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組織と管理職が変わる“対話”のカタチ
~1 on 1・ダイアログを推進する方法~

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資料

組織として対話を重視し、1 on 1を仕組みとして導入されているお会社も多くなってきました。
しかし、形骸化している、という声も多く聞かれます。
そこで、対話を促進するためのポイントを学び、1 on 1の仕組み化、浸透に関する悩みを解決するためのヒントを共有するセミナーを行いました。
講師は株式会社サーバントコーチの世古詞一氏と、日本能率協会マネジメントセンターの井戸川寿義です。
鍵は、なぜ1 on 1、対話が必要なのかを改めて組織として理解し、管理職に伝えることのようです。
映像とセミナーレポート、当日の資料をぜひ下記からご覧ください。

こんな方におすすめ

  • 1on1の効果を高めたい企業の方
  • 具体的な対話の深め方を知りたい方
  • 企業の1on1実践事例を知りたい方

登壇者プロフィール

井戸川 寿義(いとがわ ひさよし)氏

株式会社日本能率協会マネジメントセンター 組織・人材開発事業部 シニアHRMコンサルタント

世古詞一(せこのりかず)氏

株式会社サーバントコーチ 代表取締役

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0:10:20

第1部

どのようにダイアローグを深めるか①
0:10:20

第1部

どのようにダイアローグを深めるか②
0:18:40

第1部

どのようにダイアローグを深めるか③
0:02:55

第1部

どのようにダイアローグを深めるか④
0:06:42

第2部

こうすれば解決する、「1 on 1」にまつわる悩み①
0:47:11

第2部

こうすれば解決する、「1 on 1」にまつわる悩み②
0:05:32

第2部

こうすれば解決する、「1 on 1」にまつわる悩み③
0:13:46

第2部

こうすれば解決する、「1 on 1」にまつわる悩み④
0:12:10

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第1部どのようにダイアローグを深めるか

  • 井戸川 寿義氏
  • 株式会社日本能率協会マネジメントセンター 組織・人材開発事業部 シニアHRMコンサルタント

第2部こうすれば解決する、「1 on 1」にまつわる悩み

  • 世古詞一氏
  • 株式会社サーバントコーチ 代表取締役

セミナーレポート

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I. どのようにダイアローグを深めるか

1. マネジメントダイアローグ研修について※

(※映像、当日のレジュメでは「1.はじめに」となっておりますが、自己紹介部分のため本稿では割愛いたします)

●なぜ「対話」が必要なのか

私は講師の仕事の中で、「マネジメントダイアローグ研修」を行っており、それらの経験を通じて様々なお会社の管理職の皆様とお話をし、対話に対する問題意識や悩みなどをうかがってきました。

今回はワークなどを交えて「マネジメントダイアローグ研修」の概要や、研修参加者の状況をお伝えしながら、職場での対話を深めるための実践に向けたポイントをご紹介します。

研修では、3つのゴールを設定しています。

  • ①マネジメントとしての対話の意味を理解する。
  • ②有効な対話を行うため、部下の状態をどうつかむかを習得する。
  • ③状態に応じた望ましい対話を行うため、コツや型を理解し、身につける。

まず最初に、管理者にとって、なぜ対話が重要なのか、対話の意味を改めて確認するのですが、ここでも確認しておきましょう。担当組織の目標達成が管理者の最大の役割だと考えた場合、高い目標を達成するためには、メンバーの成長が求められます。そのためには、部下一人ひとりの価値観や現状の悩み、キャリア観など、それぞれの姿を正しく理解したうえで、成長支援や業務の割り振りを行うことが望まれます。そのためにはメンバーの真の姿を理解するマネジメント活動として、対話が必要なのです。

●「対話」の目的・メリットとは

そこで私どもは「対話」を、「管理者がマネジメント活動を円滑に行うために、部下と1対1で向き合い、お互いを理解するために行う話し合い」と定義しました。

その目的は次の2点です。

  • ・上司、部下双方の価値観や思いなどを共有し理解すること
  • ・部下に対する思い込みを外すこと、知らなかった姿を見ること

1対1で向かい合って話をすることで、部下の価値観や思いを知るだけでなく、上司も自分の価値観や思いを部下・メンバーへ伝え、相互に理解することが、対話の目的です。

また、管理者にとっての対話のメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • ・組織の目標達成と部下の成長に効果的な業務のアサインに役立つ
  • ・“言葉と気持ちのキャッチボール”が、新たな知恵を創造するきっかけとなる
  • ・負荷の多い管理者にとってのリスクマネジメント、セーフティネットになる
  • ・リアルタイムに相手の反応を観察し、その場で確認することができる

2. 部下の状態をつかむ

●部下の「今の状態」をつかむことが大切

実際に対話をしていく際には、部下の状態をつかむことが大切です。

ただその前に、現状認識ということで、管理職の皆さんに、部下について、どの程度理解されているかを、お手元の「理解度チェックシート」でチェックしていただいています。全20項目ですが、皆さんも身近な部下3人について、どこまで理解しているかを記入し、せっかくですのでお隣の方と自己紹介を兼ねて、記入した感想を交換してみてください。

恐らく、情報量の多い部下と、少ない部下がいるでしょう。コミュニケーションの頻度・程度によって、部下への理解も異なります。よくある感想としては、「『仕事上の将来の夢・目標』や『仕事以外での将来の夢』がわからない」と言われる方が多いです。前者については、部下の成長を支援する管理者としては知っておくことが望ましいですが、意外と皆さん、ご存知ないようですね。また、コミュニケーション頻度が高ければ、なんとなく入ってくる個人情報などもあると思いますが、そういう状態であることが望ましいといえます。

そして、そもそも部下の情報が少ないなら、状態をつかむのも難しい。ですから、これまで以上にアンテナを立てて、部下の情報を得られるようにしておくことが大事です。

なお、部下が「どんな人物なのか」だけでなく、「今どのような状態なのか」をつかんでおくことも重要です。同じ人でも、やる気に満ちているときと、落ち込んでいるときとでは、声のかけ方が変わりますから。

●「心理的安全性」と「組織適応性」

部下の状態、つまり組織における部下の心理状態は、「心理的安全性」と「組織適応性」の2軸を用いてつかむことをおすすめしています(図1)。組織のなかで自分の考えや感情を気兼ねなく言えると感じる「心理的安全性」があるか、また、組織の考え方・価値観といった方針や、意思決定プロセスを含めた組織風土に共感しているかという「組織適応性」でつかみます。

図1 心理的安全性と組織適応性

「心理的安全性」には、管理者の普段のものの考え方や、メンバーに対する言動が影響を与えます。忙しいときに「話しかけるな」オーラを出していないか、どんなに忙しくても手を止めて部下の話を聞けるか。失敗を厳しく指摘するのか、相談に対して否定で入るか肯定で入るか。管理職の態度は、職場環境そのものです。部下が話しかけてこなかったり、職場の雰囲気がピリピリしているなら、心理的安全性は低いと考えられますから、自身の言動を振り返ることも大切です。

「組織適応性」は、組織への共感度合いの高さで測ります。共感度合いが高ければ、組織になじんでいることの証で、低ければ、なじみは薄い。

心理的安全性も組織適応性も低ければ、本音を言わず、わかったふりだけして、真の能力の発揮にはつながらない(沈黙)でしょう(図2)。組織適応性が高くても心理的安全性が低ければ、チャレンジしない、殻にこもった状態(保留)となる一方、心理的安全性が高くても組織適応性が低ければ、やりたいことだけをやる、責任を取らない自分勝手な振る舞いが増えます(開放)。どちらも高い状態なら、能力を発揮しやすく、他者と協働して新たなチャレンジができ、成長しやすい状態(挑戦)だといえます。

図2 部下の4つの状態

この状態を受けて、どう対話していくのか。言葉だけで理解するのではなく、ワークを通じて、状態に応じた対話を体感していくことが重要になってきます。

4つの状態に対して、3つの対話のスタイル(=姿勢)があるとお伝えしています(図3)

心理的安全性が低い場合(沈黙・保留状態)には、安全性を高める『感情的共感』(対話1)で信頼関係を築くこと。開放状態の場合には、『認知的理解』で在るべき姿を方向づける挑戦状態に持っていく対話2を行う)こと、挑戦には『行動的関与』で成長を支え、さらに高みへと引き上げていく対話3が必要です。

図3 対話に求められる姿勢

せっかくの機会ですので、この4つの状態を考えるワークを行い、お隣の方と共有してみてください。

(「部下の基本情報シート」「状態シート」を活用したワーク)

いかがでしたでしょうか。研修では基本情報、状態についてと、実は「追加情報」というものを途中でお渡しし、2名の方の「状態」、心理的安全性や組織適応性を考えるワークをします。

そうしたなかで、「アンコンシャス・バイアス」、先入観や固定観念から、自身では気づかずに「部下に対して偏った見方やとらえ方をしていないか」、についても触れ、ときに適切な判断を妨げられていないか、確認していただきます。

3. 状態別対話のコツと型

●対話には、部下の状態に適した3つのスタイルがある

部下の状態に応じた望ましい対話には3つのコツがあります(図4)。ポイントは、対話を通じて、過去、現在、未来に焦点を当てていくことです。先の対話1は過去の成功体験、対話2は現在のこだわり、対話3は未来に焦点を当てます。

『感情的共感』の対話1は、仕事の目的を再確認するために、過去の成長体験を振り返り、過去の出来事(コト)に注目し、部下に自信をつけさせ、上司も共有することで、経験学習のプロセスによって成長を確認します。

対話2の『認知的理解』の対話は、部下のこだわりが強い場合に行います。相手への承認を示すため、仕事のこだわりを語らせ、相手の考えに着目しながら、組織の価値観・方向性の意味をともに考え、自分の行動との差を知り、ともに目指すところを見いだします。

『行動的関与』の対話3では、未来への思いや夢・目標を共有し、部下の強みを最大限に発揮できる適切な目標へ落とし込みます。

図4 対話の3つのコツ

研修では対話1~3のコツを流れにしたものを「型」と呼んでいて、それぞれのポイントもお伝えしながら、シナリオロールプレイングや、最後に部下の状態の見直しも行います。

4. 研修参加者の状況・職場での実践に向けて

●受講者の声と答え

対話に対しては、受講者である管理職の皆さんから「目標管理面談と何が違うのか」「対話の頻度や時間はどうすればいいか」「部下の数が多い場合、どう実施するか」といった疑問がよく寄せられます。

対話は、目標管理面談のベースづくりとなります。1カ月に1回30分は必要でしょう。ITツールを活用すれば、複数人単位で対話をした後、個別に対話をすることもできます。

対話が十分に行われていない原因として、マネジメント活動のなかに対話が含まれていない、目の前の仕事をどうしても優先してしまうことから「時間がない」、あるいは話す内容と受け入れる部下の状態にミスマッチがある、部下の状態に適した対話の進め方ができず「話が続かない」といった声がよく聞かれます。

どうにかこうにか仕事が進んでいれば、対話の優先順位は下がってしまうのが正直なところです。しかし、たとえ精神論的だったとしても、優先順位が高ければすぐに行うもの。優先順位が低いから後回しになったり、行われないままとなってしまうのです。対話の優先順位をまずは上げる必要があります。

「話が続かない」という悩みを抱えている方に振り返っていただきたいのは、「成果を上げる」会話を対話だと思っていないかどうか、です。対話では、部下の悩みや想い・価値観を真摯に聴けているかをより重視する必要があると感じています。「対話が大事」だと散々言っている方でも、受講者を代表してロールプレイングをしていただくと、相手の話をほとんど聴いていない場合が多く見受けられます。管理者が部下に「やってほしいこと」ばかりを伝えていないか、常に見直す姿勢が求められます。

●職場での実践に向けて

職場での実践に向けては、泥臭い話になってきますが、以下の3つが重要だと私は考えます。

①対話の目的を理解する

もちろん成果や成長支援も大事なのですが、相手の想いや価値観を理解しあうこと、にも注力することが、遠回りなようですが関係性を深め、よりいっそうの成果達成や成長につながります。人事としては、好事例の共有や、対話の目的や重要性についてアナウンスをすべきでしょう。

②対話のイメージづくり

対話の場面や進め方といった、管理職が職場で対話をするイメージをもってもらうための機会や仕掛けをつくることが必要です。

③実践に向けての仕組み化や、人事制度との連動

また、望ましい対話を実践するための知識やスキルを習得するため、人事制度に連動させた対話実践の仕組みづくりを行うことが必要でしょう。

ご清聴ありがとうございました。

Ⅱ.こうすれば解決する、「1 on 1」にまつわる悩み

1. 1 on 1が必要な社会的背景

●部下のために使う定期的かつ高頻度な時間

私の趣味は料理と身体を鍛えることです。実は5年前まで料理を一切しなかったのですが、栄養のことを考えて料理を始めました。この写真をSNSに投稿すると「いいね!」がつきます。「いいね!」の力は大きいもので、部下も「いいね!」と言われると、思ってもいない強みを発揮します。つまり、1 on 1でも「いいね」や「承認」が大事になってくるということです。

世の中は1 on 1を必要としていると感じます。4年前に1 on 1をテーマにした本を執筆し始めましたが、当時は、1 on 1ミーティングという言葉自体、まだほとんど知られていませんでした。このテーマに反響があれば世の中が変化してきたということだろうと仮説を立てて本を出したら、やはり、ここ数年でだいぶ変わってきました。

まず、昨今流行っているといわれる1 on 1ですが、なぜ必要なのか、流行の背景や本質について理解しましょう。1 on 1は「なぜやるのか」という目的がしっかり腹落ちしていなければ、面倒くさいので何となくスキップしてしまいがちです。これが続くと、次第にやらなくなります。ですから「なぜ大事なのか」を根本的に理解するということは、必要性と効果に立ち返るために欠かせないことなのです。

1 on 1の対話=1 on 1ミーティングとは「主に部下の育成・モチベーション向上を目的とした定期的かつ高頻度な上司と部下の話し合い」です。つまり、部下のために使う時間ということです。逆にいうと、今までの面談は「上司のための時間」だったのではないでしょうか。目標設定や評価査定など、上司がやらなければならない役割があり、そのために部下を呼んで、ヒアリングをして、材料をもらって、アウトプットをつくって、経営や人事に提出する。そのプロセスとして必要な場が、これまでの面談でした。

そこをうまく「部下育成」につなげていたとは思いますが、上司にとって「やらなければならない」という場だったので、主導するのは上司だったはずです。それに比べて、1 on1は「部下のための時間」です。「定期的かつ高頻度」であることも必要で、今までの面談は多くても年3~4回でしたが、1 on 1は最低でも月1回以上必要だとお伝えしています。上司と部下の関係性や職種にもよるので、理想の回数を示すのは難しいですが、実践のお話を聞くと、週1回ないしは月2回がベターかなと感じています。月1回でもまだイベント感があり、「今日、1 on 1だね」というように、少し構えてしまうところがあります。しかし、週1回ならルーティンになり、月2回ぐらいだと変に構えずできるようになるでしょう。

マンスリーや隔週でできるようになると、対話の内容が変わってきます。月1回では、業務の細かな成果までは話せませんが、月2回なら詳細も話せるからです。ただし、成果の話だけに終始することは1 on 1では避けてほしいですけどね。

●結果や行動よりも関係や思考に焦点を当てる

今、多くの企業が1 on 1を採用しています。全社的に取り組んでいるところはまだ少なく、部署単位で行っている企業が多いようです。できる人から、様々な現場で取り組みが始まりつつある段階です。ただ、始まってきているものをどう続けるか、定着できるかは未知数で、手探りをしている方が多いのではないでしょうか。

なぜ1 on 1が注目されているのか。それは、「結果の質」を高めるには、「行動の質」を、「行動の質」を高めるには「思考の質」を、「思考の質」を高めるには「関係の質」を考えていく必要があるからです(図1)。そこで結果を高めるために、急がば回れで「関係の質」からはじめることが効果的だということです。

図1 グッドサイクル

現場は結果を求められますから厳しいですよね。そこで通常は、行動にアプローチします。上司の指示命令が増え、結果が出せないと、部下は自己防衛的になります。言われたことしか行わず、自発性が失われ、悪循環になってしまいます。そこで良い循環を生み出すためのきっかけが、アイデアや自発性に注目して働き掛ける1 on 1なのです。

ある会社の3年目の女性社員のエピソードをご紹介しましょう。その事業部は3年間、右肩上がりで成長していました。私が話を聞いたのは、勢いが落ちて結果が出ていない時期だったのですが、彼女は「チームはもっとも良い状態なんです」と言うのです。それはなぜかというと、「一枚岩になって『みんなでこの停滞期を乗り越えていこう』というムードがあり、ブレストしたりキャンペーンを打ったり、考えて行動しているから」という話でした。

結果が出ていないときに関係の質が良いと、踏ん張りがきいて、成功へと循環していきます。成果が出ていると見えづらいですが、成果が出ていないときにこそ、メンバーの関係性が問われます。ゲーム業界の知人に聞いた話では、数年前はバブルで資金が潤沢にあり、エンジニアの採用には熾烈な争奪戦が繰り広げられていました。しかし、人を集めたのはいいのですが、関係の質に着手しなかったため、業績が悪くなったら組織が崩壊し、人がどんどん離散していったそうです。ここからも、結果にかかわらず、関係の質を担保していくことが大事だということがいえるでしょう。

なぜこの話をするかというと、通常の面談では「行動の質」についての話が中心になるからです。「クライアントにどうアプローチするか」「どう結果を出すか」という話ばかりしがちですが、1 on 1では「関係の質」(過去に何をやってきたのか、現在どんな在り方なのか、将来どんな関係が望ましいか)や、「思考の質」(どんなことを考えているのか、感じているのか、中長期的にどうしていきたいのか、ボトルネックは何か)に焦点を当てることが大切です。

ある管理職の方は、1 on 1で何をテーマに話していいかわからなかったので、「このお店を大きくするために何ができるか」と尋ねたそうです。何人かに聞いたら、みんながそれぞれ意見をもっていて、「そんなことを考えていたのか。これまで全然聞いたことがなかった。こういうことを聞く機会を逸していて、部下の考えや思いを活かせていなかった」と気づく機会になったそうです。「以前の自分だったら、絶対にそんな質問はしていなかった」と。

つまり、「アイデアを出させる=思考の質へのアプローチ」ということです。忙しいと現場での業務が優先になり、「このお店を大きくするためにどんなことができるか」など質問しづらいですよね。一歩引いて、俯瞰して話ができる場を設けないと、その話題に及びません。

関係の質や思考の質についての話は、結論が出ないので、モヤっとすることがあります。互いのことを話しても「あぁ、なるほど。それで今月はどうしようか?」となりやすい。でも、互いの関係性や思考が日々の仕事の土台になります。特に、短期的成果を求められると行動と結果の話に終始しやすいですが、成功の循環を生み出すためには、中長期的な視点で、関係や思考の質を高めていくことが欠かせません。

●個別性へ1歩踏み込んだ高度なマネジメントを

関係の質をレベル1から5まで、段階づけしてみました(図2)。考え方を共有するレベル3は業務、タスクでつながっている状態です。目的を共有したレベル4はチームや会社でのつながりです。価値観を共有するレベル5は、個人として互いによく知る関係です。

今はレベル3の関係性の上司、部下が増えているのではないでしょうか。周囲の人とレベル4やレベル5でつながれているか、再確認してみましょう。IoT技術の推進や個で動く仕事の増加などが影響し、職場でのコミュニケーションはどんどん減る傾向にあります。

図2 関係の質とは? -5段階の高まり

組織で行っているコミュニケーションには2種類あります。「現在」に着目した短期的な仕事の話と、「これから」を見据えた成長や将来の話です(図3)。後者は、かつて現場を離れて、飲みニケーションや残業時のたばこ部屋でされていたような話ですね。今は、ハラスメントなどの観点から、一歩踏み込んで個人について話すことがはばかられる時代になっているので、短期的な話になりがちです。でも、それではコミュニケーションではなく単なる情報交換ですよね。

図3 組織で行われている2つのコミュニケーション

組織では、現場の情報を得て、上司が意思決定をしていきます。そのやりとりは効率的なツールによるコミュニケーションになりがちです。部下は、上司にとって成果を出すためのリソースとして存在していますが、あるときふと思うわけです。「私はなぜ、この会社にいるんだろう」と。そこに働き掛けるには、「あなたでなければ、ダメだ」と対面で話をしていく機会が必要で、それが1 on 1の場なのです。

「情報は論理の対象である。(中略)情報に人間はいない」(=対話には人が介在する)とピーター・ドラッカーは述べています(『マネジメント』より)。情報交換で生産性高く、効率的、ツール化という文脈と同時に、対話も行っていかなければ、組織としてうまくいかないところが出てきます(図4)。プライベートな事情も考慮し、必要なことは把握していかなければ、仕事に支障をきたすようになってきました。ダイバーシティの推進で、一人ひとりの状況が違ってきています。グローバル企業を中心に現場への権限移譲が進んでおり、半年後の目標はすぐ陳腐化します。個々に応じた対応、個々の状態を踏まえた高度で迅速なマネジメントが求められている時代です。

図4 組織で行われている2つのコミュニケーション
●若者とのギャップを知って対話する

少子化でミレニアム世代の入社もあり、管理職の方は、若者世代とのモチベーションギャップを感じることがあるかもしれません。普通の人がどう幸せになれるかを考える幸福学として、近年、注目を集めている「ポジティブ心理学」では、5つの欲求を掲げています。

この5つの欲求は、だいたい「アラフォー以上」と「アラフォー以下」の世代で二分されます(『モチベーション革命』尾原和啓著参照)。アラフォー以上は達成や快楽という、物欲的な欲求が満たされる資本主義の成功が重要です。しかし、今の20代にはこの価値観が響きません。物欲はもう満たされているからです。彼らは「上司は大変そう」「偉くなりたくない」と考えていて、仕事の目的や意味合いを重視しています。私も学生さんと接する機会が多いのですが、社会起業家になりたい若者が増え、理念や社会的意義に共感できたり、商品・サービスを本気で好きだと思える会社でないと入社したくない人が多い印象です。

この考え方をタスクレベルで落とし込むと、「この業務の目的、背景は何か?」「私がこの仕事をする意味はどこにあるか?」をしっかり腹落ちさせないと、納得して仕事ができないということです。ですから、そういうことを説明しなければならないでしょう。

また、若者は否定に慣れていません。現在、部下への指導では、コーチングなどの普及から肯定的な言葉がけが当たり前になっています。今の若者にとって、褒められることは、空気や水のようになくてはならないものです。彼らはゲーム世代でもあり、その多くがゲームを経験しています。ゲームは目標設定が秀逸で、レベル上げの高揚感に、中毒でやめられなくなる若者もいます。ですから、仕事でも、無駄を嫌い、意味がないことをやりたがらず、やった分だけ何かを得られることが彼らのやりがいなのです。報われる労力だけ受け入れようとします。

したがって、若い部下には、成長実感を与える上司の関与が必要です。タスク依頼の際に、目的や背景、なぜその人なのか、どのような成長につながるかも伝えるとよいでしょう。Googleの調査では、生産性の高い職場は心理的安全性が高い傾向があるということが明らかになっています。かつて当たり前にいたパワハラ上司は減っていますが、正しく、完璧にやろうとする上司が、汲々とした雰囲気の職場をつくってしまう可能性があります。業種にもよりますが、仕事に創造性を求めれば心理的安全性は高めやすく、正しさを求めれば知らないうちに心理的安全性が失われやすいのが実情です。

若者に何を期待するのか、彼らの強みは何か。一つは今の時代感覚です。最新のサービスを使い、スマートカスタマーとして、便利さを最大限に享受してきた世代なので、これはイケてる、これはダメ、と瞬時に感覚的に判断できます。アップル社の製品に説明書がないのがその典型です。その分、無駄を我慢することができません。たとえば、一昔前と違い、部下の立場から上司を選ぼうとすらします。ダメなものにダメと言える感覚があるので、その特徴を仕事に取り入れていけるとよいでしょう。

●停滞期こそ、部下の生産性を見極めて対話する

1 on 1は壮大な実験の場で、修正しながらの対話が必要です。対話不足が何を引き起こしているかというと、たとえば突然出社しなくなる「ビックリ退職」が挙げられます。急に辞めてしまうというこのケースは、退職代行業が話題になるほど増えています。

「組織の2:6:2」(優秀な2割、真ん中6割、下2割)といわれるなかで、マネジャーがまずフォローや指導のリソースをかけるのは下層2割です。なぜなら、教えなければならないことやフォロー、指導しなければならないことがたくさんあるからです。教育熱心な人ほど、改善しようと働きかけますし、そうすることでやりがいも得られます。一方で、上層2割に対しては「本人に任せる」と言いつつ、放置しがちです。すると、向上心がある優秀な人材は刺激を求めて会社の外を見始めます。優秀な人ほど、外から声もかかるでしょう。

しかし、収益の8割をつくっているといわれるのは、上層の2割です。そこで、Googleでは毎週30分、上司と部下で話をします。優秀なメンバーに対してこそ、飽きていないか、満足しているか、チャレンジングな目標をつくったり、会社が成長するにはどうすればいいか、というコミュニケーションをするのです。しかし、日本の会社は上層メンバーとの対話が苦手です。なぜなら、上司としてのコミュニケーションが「教える」ことに偏った問題解決になってしまいがちで、上層メンバーとは何を話していいかわからないからです。

しかし、比重を置くべきは、新たな取り組みへの挑戦を促す上層の社員との目線合わせでしょう。

真ん中6割は、ポストが詰まり、事業がそれほど急激に大きくなることもないので、分業化され、個人に与えられる裁量は限られ、チャレンジさせづらくなっているケースが多々見られます。安全運転で守りに入りやすく、真ん中も成長しづらい状況です。

上層が抜け、真ん中も下も育たない。にっちもさっちもいかない状態で方向性に迷ったときほど、対話をして、関係の質や思考の質を改善するヒントを引き出し、相手の強みを活かすことが大事です。成長機会が減り、同じ釜の飯を食うことも減り、上司の対応も一昔前に比べればドライになりました。1 on 1がしっかりできていれば、評価への不満も改善されるでしょう。評価の改善は対話によって納得感を高めることが必要なので、1 on 1の頻度を高めていくことも大切です。

2. 1 on 1実施のメリットやデメリット

●部下の想いを拾い上げるつもりで話を聞く

1 on 1ミーティングが長続きしないのはなぜでしょうか。よく挙がるのが、忙しい、次に面倒くさい、という理由です。新たな業務として1 on 1が追加されたという感覚だとこのようなことを感じやすいでしょう。部下にとっても、上司と1対1で話すことに対して、説教などのイメージがありいい思い出がない人が多いです。また、業務についてアドバイスできても、相談されたらどうすればいいかわからない。端的に言えば、部下の本音を聞けているとはどういうことなのか、自分が1 on 1をされてこなかったので、イメージがわいていないといえます。ですから、まずはイメージづけから始めることです。

従来より、人材マネジメントは何か問題が起こってから行動を起こす、という後手の対応になりがちでした。しかし、リスクを見越して先に手を打てるのも、1 on 1のメリットといえるでしょう。心身不調に早めに気づいたり、部下のモチベーションアップや目標達成率、また、上司と部下、あるいは会社と部下の関係性の改善にもつながります。1 on 1の実践者からは「問題解決より問題発見として活用している」「じっくり話すから部下の新たな一面がわかった」といった声が寄せられています。もし、部下が、今の組織でやりたいことが見つからなければ、新たな仕事をつくるという方法もあります。これは頻繁にはできない方法ですが、事例ができてくると、従業員のやりがいも高まるでしょう。

上司は部下の想いを丁寧に拾い上げるつもりで話を聞きましょう。すると話をすり合わせやすくなります。部下も「よく見ていてくれてありがとうございます」と感謝するかもしれません。1 on 1が定期的にあることで、部下も「次はこれを話そう」という心積もりができますし、上司に話しかけやすくなり、普段から報連相をしやすくなります。部下は自身のキャパシティーを超えたときに初めて、上司に相談しようと思う傾向がありますが、普段から話しかけやすい雰囲気をつくっておくことが大切なのです。

3. 1 on 1で実施すること・従来の面談・コーチングとの違い

●部下にしゃべらせ、気づかせる

今日の参加者の1 on 1実施率は、2割くらいのようですね。実施している皆さんは、部下にまずなんと話しかけますか。よくある話し出しの決まり文句が「最近、どう?」です。これはワークショップで部下役を演じるとわかりますが、こう声をかけられたら戸惑いますよね。もちろん、それによって笑いが上がり、良いコミュニケーションにつながることもありますが、大事なのは言い方です。部下のことや1 on 1の時間に意味を感じていない人が発する「最近どう?」は「この人、何も考えていないんだろうな」と部下に思わせてしまいますし、とりあえず言っておこうという一言は嫌がられます。その人固有の事柄を上司が聞こうとしているかどうか、部下のことをしっかり見ようとしているか、部下も見ていますよ。

「何か困ったことない?」と質問して部下に「順調です」と答えられると、上司が困ります。聞きたいことがないのに、質問を絞り出そうとすると、場当たり的な一問一答になりがちです。1 on 1の品質管理を行うなら、全体感を把握しておくことが大事になります。

1 on 1でマネジャーは何を行うのか、従来の面談や雑談と何が違うのか、というのをマトリクスにしました(図5)。従来の面談は、成果や成長を促す比重が高い。雑談は相互の情報を重ね合わせることで、相互理解が深まり、安心や信頼が出てきます。雑談といってもいろいろありますよね。その雑談が度重なってくると、相談も自然と増えてくるでしょう。先ほど言及した心理的安全性には、上司と部下の接点がどれだけ増えるかも大きく影響します。

図5 1 on 1マトリクス

従来の面談と雑談、相談、そして成果や成長への内省を促すコーチングのすべてが、少しずつ重なったものが1 on 1です。これと特定した内容に偏らず、いろいろなことを行います。上司はプロのコーチではないので、まずは雑談から始めるのもよいでしょう。

ただ、30分の1 on 1であっても、部下は成果を求めたいわけです。1 on 1を行って、知識・情報をアップデートするだけでも成果といえますし、課題の発見や話したことで部下の気持ちがすっきりしたら、それも成果といえるでしょう(図6)。生み出した成果を部下と照らし合わせ、可視化することが大事です。

図6 1 on 1ミーティングの成果

また、終わり方、クロージングも重要になります。話が途中でも、振り返り、印象的だったこと、気づいたことを部下自身に総括させ、まとめさせることができれば、それが新たな気づきになります。もし浅い答えだったら、その答えは認めつつ、上司自身が話したことを材料に助言するのがポイントです。

もっとも大事なことは、1 on 1が終わったときに、目に見える成果以上に、部下のエネルギーが高まっていることです。よくありがちなのは、上司のエネルギーだけが高まっている状態ですね。エネルギーは、話せば話すほど高まるものですから、1 on 1では、上司よりも、部下にしゃべらせてあげてほしいです。しゃべらせ、気づかせ、理解させて伝えていきます。

●土台は「信頼づくり」と「成長支援」

効果的な1 on 1に必要な上司の能力や、上司と部下の関係性について見ていきましょう(図7)。上下の関係性と対等な関係性で、どう変わるかといえば、話題に関心があれば横の関係で話が盛り上がりやすくなります(図8)。インタビュアーのように特に色のない形で質問をされると、部下のピュアな内省を促すことにつながるでしょう。「1カ月でうまくいったのはどんなこと?」「うまくいかなかったことは」というように聞くと、内省に入りやすくなります。一方、従来の面談の感覚、つまり上から父親的なポジションで評価シートを前にしながら「この1ヶ月で良かったことは何?」と問われれば、部下もPRしようという思考になります。いろいろな立ち位置をもてると、マネジメントのキャパシティーが広がるでしょう。自分はどこが強いのか、弱いのかの参考になれば幸いです。

図7 1 on 1ミーティングで必要な上司の能力
図8 1 on 1で上司が担う立場役割

1 on 1のやり方には、土台となる「信頼づくり」と、その上に築く「成長支援」の2つのステージがあり、それぞれテーマがあります(図9)。何をやるかも含めて、トレーニングを続けることが重要です。

図9 1 on 1実践マップ - 1 on 1ではナシア合う7つのテーマ

4. 実践企業の事例と処方箋

●成果を焦らず、長期的な実践を

最後に、私が見聞きした1 on 1の現場で、どういうことが起こっているのかをお伝えして、その処方箋、継続の仕方についてもご紹介します。

まず、課題として挙げられるのは内容のマンネリ化ですね。ですから質の向上をさせるため、マンネリ化を防ぎ、対話の質を向上させていく必要があります。最初の数回は、お互いを知るための話が盛り上がりますが、その後はいつも話していることと一緒になってしまう傾向がありますから、雑談から成長支援の内省の話へ、どう結びつけるかが問われます。

上司はどうしても問題解決に偏ったコミュニケーションになりやすいので、そうでないコミュニケーションも身につけなければなりません。ただ実践を繰り返すだけでなく、研鑽の機会や情報のシェアによる意識づけも必要になります。そのような研修に参加すれば、コミュニケーションの質が高まるでしょう。対話の質には上司のセンスも大きく影響しますが、努力や新しい取り組みにより一定レベルまでは高められるので、やり続けることが大事です。

正しくできているか、部下がどう思っているか、上司として不安になるかもしれません。最初に説明したように、1 on 1の目的は、部下のための時間をつくることです。正しくできているかの指標としてツールを検討し、手順に沿って聞くポイントを逃さず押さえられれば、安心感につながるでしょう。ただし、ツールは人によって、合う・合わないがあるので、普段からうまくやれている人は、逆にツールがあることで不自由さを感じるようになるかもしれません。ただし、これからやってみようという人には、ツールの検討もありだと思います。また、部下がどう思っているか知るには、サーベイをとった方がよいでしょう。上司と部下の感覚の違いを検討していくとよいと思います。

1 on 1の成果は長期スパンで見ることが大切です。「成果」とは、部下に必要なものになる、あるいは部下が充実していると感じられるようになるということでしょう。部下が成果を出していくために必要な時間になっているか。それを知るにはサーベイを取るのが有効です。期間は、1.5~2年ほどはかかりますが、それができている人は生産性が高くなります。対話ができていれば他に省略できることがあるので、ここは長期的な視点で取り組んでいただきたいです。

働き方改革や効率性、生産性の向上で、会社や組織への帰属意識がどんどん希薄になり、社員は業務のことしか考えないようになっています。会社の方向性へ自分の思っていることを添わせる経験が減っていきます。1 on 1への信念が根底にないと、会社単位ではなかなか続きません。経営陣を巻き込み、風土やカルチャーとのつながりをいかにつくるかです。

会社としての哲学も必要です。どういう組織にしていくのか。対話型組織が成果につながると信じられるのか。対話でクリエイティブなものが生まれる組織にしていきたい、という考えや信念が根底にないと、会社単位ではなかなか続かないでしょう。1 on 1ミーティングを単体の施策ではなく、全体の位置づけとして考えられるか。業務のなかでツール化が進むほど、職場の対話は減っていく傾向にあるので、対話ができることが企業の競争力になると信じてやり通せるか。カルチャーとして当たり前になってきたら、ようやく上の考えが下へ浸透していきます。チャネルをきちんと構築できるかどうかにかかっています。

1 on 1でどんな話を流すかは自由です。その時々に応じて、必要なことを流していければいい。今から次の段階に向けて、実践を通じて設計していければよいのではないかと思います。本日はありがとうございました。

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