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健康経営銘柄SCSK株式会社に学ぶ!
健康経営実現に向けた取り組み

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「健康経営優良法人」認定も、様々な施策の外部評価指標として重要ですが、真に社員の心身の健康のための仕組みづくりや行動変容を目指していくには、何をどのように進めるとよいのでしょうか。
それを明らかにするため、2021年12月9日、先進企業であるSCSK株式会社の杉岡様を講師にお招きし、具体的な実践内容を学べるオンラインセミナーを開催しました。

こんな方におすすめ

  • 平等な学習環境を整備したい企業の方
  • eラーニングの導入を検討している担当者の方
  • 業務が忙しく教育施策に時間がさけない担当者の方

登壇者プロフィール

樋口 毅 氏
(ひぐち つよし)

  • 株式会社ルネサンス
  • 健康経営企画部 部長
  • 健康経営会議実行委員会 事務局長
  • 健康長寿産業連合会 健康経営ワーキング
  • 座長

杉岡 孝祐 氏
(すぎおか たかひろ)

  • SCSK株式会社 ライフサポート推進部長

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0:01:27

第1部

Ⅰ.健康経営の実現に向けて大切なことは?
0:12:23

第2部

Ⅱ.SCSKの健康経営~働き方改革から自律的な健康づくりへ~
0:35:59

第3部

Ⅲ.パネルディスカッション・質疑応答
0:20:25

セミナーレポート

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Ⅰ.健康経営の実現に向けて大切なことは?

健康経営の実現に向けて大切なこと

弊社では「生きがい創造企業」を企業理念に、スポーツクラブ事業以外にも、自治体の健康づくりや企業の健康経営のご支援等をしております。

本日のテーマである「健康経営の実現に向けて大切なこと」について、先に結論を申し上げると、「何をやるのか」ではなく、「なぜやるのか」が大切であり、各社で健康経営の価値について、どのような物語をつくっていくか、ということが重要です。以下に解説していきます。

最初に令和3年度の健康経営度調査の回答状況(12月1日の健康投資ワーキングにおける調査票の回答企業)は、大企業は2,869社で、前年に比べて346社、申請が増えています。特筆すべきなのは、コロナ禍においても中小企業における健康経営の取り組みが加速していることです。前年9,400社に比べて、1万2,849社と、前年よりも3,400社以上も増えており、健康経営の認知度が、とても高まっています。

「健康経営」という言葉は、私も理事を務めさせていただいているNPO法人健康経営研究会が登録商標を持っていますが、2021年7月に従来からの健康経営の定義を、深化版として「人という資源を資本化し、企業が成長することで、社会の発展に寄与すること」として発表しました。今までは、私たちの本来の意図ではない、「健康管理を戦略的に行う」ということだけが取り上げられていましたが、そもそもの健康経営の考え方を、経営戦略としての「人資本」への投資として、改めて位置づけました。

健康経営を推進するには、(図表1)のピラミッドの一番下にある「経営者の倫理観に基づく経営戦略」が最も重要です。それをベースに、「健康管理」「健康づくり」「働きやすさ」「働きがい」「生きがい」があり、ピラミッドの頂点にある企業の成長を、社会の発展につなげていくことが大切です。

従来の法令遵守やコスト改善を目的とする「健康管理」から、いかにして社員、会社、社会の発展を目的とする「人資本」にシフトするのか。ここでは「病気の改善や、病気にならない」ことの健康課題の解決ではなく、「働きがい」、「生きがい」も含む、新たな健康価値の創造への投資がポイントとなっています。

図表1 健康経営を推進する上で大切なこと
図表1 健康経営を推進する上で大切なこと
「人が資本」の経営戦略が求められる

VUCAの時代と言われますが、先が読めないビジネス環境のなかで、人が資本であるという考え方を改めて重視する企業が増えてきているという実感があります。新しい改革を行うための原動力は、全て人の意識・信念・知識から生まれます。最近、流行りのDXも結局は人資本としての成果物であり、人への投資を通じて新たな企業価値が創られるのです。

従来、企業は人・モノ・カネという経営資源を使いながら成長してきましたが、既にモノやカネに関しては、コモディティ化が始まっています。特に健康経営においては、人はコストではなくキャピタル、つまり資本に変えていくという考え方がとても大切です(図表2)

たとえば、健康診断を投資と考える場合、「法律で定められているから」という理由だけで実施するのであれば、単なる法令遵守コストとなります。改めて、なぜ健康診断を行うのか、健康診断を行うことで従業員にどうなってもらいたいのか、ということを、「人資本」への投資という観点から考えることで、初めて健康診断に投資価値が生まれます。

また労働生産性についても、従来は、分母の時間あたりの労働投入量としての人、つまりコストをどれだけ抑えるかという点が、働き方改革の考え方の主軸になってきたのではないでしょうか。しかしどんなにコストを削減しても、分子の付加価値を高めることができなければ、会社の存続自体が難しい。そう考えると、付加価値を高めることができる「人」への投資の大切さが理解できます(図表3)

図表2 従来の経営資源とこれからの人的資本価値
図表2 従来の経営資源とこれからの人的資本価値
図表3 労働生産性の捉え方が変わる
図表3 労働生産性の捉え方が変わる
会社と社員、会社と社会の関係性の変化

加えて近年、SDGsやESG投資に企業が取り組む背景には、会社と社会の関係だけではなく、社員と社会との関係性において、会社の経営をどう位置づけるのかが問われる状況になってきたことも挙げられます。エシカル消費(倫理的な消費)という言葉を最近よく聞くように、普段は消費者である社員の「使う責任」としての視点が、自社の商品を「つくる責任」に大きな影響を及ぼすようになってきています。

例えば、テレビCMや商品紹介で、オーガニックコットンという言葉を耳にするのは、従来のコットンが、製造される過程で、枯葉剤の散布等による農人の健康被害や、児童の強制労働等の問題を生み出していることに目が向けられるようになってきたことが要因だと考えられます。

このように、自然環境や社会に対しての責任を果たしているか、また、消費者や社員を大切にしているかといった、その企業の経営姿勢が、顧客は勿論のこと、自社社員を含む労働市場においても、評価の対象として求められるようになってきているのです。

よって企業経営においては、会社と社員の存在意義(パーパス)を一致させるためのイズムとしての経営戦略が一層に大切になってきています。両者が一致しているのであれば、社員自らが生み出したいと思う成果は直接的に業績向上につながります。結果として、自ずと、人を中心とした仕事づくりという視点が生まれてきます。

健康経営の観点で掘り下げて考えれば、健康経営度調査票の項目になっている「経営理念・方針(経営者の健康経営宣言)」「組織体制の構築」「制度・施策の実行」「取組を評価する」という順番で実行することが望ましいでしょう。残念なことに、健康経営に取り組む企業の中でも、経営の戦略として「なぜそれに取り組むのか」よりも「何をどうするのか」、特に法令遵守等の観点から、本来であれば手段としての健康管理が目的化され、ここにのみ力点を置いた取り組みが多くみられます。「なぜそこに向かうのか」について、理念や方針が共有し、課題解決だけの視点だけではなく、価値創造の視点から健康経営に取り組む企業が増えていくことを期待しています。

健康経営度調査の質問項目でいえば、Q18 、Q36 、Q70の項目が、健康経営を進める物語と連関していて、1つのストーリーになっていてしかるべきなのですが、ここがバラバラになっている企業が多く見受けられますので、改めてご確認いただきたいと思います(図表4)

図表4 健康経営事業のつくり方
図表4 健康経営事業のつくり方

優れた企業にお会いする度に、あらためて、「なぜ健康経営が必要なのか」「なぜ人資本への投資を行う必要があるのか」といったように、「なぜ」という問いの大切さを実感します。素晴らしい、企業には、この「なぜ」に対する答えが、その企業の文化(イズム)として必ず存在しています。

SCSK社は、素晴らしい企業文化をお持ちの会社です。本日は、人資本としての健康経営に、SCSK社がなぜ取り組むのかということについて、ぜひお話をお聞きしたいと思います。

ではバトンをSCSK社の杉岡様にお渡しします。よろしくお願いいたします。

Ⅱ.SCSKの健康経営~働き方改革から自律的な健康づくりへ~

IT業界ならではの長時間労働の改善がきっかけに

SCSKは、従業員数は単体で約8,000人、グループ全体で約1万5,000人おり、コンサルティングからシステム開発まで、様々な領域でITサービスを展開しています。2011年10月に2つの会社が合併し、SCSKという会社が設立しました。その合併の際に、「夢ある未来を共に創る」という経営理念を定めました。健康経営はこの経営理念をベースにスタートしています。

合併当初、IT業界の課題は長時間労働でした。男性も女性も残業や休日出勤が当たり前でした。世の中の情報システムは24時間365日稼働していますが、保守やシステムの切り替えはお正月休みやゴールデンウィークといった長期休暇の間に行われることが多く、そういうタイミングも仕事をしなくてはなりません。また、夜間の問い合わせをはじめ、様々なサポート、フォローも必要です。よって、夜遅くまでいる社員、休まない社員が優秀な社員であると評価される風潮があり、休みがとりづらい状況でした。さらに、優秀な技術者が難しい仕事を一人で抱え込んでしまうことから、ジョブローテーションが難しいという背景もありました。

そうしたなかで、高い業務品質、多様な能力発揮、創造性が必要という観点から、抜本的な取り組みが求められ、まず働き方改革の取り組みがスタートしたのです。

ステップ1 働き方改革

そういう背景があり、我々は2013年から働き方改革に取り組みました。働き方改革というと、残業削減のイメージが強いと思いますが、当時の経営トップは、夜遅くまで働く社員、不夜城と化す会社で果たしてクリエイティブな仕事ができるだろうか、という疑問を抱いていました。社員が心身の健康と仕事へのやりがいを持つことができ、最高のパフォーマンスを発揮してこそ、お客様の感動につながる最高のサービスができます。だから残業削減や有給休暇の取得をまず推進したのです。

このタイミングから「健康」というキーワードが出てきます。まさに働き方改革を含めたSCSKの健康経営がスタートした瞬間でした。株主の満足度優先ではなく、まずは社員の健康を高めていくという順序が大切だと思います。健康が高まれば社員満足度も高まり、ひいては仕事の品質も高まる。仕事の品質が高まれば、お客様に対して最高のサービスが提供できる。お客様の満足が上がれば結果的に売上、利益が確保でき、株主にも満足していただけるような好循環を作り出す。このような思いを抱いていたのです。

今、健康経営に取り組んでいる会社の中には、株主に配慮しているところもあるかもしれませんが、SCSKでは社員の心身の健康がまずスタートだと、健康経営を定義したのです。

スマートワーク・チャレンジ

具体的には、働きやすい職場づくりに向けた意識改革と改善活動の定着化を始めました。残業時間を月間平均20時間以下、年次有給休暇の取得日数20日間。この「20」をもじって「スマートワーク・チャレンジ20」と名付けました(図表1)

図表1 働き方改革 ~残業削減、有給休暇の取得
図表1 働き方改革 ~残業削減、有給休暇の取得

ちなみにネーミングはとても大切です。当時の経営トップに、人事サイドからは、年間労働時間2,000時間を切ることを目標にしたいと提言しましたが、経営トップからは「2,000時間という目標を言われて、あなたはすぐにピンときますか」と問われたそうです。そこで、わかりやすいネーミングが必要だと、月間平均残業時間と年次有給休暇において「20」という数字が設定されたのです。当時、私は人事ではなく従業員の立場でしたが、目指すべき目標がとても明確なネーミングだと感じました。

その結果、徐々に残業時間は減り、2014年度には20時間を切るという目標を達成しました。さらに有給休暇の取得日数も、19日ないし18日といった90%を超える数字になりました。合わせて営業利益については、2011年の合併以来の増収・増益です。残業、有給休暇、そして生産性含めた営業利益を上げていくことができたと自負しています。

ただし、まだまだ課題はあり、コロナ禍を踏まえて2019年度は有給休暇取得率が88.7%に低下し、残業時間も21時間へと少し増えてしまったという事実があります。リモートワークが増え、コミュニケーションの難しさが現れたものと考えています。

ちなみに取組開始当時の経営者は、いったんは売上も利益も下がることを覚悟して、そのことをメッセージとして全社に向けて発信しました。一度リセットして健全な働き方になれば、必ず売上も利益もついてくるはずだという信念をもって取り組んだのです。そういった経営者の覚悟も重要ではないかと考えます。

スマートワーク・チャレンジが成果につながった重要なポイントとしては、まずトップの強い旗振りです。目的や方向性を常に共有するという意味では、週一回の役員会で毎回、当時の経営トップは20分ほどの談話を設けていました。本来、役員会は営業上の共有事項が議題になりますが、なぜ働き方改革や健康経営を行うのか、それがなぜ重要なのかについて繰り返し発言されたのです。それは目の前の役員に向けてのメッセージでしたが、それを通じて社員への腹落ちや理解も目論んでいました。

経営企画部は、この経営トップの談話を文字起こしして社内の掲示板で発信しました。最初は要点の箇条書きでしたが、最終的には全文が掲載されるようになりました。経営者の生の声が毎週掲示され、それを社員が見る。繰り返し発信することで、本気度を示す。そういう旗振りが重要なのです。経営トップだけではなく、部長・課長のミドル層を起点として、メンバー全員への周知も行われました。

スマートワーク・チャレンジでは、有給休暇をセットにしたところもポイントです。残業削減だけならば、なんとか力ずくで実現できるかもしれませんが、有給休暇の20日取得となると、実質的には1カ月間近く休みになります。自分の部下が約1カ月間いないとなれば、属人化しない仕組みに変えないと立ち行かないため、各ミドル層が考え、様々な業務分担に着手したのです。

我々人事部門の役割も重要でした。残業削減、有給休暇取得状況についての数字を見える化して毎月の役員会で提示しました。さらには、各コーポレート部門、特に広報・IR、経営企画と連携し、社内外に様々な情報発信をしました。こうした地道な活動が成果に結びつくまでには、3年以上の時間がかかったと思います。

ステップ2 心身ともに健康な職場へ 健康経営の取り組み

図表2は、働き方改革の3つの取り組みです。スマートワーク・チャレンジのほか、健康増進施策として「健康わくわくマイレージ」を2015年から取り組んでいます。「どこでもWORK」はリモートワーク推進です。今では当たり前かもしれませんが、本格的には2016年から取り組みを開始し、コロナ禍においてもスムーズにリモートワークに移行できました。

図表2 “働き方改革” 3つの取り組み 2015年~
図表2 “働き方改革” 3つの取り組み 2015年~

健康関連施策の展開については、健康増進、健康管理、健康リテラシーの向上というように、いくつかのカテゴリに分けて取り組みを実施していきました(図表3)

図表3 健康関連施策の展開
図表3 健康関連施策の展開

もう一点、重要なのは、2015年10月に就業規則に健康経営の章を新設し、会社と社員の相互協力を明文化したことです(図表4)。経営トップが変わってもこの「健康経営の理念」が変わることはありません。

さらには、禁煙や受動喫煙の防止に関しても就業規則で明言しています。

図表4 就業規則に「健康経営」
図表4 就業規則に「健康経営」
健康わくわくマイレージ

健康増進施策として、健康に良い行動習慣の定着と健康診断の結果の良化を図ることを目的とした取り組みが「健康わくわくマイレージ」です(図表5)。行動習慣の目標としての活動量、つまりウォーキング、睡眠、アルコール、食生活改善といった取り組み、そして月間や年間などの目標などを通じた行動習慣の定着を図っています。健康診断結果は全部で5項目あり、これらの結果の良化をポイント化し、個人インセンティブを支給するものです。定期健康診断の期間内の受診や、再検査受診報告や特定保健指導の対応などを判定基準に加え、最終的にインセンティブを支払います。

なお役員の取り組みは、2019年までは、「わくわくマイレージ」ではなくて「どきどきマイレージ」としていました。わくわくマイレージは、やった分だけポイントが貯まり、翌年度の6月賞与にインセンティブという形で還元される仕組みです。しかし役員の場合、自身の健康の悪化は経営上のリスクになり得ます。よって、きちんと取り組まないとペナルティを課すという、「どきどきマイレージ」として実施しました。実際にマイナス、すなわち罰金を払わなくてはならないケースもあり、それだけ本気の施策でした(ある程度定着したため、現在は実施なし)。

図表5 健康わくわくマイレージ
図表5 健康わくわくマイレージ
定期健康診断

インセンティブ支給基準に「定期健康診断、事後措置への対応」も加わりました(図表5)。これは2019年度から追加されました。私たちは、再検査の受診や特定保健指導の実施率・完了率が低いことを課題だと捉え、健康診断を100%受診することはもとより、これら事後措置に関してもすべて完了することを目標に、この仕組みをインセンティブの中に組み込みました。再検査受診報告並びに特定保健指導に対応しなければ、インセンティブは支給されないというメッセージです。結果、受診率は大幅に改善しました。

よく周りの皆さんから、「SCSKさんはお金で釣るのですね」と言われますが、これはある意味、事実です。ただし、インセンティブを増やし続けるという考え方に関しては否定的です。きっかけづくりという意味でインセンティブは必要だと思いますが、それを継続させるためにはまた別の施策が必要だと理解しています。

現段階で言えるのは、健康であることを実感し、それが仕事にも私生活にもプラスに影響すると感じられる状況をつくることです。それは、「心のインセンティブ」という言い方もできると思います。

行動習慣の変化(図表6)

長年の取り組みの中で変化として感じているのは、自律的な行動が起きていることです。各社員は「なんとなく歩いていない」ではなく、「何歩歩いてない」というように各自が定量的に把握しており、毎日の歩数は、2019年度の平均は9,675歩でしたが、コロナ禍の2020年4月の平均は7,000歩を切っていました。これを見て社員は、運動していない、歩いていないと実感し、10月には平均値8,000歩までに回復しました。健康リテラシーの高まりが、自律的な行動につながっていると感じています。

図表6 健康わくわくマイレージ ~行動習慣の変化~
図表6 健康わくわくマイレージ ~行動習慣の変化~
意識の変化とインセンティブ

2020年度までの実質的な参加者数、参加率、そしてインセンティブの一覧について、わくわくマイレージが始まる前の2014年度と比較すると、2020年度までに大幅にポジティブな効果が表れていることが見てとれます(図表7)

「自分が健康を意識して維持していくことが、自分と家族の幸せにつながると実感している」というアンケートに対し、14年度では10.8%ネガティブな回答をしていましたが、20年度では大幅に減り1.6%になりました。

インセンティブの原資は、1億円程度です。働き方改革として残業時間を20時間以内という目標を立てたと話しましたが、残業時間が減れば会社としての支出が減ります。その浮いた残業代を営業利益に加えるのではなく、社員に全員に還元したのです。その額はおおよそ10億円でした。そのなかの1億円程度を健康わくわくマイレージのインセンティブに振り分けたのです。残りは、裁量労働制を適用拡大など、様々な取り組みに組み込みました。より良い行動をした人に対してよりを多く還元する仕組みになっています。

ちなみに「スマートワーク・チャレンジ」を開始した1年目は、浮いた残業代をインセンティブとして支給しました。その額は10万円を超えるケースもあったのです。これに対して2年目以降は、最高額が3万円台となりましたが、この違いはインセンティブをクリアした人が初年度だけ低く45%だったからです。当初、一人当たりのインセンティブの額を3万円程度と試算してスタートしましたが、参加率が低いので、半分以上が使われないことが途中でわかりました。その際、原資も半分にするのではなく、組織的な取り組みに対してもインセンティブを支給するよう設計変更を行い、予算をすべて還元することにしました。そういう背景で、1年目は最高額として10万円を超える人が出たというわけです。

すると、社内がざわつき、「あの人、10万円もらったらしいよ。やらなきゃ損だよね」という話になり、皆がやり始めたのです。結果的に翌年度は70%を超える達成率となり、予定していた3万円程度に落ち着いたのです。

図表7 健康わくわくマイレージ ~取り組み実績~
図表7 健康わくわくマイレージ ~取り組み実績~
「健康わくわくマイレージ」推進にあたってのポイント

施策推進にあたっては、まず社員の心に訴える経営トップのメッセージが重要です。さらに、組織的な取り組みも重要です。浸透がなかなか進まなかった初年度は、積極的に取り組んでいる組織にインセンティブを与えるなど、組織的な側面でのアプローチを行い、社員の参加意欲を高める仕掛けを行いました。

健康リテラシーを高めるためには自分自身で考え、自律的に行動することが大切であるため、eラーニングや健康マスター検定の受検促進などの取り組みもサポートしました。

人事の役割としては、情報の見える化や就業規則への理念の明文化、そしてコーポレート部門(広報・IRのほかにサステナビリティ推進部など)への連携も重要だと考えています。

さらにはスマートワーク・チャレンジの成功体験をもとに、様々な情報発信をしました。わくわくマイレージを通じて「歩こう」「朝ごはんを食べよう」などと働きかけていると「そんなことを会社に言われたくない」という反発も一部ありました。しかし、残業削減と有給休暇の取得推進の実現を通じて、心身ともに楽になったと実感した社員から、健康わくわくマイレージについても、「騙されたつもりでやってみるか」という気持ちで取り組んでくれた人が徐々に表れたようです。そこを入口に、セミナー等で促していった結果、社員の健康リテラシーが向上していったと捉えています。

ステップ2.1 健康関連策の拡充

健康経営の取り組みは、「健康管理」「健康増進」という両輪と、それを支える「健康リテラシー向上」がベースとなります。そのうえで、心身の健康とライフの充実と働きやすさ・やりがいがパフォーマンスと創造性の発揮につながり、ひいてはお客様への貢献や経営成果となる。この好循環をサイクルとして回し、健康経営の理念を実現するための各種施策を実施しています。

健康に関連する主な相談窓口については、企業内クリニック、リラクゼーションルーム、さらにはカウンセリングルームなどを設けることによって様々な相談を受け付けています。

効果検証

効果の検証としては、年に1回、社内で健康に関するアンケートを実施しています(回答率95%)。ヘルスリテラシーが高い方が生活の質が高いことがわかり、さらに2020年度までの実績は図表8にあるとおり、朝食の摂取率、平日の身体活動実施率、身体活動の実施率、睡眠の質の高さに関して、質量ともに良い行動をとっている人の方がパフォーマンスの発揮度合いも高くなっています。

図表8 効果検証① 健康リテラシーとの関係
図表8 効果検証① 健康リテラシーとの関係

ヘルスリテラシーと睡眠、そしてワーク・エンゲイジメントの相関関係を表しているのが図表9です。このように、いくつかの項目で好転する、あるいは高い数字が出ているのは、健康経営の取り組みが社員や役員にとって良いものであったと実感できるものです。さらに、プレゼンティーイズム(健康の問題を抱えつつも仕事を行っている状態)の改善に関しても効果的だと実感しています。ただし、コロナの状況を踏まえると、ここが変動する可能性もあるので、今後も注視しながら取り組んでまいります。

図表9 効果検証② ワーク・エンゲイジメントとの関係
図表9 効果検証② ワーク・エンゲイジメントとの関係

コロナ禍における取り組み

新型コロナウイルス感染症の拡大による「ステイホーム」は、日々活動量(ウォーキング)の減少、プレゼンティーイズムの発生要因の変化、マネジメント層の労働時間の増加といった影響を及ぼしています。

ウォーキング歩数の平均値はいったん凹んだものの、徐々に回復しています。ただし、まだ道半ばのため次年度の施策を検討していますが、イベントなどを通じて活動量を増やしたいと考えています。今期は、情報開示や健康経営推進最高責任者からの働きかけやメッセージなども功を奏しています。

プレゼンティーイズムの発生要因の変化については、現在アンケートを集計・分析中ですが、健康上の問題や不調に関して先行してお伝えします。

コロナ前の2019年度までは全体的な疲労感が高かったのですが、コロナ禍の2020年は首や肩こり、腰痛、目の不調といったところが上がってきました。在宅勤務における仕事環境が不調の原因になっているように見受けられます。対策として、リモートワークをすると月々5,000円の手当てが支給される「リモートワーク推進手当」を活用して環境の改善を図ってほしいと伝えています。

今後については、経営理念「夢あるに未来を共に創る」という言葉とともに、スマートワーク・チャレンジ、どこでもWORK、健康わくわくマイレージ推進による好循環サイクルを通じて、最終的にウェルビーイング経営を目指してまいります。

従業員が心も体も健康な状態でパフォーマンスを発揮し、お客様の満足度を高めていく。そのサイクルをさらに高めていく取り組みを継続していく所存です。

ご清聴ありがとうございました。

Ⅲ.パネルディスカッション・質疑応答

樋口(進行):会場の皆様からのご質問で、まず杉岡さんにいくつかご回答されたいものをお選びいただきたいと思います。
杉岡:

承知しました。ではまず、「SCSKの産業保健スタッフ数、構成と主な活動内容を知りたい」というご質問にお答えします。

私どもは東京が中心ですが、大阪、名古屋、福岡などにも拠点があり、7名の産業医と5名の看護職が分担して対応しています。

主な活動としては、健診の事後フォロー、各種健康相談や面談、休復職者支援、コラムの執筆、社員対象の健康セミナー講師などを少人数ではありますが効率的に行うことを常に考えながら取り組んでいます。

もう一点は、健康に関する社内アンケートを年に一回実施していますが、それについて「どのようなタイミング・方法で実施しているのか」というものです。

我々は、社内の仕組みを使いながら手作りで取り組んでいますが、95%という高い回答率を維持するためのノウハウに関しては、何度も催促するなどの地道な活動が実を結んでいるのだと思います。また、健康に関するリテラシーが高まっているので、積極的に回答してくれるという面があると考えられます。ただし、中には忙しくてなかなか回答できない方もいるので、メールで回答期限についてリマインドしています。

アンケート調査実施のタイミングは、毎年、夏を1つの目安にしています。季節については特に意味はないのですが、社内では健康に関するアンケートだけではなく、従業員満足度調査、コンプライアンス調査などがありますので、なるべく重複しないようにコーポレート内で調整しており、我々の健康アンケートは8月ごろに落ち着きました。

同じ方から、「プレゼンティーイズムのデータは何を活用されていますか」というご質問もいただいていますが、これは東大ワーキンググループで作成された「東大1項目版」というものです。これを活用して、どれだけパフォーマンスが発揮できているのかという主観的な回答を集めています。客観的にとるのはなかなか難しいため、主観的な感覚をきちんと把握したうえで分析・評価を行っています。

樋口:障がい者など、ウォーキングイベントに参加できない方々に対しては、どのような対応をされていますかという質問もいただいています。何らかの配慮があれば教えてください。
杉岡:

そこは配慮し、またフォローしています。たとえば、医者から止められていてウォーキングができないといった事情がある場合、「ウォーキング対象外」というフラグを立てたうえで計算するといった個別的配慮をしています。すべてやらなくてはいけないという考え方ではなく、やれることを一つでも多く実現していただきたいと呼びかけています。

なお、健康わくわくマイレージのインセンティブ集計の仕組みについて、何かシステムを使っているのかというご質問もいただいているのですが、IT企業でありながら、まだ表計算ソフトで管理しています。自動集計の仕組みを作りたいのですが、毎年仕様といいますか、取り組み内容が変更するので、手作業で対応が定着しています。

樋口:次の質問は、コロナ禍によるメンタルヘルスの不調者の増加についてです。身体活動量、歩数が減っていたり肩こりや腰痛を起こされたりという人が増えているというお話がありました。メンタル不調者への対応についてはいかがでしょうか。
杉岡:

ライフサポート推進部にはカウンセリングルームがあり、そこにカウンセラーが4名います。その4名が当番制で必ずどの曜日にもいる形になっています。相談については、コロナ前の1.5倍以上、2倍近くという形で増えています。相談の内容の詳細まではタッチできませんが、コロナ禍前後でどのような相談がどのくらいの数が来てるのかについては把握しています。

カウンセリングは、オンラインでも実施するようにしたところ、オンラインのほうが相談しやすい、離れた拠点にいるメンバーも相談ができる、という利便性がわかりました。カウンセラーは東京にしかいなかったため、コロナ禍以前は名古屋や大阪にその方々が月に1回出張していたのですが、どうしても機会が限られてしまいます。それをオンラインにしましたら、様々なメンバーが相談できるようになりました。

メンタルヘルス対策については、ストレスチェックなどを通じた分析を試み、また相対的にストレスの高い部署の部長職・課長職と改善できることはないかといった意見交換を行っています。健康相談室・看護職も、オンラインでいつでも相談できる環境を通じて、少しでも改善していきたいと考えています。

今後もテレワークが続く中で、オンライン環境でもセルフチェックという形で自分自身の気持ちの浮き沈みを定点的に観測し、それに気づくといった仕組みを2022年から実施できるよう、計画しています。

樋口:次の質問です。短時間睡眠該当率、休肝日実施率、飲酒過多該当率の定義と実際を教えていただけないでしょうか。
杉岡:

お酒に関しては、以前までは休肝日を設定すればポイントを付与していました。しかし、休肝日は設定しても前後の飲酒量が増えてしまうようでは意味がありません。休肝日の夜12:00越えれば翌日扱いになるのではという話も出ました。我々もどこまで律儀に答えるか迷いましたが、結局は「お任せします」とお答えしました。

その後、厚生労働省の指針で適切な飲酒量の提示があったので、必ずしも飲まない日を設定するのではなく、飲む量をきちんとコントロールしてもらうことにしました。現段階では、健康わくわくマイレージ上の飲酒の項目は「適量に抑えているかどうか」となっています。健康に関するアンケートでも、飲み過ぎの度合いを5段階で評価してもらっています。

短時間睡眠も休肝日と同様に5段階で評価してもらうことで、極端に振れていないかを確認しています。

樋口:最近よく、多くの企業にはミッションはあるけれどもパーパスがないと言われます。渋沢栄一さんの子孫の渋沢健さんによると、ミッションとは「What we do(何をどうするのか)」。そしてパーパスは、「why we do(なぜそれに取り組むのか)」です。SCSKさんの健康経営には、パーパスとは言わずとも、なぜそれに取り組むのかについての合意形成ができていると思いました。
まだたくさんの課題をお感じかと思いますが、最後に直近の取り組みも含めて、今後の健康経営への抱負についてお聞かせいただきたいと思います。
杉岡:

健康経営の取り組みは、まだまだ道半ばですし、完全なものではありません。また、毎年、新入社員や中途入社者も入ってくるなかで、理念をどう腹落ちさせることができるか。「SCSKらしい取り組みだよね」と、皆が同一の認識を持ったうえで取り組んでいけるかが重要です。それを支えるのはリテラシーですし、そのうえで我々の取り組みに共感してもらうことが必要です。こちら側が寄り添い、時間と労力はかかりそうですが、取り組みの継続も大事だと感じています。課題に対して、逃げずに立ち向かって改善する。その繰り返しが結果的にみんなをハッピーにするのだと思っています。

樋口:今後もまた、健康経営を良くしていくために何ができるのかについて、皆さまと一緒に考え、その議論には杉岡様にも加わっていただきたいと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。
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