OPINION1 カギはコラボ・ヘルスによるデータ活用 生産性を取り戻す 人的資本投資としての健康経営
出勤していても心身の不調で生産性が低下する、プレゼンティーイズムが問題になっている。
そこで注目されているのが「健康」と「生産性」を同時にマネジメントする「健康経営」だ。
超高齢社会を迎え、労働力の減少が懸念される日本で、生産性を確保するにはどうしたら良いか。
健康経営の調査研究の第一人者、尾形裕也氏に伺った。
「健康経営」とは何か
人事に携わる方ならば、「健康経営」という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。アベノミクスの第3の矢である「日本再興戦略」でも取り上げられ、注目が集まっている。
具体的な取り組みとしては、日本政策投資銀行(DBJ)が2012年に開始した健康経営格付・優遇金利制度がある。従業員の健康増進に積極的で、成果を上げている企業を評価・選定。その評価に応じて融資の際に優遇金利を適用する。また、経済産業省と東京証券取引所は2015 年3月、「健康経営銘柄」を発表した。経営状況が良好で、戦略的な健康経営を進める企業を業種ごとに選定する試みである。
では、「健康経営」とは何か。一言でいえば「健康と生産性を同時にマネジメントする」ことで、欧米諸国では20年ほど前から導入されている概念である。英語では“Health and ProductivityManagement”と称するが、このほうが分かりやすいかもしれない。医療費を抑える「疾病モデル」から、労働生産性を重視する「生産性モデル」へと考え方を転換、医療・健康問題を「コスト」ではなく、「人的資本への投資」と捉える。
換言すれば、従業員の健康への投資を適切に行うことで生産性を維持し、収益の最大化を図るのが健康経営なのである。
日米における研究と事例
健康経営先進国の米国では、研究や調査も進んでいる。注目される研究報告をいくつか紹介しよう。
①健康関連コストの構造
まずは、2000 年代初頭、ある大手金融企業に対し、ミシガン大学が行った「プレゼンティーイズム」のコストに関する調査だ。プレゼンティーイズムとは、アブセンティーイズム(病気休業)に対し、最近注目されている言葉だ。一応出勤しているが、不定愁訴なども含めて体の調子が思わしくないために、本来のパフォーマンスを発揮できない状態をいう。調査では、従業員の健康に関連するコスト項目を洗い出して金額を算出し、比較している(図1左)。
項目として挙げられたのは「医療費・薬剤費」「長期障害」「短期障害」「アブセンティーイズム」、そして「プレゼンティーイズム」だ。長期障害、短期障害、アブセンティーイズムでは明らかな損失が生じ、コスト増となるが、プレゼンティーイズムによる生産性低下も金額に換算し、コストとして見ることができる。
健康関連のコスト全体に占める各割合を調べたところ、驚くべき結果が明らかとなった。医療費が高い米国でも、医療費・薬剤費は4分の1程度。一方、プレゼンティーイズムによるコストは6割ほどを占めていたのである。生産性低下による損失が、いかに大きいかがお分かりいただけるだろう。