TOPIC 中国・東南アジアHRD 事情
労働・生産コストの低さにより世界の企業がこぞって進出する舞台、中国・東南アジア地域。現在この地域でも、優秀人材の獲得競争が日々行われ、人材定着への対策が叫ばれているという。「有望視していたのに辞められてしまった!」という事態を防ぐために、企業は何をすればいいのか。人材育成コンサルタントを行うサイコム・インターナショナル、シンガポール支部のサンディ齊藤氏に、中国・東南アジアのHRD について、その現状と課題、対応策について寄稿いただいた。
日系企業の人事担当者が頭を抱える季節
毎年、年末年始から春節(旧正月)の時期が近づいてくると、中国・東南アジアに拠点を持つ日系企業の日本人上司は、頭の痛い思いをすると聞く。なぜかといえば、中国・東南アジア*1では、年末年始から春節にかけてボーナスを支給する会社が多く、ボーナスを支給したとたんに退職願が出てくる、ということが毎年多く起こるからである。
表面上はボーナス額が低いことが原因に見えるが、実は違う。ここにMichael Page International 社が作成した興味深いデータがある(対象:雇用主3300 人と従業員2100 人)。データ自体はオーストラリアのものだが、東南アジアに拠点を持つ日系企業には、東南アジアとともにオーストラリアとニュージーランドを「豪亜地区」として含んでいる会社が多いので、大いに参考になる資料として紹介したい。
図表1は「次の12カ月で会社は人材のリテンション(定着)戦略として何をするべきか」を従業員と雇用主にアンケートしたものだ。21%の人が「トレーニングと人材開発」、続いて20%の人が「昇格」を挙げている。
図表2の「前職を辞めた一番大きな理由は何か」という質問には、約半数の人が「キャリアにおける向上・出世のため」、つまり、もっと難易度の高い職務とポジションを任され、それを遂行できる環境が与えられたから前職を辞めた、と答えている。一方、「賃金(Money)」という理由は、実はなんと10%にも満たない。これは、多くの経営者にとって驚くべき事実だろう。
人が辞める本当の理由と「器のストレッチ」
上記に関連する話だが、東南アジア各地の人材派遣会社の方から面白い話を聞いた。人材派遣会社に登録に来る人たちは、退職を決めた本当の理由として、以下を挙げることが多いという。
・今の会社にはもう学ぶものがなくなった
・今の会社に大きな不満があるわけではないが、つまらない
・今の会社は、誰も何も教えてくれず、ほったらかし……など