常盤文克の「人が育つ」組織をつくる 第5回 イノベーションを起こすには
昨今の経営において「イノベーション」の必要性が強く叫ばれています。そもそも、なぜ必要なのでしょうか。そして、どのようにして生まれるものなのでしょうか。元・花王会長の常盤文克氏が、これからの日本の企業経営と、その基盤となる人材育成のあり方について、提言します。
イノベーションの必要性
今の時代、イノベーションが求められているのはなぜでしょう。
1つには、ここ20年の市場、そして経済の大きな変化があります。1990年代初頭のバブル経済の崩壊を境に、日本の経済は「どのくらいつくれるか」という供給律速から、「どのくらい売れるか」という需要律速に変わりました。また、中国をはじめとするアジアや中東の国々が経済力を強めて存在感を増す一方、欧米の影響力が低下するという、世界経済の劇的な構造変化も大きな理由といえるでしょう。
こうした動きの中、イノベーションなしに企業のさらなる成長・発展は考えられません。言い方を換えれば、今までの仕事の仕組み、やり方では、変動する事態に対応できないということです。経営の仕様を変えねばなりません。
しかしそれは、決して特別なことでも新しいことでもありません。失われた20年といわれますが、この間に日本企業は経営の刷新をめざし、数々の言葉を掲げてきました。リエンジニアリング、リストラクチャリング、……クリエーション、イノベーション─言葉は異なりますが、その本質は「創造」と「革新」という点で共通しています。つまり、イノベーションは今に始まったことではなく、企業が成長、発展し続けるために不可欠な活動そのものなのです。
ところで、イノベーションとは何を指すのでしょう。その重要性を提唱した経済学者のシュンペーターは、従来の手法の延長上にイノベーションは存在しないといいました。有名な例えですが、馬車を引く馬の数をいくら増やしても機関車にはなりません。動力が馬から蒸気機関という、今までとは違うモノに変わることで産業革命が起きたのです。
また、イノベーションというと、ゼロから新しいものを生み出すイメージがありますが、すでにあるものを組み合わせて新しい価値をつくり出すことも含まれます。さらにイノベーションを「技術革新」と訳すこともありますが、その切り口は、技術だけに限りません。研究開発、製品開発、生産、物流、マーケティング、販売など、企業活動のあらゆる場面に必要なのです。