連載 調査データファイル 雇用・人事システムの構造改革 第33回 長時間労働問題を考える④
労働者に労働時間の管理をゆだねる裁量労働制は、裁量度の高い仕事をする労働者に対し有効的である。厚生労働省の調査でも、裁量労働制の導入によって仕事の効率向上に役立っているのがわかる。だが、なかには、逆に労働時間が長くなったという実態も明らかになっており、必ずしも好結果を生んでいるとはいえない。導入状況についても、現時点ではそれほど進んでいない。
1. 労働時間と成果が連動しない仕事
柔軟な労働時間管理の手法として、フレックスタイム制や変形労働時間制があるが、これらはいずれも、労働時間そのものを企業が管理していることに違いはない。これに対して、裁量労働制は、労働時間そのものの管理をやめ、慟く時間を労働者の裁量にゆだねるというものである。労働時間と仕事の成果が必ずしも連動しない裁量度の高い仕事に関しては、裁量労働制は有効である。
例えば、製品開発と距離のある基礎・応用研究に従事する技術者は、会社で一定の労働時間を費やしたからといって、それに比例して研究のアイデアが浮かぶわけではなく、ブレークスルーを実現する発見や発明をするわけでもない。職場がうるさくて集中できないので、早めに帰宅して家で専門書を読んでいる時に、突然アイデアが浮かび、次の日から夜中まで会社で実験をするといった働き方もある。
大手企業の中央研究所で実際にあった話であるが、20 歳代後半の技術者2人の勤務態度が全く異なっていた。
1大は上日も研究所にやって来て実験をするタイプであるのに対して、他方は夕方5時になるとさっさと帰ってしまい、休日出勤は皆無という勤務態度である。
前者の長時間勤務タイプの技術者は、土日の残業代が膨れ上がり、年収が1,000万円を超えてしまったため、大事部が仕事の成果に対する評価を行うことになった。技術評価委員会に提出された2人の評価は、それほど大きな違いはなく、ほぼ同等という結果であった。
ところが、上司の人事評価はかなり異なっており、長時間勤務タイプの技術者の方が、定時出勤・退社タイプの技術者よりも2ランク上に評価されていたのである。明らかに長時間勤務が仕事の熱心さに置き換えられた態度評価の結果である。この企業では、裁量労働制が法律で認められると、直ちに中央研究所の技術者全員に裁量労働制を適用している。
筆者が企業調査をした経験によれば、当時、中央研究所が工場と同じ敷地内に立地しているところでは、裁量労働制の導入を見送ったところがあった。裁量労働制とは無縁のライン作業に従事する多数の現場作業者が定時出勤してくるところで、研究所の技術者が三々五々出勤してくる光景が、現場作業者に悪影響を及ぼすことを恐れたからである。