OPINION3 理念を明確に、社内・外へ共有浸透させる 皆が幸せになるための “理念経営”実現のノウハウ
「経営の中心に明確な理念を置いている企業は、社員が生き生きと働き、
顧客や社会に支持され、永続的に発展成長していく力に溢れている」
こう語るのは、企業理念の共有浸透を専門とするコンサルタント、武田斉紀氏だ。
数多くの企業の理念浸透を支援してきた武田氏に、
そのメリットと、浸透を進めるうえでのポイントを聞いた。
理念経営の多くの利点
私は長年、企業の採用活動を支援する会社に勤めていたが、その中で、多くの経営者から、「社員に自分の考え方が伝わらない」という悩みを聞いた。経営者の思いを共有できる人が集まり、めざす目的に向かって一緒に頑張っていくことのできる会社は、幸せな会社だ。そんな会社づくりの支援をしたくて、理念浸透を専門とするコンサルティング会社を立ち上げた。
企業理念の本質は、目的と価値観。「何を大切にしながら、何をめざすのか」を明らかにしたものが、企業理念だ。
理念を定めることで、まず表れる効果は、経営者自身の考えが整理され、明確になることだろう(図1)。意思決定をする際の判断基準になるので、迷うことが減り、「すっきりした」と言う経営者が多い。「言葉に縛られて経営しづらくならないか」と危惧する人もいるが、心配はいらない。なぜなら、理念とは、経営者本人のやりたいことを言葉にしたものだからだ。
また、理念は、一度定めたら変えてはいけないというものではない。理念は会社の憲法のようなものなので、頻繁に変えるものではないが、経営者が代わった際には見直したほうがいいし、経営者が代わらなくても、経営において大事にするものが変われば、見直すべきだ。「クレド」(我が信条)を経営の根幹に据えていることで有名なジョンソン・エンド・ジョンソンも、これまでの歴史の中で2回改訂を行っている。変えるか変えないかは別にして、変更の必要がないかを見直す機会は、定期的に持ったほうがよい。
理念を定める2つめの効果は、社員が働きやすくなることだ。明文化しておけば、理念に共感した人が集まるし、その会社で働くうえでの共通ルールとなるので、フェアである。理想に向かって、一緒に頑張っていくこともできる。
また、理念で定めるのは、基本方針であり、「あれをしてはいけない」「これをしてはいけない」と行動を細かく規制するものではない。理念の下で社員たちに任せれば、現場の一人ひとりが自ら創意工夫し、自律的に、会社のめざす方向に沿った行動をとることが期待できる。
経営者の判断が一貫するので、管理職が指導で迷うこともない。部下に対してただ「もっと売れ」というのではなく、「売り方を考えろよ」などとつけ加えるだろう。
さらに、経営は山あり谷ありであり、良い時ばかりではない。待遇だけでつながっている会社では、経営が苦しくなると、社員はさっさと辞めていく。しかし、共にめざす理念があれば、苦しくても、会社を支え、頑張ろうとする。
ある会社は、組織が大きくなる過程で理念を定め、理念に共感した人だけを採用するようにした。数年後にその会社が上場した時、理念を定める前に入社した幹部たちは、株を売って次々に辞めていった。しかし、理念に共感して入社した若手社員たちは、「ぼくらは辞めませんから大丈夫です」と言って、会社を支えた。最近のベンチャー企業に理念を大事にする会社が多いのは、こうした効果を分かっているからだろう。