読者提言 論壇 効果的なコンプライアンスプランニングのために ペルソナを活用した社員中心主義デザイン
「ペルソナ」とは、実在する複数の人々の具体的なデータをもとに作り上げられた架空の人物像。
商品企画やマーケティングの世界では、ターゲットとなる象徴的な顧客モデルをつくることに使われています。
これを人事・人材部門に応用すれば、より的確で効果的な人事施策をつくることも可能になるはず。
本稿では、昨今何かと話題のコンプライアンスの浸透を例に取り、ペルソナの有用性について紹介します。
対象となる人物像を浮き彫りにするペルソナ
「ペルソナ」とは、実在する人々についての明確で具体的なデータをもとに作り上げられた架空の人物のことです。アメリカの著名なソフトウェア・デザイナーであるアラン・クーパーの著書『コンピュータは、むずかしすぎて使えない!』(翔泳社)で詳しく紹介され、一躍注目が集まりました。
原書は米国で1998年に出版されましたが、クーパー自身は1990年頃からペルソナのような手法を自身のコンサルティングの中で活用していたとのこと。学問体系から考え出された、というよりは、実践を通じて磨かれてきた方法論といえます* 1。現在では、Webサイトなどのインタラクションデザイン、さらには商品企画やマーケティングなどの領域でも活用されています。
たとえば製品やサービスを設計する際、「開発者の論理」のみで進めると、技術で実現できる機能を積み上げてしまい、高機能であってもユーザーにとって非常に使いづらいものになる場合が少なくありません。そうした落とし穴に陥らないようにするためには、その製品・サービスを使うであろうユーザー像を具体的に把握しておく必要があります。潜在的なユーザーを「ペルソナ」(「仮面」の意)として具体的にキャラクタライズし、そのユーザーが製品とどのように出会い、どのように使って、何を達成するのかを記述したシナリオをあらかじめ作成することで、ニーズに即した開発を行うことができるわけです。これがペルソナ法です。
この考え方は、人材開発をはじめとする会社の制度や仕組み・ルールを社員にとって使いやすくしたい、と考える際にも同様に活用できます。ペルソナによって、どんな社員が、どんなシーンにおいて、どのようなシナリオで振る舞い、どんなことに困っているのかを理解し、対象となる社員像をハッキリさせることで、有効な改善策をプランニングできるようになるわけです。ペルソナは、人事施策においても強力なツールになるはずです。
それではペルソナには、どのような特徴や長所があるのか、以下で具体的にみていきましょう。
① ペルソナは架空の人物であっても典型像ですから、背後にはたくさんの実際の社員がいます。きちんと議論を尽くして作成すれば、「当社の社員らしい」「ウチの社員はいつもこうだよ」などという時に、暗黙のうちに共通に理解されているような人材像が、具体的に立ち上がってくるはずです。
② ペルソナは架空ながらも人物像ですから、共感しやすく、想像力が働きやすく、また人事組織のプランニングチーム内の共通理解もシンプルになり、結果としてブレのない、より良い意思決定ができることになります。
③ ペルソナは、単なる職務記述書でも、単なるインタビュー結果でもありません。それらを統合し、職務と人との関係を統合的に理解するためのツールなのです。「経験」や「場面」をパッケージにする道具ともいえるでしょう。シナリオとして記述することで、組織内のさまざまな要因が盛り込まれるため、ペルソナ法を用いて見えてくる問題点とそのソリューションは、業務改善であったり、人材開発であったりと、さまざまなケースが生じてきますが、その目指すところは、人と組織の活性化ということになります。
コンプライアンス浸透を目標としたペルソナの構築手順
ペルソナを構築する方法・手順は次のようなものです。ここでは、社内のコンプライアンスをより改善し、浸透させることを意図したペルソナ設計を例に取ります。ただし、会社によって、問題に応じた必要十分な手順を取ればよいのであって、これが唯一のマニュアルであるということではありません。
1) リサーチ
まずはコモンセンス(常識)を働かせ、コンプライアンス上、対策の重要性が高いと考えられる社員のカテゴリを設定します。すでに社員意識調査などを実施したデータがあれば参考にします。たとえば、次のような基準を念頭に置くことができるでしょう。
A. コンプライアンス遵守のためのさらなる支援が必要があると判断される「役割」を持つカテゴリの社員
たとえば、技術情報漏洩防止の観点では、会社の技術情報は「顧客やビジネスパートナーとの接点を束ねるような役割を担う課長クラスの人材」に集中しているといわれています。他方でこれらミドルは、しばしば多忙を極めており、悪気がなくても、コンプライアンス手続き等に手が回らないことがあります。このような社員層に手を打つことには、高い緊急性があると判断されます。
B. コンプライアンス遵守のためのさらなる支援が必要であると判断される「目的」を持つカテゴリの社員
たとえば、人材採用、営業新規開拓や事業開発等の担当者が持ち帰る新たな個人情報や営業秘密は、漏れなく遅滞なく、社内のコンプライアンス・システムにスムーズに入力され、管理される必要があります。
C. その他必要性の高いカテゴリの社員
たとえば、コールセンターで働く社員は、個人情報に触れることが多いですが、契約社員等の非正社員も多く、意識づけが難しいカテゴリといえます。