CASE2 リクルート 「リーダーシップ・ジャーニー」で、 「DO」から「BE」の リーダーシップを実現

リクルートでは、人材が結集した「組織」としての力を高く維持するために、さまざまなチャレンジを行っている。「リーダーシップ・ジャーニー」と言われる次世代リーダーの開発を目指す研修もその一つ。長期間にわたる体験的・内省的なリーダーシッププログラムを行い、通常の現場の仕事・ミッション(リアルワーク)と連動させていくもので、現場を巻き込みながら変革を主導し、学習する組織をつくっていくのが特徴だ。
「組織力」を向上させなくては生き残れない
高度成長期には強烈な指揮官の下、優秀な兵隊がいるという単一な組織が一般的だった。しかし現在は雇用形態が多様化し、社内外のさまざまな人たちとコラボレーションし価値を創造していくことが“常”となってきている。異質なものを取り込み、その組み合わせのなかで成果を出していかないと次の成長段階へと進めないのだ。リクルートも、その例外ではない。こうした状況下で、組織力を上げていくためには次世代リーダーをどう育成していけばいいのだろうか。
「これからの組織リーダーとは、多様なマネジメントを実践でき、未来をつくり出していける人です。しかし、MBA など一部の人たちだけを集めて知識を提供する選抜プログラムで、果たしてこれからの組織を動かせるリーダーは育つのでしょうか。そんなことを考えていた時に、システムシンキングの存在を知り、まさにこれからの組織力向上に非常に適した技法であると認識しました」と語るのは同社人材マネジメント室・由佐美加子氏である。
そして2003年に「リーダーシップ・ジャーニー」という次世代リーダーを育成するプログラムを開発していった。何よりも共通のベースとして、「システムシンキング」を会社のなかに取り入れたいという強い思いがあった。これまでのような直線的な思考方法だけでは、抜本的に課題の本質や因果関係などを構造的に捉える力が育たないと思ったからである。
「ロジカルシンキング」から「システムシンキング」へ
「そもそも人には、過去に経験したパターンを繰り返していく傾向があります。しかし、過去の成功体験が通用しない時代では、ロジカルシンキングだけでは必ずしも有効ではありません。いかにロジカルにツリーを描いても、課題を引き起こしている環境の構造が非常に複雑で、重層的な現代社会では、限界があるように思います。このような状況下では、システムシンキングが有効だと考えました」(由佐氏)
システムシンキングとは、組織を生きたシステムとして扱い、従来の分析的思考法だけでは解決できなかったさまざまな要素が複雑に関連し合っている問題の解決策を見いだすための技法である。ただ、それを教科書通りに進めるのは現実的ではないので、実際の場面で使える形に仕立て直していった。
「構造的に因果関係を捉えて、物事を見る時にシステム的に捉える思考法が大切であることを知ってもらうことに重点を置いたのです。システム思考ができることをゴールとして研修プログラムを仕立て、全管理職を対象に導入していきました」(由佐氏)
そして、それをベースにした検討会などを設け、システムシンキングを社内の「共通言語」として活用できるように浸透させている。
「リーダーシップ・ジャーニー」の概要
全社の選抜プログラムである「リーダーシップ・ジャーニー」では、まず2泊3日の「ワークショップ」を2回実施した後、職場に戻ってからまた研修の場に集合するという「アクションラーニング」を6回行っていく。研修を「リアルワーク」と切り離してしまっては、研修の場で完結してしまい、組織としての力が上がらない。そのため、アクションラーニングのウエートを高め、参加者が集まるワークショップの位置づけは、「プラン(設計)」と「リフレクション(振り返り)」「リプラン(再設計)」に強化した(図表1)。
リーダーシップ・ジャーニーの基本テーマとしては、まず「DO」から「BE」へのリーダーシップへの転換がある。「DO」すなわち指令・命令で人を動かすのではなく、自らがリーダーとして「どう生きるか」「どうありたいか」という「BE」を探求し、それを実際のリアルワークのなかで体現し続けながら、自己変容を図り、かかわり合う人々とつながり、組織のイノベーションを促進し、マーケットイノベーションを創発させるということを狙いとしている。
そして、メンバーや上司など実際のリアルワークでかかわる人々と協働するプロセスを追って行くアクションラーニング。これが2本柱となっている。