過去の「J.H.倶楽部会員」限定セミナーのレポートです。

J.H.倶楽部会員セミナー

〜人事のEX向上施策が会社を変える〜
社員の働きがいを高めるマーケティング人事
2021/11/15 オンライン

メルカリCHROの木下達夫氏と、Emotion Tech代表の今西良光氏によるセミナー「社員の働きがいを高めるマーケティング人事」を2021年11月15日に開催しました。
社員に高い意欲を持って働いてもらうために、エンゲージメント向上の必要性を感じている企業は多いのではないでしょうか。
そこで本セミナーでは、従業員体験価値(EX)の向上について、マーケティング思考を用いた実事例や施策などをお二人にお話しいただきました。
ここでは本講演の一部をレポートと動画で紹介します。聴講者からのリアルな質問にも答えるQ&Aもぜひご覧ください。

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サービスプロフィットチェーン(SPC)から考えるEX

最初に、私と会社の簡単な自己紹介から始めさせていただきます。私はこれまで、日立製作所で主に官庁向け営業を担当した後、マネジメントを学びたいとの思いから、ファーストリテイリングへ転職。ユニクロの店舗マネジメントに携わりました。

しかし、そこで見事にEX(Employee Experience:従業員体験)の向上に失敗します。ユニクロの場合、「カリスマ店長」がいましたが、私はそうはなれませんでした。属人的なマネジメントが行われている世界のなかで、自分の非力さを感じ、属人的、カリスマ的な人だけが活躍するのではなく、私のような「普通の人」も活躍できるようなマネジメントのあり方とはどのようなものかを自分自身の課題として、早稲田大学大学院へ入学。サービスサイエンス関連の論文や海外の先行研究や論文を読み漁る日々を送った後、ヒト、モノ、情報、お金を集めて、現在のEmotion Tech(旧wizpra)創業しました。

2013年に、念願のEX専門領域のサービスを立ち上げましたが、当時はまだEXという考えが浸透していなかったため、まずはCX(Customer Experience:顧客体験)領域のサービスにピボットし、2017年より再度EX領域のサービスをローンチして、現在に至っております。
 会社としては、EXとCXが重要な両輪だと捉えており、この両輪の向上を支援するクラウドのサービスを展開しています。

これまで450社以上の企業のサポートをさせていただき、会社としてもHR系のアワードも受賞いたしました。業種・業態は多岐にわたりますが、日本においてはEXとCXに関心を持っている大手の企業を中心にサポートを行っています。

EX領域では、大滝令嗣先生(マーサージャパン代表取締役社長、ヘイコンサルティング・アジア地域代表を歴任)とタッグを組みながら、一緒に事業開発をさせていただいております。

●なぜ、今EXなのか?

本日は、①「マーケティング的思考・施策の活用」、そして、②「EXと企業収益の関係性の実証」についてのお話をしていきます。

本セミナーのタイトルにもあるように、「マーケティング的思考」はHRの領域にも活用され始めています。また、EXというワード自体も最近言われ始めるようになりました。「EXと企業収益」、つまり、会社にとって一番重要な目的である企業収益と、EXの関係性が立証されてきたことが、EXが広がりを見せた要因ではないかと捉えています。

その前提として、まず、マーケティングで使われていた考え方や施策の活用というところについて説明します。マーケティング側のトレンドは顧客体験(CX)で、EXとは対になりながら語られるワードです。CXは、10~20年前まではCS(Customer Satisfuction:顧客満足)、過渡期においてはCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)と呼ばれていた概念が、時代に合わせて変容してきた考え方だと、私は捉えています。

この流れは、グーグルの検索数の推移を見れば顕著に表れています(図表1)。この10年くらいで、縦軸が「顧客」に関する検索件数で、横軸が「時系列」です。各ワードに対する検索数のボリュームがどの程度変動しているか、右に行けばいくほど新しくなってくることを表しています。昔はCS(水色部分)のウェイトが左の方で高かったものが、最近になるにつれて、CX(白部分)がボリューム、割合ともに増えている動きが、グラフからは見て取れます。

図表1 グーグルの検索数の推移 図表1 グーグルの検索数の推移

元々CSと呼ばれ、“満足度”が中心として置かれていたところから、なぜ“体験”へと移ってきたのでしょうか。こうした変化の背景には6つの要因がありますが、本日は時間の関係で、2つの要因にスポットを当てて説明していきます。

1. 「情報が購買に与える影響の拡大」

現在はSNSや口コミサイトなどで調べて商品を買う時代に変わってきています。それらを意識しながら顧客体験を作っていくことが重視されていますが、逆にいえば、顧客が商品を購入するにあたってのプロセスの中で、1つでも体験を大きく毀損してしまうようなことが生じると、一発でSNSに拡散されてしまい、それが原因で企業価値を大幅に毀損してしまうような世界観になってきています。

そのため、顧客体験の一つひとつを、しっかりと分解し、「何が課題なのか?」を把握して、“全体感”としてお客さまに満足していただけるような体験を提供できなければ、企業としては生き残れない世の中であるということです。つまり、CSという顧客満足度の最終的な指標だけではなく、「一個一個の顧客体験」も考えなければいけないという時代背景があります。

2. 購買パターンの多様化

現在は、購買デバイスや購買チャネルが多様化しています。最近でいえば、オンラインとオフラインを融合していく流れのなか、店舗はあくまで「体験」を提供していくものになり、「購入」はECやオンラインでするような業態も増えてきています。こうした購買パターンの多様化、つまり「一個一個の顧客体験」が多様化していくということを掴んでいなくてはいけないということです。

講義の後半で登壇されるメルカリさんも、新しい「C to C」という商習慣を定着させた、非常にシンボリックな企業ですが、このように、消費のパターンも変わってきています。

以上のような理由から、昨今、CXという用語がマーケティングの領域では非常に注目を集めています。たとえば旅行のサービスを考えてみると、予約を取るときは“good”だったが、受付は“bad”だった。部屋は“good”だったけど、料理は“bad”だったというように、一つひとつの体験を「個」と捉えるのではなく「総和」として、つまり、「お客さまがどのようなジャーニーのなかで体験を捉え、その一連の“体験の総和”がどうであったか」というところまでを意識しなければならない世の中に変わってきています。それこそが、ここ10~20年間でのマーケティングの大きな変化だと捉えています。

●「顧客体験の多様化」と「従業員の行動変容」

そもそも企業は、対お客さまに対しての商売・ビジネスを、従業員、そして会社という“器”でやっていくものですから、「お客さまの体験」が多様化すれば、そこに対応していく従業員の働き方や行動も多様化していきます。

また、昨今のコロナ禍のように、大きな環境変化があると、そもそも働き方が「顧客体験起因」ではなく、「社会変化起因」で変わらなければいけないといったこともあります。その点をも含めて考えれば、大きな変化が起きてきている昨今、従業員・スタッフの働き方も今後さらに多様化していくと考えるべきでしょう。(CSではなくCXが重要になったのと同様に)まさにEXでとらえていくことが、今後さらに重要な世の中になっていきます。

もう1つ、EXが「収益」と関係しているというデータが、ここ5~6年間に様々な論文や実際のビジネスのなかで立証されてきています。

図表2 エンゲージメントが高いチームと低いチームの比較(ギャラップ社の調査データ) エンゲージメントが高いチームと低いチームの比較(ギャラップ社の調査データ)

まず、アメリカのギャラップ社の調査データ(図表2)では、ある産業における、エンゲージメントに関する比較があります。当たり前ですが、「エンゲージメントが高いチームは、低いチームと比べても59%も定着率が高い」、「エンゲージメントが高いチームは、低いチームと比べても21%も生産性が高い」ということが立証されています。

図表3 上位20%の店舗比較(『タコベル』の調査データ) 図表3 上位20%の店舗比較(『タコベル』の調査データ)

また、『タコベル』(海外サービス業チェーンストア)には、上位20%の店舗比較に関する調査データがあります。「離職率が下位20%の店舗は上位20%の店舗に対して売り上げが2倍」、「離職率が下位20%の店舗は上位20%の店舗に対して利益率が55%高い」というデータが出ています(図表3)。

●eNPSで高まる顧客評価

日本国内においても、図表4のような傾向があります。当社がサポートするお客さまのデータを一部参照しています。

左側が「全国展開する飲食チェーンのEXと業績の関係」、右側が「ある企業の営業部毎のEXと顧客評価の関係性」で、スタッフのeNPS(Employee Net Promoter Score)が横軸となります。縦軸が、四半期毎に見ている売上成長率です。

eNPS、つまり従業員のロイヤルティを表す指標のスコアが上がるほど、売上成長率が高くなるというデータが実証されています。さらに右側は、ある企業の営業部門に所属している営業担当者のロイヤルティスコアとお客さまからの評価をクロスで見ています。eNPSが高まれば高まるほど、顧客評価も高まることを示しています。

図表4 eNPSと顧客評価の関係 図表4 eNPSと顧客評価の関係

※eNPSSMはベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの役務商標です。

●サービスプロフィットチェーン(SPC)とは

「EX=収益」――つまり、EXが収益にヒットしてきていることは、机上の話では何となくわかってきました。ですが、本当につながっているのかは、結果指標同士をぶつけてみなければわかりません。ある種のブラックボックスのなかで活動が行われてきましたが、そのブラックボックスを解き明かしていく概念が、本講義の本題である、「サービスプロフィットチェーン」(SPC)です。

SPCを平たくいえば、EXとCXと収益の因果関係を可視化して、つながっていることを示すための理論です。1994年にジェームズ・ヘスケット教授らが『ハーバード・ビジネス・レビュー』のなかで、論考としていくつかの企業のデータを基に出しています。

どのような概念かといえば、「従業員へのサービス品質」(インターナルなサービス)のクオリティが上がってくると、「従業員満足度」が高くなります。「従業員満足度」が上がると、「従業員の貢献度」や「従業員の生産性」が上がってきます。すると、お客さまへの「サービス品質」が上がり、それによって「顧客満足度」も高まって、中長期的には「顧客ロイヤルティ」が高まることとなります(図表5)。

そうなると、「企業の中長期的な成長」や「短期の売上」が上がっていきます。ここで得られた収益を、「従業員へのサービス品質」の向上に再投資をして、サイクルとしてのチェーンを回していくことによって、企業が持続的に成長していくという概念がSPCなのです。

概念としてはとてもわかりやすく、経営者や企業のキーパーソンの皆さんは、当たり前に理解されているはずなのですが、何故かなかなか浸透していないのが実状です。

図表5 SPCの概念図 図表5 SPCの概念図

SPCが浸透しない理由①:EX、CX、収益の関係性がブラックボックス

なぜ、浸透していないのでしょうか? 理由は、大きく2つあります。1つは、従業員体験と顧客体験、収益性の関係性が複雑で、改善アクションにつながりづらい点です。

従業員体験と一口にいっても、上司とのコミュニケーション、給与、福利厚生、研修、理念浸透などの複合的な要素があります。
同様に、CXといっても、サービスの質、商品の品ぞろえ、価格、サポート対応など、こちらも様々な要素があります。
 さらに収益でも、売上、購買頻度、LTV(Life Time Value=顧客生涯価値)などの要素があります。

それぞれの従業員体験と顧客体験の関係性がブラックボックスであるため、いざ収益を上げようと思ったときに、具体的にどの体験を改善すべきかという打ち手が打てないということに陥ってしまいます。そのため、EXから収益をつなげてみることは、理論上理解していても、実効性が乏しいと感じている人が、当社のお客さまにも多くいらっしゃいます。

SPCが浸透しない理由②:管掌部門が横断的になってしまう

SPCが浸透しない2つ目の理由は、管掌部門が横断的になってしまう点です。
 通常、EXは人事部門、CXはマーケティングやCS部門、収益は経営企画や事業部ごとと、それぞれの領域毎に管轄します。しかし、SPCを浸透させるためには、部署横断的に、全社で取組む必要があるのです。

以上のように、組織的なハードルがあるためSPCがなかなか実行できない企業も多いのです(図表6)。

図表6 SPCの浸透を阻害する要因 図表6 SPCの浸透を阻害する要因

そこで、我々が実際に支援をした携帯販売会社さんで、SPCがどのように活用されているかをお話しします。

この会社では、「収益を上げたい」経営層と、「離職率を下げたい」人事という異なる2つの課題感がありました。そこで調査を行い、統計的にサービス・プロフィット・チェーンの構造を紐解いてみると、収益におけるKPI・KGIは「お客様の成約率」や「クロスセルができるか」で、そこに対して、CXのどの部分が影響しているかというと、「待ち時間の声がけ(お客様の待ち時間が長いときにいかにお声がけができるか)」という点だということが、わかってきました。

また、この「待ち時間の声がけ」を行うときに、EXにも様々な要素があるなかで「仕事のやりがい」を感じていると、モチベーションのスコアが上がり、待ち時間の声がけがしやすくなることがデータで見えてきたのです。そして「仕事のやりがい」の向上は、離職率も下げることもわかりました。
さらに、この「仕事のやりがい」は「商品知識を持てる」と上がりやすいという因果関係まで見えてきました。

以上のように、統計的につながりが見えたケースなのですが、元々はCXと収益しか見ておらず、EX、CX、収益のチェーンをつなげて考えられてはいませんでした。EXまで見ていないとどうなるかというと、収益を上げたいということに対して、「待ち時間が〇分以上なら声がけをしよう」という打ち手になっていたでしょう。ですがチェーンをつなげEXまで考えると、根っこの原因である「商品知識を増やす」ということに辿りつき、「離職率を下げる」という人事の課題も解決できるし、「成約率を上げる」という経営課題も解決できる。より正しい、より緻密な打ち手を選ぶことができるのです。

データを拠り所に、それらをつなげて、可視化することが重要だといえるでしょう。

●EXデータの有効活用

最後に、ビジネスで有効に使える手法として、EX側のデータをどうみていけばよいかについてご紹介します。
 当社がEX側のデータを活用する際には、「3ステップ」と「5ポイント」に注意するよう心がけています(図表7)。

「計測」においては、①EXを統合的に計測する指標を持ち、②その指標がEXにどのようなインパクトを与えていくのかを可視化します。
 「分析」のステップでは、③もっとも優先的に解決すべき課題と、④真の原因を見つけましょう。「改善」では、⑤打った改善策に対し、きちんとモニタリングを行うことが重要だといえます。

図表7 EXデータ活用の「3ステップ」と「5ポイント」 図表7 EXデータ活用の「3ステップ」と「5ポイント」

EXを計測する指標には、前述のeNPSがグローバルでもよく使われています。このスコアがいかに収益とリンクしているか、そして、どのように体験に影響を及ぼしているかを可視化していくことが重要です。

最後に、分析のポイントについて解説をして、本日の講演を終了したいと思います。分析の際には、課題と要因を深堀していきますが、やはり打ち手につながることが重要となるため、しっかりとセグメントを切って、どのような粒度で改善活動をしたいかを落とし込んでいくことが非常に重要だと考えています。

たとえば、某焼肉のサービスチェーンの場合、3年以上の長期稼働者と1年未満の短期稼働者では、エンゲージメントに影響している従業員体験が違うということがありました。それぞれに対してどこが影響しているかはしっかりと可視化して、打ち手を打っていく。それから、セグメントを切った人たちをいかにファンにしていくか、それぞれのセグメントの原因分析をして、押し上げていく。あるいは、打ち手としての優先順位を低くしていくなど、濃淡をつけてデータを見ていくことが大切です。

あとは、KPIをスコアリングしてモニタリングしていきましょう。調査、分析、改善、効果検証のサイクルを定期的に実施。1回取って終わりではなく、定点観測によってモニタリングしていくことが、データを見ていくうえでは重要だと捉えています。

駆け足になりましたが、以上となります。ありがとうございました。

メルカリEX向上への取り組み

私はこれまで、P&Gで5年とGEで17年のキャリアを積み、2018年からメルカリでCHROを務めています。本日は時間が限られていますが、TwitterからもCX (Customer Experience:顧客体験)に関する発信もしておりますので、そちらもチェックしてみてください。

メルカリでは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」をミッションに掲げ、循環型社会、シェアリングエコノミーを実現できる社会を目指すとともに、C to Cによって、お客さま同士が物の売り買いを簡単にできるように、テクノロジーを使って消費者をエンパワーメントしています。

また、当社はお客さまの“体験”にこだわっている企業でもあり、CXという考え方は社内でも深く浸透しています。また、かなり初期の段階から、CXをつくるためにはEX(Employee Experience:従業員体験)が重要であり、EXなしにはCXはつくれないという考え方も持っているので、先ほどの今西さんのお話ともリンクしている部分が多いと感じています。

おかげさまで、当社の事業は拡大・多角化しており、フリマアプリの『メルカリ』に加えて、Fintechの『メルペイ』、米国ビジネス『Mercari inc.』(US)、『株式会社ソウゾウ』(Eコマースプラットフォーム)、『株式会社メルコイン』(暗号資産・ブロックチェーン)、『株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー』(サッカー)などを展開しています。

※木下達夫氏 TwitterID:@kinotatsuo

●価値観を言語化して共有する ~暗黙知を形式知へ~

多様なお客さまに対して価値のあるサービスをご提供するためにも、当社では「社員の多様性」を重視し、かつ多様な経験ができるようにデザインすることを、とても大事にしています。

現在約1,800名の社員が、アメリカと日本の拠点で業務を行っています。日本の拠点で働いている社員の国際化も進んでおり、東京オフィスのメンバーも約40カ国から集まっており、特にエンジニアリング部門は実に半数が外国籍のため、英語が飛び交う職場環境となっています。

多様なメンバーが集まる組織なので、組織において大事なことや価値観を「Culture Doc」というものに言語化して共有しています。暗黙知を形式知にし、社員みんなに見てもらうことによって、当社が大切にしている価値観や文化を全組織に浸透させていく取り組みです。

●3つのバリューから社内カルチャーに沿ったES向上を目指す

EX(Employee Experience:従業員体験)を語るときでも、基本的には、まずメルカリが作りたいカルチャーがあって、そのカルチャーに沿ったEXができているかについて、人事部門と経営陣でよく話をしています。

そこで軸となるのが、ミッション達成のための「3つのバリュー」の体現です。3つのバリューとは、
 ①「Go Bold」(大胆にやろう)
 ②「All for One」(全ては成功のために)
 ③「Be a Pro」(プロフェッショナルであれ)
 これらが体現できて、ミッションの実現に近づけると考えています。

もう1つの大事な考え方が、「Trust & Openness」で、以前は“性善説”と呼んでいました。当社の社員はプロフェッショナルなので、プロとしてのお互いを信頼し合う。信頼し合っているので、ルールは極力作らないという前提です。そのため、情報の共有度を高くすると同時に、情報格差によるマネジメントは絶対にしない、ということも徹底しています。

このように、大事にしたい価値観を明文化して、社内で共有しているのが「Culture Doc」です。「Culture Doc」では、先の3つの「Values」(Go Bold、All for One、Be a Pro)「Foundations」(Sustainability・D&I、Trust & Openness、well-being for Performance)、「組織と人に関するガイドライン」(採用、オンボーディング、評価報酬、人材開発、働き方・福利厚生、退職)をEmployee Journeyに基づいて、いかに社員の体験をつくっていくかということを言語化しています。

●「その会社らしいEX」を浸透させる

たとえば、「Hiring/採用」における候補者体験をいかにつくるかというところでいえば、我々はバリューを大切にしているので、「バリューフィット」を重要視していることを明文化しています。
 また、当社には「全員リクルーター」という考え方があり、採用チームだけが採用活動を行うのではなく、「メルカリ全員」で採用をしています。現在、直近3カ月でご入社いただいた方の約4割はリファラル(推薦)を通じた入社です。ここでも、前述の「Culture Doc」で示した会社の方向性が体現されています。

オンボーディングについては、「3カ月以内にメルカリのカルチャーを自分の言葉で話すことができて、バリューやパフォーマンスが最大限に発揮されている状態をつくろう」ということを掲げています。それができるEXとなるよう、様々なサポートや仕組みを講じています。

このように、EXを語るうえでは、「軸」となるもの、つまり、会社として大事にしたい価値観やカルチャーをいかに明文化して共有化できるかが重要となってきます。やみくもにEXを向上させるよりも、「その会社らしいEXとは何か?」について、人事部門と経営陣が共有の認識を持ち、しっかりと社内へ浸透させていくべきだと考えています。

●エンゲージメント・サーベイによるEXの定点観測

ここからが本日の本題となりますが、メルカリはEXを定点観測するために、3カ月に1回、エンゲージメント・サーベイを実施しています。さらに、当社では従業員のロイヤルティを指標化するためのeNPS(Employee Net Promoter Score)を活用しています。

なぜeNPSを使用するかといえば、CXでもNPS(Net Promoter Score)という考え方を使っているので、社内での理解も一定程度あるからです。eNPSでは、他の人に伝えたくなる――たとえば前述のリファラルのように、自分の友人や知人に対し「メルカリの仕事を薦めたい」と思えるかどうかが重要なポイントとなってきます。実際にリファラル採用が約4割を占めているところでいうと、積極的にメルカリを勤務先として薦めてくれている人が社内に多ければ多いほど、我々の採用力も高まってくるというところから、この仕様をトラックしていきました。

eNPSのスコア自体は非公開ではありますが、おかげさまで、ここ2~3年の推移は上昇傾向にあります。2021年の7月と10月の結果を見ると、上昇トレンドは続いています。

※eNPSSMはベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの役務商標です。
※ネット・プロモーター®、ネット・プロモーター・システム®、ネット・プロモーター・スコア®及び、NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

●eNPSとの相関性の高い項目に着目

eNPSのトレンドを見るのも大事ですが、相関性が高い項目をしっかりと見出して、統計的に一番関連性が高い項目に対して打ち手を打つことを重視してきました。当社の場合、「仕事のやりがい」「成長実感」「マネジャーへの信頼」「心身コンディション」の4項目がeNPSに対して特に相関性の高い項目であり、そこに対する打ち手があることによってeNPSが上昇・継続するという好循環が生まれています。

まず、「仕事のやりがい」は、ワクワクできるような仕事をしているか。次に「成長実感」。当社は勤続年数でいえば3年くらいで、会社全体としても8年目という非常に若い組織なので、会社を通じて成長実感を持ちたいという意欲の強い人たちが集まっています。その成長実感が持てていれば、eNPSが高くなります。

さらに「マネジャーへの信頼」については、メンバーの成長ややりがいをマネジャーが実現するには、そもそもメンバーがマネジャーを信頼できるかが大事なところとなります。元来、心理的安全性が高いチームづくりを会社としても掲げています。

最後は「心身コンディション」。これは衛生要因でもありますが、働きやすい会社で、自分のコンディションを調整しやすいかどうかが重要になってきます。

先ほどの今西さんの講演でも、サーベイを実施した後に、どのような改善の活動につなげるかが重要だという話がありましたが、当社のなかでは以下のような設計になっています。

(1)サーベイ実施
(2)サーベイ結果の集計・分析
(3)サーベイ結果の確認と改善アクションの計画
(4)サーベイ結果の共有と改善アクションの検討・実行
(5)サーベイ設問・運用の改善
(6)サーベイ実施前の組織課題の仮説構築

サーベイ実施後、1~2週間で社内に結果が共有され、VP(執行役員クラス)とHRBPがパートナーとなって、その部門のマネジャーとメンバーを巻き込んで、改善のアクションをとっていく形です。

その際、部門ごとの個別課題がありますので、各部門長とマネジャーがしっかりと課題に対する有効な打ち手を打っていきます。
 もちろん、評価報酬制度や目標設定の方法など、全社的に打たなければならない打ち手もあり、それについては、人事部門や経営陣でしっかりと課題を洗い出し、エンゲージメント・サーベイの全体分析を見ながら検討しています。

●失われたかけた“ハネムーン・ピリオド”

当社の場合、入社したての社員は、エンゲージメント・サーベイにおいて、かなり多くの項目で普通の社員を上回るスコアを付けられる人が多いということがわかっています。これを“ハネムーン・ピリオド”と呼んでいるのですが、その後、3~6カ月で他の社員と同じくらいのスコアとなるので、そうなると「馴染んでいただいた」と判断しています。

当社は、自宅で仕事をするインフラもありましたが、コロナ禍以前はオフィスに出社して、対面で仕事をすることを原則としていました。そのため、すべてのオンボーディングプランも出社を前提として作られていたのです。

その結果、コロナ禍で一気にリモートへ舵を切った当初、受け入れの体制が十分に整っておらず、ランチのような、それまで対面で行っていたオンボーディングのサポートが機能しなくなりました。

そこで何が起こったかといえば、入社したての社員のハネムーン・ピリオドがなくなったことがエンゲージメント・サーベイで発覚したのです。エンゲージメントのピークが無いということは、今後もさらに低くなる可能性があることを意味します。

「これはまずい」と危惧し、オンボーディングを早急に見直そうと、オンラインに対応した「メンター・オンラインランチ」「メンターとの事前ミーティング」などの施策を講じました。また、ある程度メンターとマネジャーに任せていた新入社員へのオンボーディングを、形式知化したうえでチェックリストを提供し、標準の体験としてできるような形で、自ら主体的に、モレが無いように動いてもらえるようにサポートをしました。

その他、オンラインの交流会で“同期意識”などを醸成するようにした結果、現在ではハネムーン・ピリオドが復活してきています。

●Employee Journeyに基づいてKPIを設定

ここまでお話ししたとおり、EXは入社する前の候補者のところから、退職するまでの部分を一つひとつ定点観測していき、エンゲージメント・サーベイは、そのうちの一部を取っているという認識をしています。

たとえばオンボーディングであれば、エンゲージメント・サーベイもありますが、6週間が終わったところで、一度対象者向けのサーベイをかけて、「入社して6週間の体験がどうだったのか?」という部分も、定量的に見えるようにしています。

一つひとつのタッチポイントによるサーベイの仕方もあれば、サーベイだけではなく、実際の人事評価のデータとして出てくるところもありますし、研修であれば研修参加率で出てくる可能性もあります。

そのため、サーベイ的なデータ、そして実際の行動データを組み合わせて、それをEmployee Journeyのなかで、「できている部分」と「できていない部分」を明確にし、それらに対して「施策を入れることでEXを上げていこう」と判断し、結果的にeNPSが上がるように仕掛けを実践しています。大事なのは、何をKPIとするのか。何をモニタするかということをしっかり定めています。

●EX向上に向けた取り組み

① 評価報酬制度のアップデート

主な取り組みとして、ここでは評価報酬制度と多様性についてご紹介します。
 当社は外国籍と日本国籍(社内では、「英語話者」「日本語話者」と呼んでいますが)、両者にサーベイをとった際、評価報酬制度の満足度をチェックしてみると、大きな差が出る部分がありました。日本語のやり方であれば通用していたところ、英語で翻訳してやった結果では、英語話者にとってはわかりづらいものになっていたのです。すぐに修正しましたし、また、グローバルスタンダードに近づけた評価報酬制度へと変更して、今年の新制度で運用をしています。

大事なことは、多様な方たちが、わかりやすいような仕組みを作るということです。毎回、評価が終わった際にサーベイを回して、どんなEX、評価体験だったかを社員から定量的に集めています。

② ワークスタイルと「Culture Doc」のアップデート

「Culture Doc」は年に1回更新しています。コロナ禍でリモートワークを恒常的にやっていけるかについて経営陣とも議論をしましたが、ワークスタイルは全社員に関わることなので、経営陣と人事部門だけで議論をするのではなく、社員との対話も重視しました。

ワークスタイルに関しては、計10回、英語と日本語でそれぞれ5回ずつ、対話の場を設けて、社員から様々な懸念や要望のヒアリングを行い、そのうえで最終的に発表できたのが、ニューノーマル・ワークスタイル「Your Choice」という制度です。日本全国どこからでも働けるポリシーを2021年9月に発表しました。「Your Choice」によって、北海道や沖縄へ実際に移住した社員も出てきています。このように、社員の多様なスタイルを応援して、会社としては、どこにいてもパフォーマンスとバリューを発揮してくれることを期待するとともに、評価報酬制度によってフェアに見ることも伝えています。

「Your Choice」では、承認なしに、どこからでも働くことができ、オフィスに出るときは、月15万円まで、会社が交通費を実費で支給しています。パフォーマンス、バリュー発揮というのが当社の大事な軸となりますので、軸を持ってさえいれば働く場所は自由であってもいいと思っています。しかし、あえて「フルリモート」とは呼んでいません。理由は、オフィスに出社したいという人たちも一定数いるからです。
 多様な考え方を尊重したダイバーシティインクルージョンとして、どちらを選んだからといって、不利になることがないようにしています。

③ 福利厚生制度のアップデート

福利厚生制度を「Merci box」と呼んでいます。直近では、卵子凍結のサポートなどをプログラムに試験導入しました。これらもEXを向上させるという意味でも、社員と対話をしながら、様々な要望やニーズをヒアリングしたうえで、アップデートを続けています。

●タレントマネジメントへの主な取り組み

社員の成長実感ややりがいを重視したタレントマネジメントの取り組みからは、次の3つを紹介します。

① メルカリのValueを体現した多様なリーダーの創出

まずは抜擢・登用を含めた、リーダーの早期の育成です。多様性のある人材プールをつくるという観点から、多様なバックグラウンドのマネジャーや役員を増やす後押しもしています。

② 多様な社員が継続的に成長機会を見出せるようにする

当社は半年ごとに評価サイクルを回していますが、そこで「キャリアのディスカッション」がレビュー評価のフォーマットにも入っていますし、マネジャーとメンバーの間のディスカッションも奨励しています。「マネジャーをやりたい」という人もいれば、「別の部署でも仕事をしてみたい」という人もいます。そうした本人の意思をできるだけ後押しをして、社員が当社の中で望むようなキャリアを積んでもらえるよう、様々な仕掛けをしています。

③ 人材の能力を最大限事業成長に活かせるようにする

ビジネス成長のための適材適所の仕組みづくりや、そのための「スキルの可視化」「人材情報の見える化」といったところを我々も模索しながら、現在注力しています。

以上のとおり、当社のEXの取り組みについてご説明してきました。ミッション、バリュー、「Culture doc」など、非常に重要な軸(センターピン)があること。そして、これらを言語化してEXとして社内へ共有し、それに対して定量・定性的に、「現在、自分たちがどれくらいできているか?」を把握するための仕組みを回しています。それを、人事部門、経営陣もそうですが、部門単位で組織の個別ニーズに対して打ち手が打てるようなPDCAサイクルを回しています。

ご清聴ありがとうございました。

「サーベイデータ」と「社員の声」を施策につなげる 斎木(JMAM・司会):ご講演ありがとうございました。ここからは質問にお答えいただきながら、EX向上についてお話しをいただければと思います。 まず、お二人ともeNPS(Employee Net Promoter Score)やNPS(Net Promoter Score)を活用されていますが、こうしたデータは今後ますます重要になってくるかと思います。
また、「社内サーベイの結果」と「社員の声」の両方を大切にされていますが、このバランスをどのように取っていけばよいかという質問もありましたので、今西さんは提供されているサービスの視点、木下さんは実際の社内からの視点でお聞かせください。
今西:

一般論ではありますが、結局は用途や目的に応じてバランスは変わってくると思います。木下さんの講演の中でも、サーベイデータ以外にも行動ログやセミナーや研修への参加状況、その他にも1on1で取れる声も参考にされているとありましたが、まさにそういうことだと思います。
 たとえば、サーベイデータドリブンで行うケースは、全社課題や、特定セグメントに対する人事施策を立案したい場合などです。できるだけ多くの人のデータを統計的に処理して、そこから優先度の高い、もしくは影響力の大きいものを抽出することが、Howとしては非常に有効です。そうしたケースの場合は統計データとしてアセスメントデータを集め、分析して、「ここの影響力が大きい」といったことを傾向値として掴んでいく形が有効だと思います。

一方で、ある程度、課題感が絞られていて、解像度を上げたい場合や特定のキーパーソンをケアしたい場面は、サーベイデータはあまり意味をなしません。どちらかといえば、バイネームのフリーコメントや1 on 1で感じるコメントに意図的に重みを付けて取り込むことをしたほうが、目的にかないやすいといった場面もあると思います。
 一概に、「サーベイデータ」と「そうではないデータ」といった対比ではなく、折衷させながら、目的に応じて上手く使っていくことだと捉えています。

木下:

「定量的」と「定性的」の組み合わせが大事だと考えています。そこで当社では、エンゲージメントサーベイに必ずフリーテキストで入力していただくこともしています。もちろん全員が答えてくれるわけではありません。しかし、何か気になることがある人は入れてもらっています。

テキストはいろいろな分析の仕方があると思います。テキストマイニング、頻出キーワード、あとはカテゴリー化ですね。たとえばエンゲージメントといっても様々な要因がありますが、「今後もフルリモートができるか?」ということに対して寄せられた声が全部で何件あったかなどを、ある程度のカテゴリー化をして分析をすることは可能なので、そうしたアプローチをとっています。

あとは、FGI(フォーカスグループインタビュー)のように、ある程度の属性を絞り込むような方法があります。たとえば先ほど話したような入社1年未満の社員の課題であれば、その方々を集めてもう少し深掘りして、「サーベイからはこのような傾向が見えましたが、皆さんは実際にはどうですか?」というところで話を聞くと、各人の個々の体験が聞けるので、より具体策が湧きやすくなります。もしくは、ただ聞くだけではなく、彼らにも改善策に参加してもらうことも可能です。それが社内で上手く活用できればいいかなと。

斎木:ありがとうございます。データの収集と直接ヒアリングをするなかで、やはり直接、社員とお話しした方が、見えなかったものがより見えてくるものなのでしょうか?
木下:

マーケティングと人事とのつながりも本日のセミナーの1つのテーマだと思いますが、私がかつて所属していたP&Gでも、FGIはとても大事にしていました。消費者ビジネスの場合、様々な消費者調査をかけたりすることで、店舗でどのような物が売れているかというトレンドなど、他社情報を含めて入手しやすいのです。

しかし、何故そのようなことが起きているのかを掘りしようと思うと、消費者をよく理解しなければいけないので、たとえば洗剤など、消費者が実際に使っている場面を見学させてもらうこともP&Gでは行っていました。そこで、「ここに不便さがある」など、ある意味でお客さまが気づいていないところを、観察者が気づけるようにするところが重要であり、同じことが、社員体験を創るときにも大事なことです。

斎木:いまのお話と関連しているご質問として、「データをつないで可視化したものは、どのレベルまで見せますか?」と投稿いただいています。メルカリ様では結構公開されるということでしたが、取得したデータは、どのあたりまで公開されるのでしょうか?
木下:

「誰が、何を言ったか」がわかるような個人情報はもちろんですが、テキスト情報も推測されてしまうとよくないので、公開していません。ただ、質問に対してどれくらい、どんな結果だったかということは、全社に共有されるので、かなりオープンにはしています。経営陣や人事部門だけが見ているわけではありません。

斎木:今西さんが支援されているお客様の、データの扱い方や公開の範囲はいかがですか?
今西:

メルカリさんがやっているような、個別特定できない情報をすべて開示するスタイルがベストではないかと、私は思います。次のアセスメントにも協力していただきやすいですし、社員としても、会社のスタンスとして、重要な取り組み事項やそれに対する改善の意思があることを示せるので、やはりその方法がベストかと。

一方で、たとえばサービス業態のように、本部と現場が大きく分かれてしまっている場合、現場サイドへ共有する情報があまりに細かすぎると、打ち手を意識できずに、行動が散ってしまうことがあります。そうしたケースの場合は、個別の帳票やサマリーのような「とにかく、これだけはやるんだ」とか「大きく見た場合、ここが重要だった」といったような、上位3つの体験をまとめたものを展開しているケースもあります。

とにかく、情報開示が目的ではなく、情報開示をすることによって、組織があるべき姿に向かっていけるとか、打ち手が打てることが目的なので、「誰にどのインフォメーションを渡すのか?」ということは、その観点で粒度を絞られるのがよいことだと思っています。

もう1つ、「つなげて」というお話があったので、サービスプロフィットチェーン(SPC)的にCS、CXまで、あるいは収益にまでつなげている企業で、そのデータを社員にどの程度まで開示するかということをお話しします。先ほど例に挙げた企業でいえば、商品知識研修をすることは社員のエンゲージメント向上にもつながりますし、ひいてはお客さまのロイヤルティや収益にも統計的につながっていることがわかっているので、“打ち手の蓋然性”、つまり、打ち手の正しさを理解してもらうために、適切な情報をくっつけて開示することはやられていたりします。ですが、細かいリサーチのデータをそのまま開示するかといえば、目的とずれてしまったり、次のアクションがシャープになりづらくなってしまいます。なので、そのあたりは目的に合わせて、情報を丸めてお伝えされているケースが多い印象です。

斎木: KPIについても触れられていましたが、今西さんのスライドには、「EXデータの活用の3ステップと5ポイント」の「②EX向上の収益インパクトを可視化する」という言葉ありました。今の「ゴールは何か」をしっかりと定めて、そこからKPIを設定していくということと関連が強いお話でしょうか?
今西:

はい。この部分で解説しているEXと収益の関係性は必ずしもSPCのようにCXをかまさなくてもいい話ですが、いわゆる収益系の指標、たとえば離職率などの定量的なスコアや企業として重要としているスコアと、eNPSがどのようにリンクしているか、統計的に関係性を見ているケースが多いです。一応、そこは紐づけておいて、そのうえで「ここが課題で、ここは頑張って改善していこうと思う」というスタンスを表明します。

それにより、収益などの重要なKPI、KGIに対しての打ち手になっているはずですから、企業としてもしっかり取り組むだろうと社員も認識するでしょうし、そういった“本気度”を示すことが重要です。

ただ、アセスメントの場合、形骸化してしまうことが一番怖いので、自分たちが上げた声が組織の改善につながっていくという“手触り”を感じてもらう意味でも、つなげてあげることで説得力は増しますね。

成果を出す社内の巻き込み方 斎木:これはいろいろな施策において人事の方から聞くことですが、「EX向上を図るのは人事だけではなく、社長、役員、他部署も巻き込まなければ難しいと感じました。そこを上手く巻き込むコツをぜひお聞かせ願いたいです」との質問が寄せられています。
木下:

ミッション実現のためには、それをサポートするカルチャーが必要で、それが実際に体現できているかということをEXという指標を使って確認しているというのが当社の立ち位置なので、そこは経営陣も理解しやすかった部分だと思います。
 実際に「Culture Doc」を作る際に、先ほど、暗黙知を形式知化するというお話がありましたが、「うちの会社ってこうだようね?」というものがどこの企業にもあると思います。そこを話していきますが、それって“現在地”ですよね。ミッションやバリューは、未来を実現したいわけで、そのためには、「組織の文化が現在のままでよいのか?」という疑問を持つことも大事です。単に暗黙知であれば、性善説で、できるだけ社員を信頼することになる。もちろん、そこもキープしていきたいのですが、未来からの逆算を考えたときに、「もっと、こういうこともやっていかなければいけない」という部分は「Culture Doc」を更新する際に毎回、経営陣と議論をしています。

未来のありたい姿が、たとえばグローバルへの進出であれば、社会貢献、社会的な責任といった部分がアメリカでも高まっているなかで、当社のビジネスモデルは循環型社会を後押しするものですが、それを社員一人ひとりが意識する意味でも、今回の「Culture Doc」の更新において、サステナビリティを項目として盛り込みました。

こうした考え方が、これまで当社のなかになかったわけではありませんが、あえて言語化することによって、社員一人ひとりが行動・意思決定をする際に、そのあたりもより意識していこうと経営からの期待値として盛り込んだ経緯があります。そうしたことが入っていることによって、経営陣として感情移入ができますし、社員に対してどれくらい浸透しているかを見ていきたくなりますよね。

そもそも、自分たちがどんな未来を実現したいと思っていて、そのためにはどのような組織文化や構造が必要かといったところから入っていくのがよいのではないかと思います。

斎木:ありがとうございます。おそらく、共感・共鳴を採用時にされていたり、社員の方々との対話を通じて深められている部分なのだと思います。
ちなみに、「Culture Doc」を更新される際、社内にはどのように周知されているのでしょうか。
木下:

実は、更新の作業自体にも社員を巻き込んでいます。人事部門と経営陣でつくった素案を社員へ共有します。「メルカリで働くみんながカルチャーの担い手」なので、経営陣や人事だけがつくるものではありません。メルカリに所属するみんなの行動の一つひとつの集大成が組織文化なので、「みんなでカルチャーをつくろう」と言っています。

では、どんなカルチャーであればワクワクするのか? どんなカルチャーになってほしいのか? 社員みんなの思いも吸い上げて、そのなかで「もっとこうした表現を盛り込んでほしい」といった意見をもらっていたりします。

たとえば、今回の更新で新たに入れた項目に、「Well-being for Performance」があります。エンゲージメント・サーベイでも、「心身のコンディション」を定期的に測ったり、ボットで残業時間をチェックすることはできますが、社員一人ひとりが仕事で高いゴールを設定していますし、新規事業の立ち上げでは負荷もかかります。さらにコロナ禍になってからはリモートで働いているので、出社比率は10%程度です。実際、私も月に1回程度しかオフィスには行きませんが、リモートで働いていると、「お互いのコンディションに気づきにくくなる」という声が上がってきました。

ウェルビーイングはこれまでも大事にしてきましたが、まずはセルフで、プロフェッショナルとして、一人ひとりが自分のコンディションを整えることは前提です。しかし、お互いに気づき合うことも、とても大事です。社員自身やご家族の体調が悪いときなど、どうしても仕事に集中しにくいときなどは、「All for One」で、お互いにサポートし合うことによって、チームとしては成果をしっかりと出すことができますし、個人としては休むことができます。

あくまでもパフォーマンスを出すために、みんなでウェルビーイングをしっかりとケアしていく。英語話者にとってもウェルビーイングはとても大事なので、経営としても、しっかりとしたメッセージを出したほうがよいと判断し、経営陣にも納得してもらい、今回、項目に追加することになりました。

経営陣だけで決めるものではなく、参加型で多くの人を巻き込んで、「Culture Doc」をアップデートしているのが、メルカリらしさだと思います。

※eNPSSMはベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの役務商標です。

※ネット・プロモーター®、ネット・プロモーター・システム®、ネット・プロモーター・スコア®及び、NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

斎木:ありがとうございます。eNPSの相関のなかで、コロナ以降のポイントが上がり続けている背景には、みんなで会社を良くしていこうという組織文化があり、それが常にアップデートされているということですね。
木下:

組織開発の文脈では「組織の改善活動は、できるだけ最小単位に落とし込んだほうがよい」というのも同時にあります。
 もちろん、全社的な打ち手の話もありますが、社員一人ひとりの体験は、現場で起きています。現場マネジャーとの信頼関係が非常にわかりやすいと思いますが、会社がどんなによい制度を出していても、マネジャーとの信頼関係ができていない――それこそ、休むことすら言い出しづらいようであれば、社員体験は悪くなってしまいます。なので、そこはチーム単位で「自分たちのチームはどれくらい心理的安全性が高いのか?」について、チームメンバーで話をして、マネジャーのせいにするなどネガティブな話ではなく、サーベイデータなどを基にしながら、「どうすればより良いチームになれるか?」について、お互いに知恵を出し合って、現場レベルで工夫することによって、体験がよくなるということはたくさんあります。経営陣、人事、マネジャーだけではなく、社員一人ひとりも意見が言えますし、チーム単位で動くことで、よくする体験に参加できることが大事なのだと思います。

斎木:「働き方改革」の際には、マネジャーに負荷がかかってしまうというのが一般的な企業の現実であり、悩まれているところだと思います。マネジャーだけが疲弊するのではなく、オープンに一緒に考えていく、皆で自分ごとで、チームをよくしていくというのは重要なキーワードであり、すぐにでも取り入れられる部分が多いと感じました。 
今西さんはどのような切り口で企業をご支援されているのでしょうか?
今西:

EX、CXのいずれでも、巻き込みをしていかないと、成果が出るプロジェクトにはなりません。その前提で7つのポイントを設定しています。

1.収益との関連を可視化する

まず、経営層、現場、そして他で働くチームの仲間、あるいは別の部署を巻き込む観点から行くと、それぞれに対して訴求するポイントと巻き込み方のアプローチが異なってきます。

特に経営層を巻き込む場合、メルカリさんのように、最初からCXやeNPSといった概念を使っていて、経営層がかなり高い視座で「やるべきだ」となっていれば必要ないケースもあります。しかし、そうではない場合には、収益との関連を何かしらのデータで可視化してあげることが重要です。経営にとっては収益を上げることが仕事なので、そこに対してEXを上げることがどれだけのインパクトがあるかということを可視化できれば動きやすくなります。

2.リアルな声に触れてもらう

それから、リアルな声に触れてもらうということ。先ほど、木下さんから「フリーコメントの重要性」についてのお話がありましたが、経営層の心を動かしたければ、リアルな声をテキストベースで見せることが効果的だと思います。

3.不安を持たせない

現場側の場合だと、まずは不安を持たせないこと。たとえばEXの調査であれば、「業績評価に連動してしまうのではないか」、あるいは「プロジェクトが上手くいかなかったときに、自分の評価に跳ね返ってくるのではないか」という不安に対して「ない」と宣言してあげることが重要です。そのためには、不安を持たせないでコミットできる土壌づくり、そしてデータの共有が必要です。

4.データを共有する

とにかく、今の取り組みへの本気度を示す意味でも、社員へ継続的なコミットメント、協力を仰いでいく意味でもデータを出す。ただ一方的にデータを取りっぱなしにするのではなく、アウトプットとして出すことが重要です。

5.成功事例を生み出す

5番目はクイックな成功事例の共有です。小さい変化でも示せることで、大きなうねりを生み出しやすくなります。

6.調査結果や改善行動を周知する

調査結果や、〇〇といった方向で改善行動に取り組んでいく、ということを周知する。

7.常に声を聴き続ける

あとは、社員や顧客の声を聴き続けて、止めないことです。特にEXは息の長い取り組みであり、売上につながっているとはいえ、この施策を半年打ったからといって、売上が倍になることはほぼありません。基本的にはロングタームで見ていくべき本質的な取り組みなので、常に聴き続けることが重要ですし、「それが重要であること」を社内全体に周知し続ける、もしくは経営に意識を持ってもらうことが、巻き込むうえでは重要です。

また、実務ベースで重要だと思っているのは“旗振り役”です。EXの社内浸透やアセスメントを上手く進めていくなかで、「組織を変えていくんだ!」という役割を明確に持つ人が立たないと頓挫してしまうことはよくある話です。なので、“旗振り役”の責任者を明確に決めることは、プロジェクト成功の可否においても重要です。

できれば周囲の人を巻き込んで、浸透させられた際には、“旗振り役”となる本人も評価されるようにしていただくといいですね。“旗振り役”はハードなので、ミッションとして置かなければ、やはり頓挫してしまいます。逆に企業として取り組むのであれば、それくらいの腹は括らなければならないと思います。

斎木:木下さんが現在のポジションに就任されてから、すぐHRBPを立ち上げられていますが、HRBPとしてカルチャーを浸透させたり、EXの現場と寄り添うというところで、重要視されていることはありますか?
木下:

HRBPについては、組織が大きくなってくると、各組織に対して既存のHRチームが物理的に入っていくことは無理だと思うので、そこで組織担当人事というHRBPを置いて、部門長、マネジャー、メンバーと一緒になって改善サイクルを回すというところにオーナーシップを持ってもらっています。

今西さんが挙げられた7つについては、HRBPが各部門長と一緒になってやっています。クイック・ウィンを肌感で持てるような形でコミュニケーションできることが大切です。
 また、部門における様々なコミュニケーション単位に対して、CX・EX向上への改善活動をいかに組み込んでいけるか。とってつけたようなサイクルではなく、日々のコミュニケーションのなかに含まれていることが大事だと思っています。

スタッフ部門のSPCへのつなげ方 斎木:「SPCやEXのモデルケースは接客・サービス業が挙げられることが多く、直接カスタマーとの接点の少ないエンジニアリング部門や人事との相関性が低いように思われ、説明が難しいです。知見をお持ちでしたらお願いします」との質問が寄せられています。
今西:

おっしゃるとおり、SPCはサービス業、つまり従業員が直接サービスをお客さまに提供するモデルのなかではわかりやすいのですが、たとえば、エンジニアリング部門のように、直接的にはお客さまと接しない部門でも相関性がないわけではなく、何を指標としているかが重要です。

当社がサポートしているケースでいえば、エンジニアリング部門だと、部門の皆さんが置いているものづくりや生産性に関するKGIやKPIがあります。あるいは世に出したものに対して、海外では「ゲートX」と言われたりもしますが、「商品として世に出すに足り得るか?」というところを、複数の人にインタビューを行い、NPSのスコアをとるといったプロセスを入れている製造業もあります。

そこで取られるNPS――つまり、作ったものがお客さまのロイヤルティにどう影響していたかというKPIを、ほぼ”収益の指標”として置いて、相関性を見ていくというようなことはよく行われています。このように、直接的な売上・利益まで行くと遠すぎてしまいますが、そこに近似的にできるものはあります。手前でどのようなKPIが考えられるかは、ビジネス、業種、業態にもよりますが、 “収益とニアリーイコールの指標”を疑似的に置いて、リンクしているものとの関係性を見ていくことは重要です。

これを言ってしまうと身も蓋もありませんが、収益をつなげると言っても、収益、CX、EXの統計的に出してきた数値が完全に一致するかと問われれば、ズレることもよくあります。ただ、ズレはするものの、現在の目的や活動が、理論的にはつながっているということが“腹落ち”することが、どちらかといえば重要です。“腹落ち”をして、みんなで一緒に取り組めるのであれば、近い指標であってもよいわけです。
 間接的な部門であっても、そのあたりのKPIを上手く導き出せればと思います。

木下:

現在、メルカリは採用がものすごく加速していますが、その約4割がリファラルです。逆に、社員紹介が弱まってしまったら、自分たちのミッション達成に必要な人員確保、仲間の獲得という部分も難しくなってきます。仲間の獲得をするためには、やはり、加わりたいと思ってもらえるくらい魅力的な会社であることが重要となります。

たとえば、エンジニアの採用は人事も行いますが、社内のエンジニア全員が採用にコミットすることで、もっとみんながリファラルしたくなるように、自分たちの組織の魅力を上げるためにはどうしたらいいかという部分を考えるようになります。新しいエンジニアを獲得できれば、新規事業や機能開発もできるので、そこがリンクしやすくなるのです。

また、エンジニアのなかでの成長実感がどういう意味を持つのかは、部門や職種の特性によっても異なりますので、サーベイから一段階深掘りしたアプローチをとります。

人によって成長したい方向は違うものですが、エンジニアでいえば大きくいうと2つ、「専門領域をより深くした人」と「フルスタックに幅を広げたい人」がいます。どちらが正解というわけではありませんので、その人がやりたいことに応じて会社が後押しすれば、成長実感が高まると同時に、結果的にeNPSも高まることがわかっています。

前者に対しては、研修などで技術を深める機会を提供し、後者には異動によって違うアサイメントをした方が、成長実感を持ちやすい可能性があります。

成長実感自体が漠然とした言葉なので、それぞれの職種において具体化するように落とし込んで、定量的な形でアプローチができると思うので、それを具体的な施策にしてあげることが有効だと考えています。

斎木:質問の上位のなかで、「成長実感ややりがいを高めるために、従業員のキャリア希望をどの程度叶えるかが悩ましい」というものがあったのですが、基本は本人の意思に尊重していくというのがベースかと思ったのですが、実際どう運用されているのでしょうか?
木下:

メルカリでは、組織のWinと個人のWinの両方を最大化しましょうという、Win-win MAXを提唱しています。もちろん、組織のWin――事業成長や新規事業も重要です。一方で、一人ひとりにもパーソナルミッションがあり、何かを極めたいと思っている人、起業したいと思っている人など従業員の想いは様々です。それぞれ大切にしてほしいと考えています。

ですので、メルカリがやりたいと思っていることと個人としてやりたいと思っていることを両立させることが重要です。高いパフォーマンスを発揮してもらう場合、その人のWillに基づいたものである方が引き出しやすいのです。Go Boldはやらされ感ではできません。自分が手を挙げて挑戦することでGo Boldができると思うのです。
 それをどこまで叶えられるかという点についての事例をお話します。
メルカリShopsというサービスを提供する株式会社ソウゾウを起ち上げたときの話です。社内公募を行ったところ、多数の希望者がありました。もちろん、全員一度に動いたら既存事業も厳しいですし、すべての希望を叶えるわけにはいきません。

では選ばれなかった方にお断りするときに、どうしたか。単に希望をお断りするのではなく、まず積極的に挙手してくれたことへの感謝と、挙手するという積極性の尊重を伝えます。ただタイミング的に今ではない、半年後かもしれないし一年後かもしれない、と。事業は大きくなっていくはずだから、そうした状況を共有しながら、キープインタッチさせてほしい、と伝えます。また、各人が今やっているプロジェクトもありますよね。そこから今去られてしまうと組織としてWinできなくなるという点もオープンにお話しします。
 プロとしてコミットしたことはやりきる、という文化もあるので、このプロジェクトをやり切るまでコミットしてください。そのうえで、このプロジェクトがうまくいったら、新しい異動先へのWillはできるだけサポートするようにしていきます、といった形で落とし所を見極める。これが大切なことだと思います。

エンゲージメント低下の、真の原因を直視する 斎木:「EX、CX、収益というストーリーは理解できましたが、現状を考えると、負けてばかりのチームの場合、EXも上がりにくいと感じています」との質問が寄せられています。どうやってモチベーションを高めるとよいでしょうか。
今西:

「成長はすべてを癒す」ではありませんが、その逆が構造として起こりやすいということはあると思います。メルカリさんのように、右肩上がりのなかでは新しいチャレンジが受け入れられやすいという面はあるかもしれません。

一方で、企業に対し不満を持つ群に対し、何故そのように思っているのかを聞き、紐解いたときに、業績ではない真の原因が別にある、ということがよくあったりします。

ですので、「~っぽい」というバイアスを排除することが重要です。アセスメントのよいところは、組織に影響力を持つ人がなんとなく思っていることといったバイアスを排除して、統計的にデータで整理して課題が見つけられるということにあります。まずはそうして整理してみたうえで、たとえば成長実感に対してエンゲージメントが下がっていることが、統計的に影響しているのであれば、より成長実感を得られることは何かといったように、少し角度を変えて考えてみます。

「負けてばかりのチームだから、EXが上がりにくい」というのは感覚的に捉えられていることもあるので、まずは定量的に把握してみることで、突破口が見つかるかもしれません。

木下:

3年ほど前ですが、当社でもエンゲージメントのレベルが下がった時期があります。どのベンチャーでもある話だと思いますが、IPO前後は大きな転換期で、IPOによってストックオプションを作り、卒業していくメンバーも一定数いました。また、上場したことによって説明責任が発生したこともあり、経営陣も一段目線を上げざるを得ませんでした。
 そのようななかで、会社の経営の仕方を見直していかなくてはいけないということで、ホールディング体制を入れたり、「村から街へ」と仕組みづくりを始めたところでした。

ところが、始めた当初は「メルカリはベンチャーではなくなってしまったんですか?」という声もあって、昔がよかったという方もいました。IPOでフリマアプリも成長しきって、あとは成熟して、“大企業病”になっていくという見方を外部からもされていたのです。

また、多国籍化への対応も大きな課題としてありました。不満を聞くと、初期メンバーだった英語話者の方々のストレスは相当なものだったと思います。英語環境も現在ほど整っておらず、そのあたりもエンゲージメントを下げていた大きな要因でした。

大事なのは、現実をしっかりと直視すること。事業フェイズにおいては昔を振り返っても未来にはつながりませんし、上場企業としての社会的な責任のある経営によって、より大きな社会的影響を与えられる。だからこそ、「村から街へ」はしっかりと自分たちでやっていかなければいけません。やらされ感からではなく、「街づくりは面白い」「自分たちらしい街をつくろう」ということで、前例にとらわれず、自分たちが一番よいと思える方向へ、ポジティブにマインドを変えていく働きかけを経営陣が粘り強く行って、そこから生まれた小さな成功事例を積み上げていくことが重要だと感じました。

どの会社であってもフェイズの転換や事業の方向性を大きく変えなければいけないときがあると思います。そこでは、エンゲージメントが下がることも直視して、「下がる=×」ではなく、定点観測しながら、メッセージの浸透度合いなどを確認していくことが大事です。
 どんな組織変革も、最初はエンゲージメントが下がるということは一般的にも言われているので、そこを恐れるべきではない思います。

斎木:お二人のお話から、データで可視化していくことの重要性とともに、個人・組織がどうありたいか、ミッションやバリューを見て、一人ひとりが考え、サポートし合いながら次に向かっていく。時には組織も調子が悪くなることもありますが、それを定点的に数字で見ていくことによって、先に進んでいるという成長実感が、個人・組織の双方にとって必要なのだと理解しました。
最後に、人事担当者へのメッセージをお願いいたします。
今西:

木下さんのお話で刺さったのが「その会社らしいEXとは?」ということです。データによる可視化はもちろん大事ではありますが、もう少し上位の話として、「何がその会社らしいのか」という解像度が上がるほど、その会社で取り組むべき活動が浮き彫りになるのだと思いました。

会社として大切にしていること。ミッション、ビジョン、カルチャーに対して、どのようなEXが大事なのかを考えながら伸ばしていくという観点から、今後の企業活動の活性化と支援をしていければと思った次第です。

木下:

組織開発には正解がありません。なので、試行錯誤をしながら、経営陣、メンバー、人事との対話を通じて、どんどん新しくしかけていって、やりながら学ぶ。そして、学んだことを反映して、ピボットして、アジャイルにアプローチすることが成功確率を高めていくと思います。

メルカリのバリューである「Go Bold」(大胆にやろう)。人事領域や組織開発に関わる皆さんと、ぜひ一緒に大胆に、実践していきたいと思います。

斎木:本日は誠にありがとうございました。