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管理職を花形ポジションへと導く
「ポジティブ管理職の育成と支援」

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管理職に求められる役割が変化し、業務の複雑さが増しているといわれる現在。「管理職になりたくない」と忌避する風潮も聞くなかで、管理職が社員の花形として、活き活きと働いている企業は何を行っているのでしょうか。そこで本セミナーでは、どのような人事部の支援がポジティブな管理職を育てることができるのか、組織を活性化させる方法について、Jストリーム田中潤氏、カルビー流郷紀子氏に実例も交えながらお話しいただきました。

こんな方におすすめ

  • 自社の管理職を元気にしたい方
  • 若手社員の管理職志向を育成したい方

登壇者プロフィール

田中 潤(たなか じゅん)氏

株式会社Jストリーム 執行役員 管理本部 人事責任者(CHRO)

流郷紀子(りゅうごう のりこ)氏

カルビー株式会社 人財戦略部 部長

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0:05:07

第1部

「管理職の実態に関するアンケート調査」から見る管理職の傾向
0:06:04

第2部

管理職の今と目指すべき管理職の在り方
0:27:23

第3部

ポジティブ管理職の育成と支援
0:26:15

第4部

クロストーク(Q&A)
0:33:02

セミナーレポート

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Ⅰ.「管理職の実態に関するアンケート調査」から見る管理職の傾向

長岡萌以 日本能率協会マネジメントセンター ラーニングマーケティング本部 事業戦略部 『Learning Design』編集担当

●「ポジティブ管理職」は56.4%
「仕事の成果」「やりたい仕事」「持ち味発揮」に差

ご講演の前に、JMAMより「管理職の実態に関するアンケート調査」のご報告をさせていただきます。今回のセミナーは、弊社発行の人材開発専門誌「Learning Design」5-6月号特集「ポジティブ管理職を育てる」のスピンオフとして開催しています。この特集の中で実施・紹介しているのが、これからお話しさせていただく調査です。

JMAMでは、この特集に先だって、2023年4月に管理職・一般社員各1000名に、管理職という仕事に関する意識の調査を行いました。今回のタイトルにもなっている「ポジティブ管理職」の定義について、今回の調査では「今の仕事が面白い/面白くない」、「管理職を続けたい/続けたくない」という2つの軸で4象限に分解しました。その結果、56.4%の方が、今の仕事が面白く、管理職を続けたいと感じていることがわかりました(図1)。意外と多いなと思った方もいらっしゃるかもしれません。

図1 調査結果に見るポジ/ネガ割合
図1 調査結果に見るポジ/ネガ割合

続いて、ポジティブ・ネガティブ管理職にどのような違いがあるのかを見てみると、「仕事の成果が出ている」「やりたい仕事に関われている」「持ち味を発揮できている」といった回答割合に大きな差があることがわかりました(図2)

図2 ポジティブ管理者の意識
図2 ポジティブ管理者の意識

●昇格前後でポジ・ネガの意識変化はなぜ起こるのか

さらに、昇格前後で気持ちに変化があったかどうかについても聞きました。「管理職になりたいと思っていた/思っていなかった」、そして現在「管理職を続けたい/続けたくない」の各問です。その結果、管理職になったことで、「ポジティブからネガティブになってしまった管理職」が7.3%、「ネガティブからポジティブになった管理職」が16.7%いることがわかりました(図3)

図3 「ポジ→ネガ管理職」と「ネガ→ポジ管理職」の割合
図3 「ポジ→ネガ管理職」と「ネガ→ポジ管理職」の割合

このような意識の変化はなぜ起こるのでしょうか。「ポジ→ポジ管理職」と「ポジ→ネガ管理職」の比較から、ネガティブになってしまった方は何でつまずいたのかを見てみました。すると、意識の面では「チームマネジメントが面白い」「自分のやりたいことを実現しやすい」、行動の面では「社内ネットワークを築けているか」「問題を予測して事前に手が打てているか」という点に差があることがわかりました(図4)

図4 ネガティブ管理者になった人は、何でつまずいたのか?
図4 ネガティブ管理者になった人は、何でつまずいたのか?

また、「ネガ→ポジ管理職」と「ネガ→ネガ管理職」は何が違うのか、ポジティブ管理職に転換した人はどのようなきっかけでポジティブになれたのかを探ってみました。すると、意識の面では「チームマネジメントが面白い」「会社方針にコミットするようになった」、行動の面では「メンバーにチャレンジングな目標設定をさせたり、新しい仕事やプロジェクトを任せてサポートしている」「方針や目標をメンバーにわかりやすく、繰り返し示している」という点に大きなギャップがあることがわかりました(図5)

図5 ポジティブ管理者に転換した人は、何が違うのか?
図5 ポジティブ管理者に転換した人は、何が違うのか?

●77.3%の一般社員は管理職に対するマイナスイメージが強い

さらに、部下(一般社員)の意識も調べてみました。「今の仕事が面白い/面白くない」、「管理職になりたい/なりたくない」という点です。合計すると77.3%の一般社員の方が、管理職になりたくないと回答していました(図6)。ポジティブ管理職の割合が56%だったのと比べると、部下側の方がマイナスイメージが強いのではないかと予測されます。

図6 部下(一般社員)の意識
図6 部下(一般社員)の意識

 また、管理職になりたくない理由については、最上位が「自分は管理職に向いていないから」、続いて「管理職の負荷と報酬アップが釣り合っていないから」という結果になりました(図7)

図7 管理職になりたくない理由
図7 管理職になりたくない理由

●「管理職の実態に関するアンケート調査」結果まとめ

以上の調査結果のポイントをまとめると、

  • 56.4%の管理職が「今の仕事が面白く、管理職を続けたい」と感じている
  • ポジティブだった管理者がネガティブになってしまうのは、チームマネジメントや他者を巻き込んだ仕事でつまずいてしまうため
  • ネガティブだった管理職がポジティブに転換するのは、会社方針にコミットしてマネジメントに面白みを感じるようになったから
  • 77.3%の一般社員が「管理職になりたくない」と感じており、最も回答率の高かった理由は「自分は管理職に向いていないから」
ということがわかりました。

この後の田中さん、流郷さんのご講演の中では、より詳しく具体的なお話があると思います。ぜひこちらを参考に、ポジティブ管理職を育てるヒントを得ていただければと思います。

Ⅱ.管理職の今と目指すべき管理職の在り方

田中 潤氏 株式会社Jストリーム 執行役員 管理本部 人事責任者(CHRO)

●管理職は楽しく生き生きと働いているか

本日の参加者は管理職の方が多いと伺っています。先ほど56.4%がポジティブ管理職だというアンケート結果がありましたが、ご自身はどうでしょうか。管理職は楽しいですか?僕は、この点が非常に大事だと思います。身近にいる管理職が自由闊達で楽しそうに仕事をしているかどうかは、次の世代にも様々な影響を与えます。

先ほどの数字によると、56.4%の管理職が「今の仕事が面白く、管理職を続けたい」というポジティブな回答である半面、77.3%の一般社員が「管理職になりたくない」ということです。別の調査でも、だいたい似たような結果が出ています。

数年前からいわゆる「名ばかり管理職」が問題になってきてから、どこの会社でも管理職の定義は、労働基準法上の「管理監督者」に近くなってきています。そうすると、そもそも限られた人数しか管理職にはなれません。管理職に任命された人の77.3%が「なりたくない」というのならば由々しきことだと思いますが、一般社員全体に聞いているのなら、77.3%が高いのか低いのかは、しっかりと考えなくてはならないと思います。

多くの会社にとって極めて大きな課題は、若手・中堅社員のリテンションです。せっかく育成した中堅社員が辞めてしまう問題をどうすればいいのか、我々も社内でたくさん議論しています。管理職をやりたくないという人たちに「管理職もまんざらじゃなさそうだな、チャレンジしてみるか」と感じてもらうために、もっとも有効な施策は何でしょうか。

結論から言うと、一番大事なのは、僕たち先輩管理職が生き生きと働いているかどうかです。日経産業新聞の私の連載にも書かせていただいたのですが、少なくとも人事でこのような施策を行っている我々が責任をもって生き生き働く姿を見せないと、「管理職になろうよ」と言う権利すらないでしょう。心から楽しく働くために、我々はどうするべきか、何を変えていけばいいのかを真剣に考えることが大事ではないかと思います。

●これまでの経歴とJストリームの概要

簡単に自己紹介をします。僕は「日清製粉」という伝統的な食品メーカーで社会人をスタートしました。その後「ぐるなび」と、今の「Jストリーム」という会社で人事部長を務めています。

キャリア関係にずっと興味を持っており、関連する副業や越境学習などをしています。多くの会社の方とお会いして様々なお話を聞いていますので、それを自社の施策に使ったり、今日のような講演の際に参考にしたりしています。

JストリームはBtoBの会社で、動画配信を中心としたビジネスを展開しています。創立は1997年、社員数415人。平均年齢は、日本の会社の平均より少し低い36.8歳。売上は91.7億円。コロナ禍以降テレワークを積極的に推進しており、現在は10~15%程度が出社し、残りはテレワークをしています。ITエンジニアの採用難に伴い、どこに住んでいても働ける「ロケーションフリー採用」を始めて、全国各地の優秀な方々を採用しています。テレワークが中心になると、管理職の問題もますます重要になると感じています。

●管理職の仕事は昔よりも難しくなっている

ポジティブ管理職を増やすために、我々としてできることは何でしょうか。

先ほどの調査で「なるほど」と思ったことが1つあります。ポジティブだった人がネガティブになってしまう理由は、チームマネジメントや他者を巻き込んだ仕事でつまずいてしまうからだという点です。逆に、ネガティブだった人がポジティブになるポイントは、会社方針にコミットして、チームマネジメントに面白みを感じるようになったこと。つまり「チームマネジメント」がキーであり、ここでつまずくのか、面白みになるのかで、管理職としてのネガティブさ・ポジティブさが変わってしまう。その結果がはっきりと出ていて面白いと思いました。

管理職の定義についてはいろいろありますが、当社では「他者を通じて物事を成し遂げる」という言葉を使っています。新任管理職研修でも最初にこれを伝えます。日本の場合ほとんどの会社が、優秀なプレーヤーをマネジャーにするという人材登用をしています。マネジャーになると、自分ではなく他者を通じて成果を上げなくてはならない。これは大きな変化です。ここをうまく乗り切れるかどうかが管理職としての分かれ目であり、またこれを楽しいと思えるかどうかが大きな違いではないでしょうか。

また、管理職は役職ではなく役割です。新しい役割に合った思考法や行動法をきちんと身につけなければなりません。ただ、やったことがなければ簡単にはできないので、しっかり教えてもらう必要があるし、勉強して学ばなくてはいけません。

そして、管理職の仕事は多岐にわたります。さらにどんどん増えています。なおかつ、プレーイングとマネジメントをしなくてはなりません。特に課長層はプレーイング比率がかなり高くなります。

(図1)は中原淳先生の本からの引用ですが、管理職になると「7つの挑戦課題」があります。まさにこの7つが管理職として大変な点であり、どれもチームマネジメントのために必要なことです。当社ではこの本を新任管理職の課題図書として最初に読んでもらっています。

図1 管理職の「7つの挑戦課題」
図1 管理職の「7つの挑戦課題」

もう1つ、別の観点から管理職の今を考えてみますと、管理職にとっての「人材育成」の役割が変わってきており、それが管理職の仕事を大変にしているのではないかと感じています(図2)

図2 管理職の人材育成の役割の変化
図2 管理職の人材育成の役割の変化

私は昭和の終わりの時代に営業職として社会人生活をスタートしました。最初は上司に営業同行をしてもらい、上司がお客様と様々な交渉や会話をするのを横で聞き、帰り道でその内容について質問したりしていました。しばらくすると上司から「次のお客様はそれほど難しくないから、君が商品の話をしてみなさい」と言われる。これがOJTの典型例でした。上司が自分のやり方を見せる、背中を見せるのが「教える」ということでした。当然、営業のベテランの上司ですから交渉は上手で、特に教え方を習う必要はなかったのです。人材育成について何も語れなくても、OJTで十分にできていました。できなくても「石の上にも3年」とうそぶいていればなんとなく済んだ牧歌的な時代でした。しかし今は、それではなかなか部下がついてこないのです。「見て盗め」が成り立たず、しっかりと教えなくてはいけません。

教えるなかで大事なのが、「仕事の意味付け」です。この仕事は何のためにやるのか、あなたの未来にどうつながるかを、部下に伝えていく必要がある。さらに、部下のキャリア形成支援も必要です。会社は「自律的なキャリア形成を支援する」と言って、多くのことが現場に委ねます。そこで管理職が支援をする必要が出てくるのですが、なかなか上手にできません。

現場での人材育成は、以前なら仕事がきちんとできる上司であれば普通にできたことなのに、今はしっかりといろいろなことを学ばなければできなくなっている。この変化により管理職の大変さが増大しているのではないかと思います。

さらに、メンバーは上司の在り方をとてもよく見ています。上司が何を考え、どう思い、どういう仕事をして、どんな成果を上げているのか。その在り方が部下のキャリア形成や、「自分のキャリアをこの組織に委ねていいのか」という判断に影響を与えているのです。上司はそういうことまで考えながら日々の仕事をしなければいけない。これはなかなか大変なことです。これが「管理職の今」です。この「今」をきちんと認識して、会社が徹底した支援をすることがとても大事だと思います。

これを踏まえて、ポジティブ管理職を増やし育てるために、会社として、人事としてできる支援とは何かを考えてみたいと思います。

●管理職支援① 管理職に武器を

1つめは「管理職に武器を」という発想です。チームを率いて成果を出すための行動様式や知識、ノウハウを伝える必要があります。やったことがない管理職という仕事を、ライセンスも取らず、何も学ばずに行うのは非常に危険です。無免許運転のために部下がメンタル不調に陥り、業績は上がらず、自分も疲弊する。ですから会社は、管理職の無免許運転をやめ、免許を与える教習所のように様々なことを行う必要があります。

(図3)は先日実施した、管理職になったばかりの方々を対象とした研修です。我々は研修を一度にまとめて行うのではなく、必要となるタイミングで都度実施しています。一度にやっても吸収できないし、忘れてしまうからです。

図3 組織管理者ライセンス研修 信任組織管理者研修
図3 組織管理者ライセンス研修 信任組織管理者研修

最初は目標設定です。少し経って、管理職の難しさを実感し始めたころに、組織マネジメントや1on1を教え、キャリア支援などもメニューに加えながら、対部下のチームマネジメントを中心に研修を行います。これは我々の例であり、会社によって管理職として果たすべき役割は違うので、自社では何を理解しておくべきか、しっかりと把握した上で内容を考える必要があります。

5回に分けて、さほど長くない時間で行うメリットは、管理職同士の横のネットワークができることです。後ほどお話ししますが、これはとても大事な要素です。

1on1も一般的になり、週に1回は必ず実施するといった組織もありますが、個人的には1on1を制度化するのは反対です。制度ではなく文化として定着させたいと思っています。何事も制度になった瞬間に、管理職にとって「やらされ感」が非常に強くなります。もちろん仕組み上やってもらわなくてはいけないこともありますが、1on1の場合「やらされ感」ではまったく意味がないし、逆効果になりかねません。1on1という武器は、必要な人が手に入れると有効である一方で、制度だからと押し付ければ逆作用が起こります。これは1on1に限らず、人事関係の仕組みの多くが該当します。人事としては、制度として取り入れた方が楽ではあるのですが、そうではなく文化として根差すという心持ちで一人ひとりの管理職の方々と接することが大事ではないかと思います。

●管理職支援② 自律した部下をともに育てる

2つめは、自律した部下をともに育てること。「ともに育てる」という点が大切です。キャリア自律については各社が様々な取り組みをしていますが、人事だけが頑張ってもうまくいかないので、人事と現場管理職が共同して一緒にやっていく必要があります。なぜなら、キャリア形成やキャリア自律につながるのは日々の仕事であり、日々の仕事を見ているのは現場の管理職だからです。ただ、研修や面談などの場面で人事がサポートすることには意味がありますから、共同して取り組むというスタンスが大事です。

「自律的な働き方」と「キャリア自律」という言葉は、本来の意味合いは違うものの、自律的な働き方をしている人はキャリア自律しやすいし、キャリア自律している人は自ら必要なことを学び、実行する姿勢ができているので、両者は表裏一体の言葉です。

自律的な働き方をしてもらうと管理職は楽です。メンバーがしっかりと必要な報告・連絡・相談をして、決められた目標に向かってどんどん動いてくれれば、管理職は手間が省け、自分がやるべきことに集中できるのですから、部下が自律すればするほど楽になります。部下のキャリア自律推進というと及び腰になる人も少なくありませんが、キャリア自律を推進することによって自律的な働き方に近づいていくという捉え方をすれば、少し見方が変わってくると思います。

一方、会社は自律的なキャリア形成や自律的に働くことを推進するといいながら、それに合った仕組みを提供できているでしょうか。ガチガチの働き方をさせているのに、自律的に考えろと言っても無理ですし、自律的に考える場をきちんと作ってあげないといけません。キャリア自律やキャリアオーナーシップといった言葉を掲げる会社なら、最低でも図4のような制度が必要ではないかと思います。

図4 キャリア自律が促進される人事制度を入れていますか?
図4 キャリア自律が促進される人事制度を入れていますか?

難しいのは転勤です。業務上どうしても転勤が必要な会社はありますが、本人の意図と異なる転勤や職種転換ほど、キャリア自律と矛盾する仕組みはありませんから、一度考え直す必要のある部分です。我々はかなりテレワーク率が高く、どこでも働けるため、転勤という発想はなくなりますから、その点では非常にやりやすくなりました。

また、なぜ会社がキャリア自律を求めるのか、その理由を言語化すること、それを管理職が語れるようになることも重要です。会社は、管理職がそれを語るための材料を提供する必要があります。これも会社によって言葉が違ってくると思うので、自分たちの会社の言葉で語れるようになることが大切です。

「成長実感」と「成長期待」という言葉があります(図5)。成長実感とは「今まで自分はこれだけ成長してきた」ということですが、成長実感があったとしても「これ以上この会社にいても変わらないだろう」と思えば、中堅社員は辞めてしまいます。成長実感よりも成長期待の方が、会社に残るか残らないかのキーになります。成長期待とは、キャリアが拡がる感覚です。自分が今やっている仕事と自分の希望する未来がつながる意味づけができれば、「この会社で頑張ろう」と考えてもらえます。成長期待こそが、非常に大きな心理的報酬になるのです。現在と未来をつなぐ仕事の意味付けは、人事が時々面談をして社員に言うだけではなく、現場の仕事のなかで管理職がいかに支援できるかが重要です。

図5 成長実感と成長期待
図5 成長実感と成長期待

●管理職支援③ 職場での人材育成を支援する

3つめは、現場の人材育成を支援することです。人材が育てば育つほど、管理職は仕事もチームマネジメントもやりやすくなり、成果が上がりますが、ここでつまずくとマネジメントは難しくなります。

現在、人材育成は「組織開発」「人材開発」「キャリア開発」の3つを併せて推進しなければならない時代になってきています(図6)。組織開発の基本的なやり方をマネジャーが習得できるように支援するなどの施策が必要です。

図6 人材育成は3つの開発の時代に
図6 人材育成は3つの開発の時代に

(図2)に示したように、昔のOJTではなく今の人材育成ができるようになるためには、チームの作り方やキャリアの作り方が重要になりますし、上司自身がどう考えるかも大切になってきます。

●管理職支援④ マネジメントの伴走支援

続いて、マネジメントの伴走支援です。課長がいろいろと考えて一生懸命に動いても、時にはうまくいかず苦しくなることもあります。その時に誰が伴走してくれるのでしょうか。まずはその管理職の1つ上、つまり課長が困っていれば部長が手を差し伸べることが非常に大事です。それだけではなく、管理系のあらゆる部署、主に人事が伴走者になることも重要です。相談を受けて、できることを一緒に考える。場合によっては、難しい部下の1on1の前に作戦会議をする。もちろん経理や総務といった部署も、専門職の立場からマネジメントの伴走ができるはずです。

我々の会社では「日本一、敷居の低い人事部に」をスローガンとしています。人事が働きかけなくても相談に来てくれるという状態が一番ありがたいです。そうなれば、現場で何が起こっているか、ありありと把握できるからです。なかなか理想どおりには実現しませんが、このような思いを持って相談を受けています。相談に来た人がリピーターになるように、一度の相談でしっかりと結果をもたらすことが大切です。

●管理職支援⑤ 仕事を減らす

支援の1つとして、仕事を減らすことは非常に大事です。管理職の仕事を減らすためにはメンバーの育成が重要ですが、それ以外にもできることはあります。たとえば、我々のような管理間接部門は「いつまでにこれを提出してください」などと多くのことを現場に依頼していますが、その数を減らしてもいいし、昔から続いていて今は必要がないものがあればやめてしまえばいい。そうすれば現場の仕事は減ります。新しいことを求めるならばその分、何かを減らせないか、定期的に棚卸しをして考えていく。場合によっては、全社の管理職にアンケートをとって、減らしていいものについて意見をもらうのもいいでしょう。管理職の業務をどう減らせるかは、会社全体として大きなテーマになります。

●管理職支援⑥ つなげる・孤立させない

管理職の方々は、一人ひとりが工夫して様々な取り組みを行っています。なかには、他の人も真似できること、他の人にも教えてあげた方がいいこともあります。管理職は、営業なら営業、マーケティングならマーケティングと、各自の職能の仕事をしていますが、組織を管理するという点ではほぼ同じようなことをしています。それぞれの体験やノウハウ、悩みを共有することには意味があると思います。会社組織の中では、そういう場がありそうに見えて意外とないものです。管理職同士の対話の場をもっと作るべきだと思います。

忙しい管理職ですから、長い時間をかけて行う必要はありません。ファシリテーションを工夫して、短時間での対話の場を作りましょう。たとえば、1人の管理職が悩み共有し、みんなでそれについて話し合い、アイデアを出すというやり方も面白いと思います。

図7は、過去に何度か実施した、今お話ししたような課長同士の対話の場です。当時はインプットも含めて実施したのですが、今後は1時間ただ対話するだけの場も計画中です。

図7 マネジメント・リフレクション~課長編
図7 マネジメント・リフレクション~課長編

Jストリームでは、テレワーク中心になってから入社した社員がもはや半数近くになります。なかなか集う機会がないので、オンラインで会って語らう場を作ろうということで、「JSTカレッジ」という対話型研修と、「JSTプレイス」という研修型対話の場を取り入れ、週一回ほど実施しています。その中で、課長同士の対話の機会もつくっていこうと考えているところです。

以上が我々が行っているポジティブ管理職支援でした。ご清聴ありがとうございました。

Ⅲ.ポジティブ管理職の育成と支援

流郷紀子氏 カルビー株式会社 人財戦略部 部長

●カルビー人事がめざす「全員活躍」とは

初めに、私たちの人財ビジョンをご紹介します。カルビーの人事は「全員活躍」を目指しています。全員活躍とは、会社と社員がお互いに魅力を感じてつながっていることです。

図1のように、社員一人ひとりがカルビーの理念や目指す方向性に共感し、それに対して自分なりの意味・意義を見出していくこと。そして自分はもちろん、仲間とも一緒に成長し、貢献し続けることを期待しています。一方、会社は社員に対して挑戦機会を提供して成長を支援し、一人ひとりに仕事の意味や期待をしっかりと伝える。これが循環していけば、全員活躍につながると思っています。

ここで示している「会社」とは法人そのものではなく、実際にその役割を担うのは現場の管理職の方々です。管理職は今まで社員の立場だったところ、今度は会社という役割をもち、両方を実現していく必要があります。それが管理職の大変なところであり、醍醐味でもあると思います。

図1 カルビーの人財ビジョン
図1 カルビーの人財ビジョン

●成長機会をもたらす取り組み

今のカルビーの状況を図2に示します。冒頭でお話のあった調査で、一般社員の77.3%が管理職になりたくないという統計が出ていました。カルビーで2年前に実施した全社アンケート調査では、管理職にポジティブな回答をした社員は63%。冒頭のデータと比べると、役職者志向をもつ社員の割合が比較的高いといえます。ただ、世の中と比較して高いからいいという単純な話ではありません。よく見ると、男性はどの年代でも「ぜひ役職につきたい」「ついてもいい」という回答の割合が80%ほどで推移していますが、女性は年齢とともに役職志向が下がっています。女性の場合は出産や育児、介護といったライフイベントとの両立ができるだろうかという不安・心配があるからだと思います。

図2 あなたはいずれ、役職につきたいですか?
図2 あなたはいずれ、役職につきたいですか?

●管理職は大変なもの。“育成”よりも“支援”が必要

皆さんの会社では、管理職を“育成”していますか。それとも“支援”していますか。おそらく両方だと思います。私たちは、管理職を“支援”するというスタンスですべての取り組みを行っています。なぜなら、管理職は「めっちゃ大変」だからです。「できていないから育てなければ」というよりも、そもそも管理職は大変なものであるという前提に立った上で、では私たちにどういう支援ができるのか、それを考え抜き、試行錯誤しながら取り組んでいくことが大事だと思っています。

なぜ管理職は「めっちゃ大変」なのか。先ほど田中さんも抜粋されていた書籍『駆け出しマネジャーの成長論』で、中原淳先生は図3のようにおっしゃっています。特に新任管理職は、この5つの状況に晒されるがゆえに大変なのです。

図3 なぜ管理職はめっちゃ大変か?(特に新任管理職)
図3 なぜ管理職はめっちゃ大変か?(特に新任管理職)

また、この書籍には「7つの挑戦課題」として、マネジャーが乗り越えなければならない課題が示されています(図4)。特に「①部下育成」はとても重要です。部下が育たないがゆえに自分で様々なことをやらなければいけない、自分でやりすぎればメンバーが育たないという負のサイクルに入ってしまうことがあり、非常に難しい課題です。育成を諦めずにやり抜き、自分自身もどうすれば楽ができるかを考える。ここを乗り越えるのはとても大変なことだと思います。

図4 マネジャーが乗り越えなければならない課題
図4 マネジャーが乗り越えなければならない課題

また、カルビーを取り巻く背景やビジネス環境も変わってきています(図5)。これからグローバルでの売り上げ比率40%を目指していきます。また、DXの急速な進化により、生産性向上・新たな価値創造の期待が高まっています。さらにはVUCAと言われる複雑で先の見えないビジネス環境のなかでいかに勝ち抜くかという課題にも晒されています。

社員の構成・意識も変わっています。日本の縮図といえますが、40代・50代の層が厚く、20代・30代の層が薄くなるなかで、どうマネージしていくか、ベテラン社員の方々にどう活躍してもらうのかも、課題の1つになっています。

世代間ギャップもあります。働く価値観が変わってきているなか、若手・中堅層をどうモチベートしていくか、カルビーで働くことが自分の成長につながると感じてもらいながら、共に仕事をしていくメンバーたちとどう向き合っていくのか。これらの課題も難しさを増しており、管理職にとってますます大変な環境になっています。だからこそ私たちは管理職を支援していきたいのです。

図5 これからのカルビーを取り巻く背景
図5 これからのカルビーを取り巻く背景

私自身の経験ですが、2011年に初めて課長という役割を担うことになりました。いわゆる新任管理職です。今でこそ部長の役割を担っていますが、本当は管理職になりたくありませんでした。自分に自信がなかったのが一番の理由です。当時の私の上司はとても尊敬できる素晴らしい方で、私はあんなふうにはなれないと思ったのです。子どものころからリーダー的な役割をした経験もなく、管理職になることに対してネガティブなマインドを持っていました。

そんな私が管理職をやってもいいと思えるようになったきっかけがあります。1つは、当時の先輩に言われた「管理職になったら、やりたいことができるんだよ。なのに、なんでトライしないの?」という言葉でした。「自分は社長を目指している。自分のやりたいこと、在りたい姿を目指すために管理職をやるんだ」と言っていました。言われた時はあまりピンとこなかったのですが、後になってじわじわと、管理職ってそういう意味があるんだなと思うようになりました。それから、私の上司は、粘り強く色々な言葉をかけてくださり、私をその気にさせてくれました。

実際に、新任課長をやってみてどうだったのかというと、「めっちゃ大変」でした。当時は半分以上のメンバーが年上だったこともあり、自分一人でなんとかしなくてはいけないと、周りを頼ることができませんでした。それが大変さに拍車をかけていました。その時、ある社外の先輩からこんな言葉をかけていただきました。「人に迷惑をかけない人なんていない。助けて!と言っていいんだよ」。自分一人でできることには限界があります。だから周りに頼る。それはとても大事なことであり、無責任なことではないのだと気づかせてくれたのです。このように、周囲の人がマネジャーにどんな言葉をかけていくのかはとても大事です。だから、私たちは“支援”するスタンスでありたいと考えています。

実際に私たちが何を大事にしながら支援をしているのか、3つのポイントを紹介します。

●ポイント① 対話の場づくり

1つめは「対話の場づくり」です。その取り組みの1つとしてメンター制度を取り入れています。特に新任や2年目の役職者の方に、いわゆる「斜め上司」をメンターとしてつけています。自分の上司との対話はもちろん重要ですが、それありきではなく、組織全体で育成する風土を醸成したいということと、頼り先・相談先はたくさんあった方がいいという考えから、意図的に斜めの関係をつくっています。導入当時は、メンターとメンティの相性の問題など、うまくいかない部分もありましたが、どう解消すればいいかメンバーと探りながら、今に至っています。

また、新任役職者、特に新任課長が大きな転換点であると捉えて研修プログラムを組んでいます(図6)。田中さんのお話にもありましたが、年間を通してマネジャーが意識し、担わなければならないマネジメントのサイクルがあります。たとえば、メンバーにアサインメントしたり、目標を設定したり、評価をしたり、その間でコミュニケーションのために1on1をしたり。そのサイクルに合わせて研修を実施しています。以前は2日間でまとめて実施していましたが、今はオンラインが活用できるというメリットを活かし、1回の研修時間は2~3時間とショートにして、通年で実施しています。

図6 対話中心のプログラム(新任管理職)
図6 対話中心のプログラム(新任管理職)

スキルインプットも大事ですが、新任だからこそ持つ悩みを共有し、実践知から学ぶことを意図しています。悩んでいるのは自分だけではないと気づくだけでも気持ちが楽になるし、焦りも拭い去られると感じています。 一度の研修で終わりではなく、必要な時期に合わせて実施することで、対話を通してお互いに学び合うことができます。

もう1つ、対話中心のプログラムということで、1on1のトレーニングを実施しました。1on1を導入した1~2年目はスキルインプットに重点を置いた研修をしていました。「1on1とは」といったルールのようなものを強く出しすぎたため、1on1に対するポジティブな意見とネガティブな意見が2分してしまう状況もありました。そのため、3年目で対話型のプログラムに切り替えました。課長が置かれている状況と部長が置かれている状況は、やはり違います。なので、課長層と部長層に分かれて数人のグループをつくり、3か月間、実践を通して対話を繰り返しています。これによって果たしたかったのは、成功も失敗も含め、マネジャーの中に溜まっている実践知を共有しながら、自分の組織に合った1on1の在り方を、対話を通して見出していくことです。

管理職として一定のスキルは必要だと思います。でも、より大事なのは、自分自身が何を為したいか、どのような組織にしたいのかという想いです。また、画一的でないことも重要です。組織によってメンバーの状況も違うし、職種も違います。組織の背景を踏まえて「ここだったらどんなマネジメントがよさそうか」と、管理職一人ひとりが考えていくものです。私たち人事も「答えはない」と言い切っています。

●ポイント② チームはみんなでつくる

2つめのポイントは「チームはみんなでつくる」です。多くの場合、管理職は真面目です。私自身がそうだったように、自分でなんとかしなくてはという思いが強いマネジャーが多いのですが、一人では限界があります。これを踏まえて、昨年から心理的安全性の浸透に取り組んでいます。1対1のマネジメントには限界があるので、「1対N」や「N対N」、つまりメンバー同士が支え合い、学び合うようにすれば、マネジャーが楽になるはずだからです。この取り組みの背景には、毎年実施しているエンゲージメントサーベイの結果で、心理的安全性を示す「安心できる職場」という項目のスコアがもっとも低かったことがあります。

昨年、役職者全員に対してワークショップを2回行い、実践と対話を通したプログラムを実施しました。すると、「管理職だけでなく、ぜひメンバーたちにも聞かせてもらいたい」「メンバーたちに心理的安全性の大切さを浸透させてほしい」という声が多くあがりました。自分で心理的安全性の高いチームをつくることに限界を感じ、メンバーにも共に取り組んでもらいたいという想いを持つ管理職が多かったのです。よって、今期は全社員を対象に、メンバー向けのプログラムを実施しています。

●ポイント③ 小さな変化を見逃さない

3つめは、小さな変化を見逃さないことです。サーベイをやって終わりでは意味がありません。サーベイの数字は氷山の一角ですから、その背景にあること、いま組織で起きていることを、やはりマネジャー同士の対話を通して探っていきます。その際は必ず「取り組み事例」をアジェンダに入れています。スコアはすべてではありませんが、スコアに変化があった部門ではやはりマネジャーが「何か」をしています。その「何か」を人事がしっかりと拾い上げ、その場でお披露目するのです。その取り組みに焦点が当たり、それなら自分のところでもやってみようという意識になります。

先日、心理的安全性の取り組みについてある雑誌で紹介していただきました。その際は人事の取り組みの話だけではなく、現場で起きていることを取り上げてもらいました。そうすると励みになりますよね。また、社内向けには「カルビーまなびMAP」という人財のポータルサイトがあります。このサイトでも、現場での事例を紹介しています。このように、地道に粘り強く、一つひとつ拾い上げながら取り組みを進めているところです。

●マネジャーもメンバーも、みんながポジティブに

最後に、今回のお題である「ポジティブ管理職」とは何かについて私なりに考えてみました(図8)

まず「○○部長(課長)をやっています」ではなく、「○○を為すために部長(課長)をしています」と、生き生きと胸を張れるマネジャーであること。また、想定外のことを楽しみ、想定以上を創り出すというマインドをもっていること。さらに、一人でなんとかするのではなく、周囲に頼りながら前に進んでいけること。そんなマネジャーの在り方が、私なりの「ポジティブ管理職」だと思っています。そういうマネジャーを見ていると、メンバーも、そしてエキスパート(専門職)の人たちも含め、みんながポジティブになれるのではないでしょうか。

図8 ポジティブ管理職とは?
図8 ポジティブ管理職とは?

Ⅳ.クロストーク(Q&A)

司会:ここからはQ&Aコーナーに移ります。
流郷さんの講演の中でも、管理職になりたいと思っていなかったというお話がありましたが、弊社の調査でも、ネガティブからポジティブになったという方が16.7%いました。このように、なりたいと思っていないけれど資質はある、やってみたらポジティブに転換できるという方も結構いらっしゃると思います。こうした方をどのように見極めていくのかも大事な観点かと思いますが、いかがでしょうか。
流郷:

本人にその気はないけれど資質がある人をどう見極めて、どうその気にさせていくのかということですね。見極めに関して言うと、マネジャーになるポテンシャルがあるかどうか、おそらく一番わかっているのはその人の上司だと思います。上司と本人が、対話していくことが大事だと思います。ただ、上司・部下の関係性の中だけでは限界がありますので、時には全然違う立場の人、たとえば人事の立場から社員へ語りかけるなど、一方向ではなくいろいろな方向から対話を重ねて管理職に対するマインドセットを行っていくことが、1つの方法かと思います。

私もこの前、現場に行ったときにある社員から呼び止められ、「流郷さん、この前『管理職になるとこういうことが楽しいよ』と、みんなの前で話してくれましたね。そういう考え方もあるんだなと気づきました」と言ってもらえました。そうしたことの積み重ねなのかなと思います。

田中:

見極めるのは結構難しいですよね。やはり一番近いところで接点を多く持っている人でないと見極められない。僕らはそれほど大きい会社ではないので、人事も一人ひとりとそこそこの接点を持てます。そういった、いろんな段階の接点を持つ人たちが話し合ってズレがなければ、資質がある人なのではないかと感じます。問題はその人を管理職にどう誘うかですね。これも人によってタイプが違うから攻め手も変わってきますが、基本的にはもっとも接点のある直属の上司が第一人者になると思うので、繰り返しになりますが、誘う人が楽しそうにやっていなければ絶対に来ないですよね。日常的に「管理職って面白いよ、こんな魅力があるよ、なって良かったよ」と語れることがとても大事です。普段は愚痴ばかり言って、人を管理職にさせたい時だけきれいごとを言っても見透かされますから。日常の自分の行動はとても大事だと思います。

司会:日常から上司が楽しんでいる姿を見せていくようにするためにも、対話などを通じて部下と上司で知り合っていくことも大切だと思いました。
では、次の質問に答えていきたいと思います。 新任管理職からの相談で、年上部下に対するマネジメントに関する悩みが急増しています。部下は全員が年上ですという管理職も現れ始めています。この傾向は日本社会全体として同様の悩みだと思いますが、この点についての支援として、どのようなことに取り組まれているでしょうか。
田中:

これまではあまりそういうことのない年功序列型だったけれど、そうもいかなくなってどんどん年上の部下が増えてきたと。そういう組織にいると一番大変だと思います。僕の場合、中途で入った2社では年次の管理がなく、誰が何歳なのかもわからなくて、そういう意味では楽でした。年次管理という概念を減らしていくと、環境的には楽になるだろうと思います。

僕もわりと早くから年上の部下を担当することがありましたが、リスペクトするところはリスペクトして、言うべきことはちゃんと言うという、基本的なところをきちんとできるかどうかだと思います。また、僕が昔から注意しているのは呼び方です。「くん」付けや呼び捨てにはせず、新入社員も「さん」付けで呼びます。呼び方に年齢を持ち込まないんです。そういうしていると、だんだん年齢に対する感覚がニュートラルになってきます。

流郷:

年齢などの層で区切らないというのは大事だと思います。一口にベテランと言っても、いろいろな人がいます。一括りにしないように、ということは私もよく伝えています。

私自身も新任管理職の頃に結構失敗をしているので、良いことだけではなく失敗体験も共有するようにしています。遠慮し過ぎたり、相手はベテランだからなんでも知っているだろう、年下の私なんかにあれこれ言われたくないだろうと思い込んでいたり。ベテランの人だって、年下の上司に教えてほしい場合もあります。年上だから全部わかっているはずというバイアスに気づくことが大事だと、そんなことを伝えています。

司会:年齢的な序列にこだわってしまうような組織風土を変えていく働きかけが大切ですね。
では、続いての質問です。管理職の支援に対して、役員や経営トップはどのように関与していますでしょうか。
流郷:

管理職と言ってもいろんなレイヤーがありますが、役員や経営トップがもっとも重要視すべきは、次世代経営者のサクセッションプランニングです。ですので、経営トップがいきなり主任・課長クラスの育成に関わるわけではなく、レイヤーごとに関わる人も変わります。

一方で、今年カルビーは社長が交代し、現場の声を積極的に聞く方針をとっています。これまでに40回ほど、国内外の事業所で社員と対話する「車座ミーティング」を行いました。経営トップが社員との対話を通して、何ができるのか、何を変えなければいけないのかを、キャッチアップしている状況です。

田中:

会社規模によってかなり違うと思います。僕らは500人足らずの会社なので、管理職が全員どんな人か、ある程度は把握できます。我々の立場としては、もちろんレイヤーで見る部分もありますが、レイヤーに関係なく見ていくところもあります。

課長の方々から相談を受けるのは、僕らとしてはありがたいことです。社長と語りたいという強い要望を持っている人がいれば、つなぐこともやぶさかではなく、社長にもそれを受けてもらっています。流郷さんの会社の新しい社長のように、現場を知りたいという思いは多くの経営者が持っています。キャパの面で難しい場合はあるにせよ、トップに聞いてもらいたいことがあれば、人事がそれをつなげるのは悪いことではないし、だいたいの経営者は受けてくれるのではないかと思います。

司会:ありがとうございます。
続いての質問です。自分は管理職に向いていないと考える社員の気持ちを変えるためには、どのような取り組みが効果的だとお考えでしょうか。最初にお答えいただいた、いろいろな方と対話してもらうということ以外にも何かありましたら、ぜひお願いできればと思います。
田中:

なぜその人が「自分は管理職に向いてない」と思っているのか、丁寧に聞き取ることだと思います。経験によるものかもしれないし、スキルの不安から来るものかもしれない。何がバリアになっているのかを明確に捉え、それに対してできることをしていく、というのが1つのやり方です。漠然とした悩みに一般論で対応しても空中戦になるだけで進まないので、具体的にどういうことなのか問いかけをしながら深めていき、一つひとつに対して「こうすればどうか」「こういう考え方もあるよ」と、セッションをしていくといいのではないでしょうか。

司会:「自分は管理職に向いていない」と考える理由には、何か傾向があるのでしょうか。
田中:

人それぞれですが、これといった理由があるわけではなく、なんとなく曖昧なイメージで「向いていない」と考えている方が多い気がします。だから解像度を上げていくと、気持ちが少し変わってきたりします。中にはますます遠ざかる人もいますが。

先ほどの流郷さんのお話にあった「管理職になれば好きなことができる」というメッセージは素敵だと思いますが、そういうところが見えておらず、 板挟みになっているところだけが見えているというケースは少なくないですよね。

流郷:

たとえば課長職であれば、その一歩手前のポジションである主任職で、課長の業務の一部を経験してもらっています。主任の役割を「次の課長候補」と明文化した上で、それに相応しいアサインメントを通して、「急に課長になって、初めてのことをやる」という状況にならないようにしています。「これだったらできそうかも」と思ってもらうため、階段を小刻みに上っていけるように取り組んでいます。

司会:ありがとうございます。
では、次の質問に移りたいと思います。定期支援対応の効果はどのように測定して評価をしていくのか、教えていただくことは可能でしょうか。また、メンバー同士の相互評価など、横のつながりも実施されている事例があれば教えていただきたいです。
これは流郷さんの講演中に入った質問ですが、流郷さん、いかがでしょうか。
流郷:

定期支援の対応の効果測定ですか。難しいですね。1つは先ほどお伝えしたメンバーシップサーベイです。すべてそこに表れるとは限りませんが、しっかりと見るようにしています。

司会:田中さんの方でこういった支援の効果測定などでご知見がありましたら、お願いします。
田中:

当社ではほとんど効果測定をしていません。当社のような規模だと、うまくいっていなければ評判としてある程度伝わってくるので、デジタルを利用して効果測定をすることに力を注ぐよりは、次の取り組みをしようという感覚です。振り返るのが好きではないのかもしれないですね。あまりお役に立てなくてすみません。

司会:ありがとうございます。見えない部分、数値化できない部分の評価を人事の方が進めていくのはなかなか難しいと思います。
測りづらいものという点で関連しますが、「コミュニケーション上の課題をどのように解決していけばいいか」といった質問が事前にいくつか入っていました。流郷さんのお話で言えば、1on1などを行っていくなかでの管理職の関わり方や、コミュニケーション能力に課題があったけれど改善していった事例などがあればお願いします。
流郷:

コミュニケーション能力そのものを定量的に測っているわけではないですが、それよりも「ここでこういうことが起こっている」ということを蓄積する方が大事な気がします。「自分のところではこういうことをやっています」、それを聞いた人が「こっちもこうやってみました」、それでうまくいったこともあれば、うまくいかなかったこともある。それを人事がどれだけ掴めるかが大事だと思います。質問の答えにはなってないかもしれませんが、これで確実に変化は起こっています。

たとえば、カルビーの社員数の大半を占める製造現場では、課長1人あたりのメンバー数が100人いることもあります。工場で、私たちが本社で行うのと同じように1on1をやっていたら、それだけで1か月が終わっってしまいます。でも、そんななかでも工夫して実施している人はいます。それが変化の火種です。その火種をきちんと拾い上げて伝播していくことが私たちの役割のひとつだと思っています。

司会:ありがとうございます。
では、続いての質問に移りたいと思います。候補者を育成していく上で、役割がマッチするか、アンマッチなのか、判断する基準と期間のようなものがあれば、 教えていただけますでしょうか。
田中:

仕組み上、見極める期間は取りにくいですよね。組織の管理者となると、その人だけを見てアサインできるわけではなく、このポジションが必要になったから、といった要素が多分にあります。その人だけを見て会社全体をデザインできれば理想的ですが、そうはいかないのが正直なところですよね。ですから、アサインしてから多少アンマッチな部分をマッチさせていく支援をすることと、どんなに余裕がなくてもまったくアンマッチな人をアサインさせないこと。この2点だと思います。

人員配置は本当に難しくて、その人を見て、その人のために会社を動かしてあげられれば、その人のためにはいいんですが、それができないなかでは、様々な点からベストを尽くしていくことしかできません。見極める期間をどうするかというよりは、管理職になってからどうするかという発想でないと厳しいのではないかと思います。

流郷:

明確な期間はないですね。たとえば、新任管理職に任用したら、たった1年でその役割を解くようなことはなるべくしないでくださいと伝えています。管理職は大変ですから、いきなりパーフェクトにできるはずがないんです。任命責任もあるわけですから、上司や人事がしっかりと支援し、伴走していくことが大事です。何年だったらいいかなど決めているわけではないので、明確にはお答えしにくいですね。

司会:ありがとうございます。
次の質問です。研修を充実させたい思いは強いのですが、費用面での壁をどのように乗り越えていらっしゃいますか。
対経営層ということで、先ほど経営層のコミットについて聞かれた方とも近い感覚だと思うのですが、その理解を得ながら研修を充実させて、支援を進めていくという点について伺えればと思います。
流郷:

単に課題を潰していくというよりも、目指したい姿に向けて、現状こういうことが起きていて、だからこれが必要ですと伝えることが大切ではないでしょうか。経営者が見えていない事柄をしっかりと紡いで、説得することが必要だと思います。

また、何もかもお金をかければいいわけではなく、お金をかけなくてもできることはたくさんあります。先ほどお示しした取り組みも、すべて外部講師にお願いするのではなく、私も講師やファシリテーターをしています。対話が中心なので、人事でできる部分も多いのです。私たちでやるメリットと、外部にお願いするメリットの両方がありますので、バランスを取りながら進めることが大切だと思います。

田中:

流郷さんと近いですが、大きく分けて2つあると思います。僕らのお客様は経営者と社員の両方ですが、お金を出すのは経営者の方なので、経営者から信頼を受けて、これを実施すれば会社にとってプラスになるという実感を持ってもらうことです。ただ、そうは言っても経営には波がありますから、本当に収益的に厳しい時に無理して研修をやる必要はないと思っています。そういう時でも期間的な研修を止めないためにできることは、流郷さんもおっしゃったように、内製化しかないと思います。本気で社員育成をしようと思ったら、内製化も一緒にやらなければいけません。外にだけ頼っていたら、良い育成はできないと思います。

内部で講師ができる人間は少なかったのですが、いろいろと試行錯誤しているうちに講師の仕事が好きになって前のめりになる人も何人かいました。そういう人をうまく巻き込んで一緒に作りあげていけば、だんだん広がっていきます。特に流郷さんがおっしゃったような対話型の研修は絶対に内製化した方がいいと思います。外部講師の研修内容を毎年少しずつ習得して、自分たちなりの要素を入れていけば、5年も経てば相当な内製率になるんじゃないでしょうか。大変ですが、外に頼むよりも面白いですよ。

流郷:

確かに、面白いですよね。

田中:

ビビッドに反応が来ますから、今日来ているような質問のいくつかは、その場で解決しますよ。そういう点でも内製化はすごく面白いし、意味があると思います。

流郷:

それに、あとから相談が入りやすくなりませんか? それも内部でやる良さだと思っています。

田中:

なりますね。大変だけど、ぜひチャレンジしてみることをおすすめします。

司会:ありがとうございます。最後に、お二人にメッセージをいただいて終了とさせていただきます。
田中:

今日は長時間ありがとうございました。管理職がポジティブになるというのは、会社にとって今一番大事なテーマではないでしょうか。ここが前を向けば会社はなんとかなると思っています。皆で知恵を絞り、他の会社の施策でうまくいっているものがあれば使わせてもらって、それを自分たちのオリジナルに変えていければいいと思います。ぜひ情報交換しながら、もっともっと良い施策をみんなで考えていきたいですね。

流郷:

今日はこのような機会を頂戴しましてありがとうございました。伝え方が上手ではないので、伝わらなかったところもあるかと思いますが、少しでも皆様のお役に立つヒントになれば幸いです。私たちも、今の施策が完璧だとはまったく思っていません。試行錯誤しながら取り組んでいるのが正直なところです。逆に皆様からもどんな取り組みをしているのか教えていただきながら、共にブラッシュアップし、カルビーという会社もさることながら、日本企業全体がポジティブになっていけばいいなと思います。

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