組織文化変革のキーワード―① ポジティブ・チェンジを創出する AI 組織開発

AI は、欠点やマイナスを是正しようとする問題解決(ギャップアプローチ)に対し、個人や組織の「強み」に注目し、対話(ダイアローグ)を通じて、「本来の可能性」や「活力」を引き出す組織開発の手法である。AI では、組織のありたい未来像や一人ひとりの想いを共有し、変革の担い手は自分たち自身であるという気づきを与え、現場主導で変革の気運を高めていく。組織活性化のみならず、定量面における具体的な成果を上げる変革手法である。
問題解決の連続で疲弊する現場
「どうにか会社を変えたい!」と意気込んで、チェンジエージェントが風土改革に取り組む。問題を掘り起こそうとすると、芋づる式に新たな問題が発見される。一所懸命に問題解決に取り組んでも、なかなか目に見える成果が現れない。気がつけば、問題解決の「もぐら叩き」がいつ果てるともなく続き、現場には閉塞感が漂ってくる。
例えば、従業員意識調査(ES 調査)を実施した結果、平均よりも下回った部署があったとする。「働きやすい職場づくりを目指そう!」とスローガンを掲げて人事担当者が職場の風土改革に取り組んで行く。そこで問題を特定すべくさらに現場の声を拾ってみると「まったく最近の若者は、無表情で何を考えているかわからない…」、「定年までの残りを指折り数える年配社員の動機づけに苦労している」などと、次から次へと新たな問題が発見され始める。
そして、担当者たちはその一つひとつの問題に対し、改善を積み重ねるが、一向に落ち着く手応えが得られない。不平不満や問題意識の声が聞こえてくれば、まだ手の施しようがある。だが、問題解決を繰り返すなかで不満の声は徐々に小さくなっていき、いつしか「はい、わかりました…」、「いえ別に…」と組織への諦めとも受け取れる言動が見え隠れするようになる。
こうして問題群は何年間にもわたって放置されることになり、組織の文化の一部として根を深く張っていく。誰もが会社が変わることを願い、問題解決に取り組むにもかかわらず、満足のいく変化を実感できないのである。どうしたら、この状態を打破することができるのか。
発想の大転換
従来の「ギャップアプローチ」といわれる変革手法は、「何が問題か?」という欠陥追求と、それに基づく是正活動に多くの時間とエネルギーを費やしてきた。QC、TQM に代表される小集団活動は、製造現場の効率化を進めるうえで必要なアプローチであり、機械やシステムに対しては、欠かすことのできない有効な手法である(図表:左参照)。しかしながら、組織の文化や風土変革において、同じアプローチを人に当てはめようとすると、うまく機能しない場合がある。
一般に、組織内における問題を列挙した後、緊急かつ重要なテーマから解決が図られ、複数の研修や勉強会を開催し、この「欠け=ギャップ」を補填する対策が講じられる。しかし、時間が経過すると、下火になっていた他の問題群があちこちでかたちを変えてくすぶり始め、新たな問題として顕在化し始める。
さまざまな要素が相互に影響し合う組織において、問題は無限に発生し続けるため、部分最適を目指すその解決自体が意味をなさなくなってしまうこともある。こうした凹みを埋めるアプローチは、マイナスからゼロを目指すに過ぎず、プラスをつくっていくことができない。
つまり、個々の傷口をふさぐ対症療法は、次々と発生する問題をすべて解決することはできず、たとえ解決できたとしてもプラスになることはない。それが「いくら努力しても会社がよくなっている気がしない」という率直な従業員の感想と繋がるのである。