連載 変革のプロセスをデザインする 【第8回】最終回 プロセス学習を通した組織風土・体質の変革
この連載では、組織の変革を進めるために、人事・企画部門がチェンジエージェントとしてどのような役割を果たしていけばいいか、参謀機能・世話人機能・スポンサー機能という求められる3 つの機能を取り上げ、さらにチェンジエージェントの懐刀となる「道具」の使い方について考えてきた。連載の最後に、改めて、組織の風土・体質を変えることの意味とプロセスデザインについて総括し、今日の組織における、チェンジエージェント機能の重要性を確認していく。
前回のサマリー
これまで組織の風土・体質を変革するうえで、人事・企画部門に求められるチェンジエージェントとしての機能について説明してきました。そして前回は、その機能を発揮するために、人事・企画部門が手元に持っている既存の経営ツール(道具)をどのように使いこなし、変革のプロセスをつくっていくことができるのかについて述べました。
今回の内容
今回は、人事・企画部門がチェンジエージェントとして自ら変革のプロセスをデザイン、実行していくためのプロセス(Process for Change Process)を総括し、企業変革におけるプロセスデザインの方法論に関する今後の課題について考えていきたいと思います。
組織の風土・体質変革の意味
1)日本企業の組織風土の強みは何だったのか
いままで述べてきたことを振り返って、もう一度、なぜ組織の風土・体質変革が必要なのかということに触れておきたいと思います。
特にここ数年の急激な経営環境の変化は企業に待ったなしの変革を迫り、かつては強みだった日本的経営システムの特徴も消失しつつあります。リーンな経営体質を目指して行われてきた人を含めたリストラは、組織のぜい肉だけでなく、筋肉までも殺ぎ落とし、その結果、日本企業の強みの源泉であった「人と人との関係性」を大きく変えることになったのです。
日本企業の組織風土・体質の強み、すなわち基礎体力といえるものは、濃密な人間関係に裏打ちされた社員同士の仲間意識と組織に対する忠誠心だったと考えられます。個人主義の欧米型企業の強みが、個々の個性と能力で発揮される「独創力」だったのに対レ[1本企業の競争力は人と人とが協力し合って成果を生み出す「協創力」といえるものでした。しかし、リストラに加えてさらに行き過ぎた成果主義の流れは、この日本企業の本来持っていた「強み」を決定的に解体しようとしています。
2)人の成長を通して無形の資産価値を高める風土
世界的なデフレ経済の下、従来の土地や設備を担保とした経営は成り立だなくなりました。有形資産に代わって、新たなビジネスモデルやブランド、ノウハウといった知的資本、つまり人の知恵や大が生み出すサービスなどの無形の資産価値にシフトしていく流れは、組織と大との関係をいま一度見直してくことの必要を迫っています。無形の資産価値を高めていくのは人の知恵であり、知恵を生み続ける土壌となる組織風土を豊かにしていくことがますます重要になってきています。
さらに、個人や人と人との相互接触を通して知識が生み出されていくような状況下では、制度や組織体制・構造の工夫よりも、一人ひとりが変化のための活動やネットワークづくりに取り組むための環境整備や対人スキルが重要になってきているのです。
そのためには、風土を変えるというよりも、いかにして望ましい風土をつくっていくか、または望ましい風土になるような支援ができるか、ということを考える必要があります。
3)チェンジリーダーが組織のキーポジションにつく
『トヨタ式最強の経営』の共著者であるスコラ・コンサルト
パートナーの金田秀治さんは、7月に出版される『超トヨタ式チェンジリーダー一変わり続ける最強の経営』のなかで、トヨタ生産方式のキーワードは「徹底的に」ムダを排除するための「仕組み戦略」であり、その核心は「人づくり」であると述べています。ここでいう「人」とは、変わり続ける企業風土を保持する「変革の担い手」であり、あらゆる部門の統括管理者がチェンジリーダーの役割を果たしていく姿を指しています。金田さんは、国内外の企業でトヨ夕生産方式の導入を入口とした仕組み戦略に取り組んだ経験から、どんな手法を導入しても、部門の統括責任者にチェンジリーダー的な人材がいなければ「仕組み」が機能しないのだと強調しています。
部門責任者を変革リーダーに育てるのか、変革リーダーを部門責任者として配置するのか。人選の余裕があまりない場合や、人事権を持つ管掌役員が年功序列を意識した適用を行うような人であれば、変革リーダーが部門責任者になるかどうかは運任せということにもなりかねません。
チェンジエージェントとしての人事・企画部門は、各部門に果たしてそのような人材が配置され、機能しているかどうか、または、変革リーダーの能力開発と行動のための環境づくりのための支援を行っているかどうかを再確認する必要があります。