企業事例① パナソニック 国境を越えて理念を共有し長期的に現地の人材を育てる
世界中に約190もの拠点を持ち、さまざまな国籍の人が働くパナソニックでは、現地の人材を育成し、事業を任せる方法で現地法人を育てている。人種や文化、国の体制などが異なる国々で、“パナソニック”としての一体感を保つための核となっているのが同社の「経営理念」だ。
従業員の6割は海外人材
パナソニックが最初の海外販売拠点「アメリカ松下電器」を設立したのは、1959年。その2年後(61年)には、同社初の海外製造拠点をタイに設立し、現地生産を開始した。以来、全世界約190社に及ぶグローバルネットワークを構築している。
海外拠点の増加に伴い海外出身の従業員の数も増えており、グループ全体(サンヨーも含む)の従業員、約38万人のうち、海外人材が6割にものぼる。
また、グループ全体の売上高のうち、海外での売上高が半分近くを占めており、今後はこの割合がさらに拡大すると見られている。
このように、パナソニックでは、事業展開における海外拠点の役割が増しており、グローバルな人材育成が重要な課題となっている。
“モノをつくる前に人をつくる”
パナソニックでは、“生産・販売活動を通じて社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与する”ことを経営理念として掲げている。
生産も販売も行うのは、人であり、したがって人を育てることが、経営理念の遂行につながる。そうした考えから、同社では、「モノをつくる前に人をつくる」という言葉で人材育成の基本の考え方を示し、グローバルな人材育成もこの考え方にのっとって行っている。
海外での「人づくり」で同社が重点を置いているのが、「現地人の経営幹部の育成」だ。
同社・人材開発カンパニーの阿部信弥社長は、その理由を次のように説明する。
「当社では、それぞれの国の人たちが自らの手でその国の会社を経営する、“現地化”を進めています。日本人が各国に出向いて指揮するよりも、現地の人が現地の言葉で指揮するほうが、コミュニケーションもスムーズになります。
また、自分たちにも経営幹部になるチャンスがあると思えば、仕事に対する意欲も高まるでしょう。そうなれば、事業もその国に定着しやすくなり、その国の社会の発展にもつながります。つまり、現地化を進めることは、『その国の社会発展に貢献する』という当社の経営理念の遂行にほかならないのです」
現地の経営幹部を育成する上で同社が特に重視しているのが、「経営理念の浸透」だ。
「同じパナソニックの製品を製造・販売する企業といっても、事業を展開する国や地域ごとに事情は違います。しかし、どこの国であっても、また、どんな組織であっても『その国の社会発展に貢献するために、事業を展開する』という考え方は、共通の経営理念として持つことができます。それができれば、製造会社は、顧客視点でいい製品を適正価格でつくれるように努力をするでしょうし、販売会社は、いい製品ができたら、それをお客様に紹介して、買っていただく努力をします。