過去の「J.H.倶楽部会員」限定セミナーのレポートです。

ニューノーマル時代の自社OJTを考える
特別レポート

2020/10/28 オンライン

 新型コロナの感染拡大により、「テレワークが中心となり、直接的な指導育成の機会が減って困っている」「ニューノーマル時代に適応したOJT制度にする必要性を感じているが、どう変えればよいかわからない」――このようなお悩みが聞かれるようになりました。
 そこで弊社JMAMが毎年行う「イマドキ若手社員の仕事に対する意識調査」から「コロナ禍における新人指導の実態」に関する情報提供と、OJTの仕組みづくりに定評のある博報堂より事例発表をいただくセミナーを開催。100名超の新入社員・OJTトレーナーに対する研修や関わり、コロナ禍における変更点等について具体的にお話しいただきました。セミナー自体は会員限定ではありませんでしたが、会員の皆様には当日の動画・ダイジェストセミナーレポート、及び当日の資料をご用意いたしました。ぜひご覧ください。

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第1部 コロナ禍における 新人指導の実態 斎木 輝之
日本能率協会マネジメントセンター カスタマーリレーション部 部長

第2部 博報堂における 新入社員OJTの取り組み 白井 剛司氏
久保田 三絵氏
博報堂 人材開発戦略局
マネジメントプラニングディレクター

1.第1部 コロナ禍における新人指導の実態について

本セミナーへ申込みをいただく際に行った「OJTの課題・悩み」に関する事前アンケートには、100名を超える皆様にご回答いただきました。記載内容をカテゴリー分けしてみますと、従来からOJTの課題とあがっていた2位~4位の内容に加え、オンラインの仕組みや取り組み、関わりが急浮上する結果となりました。

図1 事前アンケート結果の共有(課題・悩み部分) 図1 事前アンケート結果の共有(課題・悩み部分)

①コロナ禍で過半数が感じた戸惑いと育成の難しさ

弊社では2016年から「イマドキ若手社員の仕事に対する意識調査」を行っています。従業員規模1,001人以上の企業を中心に、上司・先輩と新入社員の回答がちょうど半々になるように設定し、今年は1,502名に回答いただきました。

本調査の注目すべき1点目は、コロナ禍における「指導・育成」の回答結果です。上司・先輩808名の回答のうち「現場配属時期に影響あり」が67%、「新人が配属後、職場になじめるか不安だった」が62%、「緊急事態宣言中に新人・若手の指導がしにくくなった」66%と、いずれも過半数を占めています。初めての経験で指導者側も、戸惑いが多かったのだと思います。

2つめの注目のデータは、働き方改革が進む中での「新入社員との関わり方」の回答結果です。Aの「成長につながる仕事でも残業しないことを優先して業務を減らす」の回答割合が毎年増え、今年は6割に達しています。つまり、限られた時間の中で、期待する姿までしっかり成長させることが、現場に求められているのです。

図2 コロナ禍における「指導・育成」 図2 コロナ禍における「指導・育成」

②価値観の尊重を求める新入社員

続いて、仕事に求める条件を14の選択肢から1つ選択する設問です。左が新入社員、右が上司・先輩のランキングで「自分らしい生活を送る」以外は異なる選択内容となりました。
 傾向として、新入社員はプライベートや働く環境を重視しており、上司・先輩は仕事そのものや成長を実感できることを重視しているという結果となりました。

新入社員の価値観をもう少し解説しますと、働く環境が心地よく、自分らしさを尊重してくれる会社で働きたいという方が多くなっています。指導する側が理解すべき点は「自分の価値観を理解してくれる人間関係の中で働きたい」と新入社員が思っている点です。ここが満たされるかが非常に重要です。

図3 コロナ後の「働く価値観(仕事に求める条件)」 図3 コロナ後の「働く価値観(仕事に求める条件)」

③新入社員と上司・先輩の回答比較から考える指導・育成

続いて、大きく4つのポイント(事実)をご紹介して、私のパートを終わりにしたいと思います。新入社員と上司・先輩の回答を比べながら、特徴をご紹介します。

事実①:「上手くいかない経験」は効果的であることはわかっている

まず、うまくいかない経験が成長に効果的なことは、新人・先輩どちらもわかっています。新入社員が失敗を経験しながら育ててもらう/育てることが効果的だということです。

そして6~7割は「試行錯誤させながら、うまくいかない失敗を通じて学ぶ/学ばせる」のが効果的であると回答しています。成功体験も当然重要ですが、うまくいかないことや、困難な仕事を乗り越える中で成長すると、学生時代の経験も含めて実感しているので、そういったことが育成に有効であるという認知があるようです。

図4 新入社員と上司・先輩の回答比較(事実①) 図4 新入社員と上司・先輩の回答比較(事実①)

事実②:褒めて「伸びる」「伸ばす」が新入社員育成の前提

新入社員は「できている点に目を向けて、褒めてもらう」指導があれば成長できると65%ぐらいが回答しています。指導側も、最近の若手社員は、叱って育てるより「褒めて伸ばす」指導方法が良いと7割が考えています。調査を開始して5年間、ほぼ変わらないどころか、むしろ少し高まっているため、褒めて伸びる/伸ばすことが重要だといえるでしょう。

図5 新入社員と上司・先輩の回答比較(事実②) 図5 新入社員と上司・先輩の回答比較(事実②)

事実③:働く「空間」が変わる中で、新たなコミュニケーションのとり方が求められている

ここで注目すべき点は2つあります。働く「空間」が変わる中で、新たなコミュニケーションのとり方が求められていますが、新入社員と上司・先輩とで少し違う回答の割合が高くなっています。

新入社員は働き方改革が進む中での上司・先輩との関わり方について、入社したばかりということもあり、「在宅勤務が増えて、直接的なコミュニケーション機会が減ると困る」という方が6割ぐらいいました。
 一方で上司・先輩は「指導するときに近くにいないと困る」との回答は4割ぐらいで、むしろ「在宅勤務やフリーアドレスが進むことは歓迎である」という回答割合が多くなっています。
 環境づくりは上位者を中心に行われることを考えると、環境が変わる中でも、不安を感じている新入社員といかに接点をもっていくかをしっかり考えていく必要があるといえます。

もう一つ、「Withコロナの働く場所について、今後どのような働き方をしたいか」。これは、もう少し回答割合が低くなると予想していたのですが、「感染予防したうえで出社して仕事をする」という回答が半数以上となりました。どちらかと言えば上司・先輩が新入社員より高い結果になりましたが、対面や集まる場はこれからも重要であり、併用していくのがよいでしょう。

図6 新入社員と上司・先輩の回答比較(事実③) 図6 新入社員と上司・先輩の回答比較(事実③)

事実④:対面でのコミュニケーションは有効と実感している

報告・連絡・相談に関する2つの質問について、どちらの質問も報連相は「対面が有効である」が高くなる結果となりました。しかし、チャットツールを用いたコミュニケーションについては「心理的なハードルが低い」という回答も半数近くありました。
 このことからも、対面とチャットなどのツールをうまく使い分けることが重要といえます。

図7 新入社員と上司・先輩の回答比較(事実④) 図7 新入社員と上司・先輩の回答比較(事実④)

さいごに 新入社員育成で重要な4つのポイント

まとめとして、次の4つに整理してみました。
①「新入社員の成長は気になるが、残業時間の削減が優先」=時間生産性を意識した指導がとても重要だということ。
②「指導・育成担当者は、新人が『働く環境が心地よく、自分らしさを尊重している』ことを理解すること」で関係性(信頼)を高めることが育成の前提になる。
③「できている点に目を向け、褒めながらうまくいかない経験も積み上げられる仕組みづくり」が必要。
④働く「空間』が変わる中で、新たなコミュニケーションのとり方は必須」になっている。しかし、お互いが対面でのコミュニケーションの有効性は再認識しているので、目的に応じて使い分けていく必要がある。

第2部の博報堂様の事例では、この調査で明らかになった課題に関連することや、具体的な事例もふんだんに盛り込まれています。それでは第2部に移ります。

白井:

最初に少し自己紹介です。まず私は、新入社員OJT推進担当としてトレーナー対応を15年ほど務め、著書(『「自分ごと」だと人は育つ』日本経済新聞出版刊)もあります。現在はマネジャーの支援やHRBPを中心に担当しています。新入社員研修自体は担当してきておりません。次に紹介させていただく久保田が今は新入社員研修とOJTを中心に担当しています。

久保田:

2017年に現在の部署へ異動となり、内定者・新入社員(全職種)の育成と新入社員OJTの担当をしています。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

白井:

では、はじめに取り組みの基本設計や背景、コンセプトをご紹介し、現在進行している具体的な施策・工夫を久保田からお話しします。最後にまとめとして、今考えていることや、これからのOJTの課題や方向性をお伝えします。

1.博報堂の取り組みの基本設計・背景

●「任せて・見る」「任せ・きる」体験から「自分ごと」を体得

白井:

博報堂の新入社員OJTは1年間です。新入社員が4月に入社しますと、配属するまでの間に研修があり、トレーナーは7月~前期/10月~中間/1月~後期の計3回、集まって計画書を書いてもらうことになっています(図1)。その前期にキックオフとして、新入社員とトレーナー2名揃って参加してもらうキックオフのワークショップが特徴的ではないかと思います。後ほど詳細を説明しますが、コロナ禍では特に必要性を感じてもらえるものではないかと思います。

OJTに長年取り組んでいる大きな目的は新入社員に主体性、“自分ごと”を体得してほしい、ということです。ただ実際「自分ごと」という意味は言葉で新入社員に説明できるものではなく、本人の体験から得るものです。なので10カ月間の育成スケジュールの中で、“2つの任せ方”の体験を通じて新入社員が体得していけるようトレーナーに経験と指導を提供してもらうようにお願いしています。

1つめは、前半、横でしっかり見て「任せて・見る」。具体的には事前にオリエンテーションをして、並走して、事後にフィードバックをする。後半は「任せ・きる」。仕上げとして、トレーナーは後方で見守り、新入社員には、前半の経験を活かして応用を利かせ、1人でやりきる体験をしてもらいます。「1回でもできたらいいですよ」と伝えています。

図1 博報堂のOJT 図1 博報堂のOJT

●トレーナー1人の指導より、チームで教えるOJTへ

2016年に働き方や働く意識が大きく変わり、働き方を再定義するタイミングが訪れました。OJTについても、日中のスケジュールが過密化し、指導者の教える時間が限られ、仕事を一から教える必要のある新入社員への指導が難しくなっていたことがわかりました。後半の「任せ・きる」も時間になると任せたはずの仕事も再び引き取らざるを得ないので、十分な経験がさせられないという声もありました(図2)

「働き方改革」が社会的に話題になっていた時期でしたので、入社後の新入社員とトレーナーで考え方のギャップもありました。その中で「任せ・きる」経験者が2016年以降にぐんと減ってしまいました。

もう一つ、現場では人材マネジメントが複雑化していて、多様な価値観や働き方を許容しながら、短期的な成果が求められています。今はマネジャーが大変ですが、これはそのままOJTトレーナーにもいえることです。また、同じ職場にはトレーナー以外にも、契約社員や派遣社員などを含めた多数の先輩がいて、新入社員を教えているというのが実際の育成現場で起こっていることです。

この2点を考えると、トレーナー1人に新入社員への指導の負担を従来以上にかけるのは現実的ではないと考えました。またOJTが成功するためには、トレーニー(新入社員)の側にもOJT研修を行い、成長マインドやOJTとはどういう考え方や育成のストーリーがあるか、について知ってもらう必要があると考えるようになりました。

図2 環境変化によって育成ストーリーが成立しづらい状況に 図2 環境変化によって育成ストーリーが成立しづらい状況に

●成長の4段階に合わせた働きかけと、OJTの2つの取り組み

「任せて・見る」「任せ・きる」を刻んでみると4段階に分かれます。図3の左下のTeaching(教示)は明らかに正解があってきっちり教える段階、右側のCoaching(支援)やMentoring(委任)は新入社員が主体になっているので、それを支援する状況です。左上のLeading(納得・理解を促す)というのは、Teachingで学んだ後、頼まれたことはやるけれども作業をこなすだけのような状態に陥った時に、トレーナーが新入社員の目線をもう少し上げたり、ダメ出ししながらモチベーションを上げたりする関わりを行うことです。

図3 育成(成長)を4段階に分割して考える 図3 育成(成長)を4段階に分割して考える

第1段階、Teachingが必要な時期はみんなで寄ってたかってトレーニーに教えたらいいと思います。まだ“正解がある”時期なら、何も忙しいトレーナーが1人で教えるのではなく、みんなで手分けすればいい。組織に慣れるうえでも、たくさんの人から教わった方が良いはずです。

では、第2段階の、トレーナーが指導するタイミングでは何を教えるべきなのか。それは、トレーナーがもっている暗黙知や会社のカルチャーを伝えて、必要なことにはきちんとダメ出しをし、目線やレベルを引き上げていくということです。

図3の右に行くほど任せる割合が高くなり、上に行くほど新入社員とトレーナーの間にぶつかり合いが起こります。右は問いや対話で本人の気づきを促す。教えるより本人を主体にするということです。

全体のポイントとしては、第1段階をなるべく手分けすることで組織へなじんでもらうことを優先することです。こうしたペア参加のOJTとチームで育てるOJTを実験的に取り組み始めて今に至ります。コロナ禍の環境では特にOJT前半が影響を受けているように思います。この状況に対しても、割とフィットしているのではないかと今、思っています。

2.現在進行している施策・工夫のご紹介(当時)

●OJT成功には新入社員とトレーナーの関係性構築が必須

久保田:

ここからは私より、具体的な施策についてお話しします。何年間か新入社員OJTや新入社員研修を担当して、近年の新入社員のOJTについては、「関係性を構築できているか否か」がキーワードになるということが見えてきました。

関係性を築けていなければ、簡単な業務でもうまくいきませんが、関係性さえできていれば、多少難易度が高い業務でもチャレンジして成長できるということです。そのため、昨年からトレーナーにお願いしたのは、まず新入社員との関係性を構築してください、ということです。事務局からの研修や施策も、関係性構築のサポートに関するものが厚めとなっています。その施策は、
① ペアで参加するOJT研修
② チームで育てるOJT(制度改訂等)
③ コロナ禍におけるOJTの工夫
④ OJT以外の新入社員チームの工夫
の4つです。

① ペアで参加するOJT研修

まず1つめは、「OJTペアワークショップ」です。トレーナーと新入社員の関係性構築を早期に支援できるよう、必須受講としています。昨年度はリアルで、今年度はオンラインで実施しました。大きく2つの柱があり、1つがOJT制度や年間で使用するツールの紹介など「基礎情報のインプット」、2つめにメインパートとして、経験学習と相互理解の2つのペアワークを行います。
 計1.5時間の研修を、100ペア以上の新入社員・トレーナーに実施しました。

■経験学習と相互理解のペアワーク

まず「経験学習のペアワーク」をご紹介します。経験を振り返って教訓化し生かしていくという、コルブ氏が提唱した「経験学習サイクル」を現場でも習慣化してほしいと考え、このワークを取り入れています。

ワークは2本立てです。ワーク①はまず、経験学習を知ることを目的に、今まででうまくいったこと(成功体験)を新入社員とトレーナーが各自で記入して、互いにシェアします。
 ワーク②は、会話による日常の経験学習の習慣化を促すため、うまくいかなかったこと(失敗体験)を新入社員が話し、トレーナーが聞き役に専念する、というものです。

続いての「相互理解ペアワーク」は、各自が大切にする価値観に正解はない、全員異なると伝えたうえで、だからこそOJTを進めるにあたって、互いが大事にしていることを知るという内容です。
 「仕事や仲間との協働するうえで大事にしたいこと」ということで、スライドの右下の、「マインド/姿勢」「仕事の進め方」「対人関係」といったカテゴリされたたくさんの言葉群から5~10個、各自で選び、時間をかけて共有していきます。選んだ言葉を紹介するだけでなく、自分にとってどんな意味や定義、背景、エピソードがあるのか、互いに話し合います。

■声掛けは両者同時に、ニュートラルに

1点だけ、ペアワークショップで講師から伝えるメッセージについて、注意点があります。何事も、新入社員とトレーナー、どちらかに負担をお願いするのではなく、両者ともにチャレンジをお願いしたいと、同時に、かつニュートラルに伝わるよう、伝え方にとても気を遣いました。

たとえば「任せて・見る」時期は、トレーナーに「業務付与の事前のオリエンと事後のフィードバック」といった手間のかかることを依頼する一方で、新入社員にも「教えてもらうことは当たり前じゃない。自分で調べる、他の人に聞く、質問の仕方を考えるといった自分なりに教えてもらいやすいような工夫を」とお伝えしました。

② チームで育てるOJT(制度改訂等)

2つめの施策は、「チームで育てるOJT(制度改訂等)」です。新入社員1人に対しトレーナー1人だったOJT制度を、2020年度に「チームで育てるOJT」へと改訂しました。2019年度のヒアリングで、制度上は1対1だけれども、実際は“寄ってたかって”複数人で育てている組織が多数あるとわかりました。ただ、制度どおり1対1で育てている組織もあったため、できるだけ現場に即した柔軟な制度になるよう、心がけました。

新制度では、トレーナー以外の育成者をつけるか選べる仕組みとなっています。
複数人の育成担当者がチームで新入社員を育てるために、役割分担を支援するツールを案内しているほか、育成関係者全員がWeb上で記入する育成計画書・育成日誌(ダイアリー)などのツールも導入しています。

③ コロナ禍におけるOJTの工夫

3つめの施策は、「コロナ禍におけるOJTの工夫」です。ペアワークショップではテレワークでのOJTのコツなどをお伝えしていますが、そこで挙がったものや、ワークショップ後から今に至るまでに現場から聞こえてきた工夫についてご紹介します。
 まず新入社員とトレーナーの接点づくりの観点では、新入社員1人の単独出社を避けるため、育成担当者の「輪番制での出社」や、毎朝15~20分のコミュニケーションの習慣化、新入社員にわかりづらい用語の疑問を解消する「定例会の設定と質問・確認タイム」、人数制限のある会議に参加できるようにする「積極的なオブザーブ参加促進」等が挙げられます。

双方での共有に関連した工夫点というと、「ルールとゴールの事前合意の習慣化」や「進捗共有の意識的な実施」が挙げられます。テレワークで、後者は特に有効です。互いの動きが見えないので、新入社員にばらばらに業務付与が行われ、板ばさみになる可能性があります。そのため、業務付与や進捗について関係者で共有する機会をあえて設けていただいています。

またシステムを活用し、質問しやすい環境をつくることも重要です。毎朝、始業時の挨拶や当日の予定、質問などを新入社員からトレーナーに送る「Teamsの活用」や、1日数時間、音声をずっとつなぐ「TeamsまたはZoomの常時接続」といったことです。
 新入社員にアンケートをとったところ「テレワークを孤独に感じる」「質問をしたいけれども、先輩も忙しいからいつ聞いて良いかわからない」という不安や忖度の声が出てきました。そこで、こうした工夫が大事になってきます。

④OJT以外の新入社員チームの工夫

4つめの施策は「OJT以外の新入社員チームの工夫」です。新入社員育成担当として、OJT以外の工夫をご紹介します。配属後にあえてフォローアップ研修を実施し、接点を増やしているほか、2週間に1回アンケートを行い、必要に応じてケアを行っています。
 さらに、同期同士の交流として、「バディレビューミーティング」を実施しています(詳細は当日のみ)。

3.まとめ/Withコロナ時代のOJTにおける課題と方向性

●まとめ1:新入社員とトレーナーへの働きかけ

久保田:

最後に「Withコロナ時代のOJTにおける課題と方向性」として、個人的所感をひと言ずつお話しさせていただきます。

まず私ですが、OJT担当かつ全職種の新入社員育成担当として、現場での育成は、テレワークのみでは正直、難しいと感じています。スキルデリバリーは可能でも、業務に向き合う姿勢やマインドは横で見ていて初めて伝わると思います。新入社員とトレーナーが一緒に出社できれば望ましいですし、もし会社方針でそれが厳しいとしても、コミュニケーションを意識して増やせるよう、新入社員とトレーナーの双方に声をかける必要があると思います。

また、新入社員はトレーナーに言えない不安や忖度を抱えていると感じます。もちろん、「教えてもらうことは当たり前じゃないから自分から動くように」と伝えてはいますが、テレワークは声をかけるハードルが一気に上がるため、トレーナーへの働きかけが重要になります。たとえば早期に新入社員の情報をトレーナーへ共有し、事務局が接点づくりのティップスを渡すなどの工夫です。

今年はテレワークでの研修や育成を初めて実施しました。今後、課題がたくさん出てくると思いますが、皆さんの知見も伺いながら、できるだけ現場の声を聞き柔軟に対応していきたいと考えています。

●まとめ2―①:ピラミッド型3段階の課題の解決法

白井:

私からは少し長めの時間軸で考えている論点やアイデアをお伝えしたいと思います。ただ、弊社で決定している施策ではないため、アイデアとしてお聞きください。

今、OJTで起こっていることは、ピラミッド型の3段階に分けられるでしょう(図4)。一番下が③「組織社会化」=組織の一員としてなじむこと。風土やカルチャー、システムを理解して組織に参加することです。2段目は②新入社員と直接向き合う新入社員とトレーナーの「相互信頼」。その上に①「経験と学び」があります。昨年まではこのすべてをトレーナーが引き受け、責任をもって育てていく流れでした。

図4 Withコロナ時代のOJT(白井より) 図4 Withコロナ時代のOJT(白井より)

コロナでリモート化が進むと、①に焦点が当たります。①と②にかけられる時間が減っていますが、実は見落とされているのは③であり、ここをオンラインでトレーナーが教えるのは困難です。③を見落としたまま時間が経過すると、そのデメリットは数年後に顕在化するのではと考えています。

弊社は意外とアナログで、関係性に時間を割いていると感じられたかもしれません。チームで育てるOJTやペアワークのOJT研修などは、若干プラスに働いていると思われます。それもできる範囲の対応なので、やり方はもっと他にもあるでしょう。

ではこの先どうなるか。まず①はデジタル・リモート化の推進で、今以上に効率的、効果的な学び・育て方が探求され、いろいろなやり方が開発されると思います。アナログをデジタルに置き換えるより、デジタルだからこそできる、今までにないものになる可能性もあります。バージョンアップやアップデートの考え方です。

②と③は、一緒に過ごす時間が限られるので、関係構築とコンテクスト共有が従来以上にどれだけ効率的にできるかを考える必要があります。テクノロジーを活用して解決するという選択肢もあるでしょう。

●まとめ②―2:役割分担とデジタル活用について

①の「経験と学び」に関する具体的な解決策として、精神的な成長やスタンスを育てる(being)はトレーナーが行い、行為やスキルは、つまりどうするかを教える(doing)のは別の人、あるいはツールや映像などの素材でもいいのではないかということです。一案としては、OJTとOff-JTを併用で進める。議事録作成や情報収集、プレゼンテーションは研修で、質の高い講師が最適な時期に教えられれば、十分効率的な体験になるのではと思います。

その指導はアーカイブ化すると良いと思います。成長の早い子には、知りたい内容を知りたい時に知りたい場所で知れるようにするのがいいでしょう。トレーナーには何度も同じ質問をしづらくても、映像等なら何回も復習できます。デジタルに親和性の高い考え方です。

指導者のスキルにばらつきがある場合、上手な指導者の録画を見せ、そこにレビューや「いいね!」を付けるという方法もあると思います。最初に負荷がかかりますが、一度作ってしまえばストックできます。また、技術系の会社ではよくやられているようですが、勉強会スタイルで、横同士で教え合うのも有効です。新入社員同士で学ぶ、2年目が教えるといった勉強会を開催すれば、自分の学びにもなります。このようにすべてをトレーナーが教えるのではなく、別の人や映像で教えても良いと思います。

②の新入社員と育成者の関係性、相互信頼も、テクノロジーを使って理想的な育成関係をマッチングするということが今後できるでしょうし、2人のタイプをアセスメントで可視化し、適した指導方法をアドバイスするということはすでに可能です。
 弊社の「チームで育てるOJT」なら、関係者全員がアセスメントを受けてもらってもいい。3年分ほどの結果が蓄積されれば、良い指導法のパターンや組み合わせが明らかになり、次に生かせます。Techを使った育成スタイルです。

③の組織社会化に関しては、チームで育てることが機能しているのではと思いますが、あとは久保田も指摘した通り、仕事の渡し方も重要です。並走して少しずつ渡して修正していく方法もありますが、今後は依頼時に何をいつまでにどうやって、いつ事前確認するか、きっちりした要件定義が求められていると思います。

最後に、新たなOJTの取り組みとして、新入社員は嫌がるでしょうが、1年間は社内外で学ぶケースも出てきています。最近見た企業の取り組みですがお客様相談センターのオペレーターの経験は、リスクを減らして本質的な顧客ニーズを知る体験です。弊社のような広告会社で考えるのなら、制作の全体像を知る意味で、関連会社で経験を積む機会もあるかもしれません。それが良い経験になるかは、2年後、3年後の会社の在り方から、本当にその体験が必要かを議論すべきだと思います。

①と②はデジタルで最適化を進める取り組み、最適なものを送り届けていく動きになる一方で、③の風土やカルチャーもデジタルによってパフォーマンスが拡張されていく、ということがあるでしょう。このオンラインセミナーにも、約270名の方が、物理的な距離を超えて参加されています。グループチャットで新入社員の特徴を育成者間で共有するのも、テクノロジーによるパフォーマンスの拡張ですよね。今後5年かけてプランニングすれば、OJTはさらに進化していくと思いました。本日はご清聴どうもありがとうございました。

●オンラインとリアル、それぞれの良さを生かして

斎木:

博報堂では2021年度の新入社員OJTをどのように計画されていますか。

久保田:

今まさに絶賛検討中で決定はしていないですが、今年度の研修はオンラインでしたので、来年度の新入社員研修については、出社とオンラインのハイブリッドで開催できればと考えています。詳細は検討中ですが、輪番制で半分は出社、半分はオンラインというやり方や、メンバーを半分ずつ分けて会場を別にするという方法もあると思います。オンライン研修ではできない、リアルだからこそできることにも改めて気づいたので、状況が落ち着いたら、リアルを組み合わせて取り組んでいけたらと考えています。
 一方で、新入社員OJT研修(ペアWS)は、Zoomのブレイクアウトセッションを使えば支障なく実施可能ですので、これは引き続きオンラインでも良いと考えております。あくまで決定事項ではございませんが。

白井:

チームで育てるOJTでは、チームでより効果的に取り組めるよう、アセスメントを希望チームに提供する方法なども有効だと思います。来年度は、新しいことを導入するというよりは、現状維持で質を高めていく方向性になりそうです。

斎木:

OJTの役割や仕組みをお話しいただきましたが、メンター制度は導入されていますか、という質問もいただいています。

久保田:

以前は入社前研修でグループワークを行っており、そこで付いたインストラクター(社員)が事実上のメンターを務めていました。ですが今年度(2020年度)はグループワークを実施していないので、メンターも付けていません。その分、今は事務局の日々の細やかなケアが補完的役割になっていると思います。

●ダイアリーやアセスメントの具体的な実施の仕方

斎木:

秋ごろまでやっていらっしゃるという週1回のダイアリー(交換日誌)では、どんな内容になることが多いですか。

白井:

基本のフレームは経験学習サイクルですね。どんな出来事があって、その理由や背景を考え、何を学んだか、成功と失敗を必ず週1回、文字にします。

久保田:

記入欄が決まっていて、「成功体験」「失敗体験」「言語化・教訓化」「次へのアクション」といった内容を埋めて提出すると、トレーナーにメールが自動的に届く仕組みです。

斎木:

最初は、かなり具体的に書ける新入社員と、表面的にしか書けない新入社員がいてバラツキがあっても、書き続けていると具体的に書けるようになっていくのではないでしょうか。精度を高める仕掛けはありますか。

久保田:

ペアワークショップで事例を紹介しているほか、ダイアリーのサイト内にも記入例が書かれているので、どのように書けばいいか、新入社員もトレーナーも理解しやすくなっています。徐々に習慣化され、書き慣れていくと思います。

●コロナ後のフォロー・オンラインでの絆の醸成

斎木:

私もお聞きしたい質問です。今年の新入社員はコロナの影響を受けています。どうフォローしていけば良いでしょうか。

久保田:

例年は大人数で一括開催していた研修を、今年は何日もかけて、少人数に分けて出社させてリアルで実施しました。またチャットでの日々の個別フォローも行っており、例年より手厚い対応にはなっていると思います。ようやく出社できるようになりましたので(2020年10月末時点)、ランチをする、オンライン飲み会を行うなど、研修のやり方を変えるのと、日ごろの細かな積み重ねの、両輪でケアをしている状況です。

斎木:

新入社員同士の絆・つながりは、オンラインでも問題なく醸成できるものでしょうか。

久保田:

コロナ禍でも新入社員同士の絆はつくれると思います。やや精神論のようですが、事務局からも同期同士でつながってほしいと真摯に伝えたり、企画を仕掛けます。Zoom懇親会のほか、1人5分の自己紹介タイムを新入社員全員(100名以上)で毎日実施したり、講義と講義の間の時間に、同期同士だけで話せる時間をオンラインでも設けるなど、同期同士が知り合う機会を増やしました。
 一方で、出社して「はじめまして」という状況も依然あります。どうしても例年通りではない課題感はあり、十分ではありませんが、ある程度の関係は築けていると思います。

斎木:

トレーナーや新入社員本人の異動等での引き継ぎについては、どのように対応していますか。

久保田:

定期的な異動は予測ができるので、トレーナーを選定する配属先組織の管理部に、異動しない人をできるだけ選ぶよう依頼しています。新入社員が異動になった場合は、必ず事務局に連絡をもらうようにしています。また、異動でトレーナーが変わった場合、通常は期初に渡すマニュアルやワークショップの案内を新トレーナーにお渡ししています。セミナーの録画も後から見られますし、ダイアリーや育成計画書のサイトも、権限を変更し、それまでの履歴や育成方針など、過去の内容も確認できるようにしています。

斎木:

トレーナーとトレーニー(新入社員)の年齢のバランスや、上司のコミットの加減についてはいかがでしょうか。

白井:

トレーナーの年次は、入社5年目を目安として選定しています。私の感覚ですが、10年目以上だと、新入社員と離れすぎていると思います。デジタルネイティブと言われる世代と、生まれ育った環境が離れすぎないように、ということです。
 マネジャーは、新入社員の健康状態や顔色、体調は見てくれていると思いますが、基本的に、トレーナーに任せたら、あとはトレーナーの育成方針を優先してもらっています。トレーナーに向く人材の要件は示しますが、現場のマネジャーの判断で決まりますね。

斎木:

期待はするけれども、最後は現場に委ねるのですね。

白井:

理想的な人材に任せた方が良いという考えもありますが、人材要件を限定してしまうと、結局、同じ先輩にしか新入社員が付かなくなってしまいます。しかし新入社員や若手を育てると、組織力も上がっていくので、みんなで新入社員を育成するという経験を共有していくのが良いだろうと考えています。
 ただ、最近問題になるケースには、新入社員にとって良い環境になっていない、という特徴があるので、その場合は、新入社員担当チームが以前よりも積極的に介入しています。

●「OJTトレーナー」に向いているのは
「セルフアウェアネス」に長けたリーダー

斎木:

ここ十数年で、教わった人が教える側に回る、育成の文化や伝承を積み上げてきたことも、マネジャーがトレーナーに任せられる要因かもしれませんね。
 最後に1つ。そうはいっても、「OJTトレーナーに向いている人」というのは、どんな人材なのでしょうか。

白井:

トレーナーも自分の仕事で忙しいので、「人に興味関心を持てる人」がまずはベースかなと思います。
 数名の関係者で話していたことは、「フラットだけどなめられない人」。いきなり上からものを言われると、新入社員が不安になりますから、そういうことをせず、新入社員も本音が言いやすい、フラットだけど尊敬できる人ですね。気持ちが成熟していて、実力のある人ということでもあります。
 また、別のタイプとして、「言うことは厳しいけれど、本質は外さない人」。ついていけば間違いなく成長するし、させてくれる人。
 両者の共通点は、内省力が高く、流行りの言葉で言えば「セルフアウェアネス」に長けた人です。自分の我を押し付け、自分の求めるような動きしか指導しない人ではなく、自分の成長をよく内省し、管理できている人。自分の行き過ぎた反応的な行動も理解し、人に対してスペースが持てる人が理想的だと思います。そういう先輩に新入社員はついていくでしょうし、よく人を見ているものです。マネジャーも同じですね。リーダーの条件だと思います。

斎木:

質問がつきないのですが、お時間がきましたので終了としたいと思います。本日は誠にありがとうございました。

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