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“成長実感”を高める仕組み
「早期戦力化につなげる新人・若手育成」

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人的資本経営に注目が集まるなか、採用、配置、育成、評価などの人事施策を戦略的に行い、従業員1人ひとりの能力やスキルを最大限に発揮してもらう仕組みづくりの重要性が増しています。加えて、新人・若手社員(Z世代)は働く価値観も多様で、経験を積み、スキルを身に着けることにも貪欲で、自身が成長できない企業だと判断すればあっさり見切りをつける可能性すらあります。
テレワークの普及など働き方そのものも大きな変革期にあるなかで、どのように新人・若手社員の定着・早期戦略化を実現していけばよいのか。本セミナーでは最新の新人調査や企業の施策を紹介しながら、新人・若手社員の効果的な育成方法について考えていきます。

こんな方におすすめ

  • 新人・若手社員の育成を担当されている方
  • 新人・若手社員の上司・先輩の方
  • 職場にいる新人・若手社員とどう接してよいかわからないという方

登壇者プロフィール

斎木輝之(さいき てるゆき)

株式会社日本能率協会マネジメントセンター HRM統括本部 本部長

尾形 真実哉(おがた まみや)氏

甲南大学 経営学部 教授

三宅生子(みやけ いくこ)氏

株式会社両備システムズ 総務・人財統括部 人財戦略部 エキスパート

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第1部

最新の新人調査から読み解く「Z世代の特徴と育成課題」
0:15:53

第2部

新人・若手社員が組織になじみ、活躍するために押さえたいポイント
0:31:37

第3部

成長実感を促す新人育成施策
0:22:48

第4部

クロストーク
0:25:34

セミナーレポート

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Ⅰ.最新の新人調査から読み解く「Z世代の特徴と育成課題」

斎木輝之 株式会社日本能率協会マネジメントセンター HRM統括本部 本部長

本日は、「Z世代の特徴と育成課題」について、『イマドキ新入社員の仕事に対する意識調査2022』から見えてきた、課題や育成のポイントについてご紹介します(図表1)

2022年は2,300名の方からご回答をいただきました。本調査は「Z世代」の新入社員だけではなく、「ミレニアル世代」「就職氷河期世代」「バブル世代」など、全ビジネスパーソンに対して偏りなくヒアリングを行い、その比較のなかでZ世代の特徴を表しているのが最大のポイントになっています。

また、今回の調査のもう1つのポイントは、従業員数「1,001名以上」の企業の方々による回答割合が約70%と多くなっている点です。これは調査を開始した2016年当初からこのような割合で進めております。

さらに、「新入社員」という言葉を使ってはおりますが、実際には入社から1年経たないとなかなか組織の課題も見えてきません。そのため、毎年6月に取るデータとなりますが、「入社3カ月~15カ月」、つまり「入社2年目(入社1年と3カ月)」までの方々のデータを新入社員のデータとして表出しているのも、1つのポイントであるとご理解いただければと思います。

図表1 『イマドキ若手社員の仕事に対する意識調査2022』
図表1 『イマドキ若手社員の仕事に対する意識調査2022』

●イマドキ新入社員(Z世代)の特徴①

いわゆるZ世代の特徴については、すでに様々なメディアで語られていますが、同じような傾向が、今回の調査結果からも見てとれます。

コロナ禍が起こった時期とZ世代の入社時期は重なっていますが、図表2の7つの特徴については、他の世代と比べても顕著であるといえるでしょう。

図表2 イマドキ新入社員(Z世代)の特徴
図表2 イマドキ新入社員(Z世代)の特徴

まず、①「プライベート重視で、無理ない範囲で仕事がしたい」という傾向です。これは、仕事がしたくないのではなく、無理をせず、プライベートと仕事の両立を図っていきたいという傾向が非常に強いことによるものです。

②「上手くいかない経験から学びたいが、他人の評価は気になる」、③「チームワーク&対面を重視」については、Z世代が「ソーシャル・ネイティブ世代」とよばれる一方で、他人の目を非常に気にする傾向に加え、人との関わり、チームワークや対面を大切にしていることが理由として挙げられます。

④「指導者には、意図がわかる指導を求め、きちんと褒めて欲しい」からは、いわゆる「承認欲求」が強いことがわかります。また、ここ数年で非常に強くなっていますが、⑤「働く環境や企業理念への共感」をとても大事にしており、企業への共感の有無を入社時の条件として決めていると回答する方々も半数近く見られました。

その他、現在多くの企業で進んでいるテレワークも含めて、⑥「多様な働き方を推奨する会社で働きたい」という気持ちも強まっています。ユニークなのは、⑦「働く不安はあるが、人生は充実している」と回答しているところです。働く不安は当然、他の世代に比べても高いのですが、人生の充実度に関しては、どの世代ともあまり遜色がない結果となっています。人生をそこそこに謳歌しながら、仕事だけでなく余暇も楽しみたいというところが、Z世代の特徴だと考えられます。

以上の7つの特徴について、あえて一言で申し上げるとすれば、「自分らしさを大切に、無理なく、適度な距離感を保って成長したい」。これが前提になっている方々が多いことをご理解いただければと思います。

「適度な距離感」の対象は、仕事、プライベート、人間関係、働く場所(空間)などです。これらが、どちらかに偏るというよりも、自分でバランスが取れる状態を好むというのが、最新の調査結果から見えてきた特徴です。

●イマドキ新入社員(Z世代)の特徴②

図表2でご紹介した7つの特徴の背景について、インタビュー調査等を含めた心情的な部分についても、本調査では探っています(図表3)

「プライベート重視」については、タイパ(タイムパフォーマン)、コスパ(コストパフォーマンス)、それぞれに対して期待に応え、「人とのつながり(コミュニティ)」を大切にしていることがわかります。

また、「共有・共感をしながら物事を進めたい」という気持ちが非常に強くなっているので、「働く環境や企業理念への共感」や「他人の評価が気になる」、「チームワーク&対面」を重視することにも繋がっているのだと考えられます。

このあたりは「特徴」と「心情」が表裏の関係となっているため、このような結果が出ているとご理解いただければと思います。

図表3 Z世代の特徴と心情
図表3 Z世代の特徴と心情

●「Z世代×テレワーク時代」で起こっている実態

こうしたZ世代の特徴を踏まえつつ、全ての企業ではないにせよ、テレワークがここ数年で普及してきたなかで、「Z世代とテレワーク時代」の掛け算で起こってきた変化を経年比較でご紹介していきます。

まず、仕事の環境については、「テレワークの方が仕事はしやすいが、できる限り出社したい」という点が非常にユニークな特徴として挙げられます。

今回、4つの質問を行いました。結果は資料の右側のとおりとなります(図表4)

図表4 仕事環境に対するアンケート結果
図表4 仕事環境に対するアンケート結果

「この1年間で、テレワーク(在宅勤務)を経験しましたか」の質問では、2年前に比べて、テレワークの経験者は約15%減っています(20年:69.8%→22年:54.1%)。

「この1年間はどこで勤務をすることが多かったですか」については、2020年はコロナ禍となった初年度なので、自宅待機も含め、「自宅」が多くなりました(20年:69.4%)。それ以降は自宅での勤務が約4割(21年:41.4%、22年:38.8%)へと減り、オフィスでの勤務が多くなってきています。

面白いところでは、「仕事はどちらがしやすいと思いますか」について、2022年は「テレワーク(在宅勤務)」が「出社」を逆転しました(22年52.6%)。

最後の「今後あなたはどのような働き方をしたいですか」については、テレワークではなく、「できる限り、出社して仕事する」が増えてきています(21年56.3%→22年:60.1%)。現在、新入社員の方々はこのような気持ちを持って働いていると認識していただければと思います。

さらに、Z世代の課題を調べる項目として「配属1~3カ月後」および「配属6~12カ月後」、それぞれの時期別に新入社員が課題(不安)と感じていたことについて、毎年20項目程度でランキング付けを行っています(図表5)

図表5 時期別にみる新入社員が課題(不安)と感じていたこと
図表5 時期別にみる新入社員が課題(不安)と感じていたこと

2019年の順位がコロナ禍前となりますが、コロナ禍以降と比べて順位が大きく上がっているものがあります。

配属1~3カ月後では、「仕事が自分に合っているか」「何が分からないか分からない」、配属6~12カ月後では、「『わからない』ことを聞けない」が、コロナ前に比べて非常に増えています。

このように、「わからない」状況を解消できないという職場キャリア形成の課題は、コロナ禍以降、増していることが読み取れます。いわゆる「職場になじめる人」と「なじめない人」との差が少し開いてきているのが実態です。

●自律的な成長に大切なサイクル

本来、人が自律的に成長するために必要なものは何かといえば、シンプルに「経験学習」そのものです。しかし、目的・目標を見失わずに、周囲のサポートを得ながら、実践的な経験を通じて学び、その経験をしっかりと振り返るという、いわゆる「行動の意味づけ・教訓化」をしていくことによって、「認知」や「行動」が変容し、また新しいストレッチの目標や目的を決めることができようになります。こうした成功循環サイクルが回っていくことが理想です。

いかにこの「回転数」と「質」を上げるか。これが最終的には「自走」や「自律」できる状態に向けたステップになるのではないでしょうか。しかし残念ながら、この成長循環サイクルは、放置していても回るものではありません。

●成長循環サイクルが回りづらい状態を打破するには

コロナ前も同じようなことはありましたが、テレワーク時代におけるZ世代の指導・育成においては、4つのサイクル(図表6)とそれを回すための課題を理解する必要があります。

図表6 Z世代×テレワーク時代で起こっている実態〜「認知」や「行動」の変容〜
図表6 Z世代×テレワーク時代で起こっている実態〜「認知」や「行動」の変容〜

「目的・目標を決める」ところでは、テレワーク下で圧倒的に「業務経験が不足し、キャリア形成が描きづらい」状況にあり、元来の働く価値観が「組織の期待より自分らしさ(働く価値観の変化)」を優先したいという人が増えているため、目的・目標の部分が弱くなっています。

ここで問題となるのが、「周囲のサポートを得ていく」「実践的な経験から学ぶ」の部分です。コミュニケーションが減少しているので、それに伴ってストレスが増しています。わかりやすくいえば、職場関係性の希薄化。職場での関係性ができている人とそうでない人の差が大きくなったとご理解ください。

さらに、「指導者側の成長実感」も非常に減っています。負荷が大きくなっているところも一部の要因として考えられます。

さらに、Z世代の特徴の1つとして、挑戦しないわけではないのですが、「挑戦よりも失敗回避の傾向」が挙げられます。やはり、なかなかチャレンジブルなものを全員が自主的にすぐにできるわけではありません。また、「経験学習力の重要性が増加(短いサイクルの量質転化)」についても相反するところで、経験学習力のある人とそうでない人の差が生まれてきています。

最後の「振り返る」では、皆さんも実感があるかもしれませんが、「ストレス耐性や文章力の低下による『自己認識力』『内省力』『レジリエンス』の習得停滞」、つまり、物事の意味づけや言語化を行う能力が少し落ちてきてしまっているところもあります。

これらの実態により理想的な成長循環サイクルが回りづらくなってきていると考えられます。特に2020年以降の2年間で顕著に見られている課題であるとご理解いただければと思います。

●重視したい現場・人事の関わり方

では、この成長循環サイクルを回すためには、何をどのようにしたらいいのか? 私からは、3つの力の重要性について申し上げたいと思います(図表7)

図表7 成功循環サイクルを回すため必要な3つの「しこう力」
図表7 成功循環サイクルを回すため必要な3つの「しこう力」

成長支援においては、「描いてみる」(志向)ことや「やってみる」(試行)こと、「気持ちと向き合う」(志向)こと、そして、「問いや仮説を立ててみる」(思考)ことが必要となります。これらの力は、ある意味、若手に関わらず鍛えていかなければならないものです。各フェーズで申し上げると、「キャリア形成支援」、「個別最適な関わり」、「小さな成功体験の積み上げ」、「内省支援やフィードバック、レジリエンスの強化」などのこまめなフォローが非常に重要となります。

それをより回しやすくするために、チーム全体で各フェーズを共有し、共に成長できるような環境が重要になってくるということです。

●これから重視したい新入社員の成長ステップ

時間の都合で詳細については割愛させていただきますが、これから重視したい新入社員の成長ステップは、STEP0(土台)、STEP1(働くことへの適応)、 STEP2(自社・組織への適応)、STEP3(社会環境変化への適応)を着実に踏んでいくことです。(図表8)

図表8 これから重視したい新入社員の成長ステップ
図表8 これから重視したい新入社員の成長ステップ

土台をきちんと形成するのはもちろんですが、働くことに適応しながら、自社・組織へ適応し、最終的には環境変化にも対応できるようにというものです。いきなり、これらの全てを学生から社会人への移行時に高めていくことは難しいので、着実にこうしたステップを上げていくことが重要になります。

昨今の課題でいえば、STEP2の部分については、できる方とできない方に分かれます。これは、職場の指導者側の課題でもありますが、総じて新入社員側の自社・組織への適応力が少し落ちてきている傾向にありますので、新人や若手育成のなかでも組み入れていくべきでしょう。

●仕事や職場への満足度が高い人の特徴

新しい調査報告書には、より詳細を明記しておりますが、「仕事や職場の満足度が高い人(高満足者)の定義」、いわゆる、ワーク・エンゲージメントが高い人たちに備わっている要素についても調査しています。重回帰分析なども実施した結果、3つの重要な要素が浮かび上がりました。

一番重要だったのは「今の職場では、自分の持ち味を発揮できている」と、自己評価でも思えるかどうか。これに加えて、「やりたい仕事に関われている」「仕事の成果が出ている」と思えるかどうかが大切ということです。

この回答は、あくまでも自分の主観によるチェックで構わないのですが、これら3つを上位回答した方々は、全体的な平均と比べても、「キャリアに対する意識や行動」が最大で1.4倍になりました。特に自己肯定感や効力感については、Z世代の場合はより高い数値が出る傾向にありました。やはり職場で自分の必要性、持ち味が発揮できているという安心感や、安定感のある環境のなかでパフォーマンスを発揮していくような状態を作っていくことが、キャリア形成に大きな影響を与えるということがわかりました。

●コロナ禍以降の指導育成の実態

Z世代の状況については以上となります。最後に指導者側の課題についてご紹介します。今回もユニークな結果が出ていましたので共有させていただきます(図表9)

図表9 コロナ以降の指導育成の実態
図表9 コロナ以降の指導育成の実態

まず、指導者側がどれくらいの頻度でテレワークをしているかについて調べた結果、大体45%程度です。新入社員のテレワーク率が38%でしたから、先輩の方が1年間で在宅する割合は若干高いことがうかがえます。

また、非常にポジティブな結果も出ています。「この1年間で新人・若手の指導がしやすくなった」は2022年に56.8%となり、年々上昇しています。つまり、テレワークの環境のなかでも指導・育成ができるようになってきているということです。

もう1つ嬉しいのは、“指導者側の主観”として、「ここ数年を見ていて、新入社員のレベルが上がっている」という結果も出ていることです(2022年:57.2%)。

一方で、課題となっているのが、「仕事の指導はしているが、育成という視点は持てていない」や、テレワーク環境を加味してのことだと思われますが、Z世代の価値観も含めて「接し方・関わり方といったコミュニケーション技術の習得」を自分自身のスキルアップとして、もう少し高めたいといった回答です。

最後に、残念な回答傾向であるのが「指導・育成を通じて、自分自身の成長を実感している」に対するYESの回答で、2年前からずっと下がり続けている状況です。

本来は新入社員への指導育成などのプレマネジメント経験を通じて、自分自身の成長も実感してもらいたいところですが、これができていない。要は、現場に今までのように任せてしまうと、指導者側の負荷は大きく、メリットが感じづらくなっているのが実態なのだと思います。

この点を踏まえると、新入社員側に対してはもちろんですが、「指導者側へのケア」も必要であり、今後はより手厚くしていかなければならないところでしょう。

Ⅱ.新人・若手社員が組織になじみ、活躍するために押さえたいポイント

尾形 真実哉氏 甲南大学 経営学部 教授

●Z世代を理解するうえで抑えておきたい「オンボーディングの3要素」

本日は、「新人・若手社員が組織になじみ、活躍するために押さえたいポイント」について解説させていただきます。

まず、オンボーディングに関しては、すでに市民権を得た印象もありますが、改めて、この言葉の重要性をお伝えたいしたいと思います。

そもそもオンボーディングとは、「船や飛行機に乗っている」という意味であり、それを会社に例えたもので、「会社という乗り物」に新しく加わった個人を「同じ船(会社)の乗組員」としてなじませ、一人前にしていくプロセスのことをいいます。

学術的には、「新人の適応を促進する組織やエージェントによって従事される公式、非公式な訓練、プログラム、政策」と定義されるものです。

より簡単にいえば、新入社員や中途採用者など「新しく組織に参加してきた個人の円滑な適応をサポートするもの」ということができます※。

「オンボーディングの3要素」としては、①「情報を与える(inform)インフォーム行動」、②「迎える(welcome)ウェルカム行動」、③「導く(guide)ガイド行動」が必要な要素となってきます(図表1)

図表1 オンボーディングの3要素
図表1 オンボーディングの3要素
※Klein and Polin, 2012

●新人に対する効果的なオンボーディングのポイント

Z世代に限った話ではありませんが、新入社員に対してしっかりとサポートすることは、組織・企業にとって非常に重要なことだと考えています。

では、具体的にどのように行動すればいいのか? そこは、入社前と入社後の2つに切り分けて考えられます。

①入社前:トランジション・スロープをかける

まず入社前の段階においては、「トランジション・スロープ」と私はよんでいますが、いわゆる“つなぎ役”の存在やサポートが必要となります。そして入社後のサポートが、充実した「オンボーディング」になります。以下、順を追って説明します。

トランジション・スロープでは、事前知識の習得(予期的社会化)と心理的レディネス(心の準備)を高めますが、この2つは相互に関係しています。

なお、大学で教鞭をとっている私がいうのも気が引けるところではありますが、大学教育と社会の“断絶”が大きくなっていることが、Z世代も含め、若い人たちに悪影響を与えています。

大学も生き残りがかかってきているなか、大学教育は完全に学生を“お客様化”してしまい、“受動型人間”を作ってしまっています。

さらに、社会全体も、“褒めて育てる”といった志向が広がっており、書店でもそうした書籍を数多く見かけます。

さらに“平等主義”や“競争の軟化”が起きている状況のなかで、社会に出た途端、「自分で考えろ」、「成果を出せ」、「グローバルで生き残らなくてはいけない」といった、急速な変化にさらされます。この“断絶”が、いまは深刻です。そこをしっかりと埋め合わせるためにも、本来は、産官学連携、それこそオール・ジャパンで、小学校の頃から教育をしていかなければならないと、個人的には思っています。

語弊があるかもしれませんが、やはり、社会に出た時の厳しさをしっかりと伝えてあげなければ、大きな“断絶”に直面した途端、メンタルを弱らせてしまう若者も増えてしまいます。

だからこそ、まずはしっかりとトランジション・スロープをかけてあげることが大事なのです。

現在のテレワーク下ではなかなか難しいかもしれませんが、やはり、実際に職場で働いてみて、直に肌で感じる空気感などの情報を得ることは不可欠です。

だからこそ、事前知識の習得(予期的社会化)と心理的レディネスを高めるという意味でも、入社前から入社後のリアルを体験してもらう必要があります。

また、「入社後に直面しそうな適応課題に関する知識の教授」、特にリアリティ・ショックに関する知識に関しては、新入社員は絶対に知っておく必要があります。入社後に直面する課題に対して、準備しておくべきことを入社前にしっかりと伝えてあげるべきなのです。

もちろん、自社の説明としての「仕事や会社に関する知識の教授」も心理的レディネスにつながります。私の研究でも、入社前に高い事前知識を持っている新入社員はうまく適応する傾向にあることがわかってきました。

だからこそ、人事担当者には、新入社員に対して入社前の段階でしっかりスロープをかけ、入社後の“断絶”をなくしてあげることが求められます。

②入社後:充実したオンボーディング

実際に入社してもらった後にも、サポート体制の継続は必要となります。それが「充実したオンボーディング」です。具体的には6つの項目があります(図表2)

図表2 充実したオンボーディングで抑えておくべきポイント
図表2 充実したオンボーディングで抑えておくべきポイント

オンボーディングにおいては、「効果的な研修のデザイン」が不可欠です。企業ごとに独自性を打ち出しても良いとは思いますが、具体的な研修コンテンツとして実践すべきものは3つあります。

それは、①「適応課題と対処行動の理解促進」、②「プロアクティブ行動の理解促進」、③「同期との繋がりや同期意識の醸成」です。

●効果的な研修のデザインのため実行すべきこと

①:適応課題と対処行動の理解促進

研修で実践すべきポイントの1つ目は、「適応課題と対処行動の理解促進」です。経営学部の学生であっても、リアリティ・ショックについて深く学んでいる人はほとんどいませんので、「新入社員は、適応課題と対処行動に関する知識を保有していない」と考えるべきでしょう。

だからこそ、新入社員が最初に直面する適応課題であるリアリティ・ショックについては、関連する知識を研修などでも改めて伝える必要があります。

ただし、リアリティ・ショックは誰しもが直面する課題でもあります。そのため、知識をしっかりと教授してあげれば、乗り越えるための動機付けや、直面した時に冷静に対処するための準備ができるようになります。

具体的には、新入社員同士が直面しているリアリティ・ショックについて、ディスカッションをする場を設定するのもよいでしょう。また、実際にリアリティ・ショックを乗り越えて活躍している先輩社員に経験談を語ってもらうことも効果があると考えられています。

●リアリティ・ショックがもたらすポジティブ効果

一方で、リアリティ・ショックは必ずしもネガティブなものだと私は考えてはいません。「覚醒効果」「学習促進効果」「ネットワーク広範化効果」「メンタル効果」(メンタルが強くなる)など、ポジティブな側面も十分にあります(図表3)

さらに、知識を新入社員に提供することで、「敵を知る」「心の準備」「動機づけ」「課題克服」へとつながっていきます。

そして、リアリティ・ショックを乗り越えることが新入社員の成長につながることも合わせて伝えてあげることが必要です。

図表3 リアリティ・ショックの4つの効果
図表3 リアリティ・ショックの4つの効果

●通過儀礼としてのリアリティ・ショック

日本の新卒一括採用は、リアリティ・ショックが生じる“温床”のようなものだと、私は考えています。

本日視聴されている方々も、過去にリアリティ・ショックに遭遇したと思いますが、皆、それを乗り越えて社会人になっているのではないでしょうか。つまり、ある種の“通過儀礼”としての意味合いがあるということです。

しかし、現在のコロナ禍においては、まだ社会人になりきれていない、どこか漂っているような感覚。つまり、リアリティ・ショックに直面していない新入社員や若手社員が多くいるのが現実です。そのため、仮に仕事がリアルのオフィスに戻った場合、彼らはそこで初めてリアリティ・ショックに遭遇することとなります。

コロナ世代の若手社員は、大学時代を含めて様々な経験の機会を奪われているため、成長のスピードが鈍っている部分があることは否めません。しかし、本来であれば入社1年目で直面するべき適応課題が入社3~4年目へと後ろ倒しになれば、それは彼らの責任ではないので、責めるべきではありません。

だからこそ、組織としてしっかりとしたサポートをしてあげることが求められます。それは、リアルに戻った時に、新人・若手社員が遭遇する課題を理解して、共に対処していくということです。

●組織としてコロナ世代にすべきこと

リアルに戻った際、まずは、コロナ世代の“つまずき”に注意を払いながらサポートをする必要があります。

また、組織として「成長のスピードが遅くてもいいんだよ」「3~4年目でもつまずいていいんだよ」というスタンスがとれる寛容力も求められます。

さらに、今後の成長を追跡するという観点からの長期的なサポートや育成も視野に入れるべきでしょう。

●効果的な研修のデザインのため実行すべきこと

②:プロアクティブ行動の理解促進

研修で実践すべきポイントの2つ目は「プロアクティブ行動」です。新入社員自身の組織への適応を促進する行動を指し、学術的には「個人が自分自身や環境に影響を及ぼすような未来志向で変革志向の行動」と定義されていますが、要は“なじむこと”です。

プロアクティブ行動では、具体性がないまま、ただ、「何事も積極的に行動しなさい」と言うのではなく、どのような行動が組織への適応を促進してくれるのかを明確に伝えることが重要となります。

前述のリアリティ・ショック同様、こうした知識が組織になじむうえではプラスに働くことが研究からはわかってきています。

しかし、一口にプロアクティブ行動といっても、たくさんの種類があります(図表4)。新入社員に対して全てを伝えるのは良いことである反面、いざ実践させるのはかなり酷でもあります。ですから、1~3個までを、時期に応じて、ある程度の期間を定めて伝えることが効果的です。

図表4 プロアクティブ行動の種類
図表4 プロアクティブ行動の種類

プロアクティブ行動を説明する際に私がよく使う例として、「守・破・離 連関図」があります(図表5)。もともとは茶道に由来する考え方です。

規則やルールを守ることを理解していく「守」の段階では、人との関係性が大事になってきますので、助けやフィードバックを求め、良い人間関係を構築するような行動を心がけてもらいます。

次に「破」として、今度は自分の殻を破って、積極的に問題解決に取り組んでもらいます。ただし、革新行動とは、必ずしも新規性のあることやイノベーティブなことをするという意味ではありません。ここでは、自分らしく新しいアイデアへ挑戦する行動を指します。

革新行動がとれるようになってきたら、最後は「離」として、自分の仕事に対しての工夫。つまり、ジョブクラフティングをしてもらうこととなります。

なお、「守」「破」「離」の根底には、常に学習し続けなくてはいけない「学習行動」が貫徹しています。

このように、期間を分けて、プロセスに応じた行動をとらせてあげることにより、新入社員は上手く成長の過程に乗ることが可能となります。

図表5 プロアクティブ行動と守・破・離 連関図
図表5 プロアクティブ行動と守・破・離 連関図

●プロアクティブ行動を促進する上司の重要性

環境のサポートもプロアクティブ行動を促進するうえでは不可欠です。新入社員がプロアクティブ行動をとったにも関わらず、周囲の環境から「勝手なことをするな」「調子に乗るな」と言われてしまうと、新入社員は行動を取らなくなってしまいます。さらに、プロアクティブ行動を促した人事部に対しても不信感を抱く結果となってしまいます。

プロアクティブ行動を促進する要因について、分析した資料があります(図表6)。これを見ると、上司のサポート(上司要因)がプロアクティブ行動を促進していることがわかります。

また、上司がサポートしてくれる環境下では、新入社員は積極的な行動が取れるようになります。

さらに、上司からのサポートが受けられるという安心感(心理的安全性)が、プロアクティブ行動を喚起します。

このように、新入社員に行動させるためには、環境に対する働きかけも必要となります。

図表6 プロアクティブ行動を促進する上司の重要性と分析結果
図表6 プロアクティブ行動を促進する上司の重要性と分析結果 図表6 プロアクティブ行動を促進する上司の重要性と分析結果

●効果的な研修のデザインのため実行すべきこと

③:同期との繋がりや同期意識の醸成

研修で実践すべきポイントの3つ目は「同期との繋がりや同期意識の醸成」です。コロナ禍だからというわけではありませんが、とても大事なことだと個人的にも思っています。

コロナ世代の新入社員について、3社にご協力をいただいた調査結果があります(図表7)。同期との関係性に関する分析になりますが、コロナ世代のほとんどは、オンライン研修だったため、同期意識のスコアが低くなってしまっています。

図表7 調査概要と調査結果
図表7 調査概要と調査結果 図表7 調査概要と調査結果

●同期の重要性

では、なぜ同期が重要なのでしょうか。同期の役割としては、①愚痴や不満を言い合うことでストレスを発散する「ストレス発散効果」、②自分の成長を把握できる「物差し効果」、③ 切磋琢磨することでキャリアモチベーションになる「ライバル効果」が挙げられます。

しかし、そもそもコロナ世代の若手社員は同期との関係性が構築できていないので、このような効果が得られません。「ストレス発散効果」が得られないため、メンタルに問題を抱えます。そして、「物差し効果」が得られないため、自分自身の成長段階がわからず、焦ったり考え過ぎたりもします。さらに、「ライバル効果」も得られないため、切磋琢磨できる相手がおらず、キャリア展望やキャリアモチベーションも高まりません。

このように、コロナ世代は同期に対する意識が希薄であるため、組織としてしっかりと同期の存在を気づかせてあげるための働きかけを行う必要があります。

●コロナ禍の新入社員研修で実践すべきこと

座学などオンライン研修でよいものもありますが、同期意識や同期との繋がりの醸成のためには、やはり対面研修を実施するべきでしょう。

新入社員の人数にもよりますが、なるべく全員とコミュニケーションがとれるようなワークを入れるなど、協働を組み込んだ内容で、1日だけではなく複数日にわたって実施すると効果的です。

多少困難な課題を与えると、それを乗り越えることにより、仲間意識が醸成されていきます。

●人事部の愛情や情熱は伝わっている

かつての生徒から「会社がしっかりと考えてくれているようで、すごく嬉しいです」という話を、コロナ禍においてよく聞くようになりました。

試行錯誤して自分たちのために何かをやってくれているという、人事担当者の愛情や情熱は、新入社員へ伝わるものです。

これを専門用語では「POS(知覚された組織サポート)」といいますが、それを新人・若手社員に対して感じさせてあげることが、今後はさらに重要になるでしょう。

このPOSは、研修においても効果があります。新人・若手社員の組織適応に対し、組織サポート(HR施策)と他者サポート(OJT)の効果について検証したデータがあります(図表8)。結果としては、能力開発(Off-JT)でもっとも高い効果が出ています。

図表8 研修の意義(過去に行った調査より)
図表8 研修の意義(過去に行った調査より)

効果的な研修のデザインに関しての説明は以上となります。

後半はやや駆け足となりますが、オンボーディングにおける適応エージェントの提供、チーム育成、配属の意義転換、環境整備、そして最後に、アフターコロナの若手育成について解説していきます。

●適応エージェントの提供:誰をメンターにするか?

適応エージェントをサポートとしてつける際に気を付けるべきことは、単に指導役をつければいいというわけではないということです。誰をメンターにするかをしっかり考え、メンター選定の組織基準を明確に定める必要があります。

実は、「年齢が近いから、あなたがやってください」といった選定をしている企業も意外に多くありますが、個人的に私は反対の立場にいます。

研究でも、「比較的年齢が近くて、同性がいい」とも言われてはいますが、私の分析では、それ以上に重要な要素として、ある意味では当たり前ですが、「ちゃんと面倒を見てくれる人かどうか」が重要だからです。指名する側も、その点をしっかりと見極めなければいけません。

その際、メンター本人の育成モチベーションや意思もしっかりと確認してあげるべきでしょう。やる気がない人に任せてしまうと、メンター、新入社員の双方にとってマイナスになってしまいます。

また、メンターのモチベーションをいかに高めるかも課題となります。組織として、メンターとなる社員に対して期待していることをしっかり伝えてあげること。そして、メンターの負担をいかに取り除けるかが重要となります。

●チーム育成:他の同僚の「育成無関心」をどう取り除くか?

一人のメンターを指定すると、「あの人に聞いてください」といったように、他の社員が育成に関わらなくなる危険性があります。やはり、組織全体で新入社員を育てる職場風土を醸成する必要があります。

そのためには、メンター制度を新入社員のためだけの制度にするのではなく,メンター役の成長や育成力の涵養のために用いるなど、メンターとメンティーのどちらにとっても役立つような仕組みにすべきでしょう。

適応エージェントを指定した後も、メンター1人に負担を負わせるのではなく、サポートシェアリングを行うことが有益だと考えます。

職場で「育成会議」などを開くのも効果的です。さらには、会社全体での「育成カルチャー」の醸成も重要となってきます。

●配属の意義転換

基本的に配属は「補充」の観点で行われます。そこを「育成」の観点に転換することは忘れないでいただきたいところです。

本来、育成上手の上司のいる職場に新入社員を配属することが望ましいのですが、なるべく負担にならない程度にしましょう。

また、若手を潰す上司のいる職場には絶対に新入社員を配属してはいけません。そもそも、そのような社員を管理職にしないためにも、評価方法の見直しが求められます。

●環境整備

新入社員を成長させ定着させたければ、上司を育てなければならない。これが、私が研究のなかで見出した1つの結論です。上司を育成上手にし、現場で育ててもらうことで、人事部の負担は軽減されます。この場合、OJTが効果的です。

また、現在の日本企業の管理職は疲弊しきっているので、管理職になりたくない若い社員たちが増えています。管理職を夢のあるポジションにするためにも、組織として上司をしっかりとサポートし、成長させ、生き生きと働いてもらうことが重要になるでしょう。

新入社員を生き生き働かせたければ,まずは先輩社員を生き生きと働かせなければなりません。過去に離職した若手社員の発言には、「先輩社員の疲れ切った顔を見て、自分もああなるのかと思ってゾッとした」というものが多く見受けられました。新入社員に生き生き働いてもらえるように努力しても、実際に配属された現場の上司や先輩社員が疲弊していては、何の意味もありません。

夢を持って生き生きと働いている、かっこいい上司や先輩社員を見て、「自分もああなりたい」「この会社で働いていたら自分もああなれる」と思えたら、その人たちをロールモデルとして新入社員自ら努力します。この点についても、今後はしっかりと見つめ直すべきでしょう。

安心して新入社員を現場に送り出せるという意味においても、新入社員が憧れる、生き生き働いているロールモデルの多い魅力的な会社を作ることこそが、もっとも有益なオンボーディング施策だと思います。

●おわりに:「経験学習」よりも「観察学習」

現代の若者はテレワークを求めています。実際には、テレワークでもそれなりの仕事経験を提供できることが、私の分析でもわかっています。

今後はテレワークと対面のハイブリッド型の働き方が中心となり、それに応じた人材育成へとシフトすることが予想されますが、「職場の一体感醸成」「広い人間関係の構築」「組織文化の理解」など、対面で補うべきものも少なくありません。

さらに、現状のテレワークで特に難しいのが人材育成です。現在の新入社員に対しては、「経験学習」よりも「観察学習」が必要だということを申し上げたうえで、私の講義は終了させていただきます。

Ⅲ.成長実感を促す新人育成施策

三宅生子氏 株式会社両備システムズ 総務・人財統括部 人財戦略部 エキスパート

成長実感を促す新人育成施策ということで、本日は当社で実施している『トレーニー育成プログラム』についてご紹介させていただきます。1つの企業事例としてお聞きいただければ幸いです。

最初に、当社の概要について説明をさせていただきたいと思います。

両備システムズは、両備グループに所属している企業です。両備グループは今年で創業112周年を迎えます。

本拠地は岡山県にございますが、「創業の地・岡山から、日本全国、そして世界へ」ということで、現在はミャンマーやベトナムなど、アジア圏を中心にグローバルに展開している企業でございます。

グループ企業数は約50社、従業員数は約1万人。「トランスポーテーション&トラベル部門」「くらしづくり部門」「社会貢献部門」「まちづくり部門」という生活に密着した部門と、当社が所属している「ICT部門」の5つから成り立っております。

両備システムズの概要としては、IT企業としては歴史が古く、設立は1969年。従業員数が約1,500人。公共、医療・健康、教育関連、産業・流通、運輸・交通など、幅広い分野に対してITソリューションを提供しております。

●人財開発施策・制度の全体像

教育関連について申し上げるとすれば、技術革新のスピードが速いIT業界の企業となりますので、技術研修についてはこまめに、そして手厚く実施しています。

本日のテーマである新人の育成については、年間で約80人前後の新入社員に入社していただいております。

本題に入る前に、当社の人財開発のありたい姿についてご紹介します(図表1)

当たり前のことですが、個人と組織の目標をすり合わせて目標を達成することで、お互いが成長する姿を基本的な考え方として掲げています。

個のパフォーマンスを向上させる「人財開発」、そして、人の関わりにより組織を活性化して、組織全体のパフォーマンスを向上させる「組織開発」、これら両面からのアプローチと、それを支える「制度・施策」。この3つが歯車となって機能している状態を作り上げるべく、施策や教育を設計しております。

図表1 人材開発施策・制度の全体像
図表1 人材開発施策・制度の全体像

●『トレーニー育成プログラム』実施の背景

当社では2019年から『トレーニー育成プログラム』を実施しております。入社から3年間、チーム単位で1人の新入社員を育成する施策です。

実施に至った背景は大きく2つあります。1つめは、かつて当社では2019年以前にも「トレーナー制度」を運用しておりました。この制度では、新入社員と年齢の近い先輩社員を「トレーナー」とし、新入社員と先輩社員の若手同士が1対1でOJTをしていくというものでした。

しかし、先ほどの尾形先生のお話にもあったとおり、メンターとなるトレーナーに対し、非常に高い負荷がかかることに加え、運用が“トレーナー任せ”になってしまいました。

さらに、変化のスピードが速いIT企業のなかで、1人で教えられることには限界があることや、若手社員には裁量がないなどの理由もあり、制度が形骸化していたという事実もあります。そこで、見直しを図ったというのが、1つめの大きな理由です。

2つめの背景は、「育成を取り巻く環境の変化」を切実に感じたことです(図表2)

そこで検討を重ね、2018年ごろから『トレーニー育成プログラム』を実施することとなりました。皆様ご承知の通り、「ビジネス・社会環境の変化」ということで「VUCAの時代」ともよばれておりますが、正解がなく知識や前例が通用しない。また、変化が速く複雑で先が見通せないため、従来のように言われたことをそのままやっておけばいいのではなく、試行錯誤しながら、新たな価値を創造することが求められています。

次に、大きな「職場環境の変化」があります。効率化や生産性を求められて、残業削減の動きが進むなかで、真っ先に削られがちなのが、“育成の時間”だと感じました。若手社員だけではなく、中堅社員や年配の社員であっても、技術革新や市場変化のスピードが速すぎて、教えられないという状況がありました。

そして、コロナ禍以降の話となりますが、「働き方」も急激に変わりました。テレワークやフレックスタイム制が進んだことにより、人と会えない、隙間の時間がないということで、コミュニケーションの取り方を大きく変えなければやっていけない。一言でいえば、“育成しづらい環境”になってしまった、ということです。

最後に、「新人・若手社員の変化」があります。いわゆるZ世代です。 経済の変化、教育の変化、ITの進化など、従来と異なる環境で育ったZ世代は、価値観や行動様式が育成責任者(管理職)世代とは大きく異なります。

Z世代のもう1つの特徴として、失敗を恐れる人たちが多いといわれています。一方で、VUCAの環境では、失敗を恐れずに、とにかく速く試行錯誤をしながら物事を進めていかなければいけません。しかし、Z世代はそのような環境になじめないといった背景もあります。

図表2 『トレーニー育成プログラム』実施の背景
図表2 『トレーニー育成プログラム』実施の背景

●「育成を取り巻く環境」と「育成のポイント」

そのため、これまでの育成施策を続けるには無理がある。施策を変えるだけではなく、周囲の意識もすべて変えなくてはいけないということで見直しを行い、現在運用しているのが『トレーニー育成プログラム』です。

その前提として、前述した「ビジネス環境の変化」、「職場環境の変化」「新人・若手社員の変化」について言及している「新人若手育成の全体像」が図表3になります。

図表3 新人・若手育成の全体像
図表3 新人・若手育成の全体像

端的にいえば、“育成しづらい”環境に対し、それでも“育てたいもの”があるということです。VUCA環境だからこそ、自律的に行動ができるように、経験から学ぶ力をつけてほしい、こういった力を育てたいという想いがあり、デービッド・コルブの「経験学習サイクル」を自ら回して、成長し続ける人財を作ろうということを目標に設計をしたプログラムになります。

ただ、社会人になったばかりの新人・若手社員が経験学習サイクルを1人で回すということは、非常に難しいことも認識しております。

新人・若手社員の関わり方における育成のポイントとしては、経験学習サイクルの要となる、内省(振り返りの促進)を支援する。そして、Z世代が苦手としているチャレンジを引き出す安心・安全(信頼)の基盤づくりとしての場をつくることなどが挙げられます。

しかし、育成しづらい環境であり、1人で行うのは無理なので、組織ぐるみ(チーム)で育てる環境を作らなければならないとの考え方に基づいてつくったのが、『トレーニー育成プログラム』です。

●『トレーニー育成プログラム』の概要

『トレーニー育成プログラム』とは、「新人・若手社員を、チームで支援し、早期戦力化を図る」ものであると、社員に説明しています(図表4)

ポイントは、「チームで支援」と「早期戦力化」で、経験学習サイクルを1人で回せるようになることを目的としています。

ちなみに「制度」ではなく、あえて「プログラム」という言葉にこだわって使っております。

なぜかといいますと、制度と聞くと、「資料をいつまでに出さなければいけない」、「面談を月に何回しなければいけない」、「誰かに報告しなければいけない」といったイメージが先行して、どうしても、人事部門からの“やらされ感”が強くなってしまうからです。

また、入社してくる新人・若手社員は、そもそも各人の能力が違いますし、成長スピードも異なりますから、画一的に決められたようにやらせることには、もはやなじめません。「チームでどのように育成・運用をするのか、柔軟に決めてください」という意味も込めて、「プログラム」としています。

『トレーニー育成プログラム』の目的は、3つの立場からつくっております。「組織」としての目的は、会社として「両備 ICT 部門の未来を創る人 」をチームで育成する風土を醸成すること。「先輩社員」の目的は、部下や後輩育成を通じて、自らも成長すること。「新人・若手社員」の目的は、先輩社員からの支援を通じて、「キャリアビジョンに向けて、仕事で成果を出しながら自ら成長し続ける人財」になることを目指します。

このように、誰もが“自分ごと化”できるような目的にしております。

目的をどれだけ伝えても、「具体的にどうなれば達成できるのか?」がわかりづらいという問題がありますので、達成できるゴール指標なども用意をして、共通認識を図れるようにしております。

図表4 新人・若手社員育成施策『トレーニー育成プログラム』
図表4 新人・若手社員育成施策『トレーニー育成プログラム』

●チームの構成(4者)とMISSION(3つの支援)

『トレーニー育成プログラム』のチーム構成は4人1組になります(図表5)。「育成責任者」(統括)は同じラインの課長の方というケースが多いです。「トレーナー」(指導)は同じ仕事をしている先輩社員で、業務については、ある程度はこの方が何でもQ&Aの対応をできます。「メンター」(助言)は別の部署で、いわゆる“斜めの関係”となるような先輩社員を設定しております。最後の「トレーニー」(成長)が新人・若手社員で、プログラムの主役となる方々です。

3つの支援となるのが、新人・若手社員にとって必要だと考えらえる「業務の支援」「内省支援」「精神支援」です。「メンターだから、精神的な支援だけ」というわけではなく、トータルで3つの支援が必要なのだと意識してもらい、チームのなかで補完し合いながら取り組むような伝え方をしています。

育成責任者、トレーナー、メンター、どの立場であっても、場面ごとにできることは違ってきますし、もちろん、得手不得手もあります。大切なのは、「3つの支援が必要」ということと、「決めつけないで、なんでもやってください」ということです。

図表5 チームの構成(4者)とMISSION(3つの支援)
図表5 チームの構成(4者)とMISSION(3つの支援)

●『トレーニー育成プログラム』のゴールイメージ

『トレーニー育成プログラム』では、ゴールイメージとして、目的を達成するためにレベル1から4までの過程をみんなで共有しています(図表6)。この他、細かいチェック項目も用意しています。チームのなかで振り返る機会を設けていただいて、たとえば、「トレーナーはレベル2、育成責任者はレベル3だと思っているような場合、ギャップはどこにあるのか?」といった話し合いの時間などを設けていただいております。

これを3年間実施していきますが、日々の活動においては、経験学習サイクルを回しやすいように、5種類のシートを用意しております(図表7)。具体的には、毎日使うシートもあれば、『トレーニー育成プログラム』開始前に使うものなど、タイミングによって使用するシートが異なります。

目安として、「毎月」「毎週」と明記しているものもありますが、それぞれのチームのなかでどのように運用していくかを自分たちで決めて、運用してもらっています。

シートは、ある程度、経験学習サイクルを回すためのツールとして人事部門から提供しています。

図表6 『トレーニー育成プログラム』のゴールイメージ
図表6 『トレーニー育成プログラム』のゴールイメージ
図表7 5種類のシート
図表7  5種類のシート

●期間中のイベント

『トレーニー育成プログラム』を3年間続けていくために、入社前から入社3年目までの期間中の主なイベントを設定しています(図表8)

経験学習サイクルをどう回すかについては、各チームに任せていますが、それだけではチームによって偏りが出てきてしまうのが現実です。

ですから、人事部門からは、トレーニーである新人・若手社員に対しては、振り返りの機会、同期だけを集めてのフォロー研修、2年目の成果発表会などを設けています。入社3年目の年度最後にはキャリアセミナーとして、ジョブクラフティングをベースにした研修を実施しています。

入社3年目になると、ようやく全体的に会社を俯瞰して見られるようになる一方で、日々の仕事に追われて、「私は今、何をやっているのだろう?」「何がしたくて会社に入ってきたのだろうか?」ということがわかりづらくなる時期でもあります。

そこで、ジョブクラフティングの研修を実施して、『トレーニー育成プログラム』の最後の締め括りとして、仕事の意味づけを行い、その後の4年目以降に生かしてもらうための立て付けにしております。

これらのイベントをトレーニーだけで回してしまうと、他のチームメンバーが他人事になってしまうこともあるので、チーム全員が必ず参加するイベントも年1回は用意しています。

最初にチームで集まる機会としては、入社2~3カ月後に新入社員研修が行われた後、育成責任者、メンター、トレーナーが決まった後に、チーム全員の参加が必須の説明会を設けています。具体的には、『トレーニー育成プログラム』の趣旨と目的を説明し、なぜ取り組んで欲しいのか、そして、社員から見た、その年の新入社員の傾向とZ世代の一般的な傾向の違いを認識してもらうための場となります。

その後は、キックオフの場として、自分たちのチームを運用していくため、「日々の活動」で使用するシートの活用方法、チームがトレーニーに対してミーティングを実施するスケジュールなどを決定してから解散します。

この他、チーム同士で集まる機会では、トレーニーに対しての振り返りではなく、「チームとしての活動」について、各人が振り返りの視点を持ち寄ったうえで振り返りをしてもらったりもしています。

『トレーニー育成プログラム』では「役割別の交流」として、育成責任者、トレーナー、メンターなど、同じ役割の社員だけで集まり、「共通の困りごと」と「解決策」を共有することで、気持ちが楽になるだけではなく、視野を広げるための交流の機会を設けています。

まとめますと、一連の活動を通じて、経験学習というものを意識しながら、チームとしていかに関わり続けてもらえるか。そして、チームのなかで生じたズレやギャップに気づき、振り返り、「次からはこういうふうに動いていこう」というきっかけづくりの機会を人事からは提供しています。

図表8 期間中のイベント
図表8 期間中のイベント

●実際の効果・実績(状況確認アンケートの結果から)

最後に、皆様がおそらく一番気になっておられるのが、2019年から実施した『トレーニー育成プログラム』の実際の効果・実績の部分だと思います。

プログラムを機能させるために、定期的に「状況確認アンケート」や「振り返り会」を実施しております。アンケートについては「まだ活動をしているか」、「その活動に対して満足しているか」などを確認しています。

アンケートの結果としては、残念ながら入社2年~3年目と、年を追うごとに満足度や活動の度合いの割合が減ってきていますが、現在は分析に注力しています。

何が効果的で、何が効いているのか、正直なところまだ掴めてはいませんが、プログラムを続けていくなかで課題と認識しているのは、チームに運用を委ねている点です。自由度を高くして、主体性を持ってもらうためにそうしているのですが、その分“チームのばらつき”や “実際にはどこまで実施しているのかがわからない”というもどかしさもあります。

そこで現在は、もう少しチームと人事部門が接点を持つために、トレーニーとの面談の機会の設定や、年に1回実施している「状況確認アンケート」を、もう少しライトなものに変え、回数を増やす方向で検討しております。

ただ、1つ言えることは、年間80人程の新入社員に入社してもらっており、そこにチームメンバーが3人ついて、説明会や振り返り会の度に必要性・目的について説明・周知しておりますので、「チームで育成する風土」は、少しずつではありますが、考え方として着実に広がりつつあるということです。

今後も経験学習サイクルを回しながら活動を続けていきたいと思っております。ありがとうございました。

Ⅳ.クロストーク

各登壇者の講義終了後、3名によるクロストークとして、視聴者から寄せられた質問に対する応答と議論が行われた。

斎木:

今回、事前に「新人・若手育成に関する課題は?」という任意のアンケートを行い、58名にご回答をいただきました。回答として多かったものが「1.早期離職の防止」、「2.見直し方法」、「3.世代間ギャップ(Z世代の価値観)」、「4.これからの新人育成に必要なスキルや施策」の4つです。

リアルタイムでの質問で圧倒的に多かったのが、「先輩社員、メンターに生き生きと働いてもらうためには、どのようなアプローチが望ましいのでしょうか?」でした。

先ほど、三宅様にもお話をいただきましたが、両備システムズ様の事例を基に改めてお答えいただければと思います。

三宅:

本日は新人・若手社員にフォーカスを当ててお話をさせていただきましたが、『トレーニー育成プログラム』は3年間で終わりを迎えます。

しかし、キャリアについて上司と話をして、すり合わせる機会は今後も設けていきます。その際、「自分のやりたいことは何か?」「自分はどうキャリアを描いていきたいのか?」をしっかりと吐き出して、すぐに叶うかわかりませんが、上司と一緒に方向性を握っていく機会はありますので、閉塞感はなくなるのではないかと考えております。

斎木:

実際、メンターやトレーナーの方に対して、研修や人事からの育成のフォローはどのぐらいされていたのでしょうか。

三宅:

初めてメンターやトレーナーになる社員に対しては、一般的なものですが、必ず研修を受けてもらっています。また、『トレーニー育成プログラム』の内容や弊社の特徴を盛り込んだeラーニングのプログラムを社内で作成して、メンターとしてのスキルも上げてもらうために、いつでも閲覧できるかたちで提供しています。

「異動が多く、メンターやトレーニーがたびたび変わるような場合どうするか」という質問もいただいておりましたが、そういった方々には視聴後すぐに行動に移せるようなeラーニングプログラムを準備しています。

斎木:

引き継ぎの際に、3年間、プログラムを実施してきたなかで記録してきた「育成カルテ」のようなメンターの特徴や指導内容のログは、保存・共有されたりしているのでしょうか?

三宅:

『トレーニー育成プログラム』で使用している5種類のシートのなかに目標設定や振り返りの記録が溜まっています。あとは、経験学習を回すためだけではなくて、「自己紹介シート」という、ある種の“自分のトリセツ”もありますので、そのまま引き継げるようになっています。

他部署でも閲覧できるようにするかなど、シートの運用も本人に決めてもらっています。

ただし、メンターとのやり取りについては、機密性が高いものもあるので、本人の許可なしでは、対外的には開示しないルールにしております。

斎木:

だからこそ、安心してメンターに開示できるということですね。「メンターに生き生き働いてもらう」ということは、おそらくメンター自身の成長、そしてメンターを担うことによるメリットの両方が重なっているとも解釈できますが、尾形先生、いかがでしょうか。

尾形:

メンターのインセンティブとして、金銭的報酬を設けるなど、“外発的な報酬”も1つの手段だと思いますが、私はそれよりも“内発的な報酬”の方がいいと考えています。メンターはとても大変な仕事なので、担当してもらうときに「君には期待している」ということを組織としてしっかりと伝えることが大事で、それがあればメンターには生き生き働いてもらえると思います。

たとえば将来、管理職になった時に、育成が大事になってくるので、その力を身につけてもらうためにメンターをお願いしたい、という期待を伝えてあげることで、メンターがメンタリング行動にコミットしてくれるための重要な動機付けになります。新入社員と年齢が近いというだけでメンターを決めてしまっては、ほとんど意味がありません。

ちなみに、先輩社員に生き生き働いてもらうという点においては、各社で社員アンケートなどを実施していると思うので、そこでしっかりと確認して、スコアが低いのであれば理由を把握しながら人事としてサポートに取り組むことが必要だと思っています。

斎木:

先ほどの両備システムズ様の例で言いますと、1年に1回のアンケートなど、定点観測的に変化を見ていくことでフォローをしやすくするという意図もあるのでしょうか?

三宅:

はい。サーベイ的な感じで、経過観察や確認をしていきたいと考えています。

斎木:

次に、尾形先生がお考えになる、「2年目研修の必要性」というところで、具体的に何を行うべきか、どういった観点を重要視すればいいのかについて、これまでの実績からお話しいただければと思います。

尾形:

やはり、研修だけでスキルを習得するには限界があります。そこでOJTが大事な役割を果たしてきます。

私が「2年目研修」で大事だと思うのは、内容よりも、同期の社員をしっかり集めて、現状を語り合わせることです。同期の役割として、「ストレス発散効果」、「物差し効果」、「ライバル効果」があることを申し上げましたが、“2年目のストレス”があると思うので、そこをお互い共有し合うことによって、ストレス軽減になります。また、相手の仕事ぶりを見て、「自分も頑張らないといけない」というモチベーションにもつながります。

このように、「2年目研修」では、お互いに語り合わせることで自分の現状を認識して、今後についてしっかり内省する機会にしてもらいたいですね。

斎木:

その点では、両備システムズ様も1年目の2月頃に、同期同士の交流やフィードバックをかなり重ねて実施されていたようですが、そのあたりの理由、そして実際にやってみての効果や反応について、お話しいただければと思います。

三宅:

フォロー研修では社会人に必要なスキルに関するおさらいをしましたが、一方的な講義ではなくて、「仕事に対する向き合い方」について、新人同士で確認し合うところに重点を置きました。

その後、5月の「2年目成果発表会」では、1年間の目標に対して、良かったところや躓いたところなど、経験学習サイクルに基づいた発表をしました。ただ、時間の制約もあり、各部署の代表者によって行われました。代表者の選出に際し、事前に行われた予選会では、各部のなかで先輩やチームのメンバーが支援をして、社員の前で発表できるように手伝うといったプロセスを経ました。

その後、発表を聞いた後には発表をしなかった2年目社員も集まって、「実は、発表はできなかったが、私はこういうことに取り組んだ」ということをグループでディスカッションをして、刺激を受け合って、5月以降もこういうふうに頑張ろうという話をして解散するという流れになっております。

尾形先生がおっしゃるとおり、2年目の社員は新入社員も入ってプレッシャーもあるなかで、チームのメンバーも「もう2年目だから、できるよね」という空気感は実際にありました。

それを防ぎたかったので、「2年目成果発表会は、チームで支援してあげてください」という発信とともに、11月にチーム全員で集まって振り返り会をして、「中だるみしていないか」、「もうちょっと支援が必要か、もしくは不要か」について、チームで意識を合わせてもらう機会を設けています。

斎木:

ありがとうございます。当社でもフォローアップ研修の依頼をいただく機会は多くありますが、尾形先生と三宅様がお話されたようなことは最近本当に増えてきたと実感しています。シンプルに言えば、「自分と向き合う時間」、尾形先生のお話でいえば、「観察」に近いところだと思いますが、新入社員が1年間、周囲が見えない霧のなかを駆け抜けるようなところも一部ありますので、立ち止まる機会を与えることも必要です。

従来であれば、集合研修でスキルアップや問題解決型の研修などをしっかりやる企業も多くありましたが、最近では、一度立ち止まって、会社が考えていることと自分自身の思いを重ねてみて、内発的動機や内面と向き合う研修を行う企業が非常に増えたと思います。その意味ではレジリエンス強化を通じて捉え方を変えてみたり、会社や仕事はお客様にどういう価値を提供しているのか改めて考えたり、みんなで語り合いながら自身と向き合うことが重要というか、2年目のトレンドなのかなと思います。

次に、メンターの“当たり外れ”などを踏まえ、育成プログラムの途中で編成の変更など、人事が介入する際の工夫などはあるか伺いたいと思います。

三宅:

基本的にはチームにお任せしているのが正直なところではありますが、もちろん、異動によって物理的にサポートが難しい環境になっているような場合は、必ず変えてもらうようにしています。

また、相性が悪いというケースは実際にあります。新人からは言いづらいこともあるので、アンケートなどで拾い上げて、悩んでいる場合は個別にフォローして、別の上司や部門ごとにいる育成責任者と相談をします。変更される側もショックを受ける可能性がありますので、その点を見計らいながら、改善策について話し合っています。

尾形:

おっしゃるとおり、相性は大事です。指名したメンターにやる気がなかったら、新人にとっては不適応になってしまうなど、両方にとってマイナスになります。

ですから、相性を考える際には、メンターの資質はしっかり見極めなければいけません。よく、企業の方からは実現が難しいと言われるのですが、本来であれば、メンターは組織から指名するのではなく、新入社員自身が本当に尊敬できる人に対して、部署を問わずに「メンターになってください」と指名する方法が理想だと私は思っています。

斎木:

ありがとうございます。メンターマッチングのように、新入社員が自由にメンターを選んだり、先輩社員が新入社員とどう関わりたいかという、意味付けや目的、熱意などを尊重している企業もあるようです。また、メンターの側も、交流しながら不安を取り除いていくようなケースがあることが三宅様のお話からも分かりました。

最後に、「OJTの変化があるなかで、OJTの肝は何ですか?」という質問が寄せられていますが、いかがでしょうか? 新人が育つ職場を作るために重要なことに置き換えていただいても大丈夫かと。

三宅:

簡単で当たり前のことかもしれませんが、育てづらい環境であるからこそ、周囲の人が、新人・若手社員に対して興味を持って接することが大切だと思います。

尾形:

「Z世代だから難しい」「Z世代とどう接していいかわからない」と言われますが、大学で20年近く教鞭をとっている私の感覚からすると、1期生と現在の16期生の気質が大きく変わっているかと問われれば、それほど変化はありません。

世代の問題というよりは、むしろパーソナリティだと思っています。斎木様が登壇資料の冒頭で示した、Z世代の7つの特徴については、私自身にもすべて当てはまります。確かに、Z世代の特徴はあるとは思いますが、私はそんなに難しくないと思います。

やはり一番大事なのは、Z世代に限らず、どの世代ともしっかりコミュニケーションを取って、お互いを理解し合うこと。そこがすべてです。信頼関係はコミュニケーションからしか生まれません。

あとは、三宅様のお話にもあったように、現場への働きかけにかかっていると思います。人事の方はどんどん踏み込んでいいと思います。

とにかく協力してもらうことが大事なので、現場からトップも巻き込んで、さらには企業だけではなく、産官学連携のオールジャパンで、若い人を育てていかなければいけないと思います。

斎木:

ありがとうございます。やはり、決め付けないことがすごく重要であること。そして、生まれ育った環境が違うため、Z世代の価値観や特徴が出ているだけなので、ある特定の世代が良いとか悪いという話ではなく、どのような学生時代や新入社員時代を過ごしてきたのか。また、大切にしているものは何かといったことについて、対話を通して理解し合うことが重要なのだと私も思います。

まとめに入りますが、変化の激しい時代で、誰も正解を持ち合わせていないからこそ、「教えて育てる」教育から「共に育つ」共育へと変化しながら、お互いに成長し合うことが、これからのOJTの肝になってくるということが、尾形先生と三宅様のお話からは理解できました。改めて、本日はありがとうございました。

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