セミナーアーカイブ

データを活用した
「オンライン採用」でできること

動画
資料

コロナ禍において「オンライン採用活動」が行われるようになりましたが、多くの企業で、「職場の雰囲気を伝えることが難しい」「候補者の印象を正確に把握しづらい」等の声や悩みがあがっています(ビズリーチ「採用のオンライン化に関するアンケート」)。
そうしたオンライン採用や、有効な採用活動における悩みや課題の解決に向け、株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役・採用学研究所所長の伊達洋駆氏をお招きし「データを活用した『オンライン採用』でできること」というセミナーを行いました。第2部は、弊社開発部より、Webで受検できる、パフォーマンス発揮に大きな影響を与える「ストレス耐性」と「ストレス自覚」等を測る適性検査についても解説しました。セミナーは会員限定ではございませんでしたが、会員の皆様は下記より、当日の動画・セミナーレポートと当日の資料がご覧になれます。ぜひご査収ください。

こんな方におすすめ

  • 「対面」「オンライン」採用の比重や進め方の見直しを検討していきたい方
  • 従来のオンライン採用選考方法を見直す必要性を感じている方
  • 採用試験で蓄積しているデータを分析・活用していきたい方

登壇者プロフィール

伊達洋駆(だてようく)氏

株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役

青木千絵(あおきちえ)氏

株式会社日本能率協会マネジメントセンター 組織・人材開発事業本部 副本部長

セミナー動画

本セミナーを動画でご視聴いただけます。

ログイン後、すべての動画をご視聴いただけます。

本セミナーの一部を公開中

0:14:19

第1部

データを活用した「オンライン採用」でできること①
0:06:45

第1部

データを活用した「オンライン採用」でできること②
0:22:42

第1部

データを活用した「オンライン採用」でできること③
0:15:52

第2部

オンライン採用における候補者の見極め方
0:14:19

第3部

質疑応答
0:22:19

資料ダウンロード

セミナー当日のレジュメをダウンロードいただけます。

ログイン後、当日の資料をダウンロードいただけます。

第1部データを活用した「オンライン採用」でできること

  • 伊達洋駆氏
  • 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役

第2部オンライン採用における候補者の見極め方

  • 青木千絵氏
  • 株式会社日本能率協会マネジメントセンター 組織・人材開発事業本部 副本部長

セミナーレポート

本セミナーをレポート形式にまとめております。

ログイン後、すべてのレポートをお読みいただけます。

Ⅰ. データを活用した「オンライン採用」でできること

1.採用データの入手が容易に

まず、自己紹介させていただきます。神戸大学大学院経営学研究科に在籍中に、ビジネスリサーチラボを立ち上げ、組織サーベイ(従業員を対象とした意識調査)や、人事データ分析(社内に存在する各種データの分析)を行っています。

採用に関するところでは内定者調査や、ハイパフォーマー分析を通じた人材要件の策定などを行っています。

本日は主に2点、採用でどのようにデータを活用すればよいのか、ということと、オンライン採用の知見についてお話しいたします。

『オンライン採用 新時代と自社にフィットした人材の求め方』という本を2021年2月に上梓しましたが、そちらにも詳細が掲載されています。

デメリットばかりではないオンライン採用

さて、2020年から続くコロナ禍によって採用のオンライン化が進んでいます。それ以前の採用活動は対面が前提だったので、オンライン化への対応に悩みを抱える企業も多かったわけです。こういう話をすると、採用のオンライン化には課題が多いと受け止められるかもしれませんが、「データ」という視点からみると、そうでもありません。

例えば、オンラインで面接を行うことによって、やりとりの記録を動画や音声という形で残すことができます。また、採用管理システムを導入すれば、適性検査のデータ等、様々なデータを蓄積することができます。オンライン化によって、様々なデータが入手しやすくなったことは良い変化と言えるでしょう。

ただし、容易にデータを収集できるようになったからといって、それを活用できるかというと、必ずしもそうではありません。実際、私たちも、「データはあるけれども、どのデータが分析に使えるのかがわからない」「データをどう分析すればいいのかがわからない」といった相談をよく受けます。そこで、採用のデータ活用をどのような考え方で進めればいいのかについて解説していきたいと思います。

2.採用データ活用の3ステップ

採用データの活用については、次の3つのステップに分けて考えると成果が出やすいと思います。

図表1 データ活用のステップ
図表1 データ活用のステップ
① 採用の成功を定める

まず「採用の成功を定める」ですが、これは自社にとって何がどうなれば採用に成功したと言えるのかを定めることです。今日は採用担当の方々が参加されていると思いますが、自社にとっての「採用の成功」を定義していますか。パッと答えられる人もいれば、あらためて聞かれると難しい、と思う方もいるはずです。

「採用の成功」を定義していくうえでヒントとなるのは、採用学研究所が採用担当者向けに2014年に行った調査結果です。この調査によると、採用において重要性が高い項目のトップ3は、「高業績を上げる人材の採用」「早期離職者数を抑制」「内定辞退者数を抑制」でした。

図表2 採用において重要と考えられているものTOP3
図表2 採用において重要と考えられているものTOP3

この結果を翻訳すると、採用した人材が高業績になることが採用の成功だと定義することもできるし、そこまでいかなくても採用した人材が定着すれば成功と考えることもできる。あるいは、もっと前の段階として、内定を出した人材が承諾すれば成功、と捉えることもできる。いずれにせよ、各社で採用の成功の定義をしておかないと、データ活用の出発点に立てません。

一方で、採用の成功を明確に定義している企業は、決して多くはありません。しかも厄介なことに、「何をもって成功とするのか」という定義は、企業によって異なります。採用に対する思想も、企業が置かれた状況もそれぞれだからです。何をもって成功とみなすのかは、「決め」の問題なのです。

こういった話をすると、「目的の明確化は大事にしている」という反論があるかもしれません。実際、採用を含む人事関連のデータを分析したり活用したりするうえで留意していることについて、日本の人事部が2019年に実施した調査によると、「目的の明確化」が1位に挙げられています。

図表3 人事関連のデータを分析・活用する上で留意している点TOP3
図表3 人事関連のデータを分析・活用する上で留意している点TOP3

採用データ活用の目的としては、うまくいっていない点を明らかにすること、要件に合う人材が来てくれているかを分析すること、あるいは費用対効果の悪い点を見つけていくこと、といった点がありえます。目的を立てることが大事だという認識は、採用担当者の間である程度共有されています。

しかし、「データ活用の目的」と「採用の成功」はイコールではないのです。データ活用の目的は、「データを使って何をするのか」です。それに対して、採用の成功の定義は、「どうなれば採用がうまくいったといえるのか」を意味します。これらは別々のものとして捉える必要があります。そして繰り返しになりますが、採用データを活用していく時には、後者の「採用の成功」をしっかりと定義することが大事になります。

無事に、自社にとっての採用の成功を定めることができたなら、次に行うべきプロセスは、成功を表すデータを特定すること、つまり成功を示す指標を見つけていくことです。

例えば、採用した人材が1年後に定着していることを成功と定義したとします。そうすると、データとしては、1年後に辞めていないという在籍状況がデータに該当します。あるいは1年後にアンケートをとって、定着の意思を自己申告で聞けば、それもデータになるかもしれません。

また、採用の成功を、「内定承諾を得ること」と定義したとします。その場合、データとして活用できそうなのは、候補者が内定を承諾したのか辞退したのかという情報になります。また、承諾に際しての納得感をアンケートで聞いて、データにすることもできます。

こうして見ていくと、採用に用いることができるデータには、大別して2種類あることになります。1つは、既にあるデータです。先ほどの例ですと1年後の在籍状況は人事データとして保管されているはずです。もう1つは新たにつくるデータです。これは、例えば1年後の定着希望についてアンケートで尋ねて得られたデータが該当します。

しかしながら、自社が定義する成功に対して、どのデータが合致しているかを考えることは難しいものです。データ分析の専門家の力を借りると良いでしょう。

② 成功の要因候補を挙げる

採用の成功が定義でき、データも特定できたら、そのあとは、採用の成功に近づくために必要な点について候補を挙げていくことです。これを採用の成功に影響を与える「要因」と呼びたいと思います。

例えば、「1年後の定着」を採用の成功と定義した場合、候補者のニーズと事業側の提供できる仕事がフィットしているか。あるいは候補者に深い自己分析ができているのか。さらには、候補者が承諾に際して覚悟をもっているのかといった要因を考えます。

要因を考え始めていくと、入社後の研修内容や配属先との相性といった、採用時だけに限らないものも見えてきますが、できる限り幅広く要因の候補を多く挙げることがポイントです。

候補を挙げたら絞り込んでいきます。その際には、3つの観点から考えるといいでしょう。1つめは、「その要因は対策を打てるか」です。対策を打てないような要因を挙げても、結果に対して手の打ちようがありません。「この要因が大事だ」とわかった時に、どんな対策が打てるかもセットで考えておくのです。対策を打てる要因の優先順位を上げましょう。

2つめは、その要因は「採用の成功にとって重要か」です。「なぜ、その要因は採用の成功に近づくために大事か」を、自分たちの言葉で説明することが大事です。例えば、1年後の定着にとって、「ニーズとサプライのフィットが大事」という要因を挙げたとすると、それがなぜ大事なのかを説明してみる。そうすると、説明しやすいものとしにくいものがあることがわかると思います。納得のできる説明ができるほうの優先順位を上げます。

そして3つめは、「その要因は人によって差があるか」という観点です。これは分析の観点から言えることなのですが、みんなが高い、あるいは低い要因よりも、「高い人もいれば低い人もいる」という要因を、優先順位高く選んだ方が有効です。

要因の候補を挙げる3つの理由

ここまでお聞きになって、「本題のデータ分析の話がまだ出てこないな」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。ここまでしっかり要因候補を考える必要があるのは、なぜか。それには、3つの理由があります。

1つめは、適当に要因を挙げて適当に分析すると、疑似相関が発生する恐れがあるからです。疑似相関の例として図表4を見てください。アイスクリームの売り上げとプールで溺れる人は、表面上は相関しています。しかし、これを見て「溺れる人が増えるから、アイスクリームを売ってはいけない」と考えるのは早計です。ここでの真の要因は、気温の高さであり、それがアイスクリームの売り上げにも、溺れる人の人数にも関係しているのです。つまり、「気温の高さ」という真の要因が挙げられていないため、表面上の相関(疑似)を本当の相関のように捉えてしまうことが起こります。きちんと要因を定めて検証しておかないと、本当は関係ないものが、「関係がある」という分析結果として出てくるのです。

図表4 疑似相関の例
図表4 疑似相関の例

2つめは、適当に要因を挙げると、結果が出ず、「分析してみても役に立ちませんでした」ということが起こってしまいます。実は、これは「失敗あるある」の1つで、採用に限らず自社内で人事データを分析する場合に陥りがちな問題です。事前にこの問題を防ぐためにも、しっかりと要因候補を出して絞り込むという丁寧なプロセスが大事になります。

そして、3つめは、成功と関連する要因を導き出せたとしても、なぜその要因が大事なのかが説明できないと、社内で協力を得ることが難しいという点です。「この要因が大事だということがわかりました。でも理由はよくわかりません」では、社内で人を動かしていけません。

採用でも営業でも、いろいろな領域で活用されているAIも分析を行っています。ただし、分析のアルゴリズムが複雑になりすぎると、なぜそういう結果が出たのかがわからなくなるケースがあるようです。「そうならないように意図的に技術レベルを下げて開発をしている」とおっしゃるAI開発者もいるほどです。分析と結果の関係を説明ができることは、データ分析を進めるうえでとても大事なポイントです。

また、データ分析や活用にあたっては、「ガベージ・イン・ガベージ・アウト」という有名な格言もあります。「ゴミを入力するとゴミが出力される」という意味です。質のいいデータを入力しないと、いい結果は得られない。今回の文脈でいうと、成功につながる要因の候補が良質なものでないと、良い結果は出てこないということです。

経験知、調査知、学術知の3つを動員して要因候補の質を高める

とはいえ、実際に要因の候補を挙げることは、とても難しい作業です。なぜなら、要因の候補を挙げるためには、経験知(普段の仕事から得た知識)、調査知(候補者への調査から得た知識)、学術知(採用研究から得た知識)という3つが必要になるからです。この3つの知識を動員していかないと、要因の候補を質の高い形で挙げられません。

図表5 3つの知識
図表5 3つの知識

では、3つの知識はどう身につければいいのでしょうか。まず「経験知」については、定期的に採用の業務をリフレクション、つまり省察することが大事です。そして調査知と学術知の2つについては、先にご紹介した拙著『オンライン採用』の、特に、2、3、4章を見ながら要因の候補を考えていくといいと思います。

統計分析の知識だけでなく、採用に関連する経験知、調査知、学術知といったドメインの知識も重要だということをご理解ください。

成功の要因候補を挙げたら、該当するデータを特定しますが、やや専門的なため、ここでは割愛いたします。専門家の助けをうまく借りてください。

③ 成功の要因を導き出す

最後に成功を定義して要因の候補を絞り込んだら、その関係性を分析していきます。成功と要因の両方ともデータがある状態です。成功を導き出す要因はどれで、最も影響度の高い要因はどれかといったことを統計分析します。

ここでようやく統計分析※が出てきます。学ぶ意欲をもっておられる方や、すでに知識を持っておられる方は、ここまでのプロセスを経た後に、統計分析をしていただければと思います。

採用データの活用をまとめると、「自社の定義する成功に対して、何の要因が重要かを明らかにし、その要因を高めるための対策を打つ」ことといえます。これがデータ活用の一連のプロセス・考え方であり、進め方になります。

図表6 採用データの活用とは まとめ
図表6 採用データの活用とは まとめ

3.オンライン採用の知見

オンライン採用では、「非言語的手がかり」が大きく減少する

続いて、オンライン化とデータの関係性、そしてオンライン採用の知識についてもご紹介します。

具体的に、オンライン採用によって、どんなデータを集める必要性が出てきているのでしょうか。これを考えていくためにはまず、オンライン採用の特徴を考える必要があります。オンライン採用においては、「非言語的手がかり」(言葉以外の表情、声の調子、身振り手振り、服装、周辺環境などの情報)が減ってしまうことが大きな特徴として挙げられます。

皆さんにもいまは私のバストアップしか見えておらず、それ以外の非言語的手がかりは失われてしまっています。このように、非言語的手がかりが減っていくと、感情が捉えにくくなります。言葉以外の情報からは、感情がよく伝わるからです。例えば、ある人が「私は悲しいです」と言葉や文章で伝える場合と、泣き顔を見せる場合、どちらのほうが感情は伝わるでしょうか。泣き顔を見せるほうですね。泣き顔は言葉以外の情報を広く含んでいます。

このように、オンラインになると、候補者の感情に関する情報を得ることが難しくなります。その結果、候補者の人柄をつかむのが難しくなります。

実際、人柄を把握するため、私たちは非言語的手がかりに頼っているという研究もあります。「外向性」というのは、社交的であるとか明るい人柄のことを指しますが、外向性が高いかを判断するために人が用いているのが、ここに挙げた、たくさんの情報です。これらはすべて非言語的手がかりです。

図表7 外向性の判断に用いられるもの
図表7 外向性の判断に用いられるもの

表情、姿勢、ジェスチャー、話し方、声の心地良さ。そうした幅広い非言語的手がかりを見ながら、この人は外向的な人だとか、あるいはそうではないと見定めているのです。非言語的手がかりが減ってしまうと、人柄の判断がしにくくなります。

非言語的手がかりの減少は、バイアスを抑制する

非言語的手がかりが減ることは、マイナス要素だと思われるかもしれません。しかし、実はそうでもないこともあります。バイアスが抑制されるという側面もあります。

どういうことでしょうか。人が他者を、面接官が候補者を評価する際には、人柄(温かさ)と能力(有能さ)という2つを評価しています。恐ろしいことに、人には能力よりも人柄の方を重く受け止める傾向があるといわれています。

人柄が良い人は能力についての判断や評価が甘くなりがちで、これは研究の中でも検証されています。こういった評価バイアスが存在しているのです。

他方、非言語的手がかりが得られにくいオンライン面接では、面白いことに、逆の現象が起こります。つまり、内向性の高い応募者は、対面よりもオンラインの方が高く評価される傾向があるのです。内向性の高い人は、普段は過小評価されていた可能性があるのです(外向性の高い人が過大評価されていた可能性もあります)。

オンライン面接で非言語的手がかりが減ることで、人柄が判断しにくくなると、バイアスの抑制にもつながります。非言語的手がかりの減少は悪いことばかりではないのです。

ただし、バイアスの抑制にはつながりますが、その人がどんな人柄かをやはり知りたいと思う企業は多いかもしれません。オンライン採用では、人柄に関する情報を積極的に入手しておきたいところです。しかも、できるだけバイアスがかからない方法で。そこで有効になるのが適性検査です。

一般的な適性検査というのは、能力と性格(人柄)の2つを測定します。このうち、特にオンライン化によって大事になるのは、性格に関するデータです。適性検査で性格に関する特性を収集・評価して分析していく必要があるでしょう。

信頼関係を築けないと「ニーズ情報」が得られにくい

オンライン化によって非言語的手がかりが減ると、人と人との信頼関係を構築することが難しくなると、よく指摘されています。

そもそも「信頼」とは何でしょうか。学術的に信頼がどう定義されているかというと、「相手が誠実で自分を出し抜いてこないと信じることができること」です。これを採用の文脈で翻訳すると、候補者が面接官に対し、例えば「良い企業選びを支援してくれる」「自分の味方になってくれる」と思えることでしょう。皆さんは候補者との間でこのような関係を構築できているでしょうか。

採用担当者や面接官を信頼できないと、候補者は自分をアピールしなくてはならない、という思考になりがちです。自己アピールに走れば、候補者自身がどんな考えをもった人物なのかという情報が十分に得られません。例えば、将来的なキャリアやなりたい人材像、どんな働き方をしたいのか、期待する風土や仕事の条件などの、働くうえでの「ニーズ情報」について開示してくれません。

候補者のニーズ情報は、企業とのマッチングを高める上で大事です。「ニーズとサプライのフィット」という言い方をします。候補者が望むことを企業が提供できる。これがニーズとサプライのフィットですが、フィットを高める前提として、候補者のニーズ情報を把握しなければなりません。

ニーズとサプライのフィットは、入社後も、仕事や会社に対する満足、組織に対する愛着や一体感、会社に残りたい気持ちなどを高める効果があり、非常に重要です。オンライン採用で不足してしまいがちなニーズ情報。これを収集する機会をできるだけ意図的に設けていく必要があります。

例えば、リクルーターや(面接には入らない)採用担当者といった、評価に関与しない人が候補者との面談を定期的に行うといった施策を考えていく必要があるでしょう。

以上をまとめると、採用がオンライン化されることによって、非言語的手がかりが対面の採用と比べると減ること。そして、人柄とニーズの情報については工夫のうえ、別途入手することが求められるということです。

オンライン採用の知見については、繰り返しになりますが、拙著『オンライン採用』のなかで多角的に記述しているので、詳細はそちらを参照してください。ご清聴ありがとうございました。

背景となる本

Ⅱ.オンライン採用における候補者の見極め方

オンライン採用によって人材の見え方が変わる

ここからは、「オンライン採用における候補者の見極め方」というテーマで、弊社のストレス耐性検査「Q-DOG」のご紹介をさせていただきます。Q-DOGは、作業検査の技術をもっているエスケイケイ社と弊社とで共同開発をしたものです。

昨年(2020年)からオンライン採用が広がるなか、オンラインに切り替えたことで採用した人材の特徴に変化があったのか、弊社でも分析いたしました。対面で面接していたときの新入社員と、オンライン面接で採用を決めたときの新入社員方々の特徴に違いがあるかということです。その結果、能力的にはあまり差はなくても、性格面・持ち味で大きな差があることが分かりました。

伊達先生のお話にもありましたが、今までは外向的で積極的な方が多く採用されていたのに対し、オンライン採用になった昨年は、内向的で論理的に話すおとなしめな方々が採用されているケースがみられました。これがバイアスによるものなのか、採用目的が変わったからなのかというところまでは、詳しくは分析できてはいないものの、本日の先生のお話にあった“採用方法によって人材の見え方が変わってくる”という点は、あらためて弊社としても学びになりました。

さて、採用の目的に合ったより良い人材を採用するために、採用試験ではどういった領域を測るべきなのでしょうか。図表1をご覧ください。

図表1 人材の特徴を把握する際の測定領域
図表1 人材の特徴を把握する際の測定領域

これは、弊社が考える能力構造図です。人の能力を語るとき、よくこうした氷山モデルが使われます。業績、行動といった緑の二重線よりも上にあるものが、表に見えているものです。一方、内面的・潜在的な面で、最も深い所にあって変わりづらいものが特性と基礎能力です。

伊達先生も、能力検査と性格検査が採用時の代表的な検査だとおっしゃっていましたが、変わりにくいからこそ、採用の段階で自社に合う人材かどうかをしっかり見極めることが重要になります。黄色い部分(スキル、意欲、価値観、態度、知識)は、会社に入ってからも伸びていくところで、多くは昇格試験時に測るところになります。

本日ご紹介するのは、この変わりにくい基礎的資質の中で、特性面、特にストレス耐性面から対象者のパフォーマンス発揮度(≒適応力)を予測するという検査です。

「作業検査」によってストレス耐性を測る

ストレス耐性を測るうえで、よく使われる検査は「質問紙法」です。例えば、「いやなことをハッキリと断れない」という質問項目があり、それを5段階で当てはまるかどうかを記入してもらうといったものです。これは簡易にできて回答も簡単ですが、理想的な自分を装って回答することもできるので、作為を防ぎづらいという課題があります。

もう1つ、「作業検査」という検査があります。これは、ある一定の時間、一定の作業を行っていただき、その反応ぶりから性格や行動傾向、ストレス耐性などの特性を見る検査です。作業の状態から測定するため、正解がありません。受検者は意図的に望ましい人材を装うことはできず、本来の素質を測定しやすくなります。「クレペリン検査」というとイメージしやすいと思いますが、並んでいる数字を足して、その合計を書いていくといった作業を連続して行うものです。

このクレペリン検査を応用して開発されたのが「V-CAT」という検査で、その人の持ち味やストレス耐性を見る作業検査です。V-CATは紙で行うため、オンライン採用試験では使いづらいという難点がありました。そこで今回エスケイケイ社と共同研究・開発を行い、Web検査版の作業検査「Q-DOG」を今年1月にリリースいたしました。

図表2 作業検査とは
図表2 作業検査とは

「ストレス耐性」と「ストレス自覚」を測定し、そこから、パフォーマンス発揮度を予測

“作業検査からどうして人材のストレス耐性がわかるのか”とよく質問されますが、臨床データの積み重ねがあるからです。作業検査を行う一方で、その方と面接を行い、どんな考え方をしていて、どんな特性があるのかといったデータを蓄積しています。あるいは上司や周囲の方にヒアリングして情報を集め、こういう作業傾向のある人はこういう特徴がある、というデータを蓄積しているからです。

また、作業検査では意図的に自分をつくることはできないため、そこから見えてくるストレス耐性は、かなり「素の姿」を反映しています。このように測定されたストレス耐性が高い方は、組織内でも能力発揮、適応力が高く、メンタル疾患になる確率も低いことがわかっています。

一方、Q-DOGでは「ストレス自覚」についても質問紙で測定をしています。ストレスをどう感じているかを聞いています。ストレス耐性が高くても、ストレス自覚が高い――つまり、本人がストレス感じていれば不調に陥る可能性が高まります。そこで、今回Web版の検査を開発するにあたり、作業検査だけでなく、ストレスの自覚も質問紙で測定して、組み合わせて結果を出すようにいたしました。

「ストレス耐性」を縦軸、「ストレス自覚」を横軸として、両面からマッピングしたパフォーマンスマップをつくり、その方のパフォーマンス発揮度を予測します。パフォーマンス発揮度はEからA+まで、10段階で評価しています(図表3)

A、A+というグループは、採用後、どこの部署に配置されても早く適応して力が発揮できるだろうと予測されます。

図表3 「Q-Dog」パフォーマンス発揮度の予測<ストレス耐性×ストレス自覚
図表3 「Q-Dog」パフォーマンス発揮度の予測<ストレス耐性×ストレス自覚

一方で、E、E+は、ある部分では高い能力を発揮しますが、適応範囲が限られ、適応しにくい領域においてはフォローが必要になることが予測されます。こうした結果を踏まえ、入社の段階で、適性にあった配置を考えることで、よりよい形で人材を活用できます。

このパフォーマンスの発揮度(≒適応力)は、採用時の大きな指標になると考えております。採用の段階では、CまたはC+以上が、「適所により活躍が期待できる」レベルとして、面接結果により合否を検討という判定をしてます。

なお、A、A+の方々は、このマップのブルーグリーンに位置し、ストレス耐性が高く、ストレスへの自覚が中程度の方々です。不思議な位置にあるように見えますが、これも臨床データで分析をして導き出したものです。

紙の作業検査V-CATは1,500万人以上のデータを蓄積していますが、このデータを基にQ-DOGでは、さらに2万8,000人のデータを加えて開発しました。

パフォーマンスマップ以外には、「マイセールスポイント」という、対象者が「どういう仕事への指向性をもっているのか」――クリエイティブな仕事の指向が強いのか、あるいは支援型なのかといったような仕事の活躍の指向性も測定しています。

まとめますと、Q-DOGは「ストレス耐性」と「ストレス自覚」からパフォーマンスの発揮度(≒適応力)を、「マイセールスポイント」から仕事の活躍の指向性を測定する検査となっております。

アウトプットとしては、一覧表と個人報告書、CSVデータです。CSVには一覧表データと個人票データを全て出していますので、データの保存や分析にもお使いいただけます。

図表4 Web版新ストレス耐性検査「Q-DOG」の概要
図表4 Web版新ストレス耐性検査「Q-DOG」の概要

まとめ

実施例を申し上げますと、採用選考の初期段階であれば、オンラインの一次面接の前に実施していただくのが効果的だと思います。総合判定指標としてパフォーマンス発揮度の10段階が表示されますので、一次試験の合否判定の材料にお使いいただいたり、一次面接時の材料にしていただくことができます。

また、現在のようなリモートワークが広がっている環境下では、新入社員は入社後の人間関係の構築に苦労したり、成長実感ももちにくいという傾向が、弊社の新人調査からも見えております。こうした課題の解決のため、Q-DOGの診断結果を上司、同僚、先輩と共有して支援に生かす、という使い方もできます。

新卒採用のみならず、中途採用者の場合も、専門スキルだけではなく、まず組織に適応して力を発揮できるかどうかといったマインド面を、こうした検査で測ることが有効です。

検査は、インターネットでの受験とテストセンターでの受験からお選びいただけます。

こうした検査を通じて、採用におけるデータの収集や活用、また,よい人材の採用のお役に立てれば幸いです。本日はありがとうございました。

図表5 Q-Dog実施例
図表5 Q-Dog実施例

Ⅲ.質疑応答

司会:新卒採用では、毎年、人材要件を少しずつ変更しています。採用成果を入社後の高業績に置く場合、少なくとも1年後にならないと結果がわかりません。今年の採用要件が良かったのか悪かったのか、なかなか判断しづらいのですが、どのように考えるのがよいでしょうか。
伊達:

採用におけるデータ活用は継続的に行っていく必要があります。例えば3カ年計画を立てるなど、時間をかけて行っていくことが大事です。

ただ、ご質問の通り、1年後でないと測定できないとすれば、スピード感に欠けますね。そこで有効なのは、採用の成功をステップに分解してみるという考え方です。

例えば、入社後に活躍するというゴールにたどり着くまでに、乗り越えておくべき様々なステップがありますよね。活躍するためにはまず定着する必要があり、定着するためには組織に適応する必要があります。入社前も「納得して入社する」状態が必要かもしれません。このように、採用の成功を時系列で分解して並べていくと、時間的に近いものは、すぐに分析に用いることができます。

司会:オンライン面接でも効果的な質問方法はありますか。
伊達:

すでにこの質問をされている地点で、良い考え方に基づいていると思います。というのも、オンライン面接において大事なのは、「構造化」だからです。構造化の詳細については拙著『オンライン採用』に書いていますが、事前に質問項目や評価方法を設計しておくことです。興味深いことに、オンラインとリアルの面接を比べると、オンラインは構造化した方が見極めも惹きつけもできて良いことずくめです。一方リアルでは、見極めはきちんとできるものの、惹きつけは苦手です。

リアルの場合は構造化せずとも会話が成り立ちます。構造化すると不自然な会話になってしまい、その会社に対する思いが高まりにくいのです。

オンライン面接は逆で、そもそも会話しにくく、特に初対面の人同士では会話が成り立ちにくい。その原因は非言語的手がかりが減少しているからです。そうしたやりにくさを構造化によって防ぐことができます。だから、オンライン面接では構造化が有効なのです。

この「構造化」の進め方としては、質問からではなく、人材要件から考えます。「自分たちはどのような人材を求めているのか」を明確に定義する必要があります。そのうえで、人材要件への適合度を見極めるために必要な質問を挙げていく。人材要件でA、B、C、Dという要素が挙がったとします。それぞれを見極めるにはどのような質問が必要かを考えていくのです。

細かいテクニックとしては、どんな回答すれば合格になるのかという基準を明らかにしておくことです。「うちの会社でいうと〇〇さんぐらいの人当たりの良さがある」といった具合です。そうすると、質問項目をより具体的に捉えることができます。このような形で、人材要件と質問と評価方法(合格基準)をセットで検討すると、質問項目を単体で考えるよりも、はるかに効果的です。

司会:入社後も高業績者の要因分析をしたいと思っています。採用担当者が評価した項目、マインドやスキルなど10項目程度を独立変数として重回帰分析をするのがいいと思っていますが、よく使う統計手法にはどのようなものが多いでしょうか。
伊達:

この方はデータ分析について知識をおもちなので、少しだけ専門的に、しかし、他の方にとっても重要な論点を含みつつお答えします。採用担当の方が評価した10項目について、それが本当に「要因」かどうかを、データ分析をする前の段階で検討することが第一です。

先ほど話したように、対策を打てるのか、重要なのか、回答はばらつくのかといった観点について考えます。さらには経験知、調査知、学術知を活用して、本当にその要因でいいのかを吟味しましょう。

もう1つ、ある人が活躍するかどうかという分析を行う際に私がよくお勧めしているのは、入社前の要因だけではなく、入社後の要因もデータとして取っておくことです。

入社前の要因だけで入社後の活躍を予測することは難しいですよね。どんなに素晴らしい能力をもった人でも、上司との相性が悪かったり仕事が向いていなかったりすれば活躍できないかもしれません。入社後の要因も加味して分析しましょう。

分析の方法ですが、重回帰分析でも良いですし、構造方程式モデリングを用いるのも良いと思います。さらに言えば、データを時系列で収集できている場合は、順調に活躍するようになった人、あるいは伸びなかった人など、活躍の変化に注目した分析(例えば、潜在成長モデル)もありえます。

司会:採用の成功を定義しないまま、ひたすらに走り続けている現状に、今日気づくことができました。その上で、採用の成功を定義する方法について何かヒントがあればご教示ください。
伊達:

2つの観点があると思います。1つは、「採用担当者や採用に関わる方々の責任はどこまでか」という考え方です。例えば、入社5年目までは採用担当者の責任という会社もあるでしょうし、そこまでいかなくても、入社1年間で辞めなければ責任を果たしたことになる、という会社もあると思います。責任の範囲から考えていくと、採用の成功を導き出しやすくなるはずです。

もう1つは、採用の成功は確かに「決め」の問題ではありますが、勝手に決めてしまうと後で問題が起きます。「そんなものは成功ではない」という役職者が現れたら困りますよね。社内でしかるべき人と議論をして、採用の成功について合意を取っていきましょう。全社的に納得が得られるような「成功」を定義していくことも大事です。

司会:面接官ごとの面接評価のブレをなくすにためは、どのようにしたらいいでしょうか。
伊達:

大事なのは、面接官の方々に「準備せずに臨めばブレが生じる」という事実を知っていただくことです。その上で、マニュアルづくりと面接官トレーニングを行いましょう。マニュアルには、面接にあたっての心がまえ、人材要件、質問項目、人材要件と質問の関係性、評価の方法などを盛り込みます。これはつまり、構造化によって面接官ごとの評価のズレを減らすという方法です。

しかし、いくら構造化しても、それが面接官の方々にきちんと受け止められていないと、結局、評価はブレてしまう。そうならないように教育を行う必要があるということです。マニュアルを作ったら、それをメールでお知らせして終わりにするのではなく、口頭で伝える機会を設けて、マニュアルの内容を説明します。分からないところや直したほうがいいところをヒアリングすれば、マニュアルの修正もできます。

司会:採用の「成功」は、複数定めても良いものでしょうか。
伊達:

いいと思います。複数設定した成功の間の関係をきちんと整理するとより良いでしょう。例えば、「これがここにつながって最終的にここに行く」といった具合です。ただし、それぞれの成功ごとに要因は違ってくる可能性があります。要因候補の検討は慎重に行いましょう。

司会:他社よりもいい人材が採れているかどうか。また、毎年、採用できた人材の質が高まっているかどうかを測ることが難しいです。何かお考えはありますでしょうか。
伊達:

「他社よりも」というところが難しいですよね。他社のデータを見ることはできないからです。現実的にはあまり他社を意識せずに、それよりも自社が掲げた成功に対して、自分たちのアプローチが適切に機能していたのかを検証するという発想のほうがよいと思います。

人材の質が高まっているかどうかについては、成功の定義次第です。例えば、ある3つの指標が高い人材を採用することが成功だと定義したとします。入社する人材について、3つの指標の数値が年々上がっているかをモニタリングすれば、人材の質が高まっているのかを追いかけることができます。

司会:面接者、そして面接官の間の信頼を醸成するためのアイスブレイクが有効だと考えております。短時間で有効なアイスブレイクをご紹介いただけますか。
伊達:

オンラインであるか対面であるかを問わずに重要になるのは、面接官が自分の話をすることです。面接は、面接官が質問をして候補者が回答するといういびつな構造になりがちです。これでは、候補者はテストを受けているような気持ちになり、リラックスできません。

相手が何か答えたら、それに対して自分も話をする。例えば、自分はどんな気持ちで入社したのか、自分のキャリア上のうまくいったこと、うまくいかなかったことなどを候補者に伝えます。これを専門的には「自己開示」といいますが、自己開示はアイスブレイクにつながります。

司会:面接内容と内定辞退の間には、相関関係があると考えられるでしょうか。
伊達:

面接内容も関係ありますが、面接官の特性も影響します。例えば、テクノロジーのことを知りたいと考えている候補者がいたとして、テクノロジーに詳しい面接官が対応すれば、質問に対して具体的に回答できます。そうなると志望度が高まりますよね。

他方で、内定辞退につながる要因は非常に多様です。面接内容は要因の一つではあるかもしれませんが、他には何が関係しているのだろうかと考えてみることも大切です。そうすると、内定辞退を多角的に抑制していけます。

司会:お時間が来てしまいました。本日は誠にありがとうございました。
このレポートはJ.H.倶楽部会員限定です。
無料会員登録すると、
続きをお読みいただけます。
会員様だけの限定セミナーも開催!
無料で読み放題 会員登録する
会員の方 ログイン