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COLUMN1 若者のリアル 「上書きしようとする他者の圧」に拒否反応 ヘルシー志向の若者たちが職場や上司に望むこととは ボヴェ 啓吾氏 博報堂ブランド・イノベーションデザイン若者研究所 リーダー

編集部より

四月の新入社員受け入れに向け、準備を進めている企業も多いのではないでしょうか。「イマドキの若者は……」といった先輩社員のホンネは今に始まったものではなく、いつの時代も繰り返されてきたことだといいます。大切なのは、ジェネレーションギャップがあることを前提にしたマインドセットではないでしょうか。
そこで今回は、「若者と、未来の暮らしを考える」をスローガンに掲げる博報堂若者研究所の事例を紹介。若者と共に考え、対話を重ね、言語化することで若者の本質を探るという同研究所リーダーのボヴェ啓吾氏から、現在の若者の傾向や職場での接し方について学んでみましょう。

「若者と、未来の暮らしを考える」をスローガンに掲げる博報堂若者研究所。
大学生を中心にした20~30人ほどの若者たちと定例会を実施し、様々なテーマについて議論を重ねている。
若者と共に考え、対話を重ね、言語化することで若者の本質を探るという同研究所リーダーのボヴェ啓吾氏に、
現在の若者の傾向や職場での接し方について話を聞いた。

[取材・文]=平林謙治 [写真]=博報堂提供



非連続な時代を生き抜く「分人」

かつて「新人類」なる言葉が流行ったが、若者は何も最初から“別の人類”として生まれてくるわけではなく、その変化には何らかの理由がある。「若者と、未来の暮らしを考える」をスローガンとして若者研究を行う博報堂ブランド・イノベーションデザイン若者研究所リーダーのボヴェ啓吾氏は、現在の若者の行動・価値観の背景にあるのは「明日がどうなるかわからないという不安」「多様性の尊重と個性の発揮を求められる教育」「パーソナルな情報に常時接続された圧倒的な情報環境」の3点だと話す(図1)。



「VUCAといわれる不安定で非連続の時代、コロナ禍も後押しして、暮らしも働き方も今の状況が続くはずがないというのが、若者の考えの前提にあります。ですから、非連続に対応していくために、自分自身が状況に応じて変化し続けることを大切にしています。特別な何かになるためではなく、ただ普通であり続けるためにも、外で通用する専門性を身につけたい、学びたい、成長したいという意識は強いですね。また、多様性のなかで自分の個性を見いださなければならないという教育も受けています。SNSをのぞくと同世代の活躍や暮らしぶりも目に入るので、自分はこれでいいのかと苦しみや葛藤を抱えながらも、意識して自己肯定感を高めようとしている傾向があると思います」

ボヴェ氏自身は、Z世代の前のY世代、いわゆるミレニアル世代にあたる。バブル崩壊後の日本経済の急失速や環境意識の高まりを背景に、成長・拡大を求めるより、家族や友人、地元、日常の暮らしなど、手に負える範囲の身近な幸せを守る意識が強い「定常化の時代」に育った世代だ。

「Z世代は、ミレニアル世代の感覚も踏襲しています。しかし、前提となる時代環境が『成長しない』から『何が起こるかわからない』に変わったため、いまあるものを守っていくだけでは安心できません。自分自身が常にシフトできる状態でいると同時に、仕事も居場所も交遊関係も、1つに固定化するより複数に分散したい。変化やマルチ化への志向が強いですね」

かつての若者は、「本当の自分」という考え方にともすると固執した。職場での自分も家での自分も、その場で仮面を使い分けているだけ、本当の自分は別にあるのだと。しかし、それは終わりのない自分探しにつながりやすく、まして現代の非連続な状況下では、「本当の自分」という一貫性に縛られることでかえって生きづらくもなるとボヴェ氏は言う。

「だから、いまの若者には『本当の自分』という感覚はあまりないようです。職場での私も、家族や友人といるときの私も、どの私も私だと。複数の人格のポートフォリオが自分だという考え方を、作家の平野啓一郎氏は『分人主義』と表現されているのですが、まさにそうした考え方をする若者が多くなっていると感じます図2)」

仕事で失敗して自信を失っても、趣味のコミュニティーへ行けば認めてもらえる。本業以外に副業があれば失業のリスクが下がるだけでなく、他者と違う視点も生まれる。自分をマルチに分けた方が、自分を支えやすい時代なのだろう。

「自分のなかで複数の自分を運用すれば、変化の激しい時代を無意識に乗りこなしていくことができます。『分人』の考え方に共感する若者が増えているというのは、若者を捉えるうえでの柱になると思います」

※参考:『私とは何かー「個人」から「分人」へ』(平野啓一郎氏、講談社、2012年)

若者が重視する「ヘルシー」志向

ただ、いくら非連続の時代を前提とした生き方・考え方をしているとはいえ、コロナ禍によって若者が受けた傷は小さくない。夢が突然途絶え、進路変更を強いられるなど、思い通りにならない自粛生活の只中で、彼らの多くが不安と不調を経験した。

人間関係も疎遠になり、SNSを介した社会や他者への関心は減っていった。しかしボヴェ氏によると、その分、周囲や忙しさに流されず、自分自身とじっくり向き合う時間が増えたことは間違いないという。

「本当にやりたいことは何か。何が好きで何が嫌いなのか。誰とどんな時間を過ごしたいのか。自分らしさの解像度を高め、それらをきちんと整えることが、僕らが『ヘルシー』とよぶ状態―― 『心地良くて無理のない、自然で前向きな生き方』には欠かせません。コロナはある意味、若者のヘルシー志向を加速させたといえるでしょう」

「ヘルシー志向」も、「分人」同様、現在の若者を知るうえでのキーワードになる。その構造を理解すれば、若者が大切にしている価値観を捉えられるのではないだろうか(図3)。



「多様性や個性を大切にする教育を受けていることもあり、幸せは多様だと理解しています。だからこそ、自分自身を知り、自分にとっての幸せや心地良さを整えていきたいと考えています。誰かのために我慢を強いられる構造はアンヘルシー。環境が壊れるといった社会にとってのアンヘルシーも望みません」

ヘルシーの文脈でも「自分らしい」という言葉は出てくるが、これは先行世代がいう「本当の自分」とは似て非なるものであることに注意してほしい。他者と関係なく、自分の内から湧いて出てくるような、尖った自己感覚である必要はないということだ。

「自分が大切に思う人々にとって、自分はどんな存在なのか。どういう部分が認められ、必要とされているのか。『分人』としての様々な関わり合いのなかで、他者と共に自分らしさを定めていく。それが、いまの若者の感覚ではないでしょうか。『分人』であることと、自分自身に向き合うヘルシーな生き方とは決して矛盾しないのです」

ボヴェ氏には、ある若者の言葉が強く印象に残っているという。

「個性的である必要はないけれど、個性は大事にしたい」―― 。シンプルだが、考えさせられる言葉だ。

組織における相互理解のヒント

では、組織や職場ではどのように若者と向き合っていけばいいのか。ボヴェ氏がポイントを挙げてくれた。まず大切なのは、「自分と若者は生きた環境が違う」という前提に立つことだという。

「若者の行動や価値観を理解できないと感じる人は多いと思いますが、あなた自身、今の環境に育っていれば、同じように考えふるまっている可能性があるのではないでしょうか。若いころの自分との違いに驚きや怒りを覚えるのではなく、異なる時代に育てば違いはあって当然、という前提に立ってほしいです」

昔は良かったと思うかもしれないが、今の時代をつくってきたのは、ほかでもない我々自身であることも忘れてはならない。

「『自分はどう育ったか』ではなく、『どう育ちたかったか』ということに思いを巡らせながら若者と接すれば、彼らの考えに寄り添えるのではないでしょうか」

もう1点大切なのは、必要なことであれば遠慮なくはっきりと伝えることだ。なぜそれが必要なのか、その理由や目的を伝えることも忘れてはならない。

「ヘルシーを求める若者にとって、納得感は欠かせませんから、『組織』や『あなた』にとってなぜそれが必要かというのは、今の時代は特にしっかり説明してほしいです。ただし、上司だからといって、いつも完璧で迷いのない存在である必要はありません。逆に若手に、どうすればいいと思うか問いかけ、一緒に考えていくことがあってもいい。そういう上司なら、自分の考えや悩みを共有しやすいはずです」

ちなみに、ボヴェ氏が若者の労働観の変化を読み解くために注目しているという「新入社員意識調査報告書」(日本能率協会)の「理想的だと思う上司・先輩」の項目では、1位に「丁寧な指導をする上司・先輩」、次いで「ねぎらい・ほめ言葉を忘れない上司・先輩」が挙げられている。

「特に後者について、若い社会人にヒアリングをしてその真意を聞くと、『別にいつもほめてほしいわけではない。どんなに大変なことでも、仕事だからやって当たり前だという前提ではなく、ありがとうと言ってくれる人だと気持ち良く頑張れる』と。ほめられたいというより、皆が気持ち良く働ける場をつくろうとしてくれることが、彼らにとってはうれしいのだと感じました」

逆に、「嫌な上司像」についてもヒアリングしてみると、異口同音に出てきたのは「決めつける人の下で働くのはつらい」の声だった。

「『1年目だからこうだろう』『最近の若者はこうだから』と、一方的な思い込みで話も聞いてくれない人や、説明しても『言い訳はいい』と切り捨てるような人だと萎えてしまう、といった話はよく聞きますね」

新卒でも経験や情報は豊富

上司や先輩にしてみれば、丁寧な指導を怠ったり、決めつけたりしているつもりなどないかもしれない。「しかし」とボヴェ氏は言う。

「上の世代の多くは、自分たちがそうだったように、いまの若者も学生時代は遊んでばかりで、新卒で入社して初めて社会というものを知ったのだと誤解していないでしょうか。だから、無意識に『1年目ならこうだろう』と決めつけたり、『うちはこうだから』と組織のカラーを押しつけたりしてしまうのかも」

仕送りの激減という背景もあり、彼らの多くは在学中から数々のアルバイトをこなし、就職活動でもインターンシップで貴重な経験を積んでいる。SNS等で多くのリアルな情報も得ている。組織や労働の現場について、昔の若者よりはるかに多くを知り、考えている世代だといっていい。

対面の交流や飲みニケーションが制限されるコロナ禍では、そこまで腹を割って、相互理解を深めるのは難しいと思う人もいるだろう。しかしそれもまた、上の世代にありがちな誤解だとボヴェ氏は言う。

「いまの若手は飲み会がなくて可哀相だなんて声を聞きますが、そんなことを望んでいないという若者も多い。『腹を割って』というけれど、そもそもお酒の力を借りて、普段語らないことを語ろうとするのでなく、本当に大事なことなら、酔わずに言えよと(笑)」

大切なのは「思いやれる組織」

対面でないと伝わりにくいことや腹を割って話して初めて深まる関係があるのは間違いなく、そうした機会を求める若者もいないわけではない。しかし、上の世代であるほどそれに依存する人が多く、若者の多くはそれを望まないといった傾向はあるようだ。職場の環境や集団で働くことに対して、彼らには彼らなりのこだわりや線引きがある。そこが、組織や仕事へのエンゲージメントの“分水嶺”にもなるだろう。

思い出してほしい。「ねぎらいやほめ言葉を忘れない上司」をいまの若者が支持するのは、ほめられたいからではなく、「仕事だからやって当然という前提を押しつけず、皆が気持ち良く働ける場をつくろうとしてくれることがうれしいから」だった。

「コロナでいろいろな状況が複雑になり、お互いの事情があるなかで、それでも一緒に働いているのだから、互いを少しは意識したり、思いやったりできる組織がいいというのは間違いないと思います。そういう心遣いがある会社であれば皆が心地良く働けますから、仕事に多少不満があっても、辞めることはないはずです。結局、土台は人間関係なんですね」

上の世代、とりわけベテランは、各自に事情があることを察して思いやるのではなく、ともするとそこへ踏み込み、深く関わり合ってこそ、いい組織、いい上司・先輩だと思い込みやすい。そんな傾向を踏まえ、ボヴェ氏はこうアドバイスする。

「プライベートを大事にすることと、プライベートに踏み込むことは必ずしも一致しないどころか、真逆の態度にもなりえる。目の前の若者がそれを望んでいるかは繊細に感じて判断する必要があると思います。若者と対話を重ねるほど強く実感するのは、彼らは自分を変えようとするものに対して、すごく敏感なんですね。なぜなら、それだけ真剣に自分と向き合い、難しい時代のなかで自分は何を大事にしたいか、深く、繊細に考えているからです。仕事の枠を超えて、それを否定し、上書きしようとする他者の圧を感じると、恐怖や嫌悪感すら抱きかねません。たとえ上司に、自分はこうだという強い信念があったとしても、それはあくまで1つの見方・考え方として提示した方がいいでしょう」

若手と接するための心構えとして、「押しつけない、決めつけない、侮らない」を改めて心に刻みたい。

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