OPINION 1 新技術をウォッチせよ 人材開発部門がEdTechを知り導入すべき重大な理由
「EdTech」とは、教育とテクノロジーの融合を意味する造語。このアメリカを発信源とするムーブメントが、日本でも急速に進展しつつある。にもかかわらず、社内の人材教育にEdTechを積極的に活用している企業はまだ決して多くない。そこで、日本のEdTech研究の第一人者であるデジタルハリウッド大学大学院の佐藤昌宏教授に、EdTechの企業内教育への導入の障壁と、導入のためのヒントなどを聞いた。
教育業界は保守的
オンライン動画学習サービスの「schoo」、Skypeを使ったオンライン英会話「レアジョブ」などを筆頭に、日本国内でも教育とテクノロジーを融合したEdTech(エドテック=Education +Technology)市場が着実に拡大している。ところが、学校教育や企業研修でのEdTechの活用は、さほど広がっていないのが現状だ。
教育現場への普及がなかなか進まない最大の原因は、教育業界特有の保守的な慣習や価値観の存在。それを突き崩して新たなチャレンジをすることが非常に難しい業界なのだろう。しかも公教育は対象が子どもたちであるため、実践にあたっては慎重にならざるを得ない。よって今求められるのは、自らがイノベーターとなり、テクノロジーによって教育の仕組みを変えていく人材だ。
今年3月、米テキサス州オースティンで開催されたEdTech関連のイベント「SXSWedu」に参加した。参加者は約6000人。イベントの中心は講演やパネルディカッションだが、「スタートアップ・クロール」というユニークな取り組みも行われていた。これは、オースティンにオフィスを持つ、EdTechも含めた多くのベンチャー企業がオフィスへこのイベント参加者を招き、カジュアルな懇親会形式で自社のサービスや商品、活動をアピールするというもの。参加者の多くは教員や研究者なので、ここでのベンチャーと教員たちの融合から、実際に新たなイノベーションが起こることも多い。こうした協働のムーブメントも日本にはない。
日本の学校、教育業界には、既存の仕組みを間違いなく回していける人材はたくさんいる。しかし新たなチャレンジを起こそうという人はあまりいない。だがITがここまで普及し、国際競争力が今後さらに重要になる中、立ち止まっている場合ではない。もしも法制度や校内のルールが現状にそぐわないのなら「時代に合わせて変えていこう!」と言える、そんな人材が必要だ。
企業の危機感の欠如
企業の人材教育や社内研修の実情に目を転じてみても、「これまでの慣習や仕組みを踏襲すること」を自分の仕事だと捉えている担当者が少なくないように見受けられる。企業なら、学校の教育現場よりはるかに自由に、新たなチャレンジが行えるにもかかわらず、である。