人材教育 The Movie ~映画でわかる世界と人~ 第59回 「モダン・タイムス」川西玲子氏 時事・映画評論家
「モダン・タイムス」
1936年 アメリカ 製作・監督・脚本:チャールズ・チャップリン
人生における仕事の意味、人間にとっての仕事の意味が、今ほど至るところで語られる時代はない。仕事が持つ比重が、かつてないほど強まっているのである。仕事は今、人間にとって生業以上の多様な意味を持つようになった。仕事は人格形成の手段であり、人間として必要な能力を磨く機会であり、人間として輝くための必須条件となっている。
その一方で、仕事が関係して起こる問題は後を絶たない。社会の変化が速く、時代についていくだけで大変だ。働く人には高い能力が求められるし、人間関係などで心身を病む人も多い。これからは、ロボットや人工知能とも競争しなければならない。
実は、こうした問題が起きるようになったのは社会がモダン・タイムス、つまり近代に入ってからなのである。産業革命が機械化と大量生産を可能にし、人々が自然から離れて会社で働くようになった時から、仕事をめぐる問題が生まれてきたのだ。だからこの問題を考える際には、歴史的視野と人文的素養が欠かせない。
私が若い時に最も影響を受けた本の一つに、バブル期に読んだ『「近代」の意味―制度としての学校・工場』(桜井哲夫著、NHKブックス)がある。自分がどういう時代に生きているかが分かって、まさに目から鱗が落ちたような思いだった。私にとって、その映画版とも言うべきものが『モダン・タイムス』だったのである。