

きょうの2つの講演について、会場の皆様から質問をいただいております。この時間は、質問のポイントをまとめてお答えしていく機会としたいと思います。

石山先生からは、社会的な構造の変化に応じて、「キャリア」という言葉の解釈を広げていきながら、最終的にはパラレルキャリアを含めて、どうやって人生100年時代を生きていくかという、大きく俯瞰したお話をいただきました。

そして山本様からは、制度を構築するだけでなくそこに文化を形成させていくことの大切さや変化に合わせた対応が必要ということで、具体的なお話をいただきました。

多数の質問をいただいておりますが、まず「キャリアの啓発活動やコンサルティングを行うと転職を助長してしまうことにはならないか?」という質問について、石山先生・山本さん、お話しいただけますか。

石山:

では私から。下手にキャリア教育をやってしまうと転職者が増えるといった議論は、2000年のキャリア自律の頃からございます。結論からいうと、会社のキャリア開発や副業の推進がきっかけで辞めてしまう人を止めることはできません。ただ、そのことで辞める人が出ることが100%悪いことかというと、そうともいえないと思います。

「二枚目の名刺」というNPO法人の調査によると、副業をしている人のほうが、むしろ会社へのコミットメントや本業へのモチベーションが高まったという結果が見られます。よって、必ずしもキャリア教育や副業の推進が本業のエンゲージメントを下げるものではないといえると思います。

ただ、そうはいってもやはり退職者を増やしたくないという本音もあるでしょう。しかし、その人が一生同じ会社に勤めなくてはいけないのか、という議論にもなると思います。キャリア教育がきっかけで全員が辞めてしまうことはあり得ない。また、仮に会社を辞めたからといって、その会社と永遠に決別するかというとそうでもないからです。OB・OGなどその企業をよく知る人々を意味する「アルムナイ」(卒業生)という言葉もありますが、別の会社や業界でいろいろと経験を積んだ後に戻ってきてくれるならば、それも会社にとって意義があることではないか。また、戻ってこないまでも、プロジェクト型の仕事が増えてくるなかでは、外部のスタッフとして連携して仕事ができれば、その人材が会社に貢献してくれていると見ることもできます。そういうプラスの側面を考えることも必要ではないでしょうか。

JMAM:

ありがとうございます。山本さんはいかがでしょうか。

山本:

キャリア教育をしたから辞める人が増えることは、実際あると思います。ただ、単に転職の是非というよりも、そもそもどこを目指すのか。会社の考え方と合わない人に対して、どうアプローチするのか。そういったことをしっかりと考えるべきではないかと思います。

●「職業的自己イメージ」に関する質問

JMAM:

ありがとうございます。内的キャリアをしっかりと考えていこう、ということですね。そのことと関連するかもしれませんが、石山先生のご紹介いただいた調査のなかに「職業的自己イメージ」という話がありましたが、これはどのようにして効果測定をしたのでしょうか。

石山:

ちょっと専門的な話になりますが、人間の心理を統計的に調べる手法があります。具体的にいうと、特定の質問にいくつか答えてもらったうえで、因子分析という手法を使って、ある確率で同じような傾向で答えている、というのを1つのまとまりとしてみるのです。そのまとまりとしてみたものを尺度として、どんな心理を反映しているのかを統計的に出すのです。

職業的自己イメージも、たとえば「自分のやりたいことがはっきりしている」とか「やりたいことに沿って仕事をしている」といった、いくつかの共通的な質問をして、その平均点からワークエンゲージメントとどの程度の関連性があるのかについて、質問紙を統計的に見ていきました。

JMAM:

SCSKさんの場合、「専門性認定」などを運用していくなかで、職業的自己イメージが高まったといった声が聞かれることはありましたか。

山本:

専門性認定については、まず、自分が目指す職種やレベルにおいて、それが明確に定義されていること自体、プラスの効果があると思います。あと、よく聞かれるのは、1つの職種だけでは自分の幅は決まらないという意見です。複数の職種にわたって実力を発揮したいと考える人も一定数いて、複数の認定を受ける人もいます。ただ、会社としては、「メインの職種を1つに決めてください」と言っているので、そこのギャップはあります。基本的にはポジティブな影響が大きいと思います。

JMAM:

それを理解してもらうのには、上司の方が面談されていたりするのでしょうか。

山本:

面談審査は、社内の有識者や、被評価者の部署とは関係のない部署の上位者が審査員です。よって、審査員から客観的な視点やアドバイスをもらうと、「なるほど、そういう世界もあるんだ」といった気づきが得られるのです。また、それをベースにして、自分の上司と様々な話をする機会もつくっています。これらをより深めていきたいと考えています。

●副業マッチングの仕組み

JMAM:

副業についての質問も多く寄せられています。「その人に合った副業先のマッチングを会社がすることはあるのか(仕組みがあるのか)、それとも個人任せなのか?」という質問については、いかがでしょうか。

山本:

当社ではマッチングの仕組みはございません。基本的には本人が自主的に、ということになっています。

石山:

私の研究室に来ている社会人の方のなかにも、副業に関心を持っている人は多いです。修士論文のテーマとして副業について研究している人も数名います。彼らは、副業が本業にも好影響をもたらすのではないかという推論をしながら、いろいろな会社に伺ってインタビューをしています。インタビューで「本業への良い効果はありましたか」と聞くと、聞かれた人は、どちらかというと嫌な顔をすることが多いようです。その理由は、副業をしているのは、自分の本当にやりたいことが、今はたまたま会社でできていないだけで、それを実現したいから副業に取り組んでいる。それなのに、なぜ本業のことばかり聞くのか、という反応が多いというのです。つまり、現時点で副業をされている方というのは、自分の夢を実現させることが目的なので、会社側からマッチングや斡旋をするというのはなじまないのかもしれません。

ただし近年、第三者がWEB上で副業マッチングの仕組みをつくっているところも出てきています。有名なところでは、「ビザスク」「ココナラ」、「ストアカ」といったところです。ビザスクでしたらコンサルティング、ストアカだったら様々なテーマの講師です。これらはWEB上でのC to Cのマッチングになります。

●価値観は変わるのでは

JMAM:

内的キャリアやその人のもっている価値観が、副業をしたいという動機にもつながるのでしょうか。

石山:

それに関連して、「『3~6歳のときの価値観』というのは、実は何となく納得がいかない。価値観は変わるものではないか?」という質問があったのでお答えしておきたいと思います。たしかにそうだと思います。これはサビカスがカウンセリングの臨床から導き出した理論ですが、「価値観は変化するか否か」という点に関してはいろいろと議論があります。たとえば、エドガー・シャインの「キャリアアンカー」という有名な理論のなかでも議論されています。

この問いへの答えを見つけ出すのは難しいのですが、私が思うのは、価値観は3~6歳のときのものが重要かもしれないけれども、後年変わる可能性もある。副業に話を戻すと、価値観に基づいてされているのではないかと思います。

JMAM:

副業の動機は、やりたいことを自分のいる会社で実現できないことのほうが多いのか、それとも、社内で発揮できないならば、社外でと考えるタイプのほうが多いのか。どちらでしょうか。

石山:

イチゼロとはっきり割り切れるものではないと思います。今の会社にすごく不安がある、本業でやりたいことをできていないというわけではなく、本業もそこそこ面白いけれども、もっと他にも可能性を試してみたいことがあると。だけれどもそれを試すのは、本業ではなく副業として広げていきたいと考えているのではないでしょうか。本業をネガティブに捉えているわけではなく、副業によって本業との相乗効果を期待しているという話のほうが多いと感じています。

JMAM:

その他、たくさんの質問がありますが、お答えいただけそうな質問はございますか。

●「組織チャレンジ」のその後、プロフェッショナルPMのワークショップ等

山本:

質問9番のリモートワークの取り組みですが、手当は出るのですが組織チャレンジは廃止されました。リモートワークがある程度定着してきましたので、全社員を対象としたリモートワーク推進手当という形に変更されています。

それから、プロフェッショナルPMの「振り返りワークショップ」で共有する会話の具体例について。これは公表できない情報があるので、具体例にはお話できないのですが、日々、自分が板挟みになって困っていた時に、どういうふうに自分の心が動いたのかや、判断の拠り所にしたのは何かとか、周りとの関係づくりに悩んでいる等といったことを、リアルに共有しています。そういうことを人に話すこと自体が気づきになるのです。また、PMはチームのトップとして決断が求められる仕事なので、孤独な人が多く、周りに相談する人がいない状態です。ですから、ワークショップが相談する場になっているのです。そういう意味で効果があると感じています。

もうひとつ、リモートワークで出社の機会が減る中、「あえて集まる機会を設けるように言っているか」というご質問ですが、「リモートワークは週2回以下を上限に」というルールがあるので、あえて集まる機会を設けるということはありません。ただ、リモートワークの日が重なってしまうと、プロパーの社員が1人も出社していない状況になりかねないので、運用上の留意点があると考えています。

 また、人材公募の補充についてのご質問ですが、公募で異動した人員については、基本的に補充はありません。よって公募で出ていってしまう人が多数出た場合、その部署のマネジャーは困ることになります。ただし、人が抜けていくのは事業かマネジメントに問題がある可能性が考えられます。よって、そうした部署に対しては、より上位のマネジメントからのサポートや手立てが打たれるという運用になっています。

●調査のn数に関する質問

JMAM:

石山先生はいかがですか。

石山:

『会社人生を後悔しない40代からの仕事術』における調査n数については、全体で4,700人ですが、役職定年とか定年再雇用の人が、そんなにたくさん該当するわけではないので、個別に抜き出し調査をしています。

JMAM:

4,700名の調査というのは、パーソルキャリアさんとの共同調査でしょうか。

石山:

そうです。1社だけでなく大きな会社だと1000人単位とか、組み合わせた調査になっており、それぞれのところでn数は違っています。ただ、基本的にはすべて数千単位なので、サンプルとしては確保されているということです。

●石山先生によるラップアップ

JMAM:

たくさん質問をいただきましたが、すべてお答えすることができず申し訳ございません。最後に、石山先生のほうから総括をいただけますか。

石山:

山本さんのお話に大変感銘を受けました。SCSKさんの場合、キャリア開発において個別の施策をどんどん積み上げていった結果、すべてが繋がっており、「深める」「広げる」「振り返る」という軸で体系化されていったところがポイントだと思います。なぜこのような共通性のある軸を形成することができたのか。それは社員のプロフェッショナリティのようなものを追求しながら、地道に、実直に取り組んだ結果、素晴らしい仕組みが構築されていったのだと思います。

特に感心したのは、レベル7まであるITスキル標準をベースとしたものが能力開発のなかに組み込まれており、レベル1~3までは、知識が中心だけれども、レベル4以上は知識よりも実際の経験でしか学んでいけない。そのために、朝8時からリフレクションを開催しており、参加者がキャリアのなかで何を大切にしているのか、それを拠り所に苦しいこともできるという振り返りを行っている。そういったことがレベル7までつながっていて、経験学習理論ともフィットした能力開発・振り返りを統合的に追及していった結果、こういった軸でのお取り組みができたのではないかと思います。

JMAM:

石山先生、山本様、誠にありがとうございました。本日はこちらで終了いたします。

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