おわりに なぜ「それでも、人事の仕事を続けたい」のか

「経営目線」と「人の心」両輪を捉えることが必要
ヒト、モノ、カネ、情報―― 。企業経営において重要な資源といわれるこの要素のなかで、かつてないほど注目が集まっているのが、ヒトである。人手不足という社会の状況、そして、人材を企業の資本と捉え、その価値を最大限引き出すことで企業価値向上につなげるという「人的資本経営」の考え方が脚光を浴び、「ヒトへの関心」は高まり続けている。そんないま、「ヒト」に関する業務を担う人事部門は、どう在るべきなのか。
「今も昔も人事の役割は人材供給。その本質は変わらない」。そう話してくれたのは、神戸大学大学院教授の鈴木竜太氏(OPINION2)だ。採用して能力開発をして、現場に最適に配置すること。それが人事の仕事の基本にあるのは、変わらない。ただし変化したのは、それを行うために「経営戦略の理解」が欠かせなくなったことだろう。
「少なくとも2000年ころまでは、むしろ人事が経営に口出しするなんてありえない空気だった」と日本ハムで30年以上人事に携わる同社人事部長の伊瀬知明生氏(OPINION5)が回顧するとおり、以前は経営と人事は切り離された存在だった。だが、これだけ変化が激しく、従来のような雇用慣行や一律の施策で会社が成長を続けることが難しい現在は、「経営戦略を達成するために人的資源を確保する」という戦略人事が欠かせない。役割・ミッションの明確化や適所適材を進めるためにも、事業や経営戦略について理解している必要がある、と学習院大学教授の守島基博氏(OPINION1)は話している。
ただし、経営目線と両輪で意識しなければならないことがある。それが「働く人の心」だと、守島氏は力を込める。働き方も労働への価値観も多様化しているなかで、従業員の心という変数をいかに扱い、人的資源の価値を高めていくか。経営だけでもダメ、人の心だけでもダメ。簡単なことではないが、この両輪を捉え、人事の仕事に従事することが、いま、求められている。