企業事例③ 日揮 己を知り相手を知りお互いに尊重し、協働する
企業は段階を経て、グローバル化を進めるが、日揮はすでにグローバル企業といえる。海外勤務社員はもちろん、本社にいる社員でも常に異文化の中で働くのが当然だ。そうした同社が重視しているのが、OJTと、“マルチナショナルマインド”である。
すべての社員がグローバル人材をめざす
日揮は、1928年に設立されたエネルギープラントなどの生産設備の建設を総合的に実現させる総合エンジニアリング会社である。全社員がグローバルな環境で働くことを前提とするグローバル企業でもある。
まず、日揮がグローバル企業となるに至った、これまでの流れを簡潔に紹介しよう。
1928年に設立された同社は、1950年代に国内の大型案件を手がけ、高度経済成長の波に乗って急成長する。1960年代に入ると、海外進出を視野に入れた事業を展開する。1975年には海外プロジェクトの受注割合が50%を超えた。その後、1985年のプラザ合意による円高を乗り切るために外国人スタッフの活用を強化する。
1990年代になるとプロジェクトの巨大化と短納期化が促進され、海外関連会社との連携や、海外の同業会社とのジョイントベンチャーによる業務遂行が進んだ。2000年代には、事業の領域をさらに拡大している。今や、海外プロジェクトの受注割合は85%以上である。
日揮のグローバル人材育成の強みは2つある。1つは、OJTが効果的に機能する海外の現場や拠点が、世界各地にあるということ。もう1つは、早くからグローバル化が進んだことにより、社内にすでにグローバルな舞台を経験した人材が豊富にいることだ。
それでは、日揮の現場とはどのようなものだろうか。
たとえば、あるサウジアラビアでのプロジェクトの現場では、27カ国の国籍、1万4900名の人員が参加。その中で、日本人はわずか50名。全体の0.3%を占めただけだった。
日揮の社員が行う主な仕事は、EPCと総称される設計(Engineering)、調達(Procurement)、建設(Construction)フェーズを中心に、プロジェクトの事業化調査から、完成した設備を設計通りに稼働させる試運転のマネジメント業務である。
一貫した流れの中で、それぞれの部門の責任を果たし、蓄積された技術をベースに全体の遂行に責任を持ち、マネジメントをする。ヒト、モノ、カネ、情報を世界中から調達し、求められる品質、コスト、スケジュールに沿ってうまく取りまとめるのである。
管理本部人事部の馬場浩史氏は、「多様な人々の中でリーダーシップを発揮して物事を進められる、世界と伍して戦える人材をいかに育成するか」が日揮の人材育成のテーマだと語る。
グローバル人材育成の基盤は現場体験
日揮が求める人材像の基本は、「自律」「技術力/専門性」の2つ(図表1)。EPCの各フェーズで、トラブルにひるむことなく、自律的に問題に取り組むことができなくては、プロジェクト完遂は達成できない。そして、多国籍のスタッフを牽引するうえでそのリーダーシップを担保するのが、高い技術力と専門性だ。
そうした人材に成長するには、どういったスキルが必要か、またどういった能力を身につければいいのかを明記したのが図表2に示す教育体系図である。なお、G1~4は日揮の人事制度に基づく4つのグレードだが、G1はいわゆる担当者、G2は係長、G3は課長、G4は部長のレベルとなっている。
ここで日本的育成の視点から注目すべきは、現場の学びを重視した「現場研修」である。