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パナソニック ホールディングス×コカ・コーラ ボトラーズジャパン
個々の活躍と成長につなげるDEI浸透

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「ダイバーシティ」は人的資本経営の開示項目にも挙げられていますが、取り組みにおいて課題を抱える企業は少なくありません。本セミナーでは、DEI<ダイバーシティ(多様性)・エクイティ(公平性)・インクルージョン(包括性)>を推進するパナソニックホールディングスとコカ・コーラ ボトラーズジャパンに、DEIを推進する目的や方針、そして具体的な取り組み内容、推進のポイント等についてお話を伺いました。

こんな方におすすめ

  • ダイバーシティの推進に携わっている方
  • 多様な社員のマネジメントについてお悩みの方

登壇者プロフィール

盛山 光(もりやま ひかる)氏

パナソニック ホールディングス株式会社 戦略人事部長

木下梨紗(きのした りさ)氏

コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 人事・総務本部 人材&組織開発部 部長

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0:00:44

第1部

話そう。気づこう。越えよう。DEI(Diversity, Equity & Inclusion)
0:26:12

第2部

コカ・コーラ ボトラーズジャパンにおけるDE&I
0:22:56

第3部

クロストーク
0:34:58

セミナーレポート

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Ⅰ.話そう。気づこう。越えよう。DEI(Diversity, Equity & Inclusion)

盛山 光氏 パナソニック ホールディングス株式会社 戦略人事部長

●パナソニックグループのDEIは、衆知経営がルーツ

今日はよろしくお願いします。まず、弊社におけるDEIの取り組みについて、パナソニック創業者の松下幸之助のビデオを2分ほどご覧いただければと思います。

いま見ていただいたのは、弊社の経営責任者だった松下幸之助が1971年ころ、200人ぐらいの社員を前に発したメッセージです。パナソニックグループでは、一人ひとりが経営者であるという「社員稼業」と、衆知を集めて経営に活かすという「衆知経営」を打ち出しています。後者の衆知経営とは、「言うべきことを誰でも言える経営」です。当時、パナソニックは業績が伸びていたにもかかわらず、上の思いは下に伝わっても、下からの思いが上につながっていかない。経営者が、部長、課長、一般社員に至るまでの声を吸い上げられていないということに強烈な危機意識を抱いたのです。

実は、DEIの取り組みも、松下幸之助の経営方針である衆知経営につながっています。今のグループCEOの楠見雄規は、松下幸之助と同じような危機感を持ち、一人ひとりが活き活きとする経営をもう一度取り戻したいという思いで2021年にDEIの取り組みをスタートしたのです。

そこから約3年がたち、実績というものはまだそんなにありませんが、本日は弊社の取り組みをお聞きいただければと思います。

●8つの事業会社で多様な人材が活躍

まず、パナソニックグループの概要についてご説明します。弊社では2022年から、いわゆる持ち株会社制を進めてまいりました。グループ傘下には8つの事業会社があり、人事戦略や報酬・評価については、各事業会社が独自に進めています。パナソニック株式会社という冷蔵庫や洗濯機のメーカーもあれば、パナソニックエナジーという電気自動車向けの電池を製造している会社、パナソニックコネクトというサプライチェーンのソフトウェア開発を行う会社というように、それぞれ業界が異なるなかで、画一的な人事制度は持たない方がいいと判断しているからです。

社員のウェルビーイングについては、「一人ひとりが心身ともに健康で、挑戦の機会を通じて幸せと働きがいを感じている状態」と定義しています。各事業会社で人事制度は異なりますが、この部分だけはグループすべての会社において実現を目指しています。パナソニックが全体として目指すものとしては、「物と心が共に豊かな理想社会」の実現です。これは今日的に申し上げると、パーパスです。グループ共通の経営戦略は、このパーパスを実現するために、「一人ひとりの積極果敢な挑戦」という「自主責任感」に基づいた「社員稼業」。そして、冒頭で申し上げましたように、パナソニックは、すべての社員が経営者であるという気概を持って、言うべきことは勇気を持って言える状態をつくり上げ、多様な人が知恵を出せる会社でありたい。そのような松下幸之助の考え方である衆知経営。これらに基づいた、自主責任経営をパーパスのなかで果たしていくという共通の経営戦略を持っている会社です。

それを実現するために、我々人事部門としては、社員のウェルビーイングのために、「やりがいを持って、はたらく。」「個性を活かしあって、はたらく。」、そしてベースになる「安全・安心・健康に、はたらく。」ということを、グループ共通の人事戦略として導き出しています。そのなかの「個性を活かしあって」というところが、今回のテーマであるDEIになります。

図表1 「社員のウェルビーイング」を支える3つの柱
図表1 「社員のウェルビーイング」を支える3つの柱

●2021年からDEIを本格的に推進

DEIを進めていくにあたって、2021年に、まずグループ共通のポリシーをつくりました。パナソニックでは、従来、ダイバーシティ&インクルージョンを掲げていましたが、2021年から、ここに「E(エクイティ)」を加えた形です。究極的に目指していることは、インクルージョン、つまりあらゆる人が個性を発揮し、組織として活かし合うという状態の実現です。ダイバーシティに関しては、多様な社員が集まっていますが、究極的には、一人ひとりの個性はすべて異なると考えています。そして、個性が異なる社員が活躍できる会社にしたい。そこに、「E」を加えた意味は、一人ひとりが個性に応じて力を発揮するためには、会社からの支援が不可欠だと考え、2021年からは、「Equity」という公平性の追求を旗頭に入れております。

よって、ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョンについては、次のように定義しています。ダイバーシティは、「挑戦する一人ひとりの個性を互いに受け入れ、尊重し、個性に価値を見つけること」。究極的な目標としてのインクルージョンは、「挑戦する一人ひとりが個性を発揮し、組織として活かし合うこと」。そしてこれらを実現するためには、「挑戦する一人ひとりに対する機会の提供の公平性を追求すること」という公平性が必要であるとしています(図表2)

図表2 パナソニックグループが目指すDEI
図表2 パナソニックグループが目指すDEI

●DEIの3つの柱

DEIに取り組むにあたっては、大きく3つの柱で進めています。1つめは「トップコミットメント」です。やはりトップの支援と理解がなければ、DEIは進みません。数字的に大きな実績として出ているわけではありませんが、グループCEOの楠見雄規と8つの事業会社の社長自らが、DEIに真剣に取り組んでいく環境づくりをこの3年間で進めてきました。

2つめの「インクルーシブな職場環境づくり」については、職場環境を整えていくことを進めました。とりわけ、マイノリティの方が感じている多くの痛み・ペインがアンケート等で出てきたので、2021年にはまず、この痛みの把握について進めました。

3つめの「一人ひとりのサポート」については、エクイティ、つまり公平性を追求していくために、会社として様々な支援を提供しているところです(図表3)

図表3 DEIの取り組み
図表3 DEIの取り組み

トップコミットメントについて、少し補足します。楠見を筆頭に持ち株会社の傘下である8つの事業会社の社長が四半期に1度、グループDEI推進委員会を実施しています(図表4)。そのなかでは、事業会社の社長とマイノリティの代表の方に来ていただいて、それぞれの方の挑戦を阻むものは何かといったことについて、直接対話をしています。また、それぞれの事業会社の好事例(ベストプラクティス)の共有に取り組むことで、事業会社のトップ自らがDEIに関する理解を進めています。

図表4 グループDEI推進委員会
図表4 グループDEI推進委員会

●「すべての社員が活躍するため」にDEIに取り組む

DEIというと、マイノリティの方を救済する印象を受けがちですが、グループ内での取り組みでは、「すべての人は異なる」という前提のもと、全員がDEIを自分ごと化することを目指しています。決して女性や障がいのある人、LGBTQ+などの方々の活躍のためだけではなく、すべての社員が活躍するために取り組んでいるのです。2021年から年に1回のイベントとして、グループDEIフォーラムを実施し、社員に対してメッセージを発信しています。

インクルーシブな職場づくりとしては、各事業会社における推進メンバーが話し合っていくなかで、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)を理解したうえで行動や発言を変えていく必要があるとしています。一人ひとり考え方は違うこと、つまり100人が同じでも101人目は違うかもしれないという考え方に基づいて、国内の約6万人の社員全員にトレーニングを実施しました(図表5)。トレーニングにあたっては、社員自らが講師となりました。DEIの取り組みを進めていくなかで最初の一手に近いものでしたが、この活動が効いたと思っています。

図表5 アンコンシャスバイアストレーニング
図表5 アンコンシャスバイアストレーニング

もう1つ、2021年以降、コロナ禍が契機になったという事情もありますが、エクイティの施策として多様で柔軟な働き方の提供が一気に進みました。従来からフレックスタイムや育児休業などの制度を設けてきましたが、今チャレンジしているのは、多様なニーズにきめ細かく対応し、場所と時間に関する多様性と選択肢を拡大することです。具体的には、自律したキャリア形成に挑戦したい個人に対しては、週4日勤務で他社副業をする、あるいは通勤圏外の実家で働くといったものです。

個人のニーズとしてのキャリア開発、もしくはワーク・ライフ・バランスを横軸に、そして今の勤務時間を維持したい、もしくは短縮していろんな違うことに挑戦したい、もっと家庭に時間を振り向けたいといったところを縦軸にとり、柔軟にする取り組みを進めています(図表6)

図表6 キャリアやワーク・ライフ・バランスを実現
図表6 キャリアやワーク・ライフ・バランスを実現

続いて、LGBTQ+です。パナソニックグループのコンプライアンス行動基準にも、性的指向、政治に関する差別的言動を行わないことを明記するとともに、2016年から、いわゆる同性パートナーにも慶弔休暇、育児・介護休暇、単身赴任といった人事関連の制度において配偶者に準じた取り扱いを適用しています。そのなかで、これも地道な活動になりますが、人事部門や管理職を対象にしたLGBTQ+に関するトレーニングを実施したり、アライ(ally:LGBTQ+を理解し支援する人)への理解を促す活動として、男女共通の作業服やユニフォームの着用などを行っています。

障がいのある方に対する寄り添いとしては、たとえば聴覚障がいのある方に対してUDトークというアプリを全社一括で導入しています。また研修に関しても、聴覚障がいのある方に対しては手話通訳を必ずつけるといったことを進めております。「障がいの有無にかかわらず、あらゆる社員の個性の発揮や挑戦、活躍を応援する」という姿勢で取り組んでいます。

従業員の意識調査の結果の推移を見ると(図表7)、青の「社員エンゲージメント」、つまり期待されている以上のものをやろうと思う気持ちも、赤の「社員を活かす環境」、つまり社員が働きやすい職場づくりの値も、2017年から徐々に上がってきています。2023年度の結果は、両方とも前年より1ポイントずつ上昇し、「社員エンゲージメント」が68ポイント、「社員を活かす環境」が66ポイントという結果でした。

図表7 「社員エンゲージメント」・「社員を活かす環境」肯定回答
図表7 「社員エンゲージメント」・「社員を活かす環境」肯定回答

2023年の女性管理職比率は6.1%となっています(図表8)。パナソニックグループの日本における女性社員比率は20%です。これが管理職となると6.1%ということで、女性の管理職比率は年々上昇傾向にあるものの、さらなる取り組みが必要だと考えています。先ほど申し上げたグループDEI推進会という事業会社の社長が集まる会議では、経営チーム、部長、課長、係長、あるいは一般社員のどこを切り取っても20%になる状態の実現を目指していくこと、そしてそれに向けた戦略と実行プログラムを各事業会社で策定していただいています。ただし、足元を見ればまだ大きな課題は正直あるというのが実態です。

図表8 女性管理職の推移
図表8 女性管理職の推移

●社員の自主的な取り組み「ERG」

最後に、DEIとは少し離れるかもしれませんが、パナソニックグループのユニークな取り組みを1つ紹介します。エンプロイ・リソース・グループ(ERG)という社員の自発的なコミュニティ活動です(図表9)。これは、事業会社を超えてある特定のテーマを主体的・自主的に活動する団体のことで、グループ内に約60あります。実際の活動としては、たとえば、子育てに関心のある社員が交流するコミュニティがあります。聴覚障がい者の方の「Panasonicデフ会」というコミュニティでは、耳が聞こえない社員と聞こえる社員が共に働きやすい環境づくりを考えるという活動に取り組んでいます。また、パナソニックグループには航空宇宙産業はありませんが、グループ内で何かできないかといったことを真面目に話し合う「航空宇宙事業本部」に取り組んでいる方もいます。こういった団体の活動は、非常に特徴的だと思っています。

図表9 社員の自発的なコミュニティ活動
図表9 社員の自発的なコミュニティ活動

以上、パナソニックグループのDEIの活動ということで、説明いたしました。

冒頭申し上げたように、まだまだ道半ばだと思っています。弊社のマジョリティは、私も含めて50代の男性です。若返りもあるし、会社がDEIに取り組むほど阻害感を感じる社員も多いと思いますが、一人ひとりは違っていいので、なんとなく元気がない社員にも、衆知経営の仲間に入ってほしい、なんとか心に火を灯したいと考えているところです。今後も、すべての社員が個性を発揮できる会社を目指して、経営陣とともに取り組みを推進していきます。

Ⅱ.クロストーク

斎木:

盛山さん、木下さん、ありがとうございました。取り組みを積み上げ発展させていく過程がよくわかりました。

さて、質問も大変多くいただいております。まず、盛山さんへの質問の1つめは、「アンコンシャスバイアスのアンバサダー約110名は公募制だったのでしょうか?」というものです。基本的には公募制で、8割が人事の方で、2割程度が人事以外の方ということでしたよね。

盛山:

はい、そうですね。

斎木:

人事以外の方たちというのは、具体的にどんな方たちですか。

盛山:

それぞれの事業会社内で公募をして集まった多様な方たちです。DEIの活動への理解がある会社とそうでない会社があるので、2022年にまず基礎編を行い、2回目以降は、各事業会社で進める形としました。グループ共通としては、1巡目は全社員を対象に実施しました。しかし、経営トップの理解が必要だと感じたので、2巡目として、経営責任者に対するアンコンシャスバイアストレーニングを共通で行おうとしているところです。

斎木:

ありがとうございます。『Learning Design』で、2022年11月頃にこのテーマの取材をさせていただいたときは、2022年度中に6万人の研修をするとお話しされていましたが、それがもう実現しているということで、驚きました。

質問の2つめとしては、「エクイティを進めるにあたってアンケートを取った際、すぐに実現できない、経営判断が難しい要望もあったと思いますが、社員の方へどのようにフィードバックをされていますか」というものです。改めてポイントをご説明いただければと思います。

盛山:

アンケートでは、いろいろな声が上がりました。責任者の心ない発言によって痛みを感じているという声がもっとも多かったです。そういう声は、DEI推進委員会等で出していきました。制度・施策に関しては、いろいろなアイデアをもらってはいるものの、実現できていないものに関して、なぜできないのかというフィードバックまではできていません。

斎木:

ありがとうございます。推進環境づくりについて、社員の声を聞きながら改善されているのですね。もう1つ、エンプロイ・リソース・グループ(ERG)については約10年前に発足されたこと、そして業務時間外の自主的な活動というお話もありましたが、改めてポイントをご説明いただければと思います。

盛山:

なぜこんなにERGが起こっているのかについては、私も不思議に思っています。あるキャリア採用の社員が周りに声をかけて自然発生的に生まれました。弊社では今、Teamsを使って仕事をしていますが、これによって自然といろいろな人が集まるコミュニティができているようです。2年ほど前に主だったERGのリーダーに、「時間とお金と場所の支援は必要でしょうか」と聞いてみたのですが、会社が支援すると報告責任が出てしまいます。活動内容がそれによって縛られるのも嫌だということもあり、会社からの支援はやめることにしました。それから2年が経って、会社として本当に感謝するような活動も増えてきています。2023年は、グループ横断表彰という形で約10の団体を表彰しています。

斎木:

盛山さんは人事戦略部のお立場で皆様へお話を聞きに行くこともあると思いますが、自由に意見や要望が集まったりするという相互の関係もあるのですか。

盛山:

そうですね。よく呼び出されました。

斎木:

ありがとうございます。パーパスでおっしゃっていた自主性が体現されていて素晴らしいなと思いました。

木下さんも、自主性の部分や、そこから派生して何かが生まれたり、対話が広がっていったというような事例があればぜひ教えてください。

木下:

LGBTQ+アライのチームは、まさにERGです。そういうものもつくりながら、さらに社員が正しく物事を理解できるように工夫しています。全部任せてしまうと、間違うか、偏った方向に走っていってしまうケースもあると思います。私たちは株式会社で、株主たちからの協力で会社を運営しているので、全部を手放しにしない方がよくて、ある程度、会社も一緒に入って考えるといいと思います。

斎木:

ありがとうございます。続いては、全社への理解浸透や社員の巻き込みについて、工夫されていることはお二人に共通していると思います。そんななか、「社内での最大の障壁はどこにありましたか」というご質問です。進めるなかでの浸透への工夫など、障壁をどう乗り越えたかについて、改めてお二人からお話しいただければと思います。木下さんからお願いできますか。

木下:

「無関心」が最大の障壁です。養老孟司さんの『バカの壁』という著書がありますが、猛反対で100%ネガティブであれば、その人は関心を示してくれたということなので、100%ポジティブになってくれる可能性がある、といった話があります。これがすごく合点がいっていて、無関心だと0なので、何をやっても0なんです。ここがすごく難しいと感じています。

自分自身もそうですが、関心のないことに対しては、「うるさいな」と思うか、言われていることすら聞こえない状態になります。そのことが大きな問題だと思います。弊社の場合、1万4000人の社員全員が、みんな同じような温度感で、同じ認識を持っているかというと、そうではない。関心も一人ひとり違う。

これまでは、会社が単一的な考え方で何十年もやってきたために失われた何十年があるのかもしれない。私たちの、「すべての人たちにハッピーなひとときをお届けする」というミッションを継続することも、会社がなくなってしまっては意味がない。実現するためには、それぞれの現場の関心事を理解したうえで、その人たちに届くような言葉で話しかけることが大切だと思います。そういうことをこの3、4年間続けてきているのです。そういう地道なところに答えがあるのではないかと思っています。

盛山:

たとえば、フォーラムやイベントを開催しても、参加してくれる方は大体決まっています。でも、ようやくそれが2割ぐらいを超えて、アーリーアダプターからマジョリティのところに入ってきたような感覚はあります。障壁となっていることの1つは、課長ですね。弊社の場合、課長は多分1万人ぐらいいます。DEIについて腹落ちしている課長だと盛り上がりますが、ポジション的に否定はできないけれども、まだDEIについて腹落ちしていない、冷めた目で見ているという人も多いです。事業会社の社長は、課長を輝かせないとDEIは進まないと言っています。しかし現実は、会社のなかで課長が苦しそうに見えている。女性や若い男性、障がいを持っている方を活用したくても、実際課長の仕事をするのは難しいと。だから、DEI推進でもっともやるべきことは、課長の支援ではないかと思っています。

斎木:

人的資本経営しかり、ミドルの方の期待と負荷が大きいなかで、頭と行動がなかなか伴わない。それは決してミドルの方が悪いのではなく、そこに集中してしまうからで、そこに多くの会社が悩まれているのではないかと思ってお聞きしておりました。

では、次の質問です。今日ご参加のお客様は、上場・非上場企業の方が半々ぐらいで、かつ役職者の方と一般層の方も半々ぐらいですが、そのなかでダイバーシティ推進室という名称がついている方と、人事部の方がいらっしゃいます。DEIを推進する時に、社内で推進部をしっかりと立ち上げているのか、それとも一時的なものなのか。また、プロジェクトを組むときにどういう構成をしていくのか。トップの方がコミットしていくのはもちろんだと思いますが、DEIを何人体制で推進し、どういう進め方をすればよいのか。そのあたりについて、過去のことも含めてヒントになるお話があればぜひお聞かせください。

盛山:

グループ全体でDEIを専任で担当してもらっている方は、フルでは4名です。そのうち社内複業ということで、本業を持っている方が2名。弊社の特徴としては、8つの事業会社のうち、規模は異なるものの2つ以外はそれぞれの事業会社でDEI推進室を持っています。そのDEI推進室の横連携の会などによって情報交換をしています。ただ、グループワイド全体で見ているのは、4名です。

斎木:

木下さんには、「スポンサー役として1名任命するということですが、任命基準のようなものはありますか」というご質問がきています。

木下:

全体像の話からになりますが、社員数1万4,000人のなかでDE&Iを担当しているのは、課長とその下の2人です。プラスアルファで、それぞれのアンバサダーを各部から選んでもらっています。ファンクションが10個ほどありますが、それぞれのファンクションから1人、マネジャー以上の役職者からDE&Iアンバサダーを選んでもらっています。この人数でDE&Iフォーラムを隔月で開催し、女性活躍推進、マタニティリーグ、LGBTQ+、ディサビリティ、ネイションをメインの課題に挙げています。ここでは、どんな課題があるのかを聞きながら、問題解決へ向けたディスカッションをしています。

私も今4つ持っているチームのうちの1つがDE&Iに関するもので、そこでは3つのことを推進しています。1つは、まずは役員を巻き込みながら全体的なDE&Iの歩みを止めないようにしていくこと。2つめは数字的なアナリシスによって、どんな問題があるのかを見せたうえで、達成目標に対して何%をどう上げていくべきかという施策提案とソリューションの提供をしています。3つめは、先ほど少しお話ししたような、様々なカルチャーに根差した社内外での取り組みです。

1つめの役員の巻き込みについては、スポンサーという話をさせていただきましたが、1期目のスポンサーは、まずは女性活躍推進に関連して、女性の数を増やすことや、マネジャーに1つのキャリアの選択肢としてもらうことも目的だったので、女性の役員に担当してもらいました。

また、アナリシスがないとうまく動いていきません。たとえば弊社の場合でしたら、女性管理職比率を現状の7.8%から20%まで高めるにはどうすればいいのかといった話が必ず出てきます。よって現状の数値分析をしてシミュレーションをしつつ、それぞれのファンクションごとの目標を別に定めて全社として20%とすべきだよね、といった提案をしています。さらに、その目標を達成するためには、現実的にはどうすべきか。もちろん今の時点ではそもそも女性社員が少ないので目標値は20%より低い値に置いているのですが、それでも求められる数字が高い場合にどうしたらいいのかといったソリューションを、ディスカッションしながら出していく。そんなこともしています。

斎木:

経営トップやキーパーソンを巻き込むコツについての質問もあったのですが、今のお話でヒントがあったと思いますので、ぜひ参考にしていただければと思います。女性活躍や管理職層のお話がありましたが、これに関して「従業員数100人以下、女性管理職は1人しかいない企業です。今後、女性管理職を増やしていきたいと考えていますが、何から手をつければいいのかアドバイスを頂戴したい」という質問をいただいています。パナソニック様の女性管理職比率が6.1%、コカ・コーラ様が7.8%ということで、決して低い数字ではないと思いますが、悩まれている方へのヒントや、ご経験からのアドバイスはありますでしょうか。

盛山:

100名の会社さんで、どう推進していくか。単純に人事課長を女性にしたらどうかというのが1つですね。というのは、私はパナソニックに入る前は、約1,000人の外資の会社にいて、そこで人事の責任者をしており、人事社員8人のうち、男性は私1人という時代がありました。人事は女性が活躍しやすい仕事だと思います。また、一般論ですが経理部門、購買や調達部門も比較的女性が多いと思います。もちろん新入社員を採る方法もあるし、キャリア採用でマネジャーポジションの人を採るという方法もある。ただ、どちらにしても周りの管理職とトップの理解がないと活躍できないと思います。

斎木:

その辺りとセットで、ということですね。木下さんもいかがでしょうか。

木下:

バックグラウンドによっても違うと思います。女性と男性の比率が半々だったら、もう少し女性管理職の比率を上げるとか、育成をして管理職になってくれる人の数を増やす形をとるべきだし、女性の数自体が、たとえば2割程度であれば、そもそもサポーティブの仕事が目的で入社しているという可能性もあると思います。だから、問題によって打ち手は違ってくると思います。

もし、女性の社員が少ないのならば、女性管理職になってどんな活躍をしてほしいのか、どんなフォロー体制があるのかを明確にしたうえで、募集を出したりホームページを変えたりする。それによって、「男性の会社だと思っていたけれども、そうではないのね」と思ってもらったり、女性も普通に活躍していける企業というように理解してもらうことができるのではないかと思います。

女性の人数が3割程度いるのであれば、何が障壁になっているのかを探るべきです。匿名のアンケートで聞いてみたり、座談会を開催したりして、問題点を見つけるのです。そのうえで手を打つことができます。

斎木:

木下さんは、このテーマについて3つの取り組みを紹介してくれました。まず、パイプラインの育成については、管理職志向を上げていく必要があると思いますが、人的資本経営の開示レポートをいくつか見ていると、管理職の登用パーセンテージを掲げている会社や、管理職になりたいという意欲を高めるための施策やポイントを開示している企業も増えています。管理職がすべてキャリアの上位というわけではないと思いますが、そこにどういう働き方を目指すのでしょうか。

木下:

いったん考えなくてはいけないのは、その女性が自分から管理職を目指していたかどうかです。私の場合、若い頃から管理職になって自分ができることを大きくしたいという気持ちがすごくあった方ですが、一方で管理職になりたいと思っている人がすべて素晴らしい人かどうかは、また別の話です。私はなりたくても、中身が足りなかったら、私じゃない人がなった方がいい。つまり公平性の話ですね。元々関心がないけれども、考える機会を与えられているかどうかはとても重要だと思います。

たとえば女性の場合、ひと昔前、10年、20年前は、サポーティブなお仕事をするのがメインだった頃もあった。その頃入社した人ならば、全然おかしいという気持ちもなければ、アウェアネスが芽生えることなく、普通に仕事を続けている状況です。でも、その人が素晴らしいマネジャーの素質を持っているのならば、すごくもったいない。そういう人たちに気づきを与えていくことはやるべきです。ただ、現状の日本はそうではないので、改めてそういう風にしていく必要があると思います。

2つめは、Forbsの賞を頂戴した時のお話になりますが、特に自販機の部門などの現場には、そもそも周りに女性がほとんどいません。最近になって、派遣社員や正社員も増え始めましたが、男性がほぼ9割の状態なのに、なぜ女性を増やして管理職にしなくてはいけないのか。そういう、すごく素朴なクエスチョンがあるのです。2025年問題を考えると、そういう方たちに対してはまた違う処方箋が必要だと思います。成人の数が1990年と比べて2025年では3分の2に減ってしまう。そうすると、100人採ろうとしても80人ぐらいまでしか採用できません。毎年20人が出ていく状態が続くことになる。でも一方で、女性に目を向けたらパイが倍になります。さらに、年配の方に目を向けたら、もっと増えます。人口が減っていくなか、そういう風にしていかないと、どんどん先細りになってしまいます。

斎木:

ありがとうございました。さて、時間も限られているので、盛山さん、DEIや公平性を志向するなかで、楠見社長ともいろいろなやり取りをして、覚悟を決めたというお話もありました。そうしたなか、社員の方々の抵抗とか、なかなか消化できない方に対しては、どういう風に寄り添っていらっしゃるのか。そういう、風土づくりのポイントを改めて伺いたいと思います。

盛山:

ドライな言い方かもしれないですが、物事を変えるときに、すべての人に腹落ちさせるのは不可能だと思います。たとえば、当社にはマネジャーに昇格するときの研修がありました。半年から1年かけて、課題図書がたくさん出て、最後には上司の課長や部長にプレゼンテーションをするのです。プレゼン後は、上司の課長や部長、周りの人が寄ってたかって指導するのですが、それを見た女性社員や若手の社員は「私には無理です」と感じます。しかし一方で、やる気を落とすばかりではなく、成長の大きな機会になっている人もたくさんいるので、「負荷を下げろ」だけでは賛同を得られないと思います。そうやって育ってきた世代は特にそうです。会社の昇格のプログラムを大きく変えてからまだ2年ぐらいです。ただ、挑戦したいというポジティブな声も聞こえています。これだけ大きな変化が伴えば、ネガティブな意見はどうしても出る。そこだけに耳を傾けても物事は変えられません。意思をもって変えていくためには、3、4年ぐらい続けないといけないと思います。

斎木:

そのために経営者の理解も深めるし、定期的に考える場や時間を設けたり、社内の協力者のアンバサダーを設定したり、地道に伝えることは伝えるし、変えることは変えていく。全部は叶わないとしても、意見はきちんと吸い上げていく。当たり前のことかもしれませんが、それを体現していくのは難しいので、覚悟を持って進めていることがよくわかりました。今日聞いている方々はもちろんそういう立場であり、推進されていらっしゃると思いますので、ぜひ進んでいただきたいと思います。

さて、時間になりましたので、最後に一言ずつコメントをお願いいたします。

木下:

DE&Iを推進される方、もしくは関心のある方が、自分事として捉えて動いていこうとすると、いろいろな障壁があると思いますが、1つひとつの障壁を乗り越えて初めて新しいものが得られるという、いい意味でのチャレンジになると思います。会社は違いますが、日本のなか、そしてそれぞれの会社のなかでのDE&Iがより自然になっていく方向に向けて、歩んでいけたらいいと思います。

盛山:

今までの取り組みを改めて自分でまとめて、またQ&Aをいただきながら感じたことは、まだまだやるべきことがあるということです。会社の活力とは、一人ひとりが、今日よりも明日、明日より明後日と、やりたいことが実現できるようになっていく環境であり、それを整えていくのが僕らの仕事です。それをDEIという言葉にも置き換えて、社内外への説明責任を果たしているのですが、言うべきことが言える、言いたいことが言えるというところを軸に進めていきたいということを改めて思いました。今日はどうもありがとうございました。

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