セミナーアーカイブ

立教大学田中聡助教×JT
「人的資本時代に語る! 次世代経営人材の戦略的育成法」

動画

「経営人材育成」は大きな課題と認識しつつも、一朝一夕には実現できるものではなく、また明確な処方箋がないということに悩みを抱えている企業も多いのではなでしょうか。ここでは「経営人材育成」をテーマに2022年9月29日に開催したセミナーを動画とレポートで振り返ります。

こんな方におすすめ

  • 経営人材育成に課題・関心をお持ちの方
  • 具体的な経営人材育成のプログラムを知りたい方
  • 人的資本経営を推進する企業の人事担当者

登壇者プロフィール

田中 聡(たなか さとし)氏

立教大学 経営学部 助教

正路浩平(しょうじ こうへい)氏

日本たばこ産業株式会社(JT) 人事部 次長

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第1部

⼈的資本時代に語る! 次世代経営⼈材の戦略的育成法
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第2部

JT Next-Leaders Program
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第3部

クロストーク
0:41:56

セミナーレポート

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Ⅰ.⼈的資本時代に語る! 次世代経営⼈材の戦略的育成法

●「経営人材の育成」というテーマに注目が集まる理由

私は、人材開発やチーム開発に関して、多くの企業と共同研究をしています。テーマは多様ですが、私自身が特に強い問題意識を持って研究を続けているのが、今日のテーマでもある「経営人材の育成」です。

2014年頃、有効求人倍率が1倍を超えてきたあたりから、国全体としての人手不足が浮き彫りになりました。それから約8年が経過しましたが、量的にも質的にも足りていないのは、経営人材ではないかと思っています。

ではなぜ「経営人材の育成」というテーマが注目を集めているのでしょうか。その背景をまず共有したいと思います。端的に言うと「経営環境が不確実性、複雑性を増してきたことで、経営の難易度が上がった」というのが理由だと思います。しかし、よく考えてみると会社や組織とは、もともと極めて複雑性が高いものです。何か1つのことを変革しようと思ったら、関連する別のことも変えなくてはならない。たとえば、ダイバーシティを推進するならば、関係者もダイバーシティである必要がある。すると、新卒一括採用や総合職一括採用といった採用の形にもメスを入れなくてはならなくなる。

また、評価の仕組みの問題も浮上してくるでしょう。登用基準も変えなくてはならなくなります。これらは人事的なテーマですが、実務で多様な人たちが強みを発揮することで、パフォーマンスを最大化するのであれば、働き方改革やデジタル・トランスフォーメーションといった業務改革も必要になってきます。

このように、組織で行われるあらゆる「改革」は、他のものにも影響を与えるという意味で、全社改革になっていきます。この全社改革、つまり「コーポレート・トランスフォーメーション」をリードしていくのは当然、経営人材です。

ところが、現在の経営陣を見渡したときに、「本当に全社変革ができるのか?」「次の経営人材は誰が育てるだろう?」と感じる人も多いのではないでしょうか。データをとってみても、多くの企業が経営人材の育成に悩んでいることがわかります。

ここには2重の苦しみがあります。そもそも経営人材が不足しているという問題と、次を担うミドルマネジャー層の負担が増加し、疲弊しているという問題です。

●経営人材育成のプロセスにおける課題

昔から言われている経営人材の育成プロセスは、人材のプールをつくり、選抜して成長させ、そのうえで抜擢するというものです。しかし、このようなステップには、3つの問題が浮上してきます(図表1)

図表1 経営人材育成プロセスに立ちはだかる「新・3大問題」
図表1 経営人材育成プロセスに立ちはだかる「新・3大問題」

1つめは、選抜する際、対象者がある程度決まっていても、なかなかその人に内示ができないという問題です。よくあるのは、選ばれなかった人材に対してうまく説明ができない、あるいはモチベーション低下を恐れているのが理由です。つまり、横並びや平等主義が根強くあって、なかなか思い切った選抜ができないのです。

2つめは、選抜した人を異動させづらいことです。これは現業第一主義の影響があります。ただし、この異動の問題は、最近、比較的クリアになってきているようです。現場が強くても、社長自らが人事権を行使して、現場からエース級の人材をアサインメントさせることもあるようです。ただし、異動後の成長支援や評価の実態は業績重視。修羅場経験を与えて、そこから這い上がってくる人を抜擢すればいいという考え方はまだまだ根強いと思います。

3つめは、「この人」という人材がいて、ある程度の評価もついているけれども、あと5年、10年待たないと、年功の壁を超えられないという問題です。

●経営人材の成長を支援するという発想に欠ける

もう1つ、経営人材の候補者が少ないという問題もあります。その理由は2つ挙げられます。

1つめは、昇進意欲の減退です。「Z世代」をはじめ、若手の約20%弱しか管理職になりたくないという調査結果もあります。

もう1つは、あと少しで選抜の対象になりそうなときに他社に流出してしまう、これも最近は顕著に見られます。

さらに付け加えるならば、抜擢人事をした後の問題もあります。経営ポストについた人たちに対する成長支援がきちんとできているのか、という問題です。経営人材の育成というと、そこに至るまでの育成のプロセスと考えられがちです。しかし実際は、経営職に就いたら「上がり」ではなく、そこから更なる成長や学習が始まるはずです。誰もが経営職に就いて時点では経営の素人なわけですから。そういう視点で、経営職に就いた人材に対する成長支援についても考える必要があります。

●経営人材とミドルマネジャーはまったく別の生き物

経営人材の育成を大袈裟に捉えずに「優秀で成果を出したミドルマネジャーを登用すればいいではないか」という話もあると思います。その考え方も否定はできませんが、ここで考えたいのは、そもそもミドルマネジャーと経営人材は、全く別の生き物ではないかという仮説です。

図表2は、ミドルマネジャーと経営人材を対比したものですが、ミドルマネジャーとは、経営から与えられた不確実で複雑性の高い課題をいかに効率的に対処していくのか、という「How」の発想でリソースを最適化していく存在です。目標をブレークダウンし、それに対して人材をやりくりして業績を上げる。これがミドルマネジャーの基本的な考え方であり役割です。当然、自部門最適の視点で動いていくことになり、責任の範囲も自部門のメンバーに限られます。これは、良い悪いではなく、そういう役割と責任を持っているからです。

図表2 経営人材とミドルマネジャーはまったく別の生き物
図表2 経営人材とミドルマネジャーはまったく別の生き物

大事なポイントは、ミドルマネジャーとして輝かしい成果を残した人が、その先にある経営人材に本当にたどり着けるのかという点です。経営人材とは、ミドルマネジャーに対して「Why」を投げかけ、組織に対して不確実性を創造する役割です。

また、経営人材とは、単年ではなく5年、10年、あるいは20年、30年というスパンでビジョンを構築し、そのために必要な事業を自らの手で作り出していく。たとえ短期的な利害から反対意見が多くても、経営人材は長期的な視点に立って意思決定をしながら組織全体を前に進めていかなければなりません。加えて、未来だけではなく、創業期から現在という歴史のつながりを考えることも大事になります。さらに、自社という範囲を超えて社会基点で自社を捉え直すことも必要です。

そう考えると、ミドルマネジャーとして優秀な人が経営人材として活躍する保証は全くないことがわかります。そこには、非連続的な役割シフトがあって、生まれ変わるくらいの大きなトランスフォーメーションが必要なのです。

●ミドルマネジャーを経営人材へと脱皮させる発達的挑戦課題

では、ミドルマネジャーから経営人材への非連続な役割移行をどう促していけばいいのでしょうか。1泊2日の選抜型の研修だけ、あるいは既存事業で業績を高めていくだけというのも難しいと思います。シンシア・マッコーレーというアメリカの研究者は、「発達的挑戦課題」が必要であると主張し、次のようなことを挙げています(図表3)

図表3 経営人材を育成するにはどんな経験が必要か?
図表3 経営人材を育成するにはどんな経験が必要か?

1つめは、不慣れな仕事環境に異動するという経験です。最初は、花形部門、あるいは保守の本流部門にいた人が、ある日突然会社からよばれて、これまで全く経験したことがない子会社に出向する。あるいは、新しい事業を立ち上げるような経験です。2つめは、そこで高いレベルの責任を負わされる経験です。3つめは、責任は重いけれども権限がないという状況のなかでチームをつくる経験、そして、4つめはその中でさまざまな障害を乗り越えていく経験です。最後の5つめは、変化の創造です。

このような理不尽でジレンマを抱えた状況でチームをつくり、多様なステイクホルダーと関係性を構築していく。当然トラブルも発生しますが、そうした修羅場の環境下で変化を創り出す経験が経営人材になるために必要だということです。

マッコーレーがこれを提唱したのは、いまから約20年前のことです。最近「CEOゲノムプロジェクト」という、過去10年間でCEOになった人、とりわけ、そのなかでも平均よりも早いペースでCEOに登りつめた、「スプリンターCEO」とよばれる人たちが、どのような職務経歴を持っているのかについて考察した研究があります。結果、3つの共通項目があることがわかりました。

1つは、マッコーレーの研究とほぼ変わらない、保守本流から離れて傍流へという不慣れな異動経験です。約6割の人がこういった経験を積んでいました。2つめは、キャリアの最初の10年間での飛躍です。やはり早期のタフアサインメントが大事なのです。3つめは、大混乱を引き継ぐ経験となっています。

このように、理不尽な環境に身を置きながら、非連続的な学習課題をクリアしていくという「発達的挑戦課題」が、ミドルマネジャーから経営人材へと脱皮するうえで必要な機会であることがわかります。

●経営人材への変容プロセス

とはいえ、厳しく困難な修羅場経験を与えれば、きっと活躍して業績を上げてくれるはずだ。あるいは、業績が上がった人を登用すればいいという考え方は、極めて安直で危険です。なぜなら、そこにはメンタルケアが不足しているからです。再起不能な状態に陥ってしまったり、会社に嫌気がさして転職したりすることもあるのです。よって、発達的挑戦課題を与える際には、必ずそのプロセスにおいて伴走が必要になります。

図表4は、優秀なミドルマネジャーが新規事業に異動した時に訪れる思考プロセスの変容です。まず、最初の段階としては、経営陣や上司、あるいは既存事業が自分を理解してくれないと考える「他責思考期」です。会社が投資した新規事業なのに、なぜ使えない部下をよこすのかなど、人事部門にも批判の矛先が向きます。人によって程度の差はありますが、最初のうちは、うまくいっていないという現状の責任を他者や環境に向けるのです。これは一見意外かもしれません。

図表4 事業を創る経験を通じたリーダー開発プロセス
図表4 事業を創る経験を通じたリーダー開発プロセス

次の段階は、「現実受容期」です。成果も進捗も見えない不遇な状況にしばらく置かれた時に、「なぜこの会社で働いているのか?」と、会社に対して自分が働く意味を自問自答する。あるいは、新規事業の意味や顧客の存在、事業の価値について俯瞰的に考えていくようになります。そうすると、今、自分が置かれている不遇な状況を誰かのせいにするのではなく、俯瞰的に見られるようになります。この段階で、そんな視点を獲得していきます。

そのあとは、2年から3年かかると言われていますが、これまでのミドルマネジャーとしての在りようや、実はマネジメントの手法や様式そのものに問題があったのではないかと考えるようになります。たまたまうまくいっていたけれども、自分自身のマネジメントスキルが高かったわけではないと気づくのです。ある意味、批判的に自分自身を見つめ直すような時期で、これが「反省的思考期」です。

この時期を乗り越えていくと、ミドルマネジャーから脱却して、生まれ変わる必要があると考えるようになります。そうなった時にはじめて、「会社の未来をつくる」という新規事業の価値や使命に気づく。いち事業部門の責任者という視点ではなく、経営と同じ目線で事業を捉え直すようになるのです。そして、会社や世の中が真に求めているものは何か、というように視座がどんどん広がっていく。これが「視座変容期」です。人によって差はあるものの、ここに至るまでに大体7年から10年はかかるといわれています。非常に足の長いプロセスです。

さらに細かく言うと、10の成長プロセスがあるということが研究からわかっています。支援・育成をする側としては、発達的挑戦課題に取り組む対象者が、いまはどのフェーズにあるのかについて、「成長プロセスの見取り図」を持って支援することが大事です。

よく、最初の他責思考期の段階で、「任せてみたけれども、向いていない」と考えて、すぐに配属を戻してしまうケースがあります。優秀な人であっても最初は他責思考期から入ることがわかっていれば、いかにして次のフェーズに進めるかという視点から支援ができるはずです。本人だけではなく、支援する側の成長も求められるのです。

●発達的挑戦課題は必要だが、伴走が大事

まとめると、ミドルマネジャーから経営人材へ移行にするには、単なる知識や能力、スキルの獲得ではなく、視座の変容、つまり生まれ変わりが必要になるということです。そのためには、それなりに痛みを伴う経験や、強烈なアンラーニングが必要になります。そして、それらを促す基点となるのが、発達的挑戦課題やタフアサインメントなのです。

ただし、課題さえ与えれば、人は皆アンラーニングされ、視座の変容に向かうかというと、そうではありません。方向感覚を見失うようなタフな経験ですから、そう簡単ではないのです。だからこそ、支援をする側にも覚悟を持って伴走する意思が求められます。そして、業績一辺倒の評価ではなく、長期的な成長を評価する。これが大切だと思います。

経営人材の育成とは、経営人材になるまでの育成だけではなく、その後、経営職についた後も続いていく永続的なプロセスです。人事部門は、登用したら終わりではなく、その先も伴走し続ける覚悟と意思を持つことが必要だと思います。ぜひ育成に励んでいただければと思います。

図表5 まとめ 次世代経営人材の戦略的育成法
図表5 まとめ 次世代経営人材の戦略的育成法

Ⅱ.JT Next-Leaders Program

●JTグループの経営人材育成方針の概要とコンセプト

本日は、JT-Next Leaders Program(略称:NLP)とよばれる次期経営者育成プログラムの概要を紹介します。私自身もNLPの認定者ということから、本日はこのプログラムについて、事務局の目線と実践者の目線という両面からお話できればと思っています。

JTでは、以前から経営人材の育成について取り組んできました(図表1)。JTの前身は日本専売公社ですが、民営化を経てグローバル化や事業の拡大を進めるなかで、20年後、30年後という中長期を見越して、次世代リーダーを輩出するための施策を考えてきました。

図表1 JTの経営人材育成施策の変遷
図表1 JTの経営人材育成施策の変遷

JTグループでは、リーダーに求める資質を「高い次元における考える力、実行する力、そして人を巻き込む力」と定義しています。これらを細かく噛み砕き、導き出したあるべきリーダー像から設計したのが、早期の育成・選抜という観点からのビジネスリーダー育成プログラム(BL)であり、これを引き継ぐ形で、「グローバルに活躍し得る40代前半の執行役員」および「新規事業を牽引する事業部門長」を継続的に輩出することを目的に、早期から厳しく多様な経験を基軸とした成長を加速させる機会を提供するプログラムとして2013年より開始されたのがNLPです。

日本専売公社の時代から脈々と続く早期リーダー育成の理念と制度を時代や事業環境の変化、そして将来像に照らし合わせながら、人事部のみならず経営層とも議論をしながら、いまも再構築を続けています。

●階層別に4つのステージからなるNLP

NLPで次期経営層に求めているのは、「考える力」「実行する力」「人を巻き込む力」(図表2)ですが、これらの能力に加えて、どういったスタンスの人間であるか、またどんなポテンシャルを持っているのかについても総合的に判断をして、選抜と入れ替えを繰り返す形で育成をしています。

図表2 JT-Next Leaders Program(求める人材像)
図表2 JT-Next Leaders Program(求める人材像)

NLPは、会社から「君はこうなりなさい」と指示するようなものではありません。あくまで公募により選抜・認定をする形で実践しており、4つのステージで構成されています(図表3)

図表3 JT-Next Leaders Program(階層について)
図表3 JT-Next Leaders Program(階層について)

最初のCandidateステージでは、入社前の内定者を対象に公募をかけ、経営者になりたいという意思を確認し、面談を経て選抜します。対象者はポテンシャルで判断しているケースも多いので、3年間の成長支援期間を設定し、早期の自律を求めています。

次がJuniorステージです。こちらは20代の主任、課長代理クラスが対象です。様々な業務を経験したうえで、なぜ経営層に入りたいのかについて、いくつかの面接・面談を通じてヒアリングし選抜します。このステージ以降は、海外での事業経験や出向など、様々な領域でタフなアサイメントが付与されます。なお、それ以降のステージは、成長支援期間を5年間に設定しています。全てのステージで共通するのは、ベースとなる論理的思考力や課題の発見力について、また外部機関のアセスメント等を一定程度活用しながら客観的なデータも用いることです。そこで最低ラインの線引きをしながら、最終的に面談を経て、選抜をしています。

Juniorの次はMiddleですが、こちらは私自身が実際に認定を受けたステージです。このステージは、30代の管理職一歩手前の人を対象に選抜をしています。Middleステージに認定されると、早期にチームのマネジメント、つまり管理職の経験が付与されます。マネジメントをする組織は、国内のみならず海外も対象となります。こちらも成長支援期間は5年間です。

そして最後が、Seniorステージです。このステージは、40歳までに管理職に登用されている人だけが対象になります。選抜をされると、大きな組織の部門長や子会社の社長といった、より強いストレッチのかかるアサインメントが付加されます。その後、執行役員をはじめ、より大きな事業の部門長による最終選定を経て、役員に登用されていきます。

NLPはどこかのステージからスタートしないといけないのではなく、常に入れ替えが発生します。例えば、Candidateで3年間の成長支援期間を経験したけれども、Juniorに入れなかったというケースでも、そのあと成長していけばMiddleに応募でき、そこから認定をされるケースもあります。このように柔軟性を持ちながら、一人ひとりの自律心をベースに育成を行っているのがこのプログラムの特徴です。

図表4 JT-Next Leaders Program(応募要件について)
図表4 JT-Next Leaders Program(応募要件について)

●各ステージにおける具体的な選抜方法

各ステージにおける選抜方法について、Seniorから見ていきましょう。Seniorは、基本的には40歳以下の管理職が対象です。内外のアセスメントを活用しながら、どういった人で、どういった形で組織を動かしてきて、どんなリーダーになり得るかといった点を総合的に判断したうえで、最終選考に進みます。認定には経営層も加わって、これまでの選考結果を踏まえ総合的に評価します。

Middleでは、Webテストも設けており、一般的な論理的思考力や課題解決の言語化などについてのアセスメントを受けていただきます。この選考をパスしたうえで、2回の面接を通じて認定となります。

JuniorはMiddleとほぼ同じで、応募後、アセスメントを経て面接をして決めていくという流れになります。

Candidateも、内定者に応募いただき、面接を経て決めるという点では、各ステージとほぼ同じ体系です。ただし、全てに共通しているのは、面接の結果だけではなく、内外のアセスメントも一定程度活用をしながら、総合的な判断を行うという点です。

図表5 JT-Next Leaders Program(選考プロセスについて)①
図表5 JT-Next Leaders Program(選考プロセスについて)①
図表6 JT②-Next Leaders Program(選考プロセスについて)
図表6 JT②-Next Leaders Program(選考プロセスについて)

●NLPで重視する3つの成長機会

最後に、成長の機会提供についてのまとめです。基本的には、「チャレンジ」、「サポート」、「アセスメント」という3つの機会を提供しています。

JTグループで成長の基軸として特に強く捉えているのは、「チャレンジ」です。自分たちのコンフォートゾーンから離れた厳しい経験を意図的に付与することが、NLPの大きな特徴だと思います。私自身も前職は経営企画部でしたが、初めて人事領域に異動し、なおかつ部下を持つという経験を現在しております。ストレッチがかかる状況のなか、早期にキャッチアップをして成果を出すことが強く求められています。

ストレッチやタフアサインについては、海外たばこ事業(JTI)をはじめとする海外経験や、JTグループ外への出向もいくつか設定しています。また、全社横断プロジェクトへの特命的なアサインも含めて、厳しい経験を付与しています。これらのタフアサインを経て成長し、次のステップに進んでほしいと人事部は期待しています。

「サポート」は、研修や1on1の要素を多く持ち合わせており、社長以下、経営層との交流の場なども設定しています。また、研修体系としては、論理的思考をより強めていくためのプログラムへの派遣や、大学院、リベラルアーツ教育、もしくはコーチングやメンタリングについても幅広くサポートしています。私自身も先日、海外に1週間ほど研修に行かせていただきました。そこでの内容としては、1週間で資料を作り、海外の機関投資家に対して、全て英語でプレゼンをするといったことです。このようなことを含めて、NLPを通じて様々なプログラムを提供しているのです。

最後に「アセスメント」です。チャレンジ、サポートについては、適切なインプットに加えて、アウトプットは自分の経験として身につけていくことになりますが、実際に自分自身の成長にどうつながっているのか、強みが伸びているのか、弱みが克服されているのかなどについても明確にし、メタ認知を強く持ちながら、さらなる成長をしてほしいと考えています。そのような観点から、選抜後も定期的なサーベイやアセスメントを行い、しっかりと見続けています。それらを踏まえ人事部として、次の異動やよりストレッチをかけるための方策ついて検討しています。

NLPという取り組みは、JTグループ内においては、非常に大きな経営課題でもあります。実際には成功だけでなく、失敗することもあり、様々な課題も抱えていますが、日々試行錯誤をしながら、このプログラムを進めているのです。

図表7 JT-Next Leaders Program(成長支援について・メニュー別)
図表7 JT-Next Leaders Program(成長支援について・メニュー別)

Ⅲ.クロストーク

●質問1 伴走者に必要な資質とは

※ここからは『Learning Design』編集長斎木輝之がファシリテーターとして参加いたします。

田中:

テクニカルな知識やスキルというよりも、まずは人の学びや成長に対して、「どれだけ関心を持てるか」が重要です。成長の変化とは、今日明日で目に見えて現れるものではなく、長い時間がかかる、緩やかなものです。劇的、瞬間的に変わるケースもありますが、やはり年輪のように、いろいろな経験が蓄積されていくなかで、少しずつ変わっていくものです。

そして、少しずつ変わっていく「何か」は、自分だけで気づけるものではありません。なので、自分がどこにいて、どんな成長課題と向き合う必要があるのかを知るために他者からのフィードバックが求められるのです。他者の視点で本人を見続けるという観察力と、それを持続させていくだけの好奇心が問われます。

テクニカルな面では、コーチングのスキルは重要だと思います。例えば、本人の内省を促すような問いをどのタイミングでどのように発するか。そうしたフィードバックに関わるコーチングの知識・スキルは、よりいっそう求められるような気がします。

あとは、それを属人化せず、組織として支援することも重要です。異動で人事のスタッフが変わり、後任の担当者は成長の過程が見えなくなってしまうといったことがないようにしてほしいと思います。記録を残すなり組織的に対応して、個人の成長のポートフォリオを会社全体の資産として持ち、それを継続してプラッシュアップしていく必要があると思います。つまり、組織として支援を継続するための仕組みづくりが大切だということです。

斉木:

正路さんからもお願いいたします。JT様では個人カルテとして記録に残し、四半期ごとに経営陣やメンバーで共有しながら、1on1などで対象者の方にも関わりを持っていらっしゃると聞きました。どんな取り組みやサポートをしているかを、ぜひ教えてください。

正路:

おっしゃる通り、JTでは、人事部のNLPを管轄するチーム―――まさに私のいるチームが、NLP認定者一人ひとりのカルテを保有しています。そのカルテに基づいて、年に数回、社長以下経営層でその内容をシェアしながら、具体的にこういうキャリアを踏めば、こういった最終ゴールが見えるのではないか、といった議論を行っています。NLPメンバーに対しては経営としても常に高いコミットメントを持ちながら、成長を見続けているのです。

実際、NLPのほとんどの階層において、最終的な認定をする際に、社長以下の決裁が必要です。異動に関しても決裁が必要なケースが多いので、経営もコミットしながら伴走していくという姿勢となります。

田中:

今の正路さんのお話は、とても興味深いですね。NLPを人事の取り組みだけに閉じていないところが大事だと思います。経営の大きなアジェンダとして経営人材育成という取り組みを位置づけるという考え方です。私の研究でも、成長をドライブさせる大きな要因として、誰のどんな支援が効くのかについて調べると、やはり経営層の支援が大きい。もっと言うと経営層からの内省的な支援です。育成のプロセスを通じて、経営的な視座を持ってほしいとなったときに、その評価は現職の経営層しかできない。現職の経営層だけが本人の視座を高めていくことができる、唯一のプレイヤーだからです。

人事だけではなく、経営が最終責任を持って意思決定をしていく。自分が主体者として関わるんだという意思を、まずは経営に持ってもらうことが、人事からできる組織の動かし方だと思いました。

正路:

経営のコミットがあると、我々認定者の側としても非常に励みになります。事務局としては、経営との交流の場を無理やりセットするようなことはしてきませんでした。能動的に経営と会話をしてほしいからです。数千人の社員を抱える会社でそれは難しいと思いますが、NLPではカルテを共有しているので、常に認定者をウォッチしてほしいとお願いしています。双方がいろいろなタイミングで交流ができたり、視座を高めたり、コミュニケーションを図ったりということを、工夫をしながらプログラムのなかで行えるようにしているのです。

●質問2 経営の理解をどう得るのか

田中:

参加者がお聞きになりたいのは、「JTさんだからできるんでしょう?」ということだと思います。仮に「うちの会社の場合、そこまで経営の理解はないんですよ」という参加者の声があったとすると、そういう組織ではまずどこから手をつけますか。あるいは、どういう風に経営の理解を得ていきますか?

正路:

難しい問題ですね。

田中:

NLP出身の経営層はいらっしゃるんでしょうか。

正路:

いまのところ1人、役員になっている方がいます。

田中:

まだ多数ではないということですね。つまり、「自分はこのプログラムに育てられて、今があるんだ」という想いを持つ経営層がいるわけではないと思います。NLPでの経験を共有しているのならば、意識を醸成しやすいと思いますが、そうでない場合、NLPにどれだけ理解を示して、手を差し伸べてくれるのか。そういった点は、非常に興味深いと思います。

正路:

JTは過去にNLPという名前ではなくとも、様々な早期選抜の仕組みを走らせてきたという長い歴史があります。そういった仕組みがデフォルトとして存在しているという意識は、経営層にも一定はあるのだろうと想像しています。ただし、そういった仕組みで選抜されて、現職に登用されている方もいれば、そうでない方も一定数います。でも、少なくともより質の高い人材を早期に選抜してグループの成長につなげていきたいという思いは非常に強く持っている。抽象的なお答えかもしれませんが、20年後、30年後の在りたい会社の姿からの逆算になるのだと思います。

私自身も、年齢的に30年後に会社にはいないと思いますが、30年後にどんな後輩たちが経営層にいてほしいかという目線で、現在のNLPの面接などに対応しています。そういうバックキャスト的な見方は、経営だけでなく私たち人事にも必要だと思っています。

●質問3 若手の意欲をどう感じているか

田中:

もう1つ、JTさんは人事界隈では、経営人材の育成を積極的に取り組んでいることで有名です。そうしたなか、新卒で入ってくる若手は、NLPというプログラムを意識してJTさんを希望するといったことはあるのでしょうか。

正路:

具体的な数字までは申し上げられないのですが、一般事務職の内定者の半分弱くらいがCandidateに応募することがあります。そういうことを踏まえると、内定者のなかには、会社に入るからには活躍をしていきたいとか、切磋琢磨をしたいといった意欲があるのだろうと感じています。

ただし悩ましいのは、時代が変わるなか、仮に内定段階で認定をされた人材を、最初にどんなポストに配置すればより成長が加速化するのかについては、未知数であることです。組織が個に合わせるというスタンスから、一人ひとりに対して一律ではなく個人の特性を踏まえながら配置をするからです。

田中先生にお伺いしたいのですが、1年目からの修羅場経験はさすがに難しいなか、どういったところに着目して、初期的な配置をするべきでしょうか。学術的な観点からお伺いできればと思います。

田中:

新卒入社1年目から経営人材育成を目的にタフアサイメントを実施する企業の事例がほとんどないので、研究に必要なデータが十分に取れていません。よって、1年目のどんな経験が有効かという質問にはお答えできないのですが、先ほどの「スプリンターCEO」の研究にもあるように、最初の10年以内というのが1つのキーワードになります。その間にいかにストレッチな経験を積めるかがその後のキャリアを左右するということですね。

チャレンジストレッサーという概念ですが、どの程度のレベルが「ストレッチ」と感じるかは、人によって結構違うのです。同じ課題を与えても、ある人にとっては楽勝で、別の人にとっては背伸びしないとできないものだったりする。つまり、個々人の強みも含めた相対的な判断になると思います。ですので、これをすれば良いというものではなく、本人の適性に合うストレッチ経験が何かを十分に検討した上でアサインすることが重要ですね。

斉木:

いまのご説明のなかで共感したのは、入社10年以内が重要だという点です。意識や視座を上げていく経験・機会は多い方がよく、マネジャーになる前の育成が重要になると理解しましたが、いかがでしょうか。

田中:

とても重要だと思います。本人の持っている能力・資質という前に、将来リーダーになりたいという、自身の意思です。アセスメントの前に、まずそこが最初の関門だと思います。もちろん先天的なリーダー気質もありますが、後天的に育まれていくものもあると思います。

自分に期待がかけられている、自分が1人の個としてきちんと評価をされているという実感は早期にきちんと持てる状態が望ましいと思います。20年間ずっと既存事業の世界にいて、いつか課長に程度の感覚だと、その先の経営までは到底対応できないと思います。能力やスキルの問題ではなく、マインドセットがそこに追いつかないという意味で。鉄は早いうちに打つ必要があると思います。

●質問4 選抜に漏れた方へのケアをどうすればいいか

斉木:

次の質問は、応募したけれど選抜に漏れてしまった方へのモチベーション維持や離職防止でケアしていること、またフィードバックの工夫についてです。まず、正路さんから、いかがでしょうか。

正路:

私自身、実は5回ほど応募し、5回目で受かりました。4回は落ちたのですが、毎回、面接では適切なフィードバックをもらいました。必要に応じて、どんなところを伸ばすべきか、あるいは一定レベルに達しているのはどこかといったことについて、1on1も含めて面接官と直接コミュニケーションが取れるのです。これは社風もあるかもしれませんが、面接する側・された側がしっかりとコミュニケーションをして、フィードバックする体制になっているのです。

私自身もこのフィードバックが最も効果的だったと思っています。フィードバックなしに「不合格」と言われるよりも、明確に「ここはもっと伸ばしてほしい」「たとえば、もっと中長期的な視点で言語化してほしい」「もっとこういう経験をしてほしい」と言われるほうが納得できます。面接では複数の目線による良質なフィードバックを提供するように心掛けているのです。

田中:

面白いですね。きちんとフィードバックをしたうえで、再度トライできるという敗者復活の仕組みがきちんと担保できていることが、モチベーションを維持するうえでは、非常に有効だと思いました。

しかし皮肉なことに、最近では、それが課題にならない状況になってきていると思います。つまり選ばれなかった人は、むしろラッキーと思ってしまうような状況です。これを最近の若手のモチベーション問題に安易に片付けずに、「経営職・経営人材の魅力化」というテーマに置き換えてみるといかがでしょう。経営の仕事が、若手にとって目指したいポスト、やってみたい仕事と思われるために何が必要かを真剣に考える時期にやってきていると思います。

斉木:

不確実性や複雑性のなかで必死に頑張っている先輩や上司を見たら、心理的に「自分はここまでは無理」と思ってしまうのでしょうか。

田中:

コストに対して得られるベネフィットを比べた時に、コストの方が大きいと捉えるのだと思います。自分の生活や家庭よりも長い時間を仕事に費やすことを犠牲だと捉えたときに、それに見合う金銭的な報酬や意義があるかどうか。Z世代の意識は、仕事が社会をどう良くすることにつながっているのかを考えています。だから、管理職や経営職という仕事の意味や意義、それが社会にどうつながっていて、社会をどう良くすることに寄与しているのかといった大義などについて、きちんとコミュニケーションをしていくことが重要なのです。

斉木:

確かにそうですね。我々も毎年新人向けのアンケート調査を行っていますが、利益を上げるとか、会社を大きくするという話になると、途端に冷めていくのを感じます。自社の商材が社会に増えることによって、お客様に価値が提供できるとか、社会的に意義があるといったことから話して共感を得て、そこにチャレンジしたいという言い方やメッセージのほうが、モチベーションに影響するのではないでしょうか。

田中:

大きな会社になればなるほど、経営職と現場の若手との距離が開いていますね。エレベーターですれ違っても社長だとすぐに気づけないような距離感だと思います。なので、そこをきちんとつなげてあげる必要がある。AGCの平井社長は、とにかく現場に足を運んで一人ひとりと対話をする時間は惜しまないとおっしゃっていました。育成の話をする前に、そういう土壌をつくっていくことが、経営にとって一丁目一番地の大事な課題だと思います。JTさんの場合、採用時からごく自然にそれを1つのコミュニケーションツールとして使われている。そういう取り組みがあることがJTさんを志望する理由の1つにもなっていると思います。

正路:

よくも悪くも、たばこという商材を扱っている会社であるが故に、そのイメージが先行してしまうんです。元来ビジネスを通じて提供したい価値や世界観よりも商材が表に出てしまうので、採用に関しては、毎年意識をしてなるべく多くの方と会うようにしています。

内定後も定期的に食事をしたり、いろんな話をすることを通して、最終的にはJTグループが社会に提供していきたい価値に共感してくれた方に入ってきていただくことが多いと感じています。とはいえ、経営との距離は結構あります。そういうなかでも、何か言語化しきれていない、会社のなかにふわっとある共通的な価値観が距離感を埋めているのだと思います。私も社長に初めて直接会ったのは20代後半だったと思います。

田中:

多くの経営者は現場で社員と会いたいと思っているだろうし、若手社員とのコンタクトに抵抗を感じる方はいないと思います。だから、今日参加されている人事の方々にできることは、積極的に機会をつくることです。経営層も若手との会話を通じて、自分自身の仕事の意味や醍醐味を再発見する。双方にとって意味のある試みに変わっていくと思います。

●質問5 選抜者への周りの理解について

斉木:

正路さんからぜひお聞きしたいのですが、選抜された時の感想や変化、もう1つは選抜者と関わる現場の認識はいかがでしょうか。会社としてどの程度制度を応援するような土壌・文化があるのでしょうか。

正路:

難しいですね。私は何回かの挑戦を経て認定をされましたが、認定された瞬間は、あまり実感が湧きませんでした。むしろ、配置替えや異動に際して実感が伴いました。これはNLPの受講者全体にとっても言えることだと思います。配属先は「なんで俺が」と思うような場所も結構あります。たとえば、事業一筋の人が急にコーポレートに行ったり、ずっとドメスティックでやってきた人が、急に海外に送られたりと。ですが、そういう急激な変化に対しても後々話しを伺うと、しっかりと自身のメタ認知や内省も踏まえて、「自分はここに強みがあった/課題感があるからこそ、こういう配置にしてくれたんですね」と言われることも多い。

周りは応援してくれますが、プレッシャーも正直あります。周りが「あの人、NLPだよね」とわかっているなかでもしっかりとプライドと責任を持って、成果を出していく。そういう自責の念や主体性を常に忘れずに持ちながら、私自身も日々取り組んでいます。

もちろん弱音を吐くこともありますが、その弱音を受け止めるのはNLPを管轄している成長支援チームです。定期的に面談をセットし、そういうなかで吐露してもらったりしています。、一人ひとりの成長に合わせてストレッチの掛け具合も、周囲の方にも協力をいただきながら、取り組みを進めています。

斉木:

アサインは、基本的に人事の方が決めるのですか。

正路:

基本的には人事部が決めます。私の場合であれば、もちろん自身の意向については人事部とコミュニケーションしますが、最終的には人事部で決めた案に基づいて、経営の決裁をもらうという流れになります。必ずしも本人の意向に沿えるわけではありません。

田中:

プログラムに対するエントリーは、「手挙げ」ですよね。プログラムに入った後のアサインメントについては、本人の意向も聞きつつ、人事で最終決定するか、本人との刷り合わせで決まっていくということでしょうか。

正路:

その通りです。その経験が認定者自身にとって本当にストレッチになるのかという点については、しっかりと点検をしなければいけません。NLPでは、最終的には客観的な経営の声も聞きながら配置を決定しています。

田中:

よくできていますね。

斉木:

現場は、たとえば正路さんが経営企画から人事に行かれる時もすんなりと受け入れられたのでしょうか。Middleで入られたとのことですが、役割が大きくなることが多いですよね。

正路:

そうですね。私自身は非管理職から管理職に任用になるので、会社の制度上のシステムからすると、ややジャンプしています。ただし、そのジャンプというのは、NLPだからというよりは、元から設定されているグレードに準じたものだったからです。もちろん、Middleの認定においては、現場も含めた管理職の経験が付与されるので、その一環としてグレードも変更になっています。

●質問6 登用したい人材と経験にギャップがあった場合はどうするか

田中:

質問で「いいね」が多かったものの1つに、人事という立場で登用したい人材と、経験が求めている人材にギャップがある場合、人事が推薦しても経営からNGを出されるケースはあるのでしょうか、というものがありました。そういう場合、人事サイドとしてはどのように調整を図るのでしょうか。

正路:

各ステージによって経営層としては誰が責任を持って認定をするのかが決まっています。最終面接には常に執行役員が入っているので、その声や評点をベースにしつつ、総合的に最後の決定をします。人事はどちらかというと、仕組みの検討や運用面における経営との調整がベースになります。

斉木:

JT様では起こっていないとのことですが、人事の方にとってはお悩みの部分だと思います。そういうことを少しでも解消したり、是正したりする際のポイントがあれば、ぜひ先生からもアドバイスいただければと思います。

田中:

客観的な答えはなく、実際に任せてみないとわからない面もあると思いますが、人事サイドが戦略的に経営と向き合おうと思うのならば、あえて人事の声ではなくて、外部の有識者の声を人事の声としてぶつけることも考えられます。たとえば、外部のアセスメント会社のエグゼクティブに同席してもらって、人材開発会議で上がった結果を解釈しながら選抜する。つまり、テクニカルとしては外部の代弁者を使って経営にプレゼンをするようなケースです。

正路:

弊社においても常に外部を入れて、客観的な視点も入れながら経営と話し合っています。全て内部で行うというのは難しいのではないでしょうか。

田中:

これまでの経験を通じてではなく、経営人材へは経営経験を通じて相応しくなっていくものだと考えています。見極めではなく、登用後の伴走やサポートに人事の問題意識を据え直した方がいいのではなでしょうか。

斉木:

最後にお二人から参加者の皆さんにアドバイスをお願いします。

田中:

JTさんのお話を伺って、私が印象深かったのは「Openness」、いろんな制度をオープンにしている点です。これを実践するのは大変難しいことです。なぜかというと、説明責任が常につきまとうからです。たとえば、選抜者とそれ以外の人を誰もがわかるような状況にすると、当然、「なぜ私は違うのか」といった批判もされかねない。そこに1つずつ答えていくのは、プロ意識と専門性がないとできないことだと思います。オープンにすること、オープンさを持続するための人事の経営人材育成に対するコミットを印象的に感じました。

仕組みそのものを真似することは難しいと思いますが、少なくとも人事として持つべき視点、視座、心構えのようなところを事例の引き出しとして参考にされるといいのではないかと思いました。

正路:

私自身も学びが尽きません。自分自身が喋ることで、改めて勉強になることもあるし、人と関わることで生まれるものが非常に強いと、改めて感じました。

いきなり始めることは難しいと思いますが、今この瞬間の課題として捉えるというよりも、20年後、30年後、皆様がいらっしゃる会社や組織がどう在るべきか。そのための人材要件はどう在るべきかという、バックキャスティングの見方で人事という領域を捉えていただけると、いろいろな取り組みや可能性が見えてくると思います。

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