My Opinion ―③ 効果的なキャリアカウンセリングが メンタル不全を予防する
キャリア問題はメンタル的な要素を多分に含んでいる。
自らの将来を考える時、理想と現実という問題に直面するからである。
キャリアカウンセリングを行う際には、相談者の置かれている現状と心理状態を的確に把握し、本人に気づきを促すとともに、効果的なアドバイスや情報提供が必要になるという。
法政大学教授であり、臨床心理士でもある宮城まり子氏にキャリアカウンセリングの現状について寄稿いただいた。
育てる・開発的なカウンセリング
カウンセリングはその機能によって大きく3つに分かれる。「治すカウンセリング」「予防するカウンセリング」、そして「育てる、開発するカウンセリング」である。キャリアカウンセリングは、3つめの人を育て、本来持つ能力をさらに開発するためのカウンセリングに分類される。
一般的に「カウンセリング」は、とかくネガティブに捉えられがちであり、カウンセリングを受けることは避けたいと考える人も多いが、キャリアカウンセリングは未来型のポジティブなカウンセリングである。
すなわち、キャリア相談に応じる中で、個人のキャリア開発・キャリア形成を支援し、さらに人を動機付けるための育成・開発型カウンセリングであるからである。
キャリアカウンセリングとは何か
NCDA(全米キャリア開発協会)は1999年、キャリアカウンセリングを次のように定義している。
「個人がキャリアに関して持つ問題や葛藤の解決とともに、ライフキャリア上の役割と責任の明確化、キャリア計画、意思決定、その他のキャリア開発行動に関する問題解決を個人またはグループカウンセリングによって支援することである」
また、キャリアカウンセラーの定義は次の通りである。
「キャリアの方向付け、キャリア選択、その決定を援助し、職業人の生涯にわたるキャリア計画や転退職に伴う職業的適応問題を助け、さらに職業以外の役割行動との調和、生涯学習や余暇活動などを含む全人的な役割を統合し、真に有意義な人生を送れるようなライフキャリア全体にわたる援助活動を行う活動の専門家である」(日本キャリア教育学会)。
現在日本では、厚生労働省の指導のもと、複数の民間団体においてキャリアカウンセラー(キャリアコンサルタント)の養成が行われている。その資格を国家資格化する方向で検討が進められており、今後、キャリア支援の専門家として地域、教育機関、組織などにおける活動が期待されている。
キャリア自立がもたらすカウンセリングニーズ
日本経済が低成長時代に入り、働く人は「自らの雇用は自分で守る」ことを要求される厳しい時代となった。そして、雇用されうるに値する価値ある人材となるために、主体的に能力開発を行って自らに付加価値をつけ、市場価値の高い人材となる努力をせざるを得なくなっている。厳しい経済環境の変化に伴い、会社からの「キャリア自立(自律)」が求められるようになってきたのである。
そんな状況下で、「自分の今後のキャリアをいかに設計、開発し、キャリアをどのように形成したらよいのか」に関する迷いや不安、葛藤などの「キャリアストレス」を抱える人たちが増加し続けている。その結果、特に初期キャリアの若者たちから、中期キャリア、後期キャリアの中高年層に至るまで、専門家(キャリアカウンセラー)に自分のキャリアデザイン、具体的なキャリア開発の仕方や今後のキャリアの方向性について、具体的に相談したい、助言・指導、情報を提供して欲しいと願う人たちが多くなってきている。
こうしたキャリア不安や葛藤を1人で抱え、問題を解決できず、キャリアストレスから次第にメンタル不全の症状を呈する場合や、または離職に至るケースなどもある。すなわち、キャリアカウンセリングはこうしたキャリアに関する多様な問題解決支援を具体的に行うものであり、厳しい経済環境に働く人々のキャリアニーズに対応するためのカウンセリングであると考えられている。
企業のキャリア支援カウンセラーの配置
こうした社員のキャリア問題の解決を支援しようと、企業の中に「キャリア相談室」を設けるところが増えている。人事部に所属するものもあれば、切り離して独立した機能を持つもの、また、労働組合の中に設置されている相談室もある。目的はただ1つ。「キャリアカウンセリングを通して、1人ひとりが自分の抱えるキャリア問題を解決し、キャリアストレスを軽減することによって、担当職務または仕事に対する動機付けと人材としての価値を高め、その人にふさわしいキャリア開発・形成を支援する」ことである。
この社内キャリア相談室を担うのは、社内での長いキャリアを有する社員である場合が多い。キャリアカウンセリングの勉強を行ってキャリアコンサルタントの資格を取得し、その後にキャリア相談を担当している。外部のEAP(従業員支援プログラム)のキャリア相談に委託する場合もあるが、やはり何と言っても、内部の事情をよく知る社内キャリアカウンセラーのほうが効果的であることは言うまでもない。
社員の多種多様なキャリア相談に対応するため、事務系、技術系など、社内でさまざまなキャリアを歩んできた社員が、キャリアカウンセラーとして各拠点で活動している企業もある。また、女性のキャリアカウンセラーも必要である。女性のキャリア形成過程で、出産、育児、介護などのイベントが発生した場合には、やはり同性のキャリアカウンセラーによる支援のほうがきめ細かく、適切な助言指導、情報提供を行うことが可能である。
相談内容によっては、相談者の了解を得たうえで、人事との連携、現場の上司などとの連携が必要になる場合もある。そんな時、キャリアカウンセラーは、組織ニーズと個人ニーズをできる限りすり合わせ、統合できるような支援を行うことが重要である。