ASTD2003 国際カンファレンス& エキスポを総括して

近年の政治、経済、社会変化の影響を受けて、HRD活動はどのように変化していくのか。成果、パフォーマンスがますます問われるようになった昨今、研修・教育のあり方も変化を強いられる。まずは基調講演や数多くのセッションのなかで浮き彫りにされた潮流を、総合的に見ていきたい。
3 回の基調講演と300の分科会

世界71 力国から企業や団体の教育担当者、トレーナー、コンサルタント、大学関係者を集め、ASTD (AmericanSociety for Training and Development :全米人材開発協会)国際カンファレンス&エキスポが5 月18 日から22 日までカリフォルニア州サンディエゴで開催された。
今年は3 回の基調講演とともに約300 の分科会が行われ、エキスポ会場には300 社を超えるベンダー企業が出展。参加者の興味の高い10 テーマ、「キャリア」「e-ラーニング」「リーダーシップ・マネジメント開発」「ビジネス戦略としての学習」「測定と評価」「イノベーション」「組織変化」「パフォーマンス・コンサルティング」「パーソナル面と仕事面の効果性」「研修の基本」を中心に討議が繰り返された。また、最近の潮流を意識し、「CLO の観点」「コーチング」「連邦政府のHRD」「財務」といっかセッションも別途運営され、より深く専門テーマを追求できるよう配慮されている。
さらには、参加者同士のネットワークづくりのために、各種イベントやパーティー、興味あるテーマごとにいつでも自由討論ができるサロンを設けるなど趣向を凝らした内容も提供された。
しかし予想通り、政治や経済環境。SARS の影響から例年に比べて数千人規模で参加者が激減。各分科会会場は広く感じられ、いつもは盛況を極めるエキスポ会場も残念ながら閑散とした状態となり、集客に対して失望ぎみのコメントをする出展企業も少なくない。
アメリカの背景
2000 年のIT バブルの終焉から3年。その間、同時テロ事件や炭疽菌テロ、大手企業の経営者による不正事件の続出、イラク攻撃、SARS と、予想もつかない事件が起こり続けた。
経済は低迷し、倒産件数は上昇、リストラ、コスト削減、トップ交代劇と、企業全体に暗い影を落としている。一時は3.8% という低水準となった失業率も2003 年5月には6.1% に上昇。引く手あまたと言われたMBA取得者でさえも就職難といったニュースは、卒業シーズン以降後を絶たない。
米経済は必ず上昇すると楽観的に考えていた米企業や社員にも不確実な時代の到来を体感させ、研修業界もコストや研修スタッフの削減など厳しい状況は続いている。
変化し続けるASTDカンファレンス

「パフォーマンス、リザルト」「戦略と直結」、ここ数年、この言葉を何度聞いたかわからない。しかし、2年ぶりに参加したASTDにおいて、HRD担当者が語る言葉のニュアンス、文脈は変わっていた。
枕詞のような言葉は、着実に組織内の行動に現れていることが見えてくるのである。 HRD 担当者のみならず、経営陣や事業部門の管理者たちの能力開発に対する意識や位置づけも大きく変わった。
「すべての施策は成果を得る必要があります」。 ASTD 会長、ティナ・サン氏が強調するようにAE D も市場の変化に敏感に反応し続け、「Get Inspired、Get Connected、Get Results ( インスピレーションを得よう、ネットワークをつくろう、成果を得よう)」という今年のスローガン通り、「研修」だけから「研修とパフォーマンス」のカンファレンスへと姿を変えたのである。
実践的な事例を重視し、パネル討議の数や討論の場は増えた。参加者側も与えられる情報をそのまま持ち帰るのではなく、討議の副産物として生まれるアイデアを得ようと、主体性を持ち行動していたのである。
ASTD会長ティナ・サン氏のオープニングスピーチ
