講演録学習する組織コンファレンス2005 個人と組織の力を高める ポジティブ・アプローチの理念と 海外の先進事例を紹介
去る11 月1 日、「学習する組織コンファレンス2005」(ヒューマンバリュー、ウィル・シード共催)が六本木ヒルズで開催された。テーマは「未来に向けて1 人ひとりが主人公~ポジティブ・アプローチによるファシリテーションが個人と組織の力を高める」。海外からゲストスピーカーを迎え、「組織の力を最大化する海外最新の組織変革手法」を紹介しようというもの。「AI」の提唱者であるダイアナ・ホイットニー氏ならびに「OST」の発案者であるハリソン・オーエン氏の基調講演、さらにカリン・ヴァンストーン氏による「AI」と「OST」を活用したコンサルティングの成功事例の報告を中心にレポートする。
「学習する組織」をテーマにした国内では初のコンファレンス
「学習する組織」をテーマに国内外の実践者が意見を発表し合い、参加者相互の交流を行う大々的なイベントは、国内ではこれが初めてという。
今回のコンファレンスの最大の特色は、「組織の力を最大化する海外最新の組織変革手法」の成功事例の紹介であった。「AI」あるいは「OST」といった組織変革手法の提唱者自らが理念を語り、現場での活用事例に触れた。「学習する組織」の考え方を導入した後の到達点についての具体的なイメージを、参加者が共有することができたのではないだろうか。会場には人材開発、組織改革、経営企画などを担当するファシリテーターやコーチ、マネジャーやリーダーを中心に約300 人が集まった。
開会にあたり、今回のコンファレンスを共催するウィル・シード代表取締役・船橋力氏ならびにヒューマンバリュー代表取締役・高間邦男氏より挨拶があった。今回のコンファレンスのねらいについて、高間氏は次のように語った。
「学習する組織という考え方は、シンプルな原則で、組織内のメンバーと新しい未来を形成していくものです。しかし現在の日本では、その重要性を意識しつつも、どのように学習する組織をつくっていけばよいのかわからない方が多いのではないかと思います。今回のコンファレンスでは、欧米で高い成果を上げている最先端の方法論を紹介したいと思います。そして、そのテクニックを習得するのではなく、その背景にある理念や思想を理解していただける機会になればと思います」
AIは組織や人が最良の状態のときに着目する
続いてAI(アプリシエィティブ・インクワイアリー)の提唱者の1 人であるダイアナ・ホイットニー氏が「ポジティブ・チェンジを引き起こすAI のパワー」というテーマで基調講演を行った。ホイットニー氏は、ポジティブ・チェンジ代表取締役兼セイブルック大学院でのコンサルテーション・ファカルティ。AI を使ったコンサルタントとして、会社のカルチャー変革、戦略プランニング、大規模組織改革、吸収合併などを手がけてきた。
冒頭でホイットニー氏は、AI とは「人や組織が最良の状態であるとき、何が組織に活力を与えているかについての研究」であると定義づけた。辞書で“appreciate”の意味を調べると「~の真価を認める」とある。つまり、「人や社会に内在する最高の資質を見出す行為」であり、「過去や現在の強み、成功体験、可能性を肯定すること」さらには「健全性や生きる力や卓越性といった活力を与えているものを認識すること」であるという。そして“inquire”には「探求する、発見する」さらには「質問をする」という意味がある。
AI の背景にある理念や思想について、今回、ホイットニー氏は3つのポイントに絞って論を進めていった。第1 は「ポジティブ・チェンジ」という考え方である。AI においては、従来型の問題解決法――組織の問題点や欠陥、あるべき姿とのギャップを見る方法とは全く異なり、組織が最高の状態にあるときの強みが何であるのかを見るものである。
第2は世界的なポジティブ・レボリューションの潮流とAI の関連性である。現在、心理学の分野ではポジティブ・サイコロジーというものが脚光を浴びており、これは、人間の性質について研究を行うときに、人々が病気やノイローゼのときではなく、幸せで健康で、楽観的な状態のときにこそ多くを学ぶことができるという考え方をとる。また、ポジティブ・シオロジー(神学)という考え方もあり、さらには年を取ることについてポジティブな意義を見出していこうという動きも出てきているという。
第3はAI が組織変革にどのように寄与するかという具体的な事例である。