人材教育最前線 プロフェッショナル編 〝自己成長力〞を高め、事業成果に 直結させる経営フレームワーク
カメラなどのイメージング事業やプリンター、オフィス向け複合機、ソリューションビジネスなどで世界的なシェアを誇るキヤノン。医療機器事業はキヤノンの歴史で2番目に古く、これから大きな展開が期待される事業部である。
今後、事業展開の原動力となるのは、事業目標に直結した一連の業務改革だ。中でも、個々の社員が組織の現状を客観的につかみ対策を講じる部門独自の育成施策が、主体性や組織の自己解決力向上につながるという。
同事業部の仕掛け人に話を聞いた。
事業部を次の成長路線に導く
大手光学機器メーカーのキヤノンといえば、高画質のデジタル一眼レフカメラやビデオカメラなどの画像入力機器、オフィス向け複合機やプリンターといった画像出力機器などを連想することが多いだろう。また、これらの製品や技術を生かしたソリューションやネットワーク開発の印象が強い。だが同社には、この他にも創業期より脈々と続いている事業がある。それが、レントゲン検査で使うX 線撮影機器や眼底カメラなどを扱う医療機器事業部だ。
医療機器事業部医療機器事業統括センター所長の西岡健氏は、次のように話す。
「当事業部はX線撮影機器のデジタル化で他社を先行しましたが、その後厳しい競争環境に置かれています。キヤノンの創業期を支えた医療機器事業部を、何とかキヤノンの次の成長の柱にしたいという思いで、ここまでやってきました」(西岡氏、以下同)
事業復活のカギを握る事業改革の始まりは、同氏が大判プリンター事業で販売推進に携わっていた2013 年にさかのぼる。
時間の止まった部署だった
「立て直しを手伝ってくれないか」
当時、代表取締役副社長 CTOであり医療機器事業部の事業部長を務めていた生駒俊明氏(現・キヤノン特別顧問)から声を掛けられた。
医療機器事業部は、同社ではカメラ事業に次いで2番目に歴史が長いが、事業規模は他の事業部と比べて小さかった。ベテラン社員の比率が高く、メンバーが固定化しており、西岡氏が初めて事業部を訪れた時、他の事業部とは違う組織風土を感じたという。
「よく言えば、同一性・均一性に長け、安定した組織でした。それは裏を返せば没個性、予定調和的であり、保守的な事業運営が行われていたということでしょう」
特に、管理手法の仕組みや業務プロセスが気になった。合理的な基準や客観的なルールを設けずに、社員同士の関係性や経験則で進めるシーンが見受けられたのだ。客観性や合理性よりも、過去の慣習が議論されることなく優先されることも多かった。
西岡氏は強い危機感を覚え、この組織の将来性に不安を感じた。
「メーカーである以上、事業の開発と生産、販売が機能し、このサイクルが循環してこそ、企業の継続的発展につながると考えています。ですから、医療機器部門も本来の流れを取り戻すことができれば成長が期待できると思いました。また組織自体も事業部の課題やテーマを明確にし、実行に移しやすい規模ではないかと感じたのです」
一つの部門で働き続けてきた他の部員たちとは対照的に、過去にさまざまな組織の発展に携わってきたキャリアも、西岡氏の背中を押した。
「私は営業から始まり、カナダ、ニューヨークと17 年間の海外経験を経て、映像事業やキヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)、大判プリンターの事業を渡り歩いてきました。多面的な物の見方を要する場面に、これまで多く遭遇してきたのです。ある意味、事業部の中では異端の存在といえるでしょう。ですから、私だからこそ、できることがあると考えました」