過去の「J.H.倶楽部会員」限定セミナーのレポートです。

J.H.倶楽部会員セミナー

〜富士通キーパーソンが語る!〜
ジョブ型を成功させるキャリア自律と学びのデザイン
2021/12/8 オンライン

2020年4月から国内グループの管理職約1万5,000人を対象にジョブ型人事制度を導入し大きな話題をよんだ富士通。制度設計や運営に携わった組織開発部長の伊藤正幸氏を迎え、2021年12月8日にセミナー「ジョブ型を成功させる キャリア自律と学びのデザイン」を開催しました。
ここでは本講演の一部をレポートと動画で紹介します。聴講者からのリアルな質問にも答えるQ&Aもぜひご覧ください。

ダイジェストレポート(↓ どちらかをクリックしてください ↓)

セミナー映像

目次

項目ごとに「動画」もしくは「記事」(セミナーレポート)がご覧いただけます。
※動画は第2部「質疑応答」のみ

セミナー映像

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項目ごとに「動画」もしくは「記事」(セミナーレポート)がご覧いただけます。
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富士通の目指すパーパス経営と理念

本日の全体のストーリーですが、富士通が何を目指しているかと、その実現に向け、どう変革をしているのかをお話しします。その変革中の1つが人材マネジメントであり、順を追って具体の話をしてまいります。

本題に入る前に、富士通の紹介をさせていただきます。我々はグローバルにテクノロジーソリューションを提供している会社です。富士通と聞くと、パソコンやスマホなどをイメージされるかもしれませんが、テクノロジーソリューションサービスで約8割の売上収益を上げています。

従業員数は日本国内に8万人、海外が5万人です。我々の部署の担当は国内が主となりますが、海外で適用されているグローバルスタンダードを日本にも根づかせようと取り組んでいます。

2019年に時田(隆仁社長)が就任した際、「IT企業からDX企業へ」というメッセージを掲げました。この言葉には、単にAIやデジタルを活用する会社ではなく、自律した強い個をつくるとともに、常にトランスフォームしていく、というメッセージが込められていると捉えています。

DX企業を目指し、掲げたのが「わたしたちのパーパスは、イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくことです。」というパーパスです。我々は今、このパーパスを中心に据えたパーパスドリブン経営を実践しています。

パーパスの実現に向けては、「挑戦」、「信頼」、「共感」という3つの大切にする価値観がベースの「Fujitsu Way(図1)」を繰り返し伝え、浸透を推進しています。

図表1 Fujitsu Way 図1 Fujitsu Way

ポイントは、「挑戦」が一番上に来ている点です。富士通は「人が資産」の企業ですが、会社が変わるためには人が変わらなければなりません。答えのない、変化の激しいビジネス環境において自ら問いを立て、お客様と一緒に考えていく姿勢が問われているのです。

DX企業に向けた変革 ~ジョブ型人材マネジメントの導入

私が所属する人事部門は、「社内外の多才な人材が俊敏に集い、社会の至るところでイノベーションを創出する企業へ」ということを、富士通社員の在りたい姿として掲げています。自らチャレンジする自律性を大切にしながら、組織の壁を越えてコラボレーションする。また、多様な人材が揃うダイバーシティ組織であることも重要です。

この「在りたい姿」を実現するために、ジョブ型をはじめとした人材マネジメントのフルモデルチェンジに取り組んできました。

そのために大切にしていることが3つあります。すべての社員が魅力的な仕事に挑戦できる「チャレンジ」、多様・多彩な人材がグローバルに共通する「コラボレーション」、すべての社員が常に学び成長し続ける「ラーニング&グロース」です。

そのうえで、チャレンジを後押しするジョブ型の報酬制度、事業戦略に基づいた組織デザイン、事業部門起点の人材リソースマネジメント、そして自律的な学び/成長の支援という4つの柱の連動を意識しています。

戦略ありきの人材リソースマネジメント

ジョブ型人材マネジメントを進めるうえでのベースラインは、まず評価や報酬制度の改革です。これまでは「人」が起点でしたが、「職責」を基準とした評価に変わりました。以前はメンバーシップ型とジョブ型の間のような形でした。2020年にジョブ型に変えましたが、変えるためにはそれなりに準備期間があったということです。年功序列やアサインメントからなかなか抜け出せなかったのですが、時田の「DXやパーパスを実現するためには、やはり戦略に基づいた人の配置をしっかりと行う必要がある」という強いコミットメントから、ジョブ型に大きく舵を切ったのです。

大きく変わった点は2つあります。まず、パーパスと事業戦略を起点にした組織づくりです。戦略を実現する組織に必要なジョブ、役割、スキルについて見定めていきました(図2)。

図2 ジョブ型人材マネジメントとは 図2 ジョブ型人材マネジメントとは

これは人ありきの「適材適所」ではなく、戦略ありきの「適所適材」の組織設計を意味します。つまり、まず戦略に基づく組織設計があり、仕事があって、その下に人がついていくというイメージです。適切な人が自組織内にいないのであれば、ポスティング(公募)や外からの充足を行います。

このことによって、社員は自律的にキャリアをしっかりと描き、ポストにチャレンジしていく姿勢が求められるようになりました。

また、戦略を実行したくても、事業部門には人材リソースに関して権限がないといった話をよく聞きます。富士通には60から70の本部があり、これまで人事部門が統制的な配分や管理をしてきましたが、このやり方だとスピーディに人を採用したり登用したりできません。そのため現在は、本部に権限を委譲しています。ただし、すべてを本部任せにするのではなく、人事部門が部門長、本部長のHRBP(HRビジネスパートナー)としてサポートしています。

何度チャレンジしてもいい「ポスティング制度」

もう1つのポイントがポスティング制度です。これまでは会社や業務、そして本人の成長を考えて配置転換やジョブローテーションを行っていましたが、「適所適材」を考えた結果、自組織内だけで人材を賄うことが難しいことがわかりました。そこで、ポスティングを大幅に拡大しました。これによって、単一組織のときでは考えられなかった人材の流動性や多様性の担保につながりました。

富士通グループは年間で約800名の幹部社員が登用されますが、この登用に関しては全員一斉のポスティングによるチャレンジになっています。ポスティングに関しては何度チャレンジし、失敗してもOKとなっています。

人事部門としては自分のキャリアや成長を考え、上司と相談したうえでチャレンジしてほしいと考えています。ただし、上司に相談すると引き留められることもあるので(笑)、上司に相談しなくてもチャレンジできるようにしています。

さらにポスティングには、年齢問わず誰でもチャレンジできることもポイントです。グループ間を越えてもいい。ある新人に「来年、幹部社員の登用にチャレンジできるのでしょうか」と聞かれましたが、もちろんチャレンジできます。2年目でもジョブにマッチすれば幹部社員になるチャンスがあるのです。

去年の随時募集のポストに対するポスティングは自分たちの部門(BU)外から、あるいはグループを超えて応募してくれた人もいました。富士通本体にばかり応募が集中するのではないかという懸念もありましたが、本体からグループに応募した人も多くいました。グループ内には専門的な仕事をしている会社があるので、そういうところで力を発揮したい、あるいは今の仕事と目指すキャリアが合わないといった事情もあったのだと思います。

今後は人材の流動性、あるいはビジネス戦略の成功という観点から、年間約5,000人が常に自分の目指すキャリアやポストに挑戦している状態を目指したいと思っています。また、グローバルのポストにもチャレンジしてほしいと考えています。

ジョブ型は自律と信頼をベースにして成り立つ

ジョブ型人材マネジメントフルモデルチェンジに対し、私が所属するEngagement & Growth統括部では次の8つのアプローチを掲げています。

 ①経営目標を変える(非財務指標を変える)
 ②評価制度を変える
 ③報酬制度の在り方を変える
 ④アサインメントの在り方を変える
 ⑤学び方を変える
 ⑥組織マネジメントを変える
 ⑦仕事の型を変える
 ⑧働き方を変える

これらのすべての施策を連動させながら、「人を変える」取り組みをしています。どれか1つだけに取り組むのではなく、パーパスを中核に一貫性のあるアプローチを、多様に部署と協働しながら進めているのです。

ジョブ型人材マネジメントで重要なのは、自分のキャリアに対して責任を持つという「キャリア自律」の考え方です。従来のメンバーシップ型だと、社員のキャリア、成長、昇格・異動といったものすべてが会社から「与えられて」きました。この形だと、戦略実現のスピードも遅くなってしまう。これからは、自らが手を挙げて次のポストに挑戦していく。その挑戦に関しては自分で責任を持つ。そういうマインドを持ってほしいと思います。

そうしたなかでは、会社と社員の関係も変わっていくでしょう。キャリアに対してしっかりオーナーシップを持った社員に対しては、魅力的な成長な場という機会を提供する。それによってお互いの目指す姿、パーパスを実現し、新しい価値を創造していく。自律と信頼をベースとして、お互いが成功に向けて歩んでいく。そんな関係性を築いていかなければなりません。

会社としては、「社員の方々から選んでもらえる」「魅力的な」会社であるために、社員に対して何ができるのかを考えていく。それが言葉だけではなくて、きちんとできている状態をつくることが「信頼」なのだと思います。

なお、ライフの状況を鑑みて職責を全うできそうにないときは、横に異動したりランクを下げたりしてもいい。何年かしてフルで働けるような状況になったら、また上の職責に戻れる——このようにライフとのバランスを考えて多様なチャレンジができる仕組みになっています。

自分のライフやパーパス、目指すキャリアが変わったときには、違う会社に行っていただいても構いません。また戻ってきてもOKです。そのためにアルムナイを組成したり、カムバック制度を整備したりしています。

全社員に「キャリアオーナーシッププログラム」を提供

学び方を変え、自律的なキャリア形成を支援するために、キャリアオーナーシッププログラムとチャレンジ・成長機会(ポスティングの拡大)の提供を行っています。ポスティングはややハードルが高いと感じる人に対しては、ジョブチャレンジ(通称Jobチャレ!!)を推奨しています。これは社内インターンのようなもので、3カ月ほどの短期間、他部署の経験ができます。これらに加え、キャリア戦略を考えるためのキャリアメンターやキャリアトーク、キャリア診断サービスの提供、システムを介してジョブをレコメンドするといった支援も行っています。

キャリアオーナーシッププログラム(FCOP)は社内の意識調査などのデータをもとに、各世代別に陥りやすいキャリア意識や、意識改革が必要な部分を導き出し、全社員に対して実施しています。

まず、基礎知識として、富士通のキャリアに対する考え方や会社の変化について学ぶeラーニングコンテンツ「富士通におけるキャリアオーナーシップ」を全社員に提供しています。

また、2年目、30代、40代、50代、60代を対象とした、年代別のオンラインワークショップ「キャリアCafé」を実施しています。その名の通り“対話”を重視したものです。参加者が中心となって自分のキャリアに対する考え方をお互いに共有し、気づきを得てもらいます。今後はキャリアに対する悩み別のワークショップなども提供していきたいと考えています。

●会社主導から、社員の自律的な学び・成長の支援へ

ジョブ型人材マネジメントの導入に伴い、人材育成方針の見直しを行いました。会社主導の教育から、社員の自律的な学び・成長の支援へ。全社一律な対応から、個にフォーカスするため、従来の階層別研修の廃止を行いました。

階層別研修の廃止と言いましたが、今まで昇格者だけが対象となっていた研修を、いつでも・どこでも・誰でも受けられる形にリニューアルしたという意味です(図3)。自分の目指すキャリアを考えて、受けるべきものはどんどん受けてほしいという考え方です。

図3 育成体系 図3 育成体系

専門的なスキルに関しても同じです。富士通には技術者を対象とした育成のための枠組みがあったのですが、それだと一人前になるまでに時間がかかってしまう。学生時代にすでに学んだこともあるでしょう。それよりも自分が必要としているときに必要なことを学べて、早くキャリアやスキルを高められるような仕組みに変えたのです。これによって、若い社員の学びが促進されたのはもちろん、幹部社員が新任幹部社員向けの研修を学び直すなどの行動が見られ、あらためて必要な時に必要な学びを提供することの大切さを感じました。

とはいえ、会社が大切にしている価値観に関するものや、先述したキャリアオーナーシッププログラム、DXや変革に関することは、全員必修として残しています。また、これらはステイブル(固定)にするのではなく、戦略に応じて中身を柔軟に変えられるようにしています。

自律的な学びを支えるプラットフォーム

「いつでも・どこでも・誰でも学べる」を担保しているのが富士通ラーニングエクスペリエンス(通称FLX)というプラットフォームです(図4)。

図4 On demand型教育プラットフォーム(FLX) 図4 On demand型教育プラットフォーム(FLX)

このプラットフォーム上では、ビジネス・ITスキル研修が上司の承認なしで受けられるほか、提携する外部の学習動画コンテンツも見放題です。加えて、「いいね」やコメント機能、人事DBと連携し、一人ひとりの属性やキャリアに合わせた学びのコンテンツをレコメンドする機能も実装しています。本人が学びたいときに学べる状態をつくることで、学びの機運を「しらけさせない」ように設計しています。

また、2週に1回ほど、社内の実践知動画(Edge Talk)を配信しています。たとえば「富岳」の開発者による約20分のプレゼン動画などがあります。富士通は大きな会社なので、同じ会社でも他部門の人の話を聞く機会がなかなかありません。社内の知見を動画化し、配信することで、目指すべきキャリアや身につけるべきスキルについての気づきを得てほしいと考えています。

組織マネジメントを変える取り組み

個人のキャリア形成は各自で考えていく必要がありますが、上司からの成長支援も大事です。そのためにも、組織マネジメントを変える取り組みを行っています。

私もそうですが、「ミドルマネジャー」は大変な立場だと思います。富士通ではソリューションが多様化・高度化するなかで、多様な部下を抱え、コンプライアンスなどのリスクも増加しています。働き方も変わり、テレワークでは、自分の部下の働きに疑心暗鬼になることもあるのではないでしょうか。さらにジョブ型への転換もあります。ミドルマネジャーは、そういった状況でもしっかりとマネージしていかなくてはいけないのです。

弊社では2018年度から「職場マネジメントアンケート」を実施しています。きっかけは、評価への疑問です。これまで上司からの一方的な評価だけでしたが、それだけでは実態がわからないという意見があり、部下を対象としたアンケートをとりました。アンケート項目は、マネジャーに求められるコンピテンシーを5つのカテゴリに分類した15問程度のものです(カテゴリは変革力・実行力・職場マネジメント力・人材育成力・人間力)。

結果、「自分のマネジメントに関して振り返ることができた」「忌憚のない意見を部下から聞くことができた」「自分から変わる必要がある」といった声が上がる一方、「自分の短所はわかったが、そこを直すためにはどうすればいいのか」といった声も聞かれました。

優れたマネジャーの特徴を可視化

その声に対応するために取り組んだのが、FMD(富士通マネジメントディスカバリー)です(図5)。これはテクノロジーソリューション部門に協力を仰ぎ、400名のマネジャーとその部下2,000名のアンケート結果から、優れたマネジャーの行動を分析し、見える化したものです。縦軸に成果評価を、横軸には職場マネジメント調査の結果をとり、その評価を分析した結果、優秀形、ストロング型、空回り型、迎合型という4象限を導き出しました。

図5 FMD(Fujitsu Management Discovery) 図5 FMD(Fujitsu Management Discovery)

ストロング型はフィードバックを受け入れず部下の意見にも耳を貸さないタイプで、高い成果を上げるけれども再現性・連続性は弱いという傾向がみられました。優秀型は常に高い技術を追い求めたり自分の専門性を向上させたりしているタイプです。同じエンゲージメントが高い迎合型と優秀型の差は、トラブルがあっても矢面に立って逃げない気持ちがある、常に高いレベルでの成長を目指しているということです。

また、優秀なマネジャーの特徴は、「ビジョン発信×コーチング型」のマネジメントをするタイプであることがわかりました(図6)。チャレンジしやすい風土をつくり、心身ともに明るく前向きに取り組むことができる、常にビジョンを熱く語れるリーダーです。また、任せて見守るタイプも当てはまります。

図6 優れたマネジャーの特徴 図6 優れたマネジャーの特徴

このような分析に基づいて、自分が4象限のどこにいるのかというマネジメント診断サービス、またソーシャルスタイル診断を組み合わせて、その方はどのタイプに当てはまるのかを診断し、どういうマネジメントスタイルに変わっていくべきかという診断を行いました。

診断結果は、SEさんや開発さんに寄り添う形でのフィードバックになるよう心掛けました。診断を受けていただいた方からは、「参考になった」(94%)というポジティブなメッセージをいただいています。

1on1ミーティングの導入

次に取り組んだのは、1on1です。優秀マネジャーの特徴はコーチング型でありました。また、富士通では非財務指標として、エンゲージメントを掲げています。グローバル企業と同じベンチマーク「75」に向けて高めていきたいと考えています。2019年度が「63」という数字でしたので、まだまだ乖離が大きいのですが、これを引き上げるために、1on1を導入しています。会社が大きく変わろうとするなかで、社員にもその気持ちがなければ変化は起きません。社員に「変わらなくてはいけないんだ」という気持ちにさせるのは、普段ともに仕事をし、その社員を見ているミドルマネジャーの力が大事だと思っています。

さらに1on1では短期的な業務遂行の話だけではなく、「〇〇さんは今後どんなキャリアを描いているの?」「どういうことを実現したいの?」といった会話を通して部下の成長支援やキャリアを考えて話しをする必要があります。上司は必ずしも適切な答えを持っている必要はありませんが、それを部下に考えさせる必要がある。パーパス実現に向けて、自部門・部署がするべきことは何か。社会課題の解決に向けて何をしなくてはいけないのか。いつもは避けがちな中長期的なことを考えてみるといったやり取り、圧倒的に良質なコミュニケーションを多く取り続けることで、部下の心に火をつけてほしいのです。

先ほどご紹介した職場マネジメントアンケートでは、1on1とエンゲージメントの相関も分析しています。1on1の頻度・有益度とエンゲージメントの関係を見ると、1on1の実施頻度が高ければ高いほど、その部署の従業員のエンゲージメントも高いことがわかりました。同様に、1on1の有益度が高ければ高いほど、従業員のエンゲージメントが高いこともわかりました。良質な1on1の実施が、いかに大切かがわかります。

1on1はトップダウンで、時田をはじめ経営層や、本部長、統括部長にも展開しています。また、1on1浸透に関するプロモーションも強化するなかで登場させたのが、「ハスキー課長のワンオンワン劇場」です(図7)。ハスキー課長と部下のキャラクターが1on1をするという、ちょっとシュールな内容になっています。

図7 ハスキー課長のワンオンワン劇場 図7 ハスキー課長のワンオンワン劇場

1on1を実施する背景や意義についてもきちんと伝えるため、グループ会社のすべての幹部を対象にオンラインセミナーを、あえて日程指定で行いました。3人1組となり、関係構築や成長支援を支える「聞く」「認める」「問う」といったスキルをワークやロールプレイングで学んでもらいます。

マネジメント診断は第2弾を7月にリリースしたのですが、そこでお部下のソーシャルスタイルに合わせた1on1におけるリアクションのアドバイスは反響をよびました。1on1では、たくさん話す人もいれば、寡黙な人もいます。また、冷静に分析するタイプや直情型の人もいます。それぞれのタイプに沿った対応が必要ですね。

自律的な学びの文化を醸成するイベントも開催

自律的な学びの仕組みや仕掛けについてお話ししてきましたが、学びとナレッジシェアの文化を醸成するための施策として、2021年6月7日から11日の1週間、グローバル全体を巻き込んだ全員参加型のオンラインイベント「FUJITSU Learning Festival 2021」も実施しました。「ありがちな」イベントではなく、今までの富士通では考えられなかったような企画に取り組みたいという思いで取り組みました。

コンセプトは「Your Question for Our Actions」です。SDGsをテーマに、全ての富士通社員がどうするべきかについて語り、学び、持っているナレッジをシェアし合うというものです。なお、社員の家族も参加することができます。1週間参加し続けてもらえるような工夫や仕掛けが必要なので、デザインもスタイリッシュなものにしました(図8)。ちなみに、5,000アクセスで1回花火が打ちあがるようになっています。

図8 「FUJITSU Learning Festival 2021」のトップ画面 図8 FUJITSU Learning Festival 2021のトップ画面

一番上の「OVERLOOK STAGE」というところをクリックすると、著名な方々を呼んでのセッションが、真ん中の「EXHIBITION PYRAMID」では、社員が自分の持っているナレッジをシェアする参加型のイベントにオンラインで参加できます。「FUJITSU LIBRARY」にはFLXの中から関連するコンテンツを集め、いつ来ても何かコンテンツが見られるような仕組み、仕掛けを整えました。

1週間の参加人数は、約3万7,000名でした。社内からは60件(国内37件、海外23件)もの出店がありました。運営側として嬉しかったことは、これが終わった後に社内SNSで「フェスロス」のような話が出ていると聞いたことです。また、時田をはじめ経営トップ層も興味・関心を持って積極的にコミットしてくれました。自分としてもチャレンジングな取り組みだと思っていましたが、それを後押ししてくれる経営陣の存在に支えられました。フェスは来年以降も継続していく予定です。

冒頭にお伝えしましたが、私たちのパーパスは、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」ことです。これを実現するのは、繰り返し申し上げているとおり、社員です。社員がイキイキと誇りをもって働ける会社にしていきたいと思いますし、そういう会社に変わって、「選んでもらえる」富士通をつくっていきたいと思っています。

司会:ジョブ型に関わる一連の取り組みはどのくらいの期間で進められたのでしょうか。
伊藤:

富士通がジョプ型を導入したのは2020年です。そこに向けて2019年度より人事部門、人材開発部門が連携しながら進めてきたので、約1年間で土台を固めたと言えます。なお、期間という意味では今も継続中です。気をつけたことは、まずはあるべき姿を描き、それがぶれずに継続している状態をつくることでした。

司会:スピーディーな取り組みでありましたが、人事制度を大きく変える際に、社員からの抵抗のようなものはなかったのでしょうか。社員の皆さんにはどのように説明されましたか。
伊藤:

ジョブ型の対象となるのは幹部社員です。その幹部社員に対しての説明はしっかり行いました。口には出さないものの抵抗感を持った人はいるかもしれません。しかし、先ほどもお話しした通り、会社の変化やパーパスに合致できないのであれば、外でキャリアを積んでいただいても構わないと言っています。そのため、富士通でキャリアを積むかどうか、といった受け止め方をしたのではないでしょうか。

司会:次に、「キャリア自律」についてです。どのように定義し、社員に発信しているのでしょうか。
伊藤:

各世代別に、意識調査やサーベイ等をもとに、異なるキャリア像を描いています。施策も世代別に実施しています。このキャリア像は経年によって世代の変化、環境要因の影響もあるので、何年かに一度は見直す必要があると思っています。ただし、自分でチャレンジをするというマインド、つまり、ワークとライフのバランスを考えながら、そのポストをチャレンジするために何をしなくてはいけないのかを自分で考えることが大事だと思っています。

ジョブ型ではよくジョブディスクリプションの議論があります。ジョブディスクリプションを細かくカッチリと決めしてしまうと、書かれたことしかやらない場合もあるので、緩やかにして変えられる余地を持たせることも大事です。目指してほしいのはあくまで自分でキャリアへチャレンジすること。それに対して後悔しないで責任を持ってほしいと思います。

司会:メンバーシップ型で育ってきた40代、50代の社員など本当に自己研鑽してほしい方々がなかなか動いてくれないということもあるのではないでしょうか。どのような工夫をされておられますか?
伊藤:

40代、50代については会社が「与えてきた」世代なので、いきなりキャリア自律と言われても難しいですよね。当然、中には変われないという人もいると思います。教育だけでは変われないと考えており、ポスティングやJobチャレ!!の機会の提供も行っています。

一方、これまでは幹部社員になるまでに10年、20年かかったのが、力があれば2年でもなれるという状況のなか、我々が予想する以上に40代、50代の方は真剣に考え、「今のままではいけない」ということを理解していると感じます。実際にグループ会社にポスティングする人も出てきています。

提供している外部の学習コンテンツも、50代、40代が一番使っているのです。これは、彼らが自分のキャリアを見直し、学び始めたことを意味しています。アクションまではつながっていないかもしれませんが、「考えていない」ということはない。ただし、なかなか動きを取りにくいことも事実なので、そこに対しては、何かしらの施策を打ちたいと思っています。

司会:社員エンゲージメントの数値はどんな方法で測定されているのでしょうか。
伊藤:

エンゲージメントサーベイは、年1回(現在は年2回)行っています。その中からグローバル標準の質問項目等を掲げて、そのなかの項目をいくつか選んで弾き出しています。

司会:ポスティングを導入する際に、主要ポストにはしっかりと育成したい社員を配置したいけれども、なかなか公募に回らないという現象が起こりがちだと思います。同じランクの中でも主要なポストがきちんとポスティングの対象になっているでしょうか。
伊藤:

幹部社員の登用は全てポスティングで、今のところ例外は認めていません。ただし、戦略的なアサインメントは一部あるのは事実です。たとえば、富士通の役員や理事を見ると、外部登用の方が多くなっています。専務はIBMから来た人ですし、常務はSAPの元社長です。他にもMicrosoftやアクセンチュアなど、いろいろな所から来てくださっています。主要ポストを富士通で育ってきたプロパー社員で固めたいという意識はありません。パーパスを実現するための組織設計をしたときに、人が足りないのであれば外から登用するか、中から登用するか。もし戦略を実現できないのであれば、権限を委譲している本部長の責任になります。

司会:若手の幹部社員は既にいらっしゃいますか。
伊藤:

ポストに対して能力を持っていれば合格するので、20代の幹部社員もいます。ただし、戦略を実行できなかったら責任を問われます。

司会:Jobチャレ!!をする際、たとえば3カ月不在になった場合の売り上げや人材不足に関する対応はどのようにされていますか。
伊藤:

Jobチャレ!!に関しては、2021年の下期から始まったばかりなので、今まさに進行中の新しいプロジェクトです。応募に当たっては上司と相談するように言っております。職場も了承済みで応募することになるので特に対応は考えていません。

ポスティングしても手を挙げる人がいないのは、人間関係も含めてその職場でやっていけるのだろうかという不安の表れです。ポスティングのポイントは、いかにして「魅力ある職場にするか」です。エンゲージメントが高い職場、いい仕事ができる職場、チャレンジのできる職場。そういった職場に自ら変わっていかなくてはいけない。

FLXの中に、職場をアピールする動画のコーナーがあります。我々の組織はパーパスに向けてこういう仕事をしている、若手にもこんなチャンスがあると、本部長自らがアピールする動画が並んでいるのです。そういう魅力ある職場をアピールし、なおかつJobチャレ!!で体感してもらったうえでポスティングをしてという形になっています。手を上げる側ではなくて、職場側のメリットもあるという話はさせてもらっています。

司会:Jobチャレ!!ですが、応募したけれども何らかの理由で実現しないということはあるのでしょうか。また、その場合ご本人にどのようなフィードバックをされていますか。
伊藤:

マッチングの世界なので、この人はまだ難しいと思われる場合はNGを出すこともあります。フィードバックはとても重要で、もしダメな場合、単純にダメ出しをするのではなく、その人の成長支援を考えて、ここは良かったけれども、ここは合わなかった。ここを磨いたら次にチャレンジできるのではないか、といった細かいフィードバックをするよう各職場にお願いしています。

司会:ポスティングで年間5,000人くらいが流動している状態を目指しているということですが、どのような理由からその人数を導き出したのでしょうか。
伊藤:

事業戦略を実行するためには、常に変化が必要です。本体の3万人に対して5,000人ですから、3、4年に1回はすべての人が動くといいと考えています。とはいえ、数字やKPIありきというよりも、「そういう状態をつくることが望ましい」というレベルだと思って頂ければと思います。

司会:部下が自身のキャリアビジョンを描くためにどのような取り組みをおこなっていますか。研修やワークシートなどを使用されているのでしょうか。
伊藤:

通常のキャリアの研修で使うようなワークシートは特に用意していません。

ただし、サーベイ結果によると7割近くの人が何かしらのロールモデルが必要だと答えていました。社内のロールモデルについて聞くと、「いる」と答えた人は30%程度でした。本当はもっといるのに見える化ができてないのだと思います。

それを具体的に見せるような取り組みに注力したいと考えています。たとえば、「富岳」開発者の清水俊幸さんならば、こういうキャリアを描いて成長するためにこんな学びを得てきたと動画で紹介するといったものです。

司会:他にもキャリア設計支援として、様々な取り組みをされていらっしゃいました。
伊藤:

研修だけではなくて、ポスティングやJobチャレ!!といった機会の提供、相談したいときに相談できたり、社員同士が語れる場であったり、そういったものを複合的に用意することが大切だと思っています。何か1つやれば効くというわけではありません。人それぞれ、ライフもワークも状況も違いますから。「キャリア」とは、ややもすると会社だけのものと考えがちですが、ライフも含めて自分のキャリアです。しっかり考えてほしいというメッセージを発信しているつもりです。

司会:キャリア自律を支援する年代別カフェは参加必須ですか。それとも希望者だけでしょうか。
伊藤:

参加を必須としています。「変わらなくてもいい」ということはあり得ません。会社の名前は「富士通」ですけれども、今までの富士通ではない。ぜひ同じバスに一緒に乗って同じ景色を見たいと思っています。

司会:「FUJITSU Learning Festival 2021」は継続的な学びにつながっている実感はありますでしょうか。
伊藤:

実施直後にとったアンケートでは良い評価はもらえていますが、継続的に学びが続いているかについては、後追い調査が必要です。ただ、フェスの見逃し動画のリマインドは行っています。

また、うれしかったのは、フェスの中で、沖縄でワーケーションを行っている方とディスカッションをする企画があったのですが、参加をした人が沖縄でワーケーションを推進するロゴ募集に応募したところ、それが採用されたらしいのです。もともとデザイン経験はなかった人ですが、学習コンテンツでデザインを学んでつくってみたら通ったそうです。参加で得た思いからデザインしたことで共感を得られたのかなと思いました。うれしい話ですね。

司会:「FUJITSU Learning Festival 2021」の運営には何名くらいの社員が関わっていたのでしょうか。
伊藤:

企画に関しては、コアメンバーは私ともう1人のマネジャー、担当の3名で進めました。もとは、みんなが「変わったんだな」とびっくりするような企画を打ち出そうという考えでスタートしました。また、「学び」は真面目できちんとやるものだといった既成概念をぶち壊したいという想いもありました。そのときに、いろんなメンバーを入れてしまうと、最初の思いや考えが削がれてしまう。そこだけは譲りたくなかったので、コアの企画は我々だけで考えて、それが固まった段階からはありとあらゆるメンバーを巻き込んでいきました。

コンテンツは全社員から募集しました。それこそ皆さん「自律的に」ご参加いただけましたが、こういう場を求めていたのかもしれません。応募してくれた方々には感謝したいと思います。自分のキャリアを考えるきっかけにもなったり、多様な人と交流できたりしたのでとても有意義だったという声もいただきました。企画としてはバタバタで至らぬ面も多かったのですが、参加してくれた社員には本当に感謝しています。

司会:内容が前後しますが、「ハスキー課長」は社内のキャラクターなのでしょうか。
伊藤:

企画・コンテンツは我々で考え、絵はデザイナーさんにお願いしました。ハスキー課長はひねくれ者のシュールなキャラクターで、我々がふだん上司に言えないようなことを代弁してくれます。ハスキー課長の動画もあるので、エンゲージメントサーベイのリマインドも兼ねて社員に見てもらおうと考えています。

司会:異動はポスティング以外にないのでしょうか。今の部署のまま異動したくないという人は、そのままいられるのでしょうか。
伊藤:

異動したくない、そこの組織のなかでパフォーマンスを出せるのであれば、そういうキャリアもありだと思います。ただし、自分の組織で幹部社員になりたい場合は、ポスティングをしなくてはいけません。幹部社員に関しても、一生同じ職場にいても構わないのですが、昇格したいのならば、ポスティングにチャレンジしないといけません。

司会:ポストの募集人数と内定者数に差異がありましたが、不足分のポスト配置はどのように決定されていますか。
伊藤:

随時ポスティングで常にオープンになっていますが、応募がないと閉じてしまいます。応募がないということは、人気がない、あるいは不要ではないかといった議論になり、組織設計の再考を行う際の目安にもなります。

司会:ジョブ型移行前後で具体的に組織構造やポスト数に大きな変化は発生しましたか。
伊藤:

2020年に一気にジョブ型に移行しましたが、組織がジョブ型寄りとメンバーシップ型寄りの半々という部分もありました。また、大きな組織変更があった時は流石に全部をポスティングで集めるのは大変なので、アサインメントをすることもありました。こうしたバランスは、これからまた変わる可能性は大きいと思います。

司会:ポスティングは社内の求人募集というイメージで合っていますでしょうか。募集する、しないは組織長が判断するのでしょうか。
伊藤:

その通りです。基本的には、たとえば私の部下が退職した場合に、募集するかどうかの判断は私が行うことになります。よほどシュリンクしている事業で、幹部社員がいなくてもいいという場合は別にして、ポスティングをかけないことは、あまりないと思います。逆に、新事業を立ち上げるのでポストを充足させたいという考え方もあります。それが戦略と合致した組織設計です。既存ビジネスを引き締めて新しい組織として拡大するようなことはよく行われています。

司会:一連の取り組みは製造現場の社員も対象にしていますか。
伊藤:

グループ間でも異動できますので、ポスティングの条件に合致すれば全員が対象になります。製造業の方でも、当然そういうチャレンジをする場はあります。

司会:学びの時間確保のためには労働時間の削減が大事かと思います。働き方についてはどのような工夫をされていますか。
伊藤:

学びに関しては、仕事中にもしていいと伝えています。「FUJITSU Learning Festival 2021」も含めて、仕事に必要なものと上長が認めたのであるならばもちろんOKです。一方、たとえばカラーコーディネーターの資格を取りたいといった自己研鑽については時間外に行ってほしいと伝えています。

もう1つ、働き方に関して言うと、富士通本体は全員が完全にフレックスタイム制なので、自分で考えて行動する形にすべて切り替えています。意図的に学びたい人はスケジュールをブロックして学びの時間にしています。

司会:事前に会社と本人双方で確認したジョブを、会社や本人の都合や事情で変更する場合はどのようになるのかを教えてください。
伊藤:

いろんなケースがありますが、1つはポストオフという形が考えらます。ポストオフとは、ポストを降りていただくことです。ジョブに対してパフォーマンスを上げられてない場合、ジョブを変えざるを得ません。そんななかで大切にしているのは、コミュニケーションの質です。たとえば、ある日突然、「今日から君に与えるは仕事ない」と言われたら、驚きますよね。納得もできないと思います。そうではなく、1on1を通じて「ここに関しては、こういう改善が必要じゃない?」というようなコミュニケーションをしてほしいのです。

そういうことを積み重ねたうえで「ちょっと厳しいよね」となるのだと思います。1no1でコミュニケーションの質を変えるというのは、迎合的ではなくて、厳しいこともきちんとしっかり言い合えるような関係性をつくるという意味です。

司会:最後の質問です。社員がキャリア自律したその先には、会社はどのような姿になるのでしょうか。
伊藤:

社員と会社の関係は大きく変わっていくでしょう。「与えられる関係」から、「お互いが高め合う関係」になると思います。そのためには、富士通が選んでもらえる会社、そして、ここで自分のキャリアを高めるんだという気持ちになってもらえる会社でなければいけません。そういう信頼で繋がった会社と社員の関係になれれば素敵だと思いますし、そこを目指すことがパーパスドリブン経営の世界観だと思います。2030年のカーボンニュートラルの主役は若者たちです。そういったときに、彼ら彼女たちが実現したいことのど真ん中で、富士通で働きたいと思って働いている。そして、お互いに信じ合い自律している、強い組織でありたいと思っています。

司会:個人も会社も転換が求められていますが、お話を伺っていて明るい未来が待っているのではないかと思いました。本日はありがとうございました。
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