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Learning Report from ATD(詳細版)

2018年07月02日

ATD-ICE2018から見るパラダイムシフトの方向性と、今日的テーマ①

嶋村伸明氏 ATD-IMNJ (インターナショナル・メンバー・ネットワーク・ジャパン)副代表/リクルートマネジメントソリューションズ 事業開発部 主任研究員

今回は、米国の人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の日本支部ATD-IMNJより、5月にカリフォルニアで行われたカンファレンス「ATD-ICE2018」より、新潮流をレポートします(『Learning Design』で連載中の『Learning Report from ATD』の詳細版です)。

創立75周年の記念大会

2018年国際大会(ATD-ICE2018)はATDの創立75周年の記念大会として、5月6日~9日にカリフォルニア州サンディエゴで開催されました。爽やかな海辺に面したコンベンションセンターには世界93カ国から約13,000人が参加。近年では最大規模の大会となりました。日本からの参加者は269名で、これも過去最多です。

基調講演者にバラク・オバマ前米国大統領を向かえ、会場中心にある明るく広いアトリウムには1943年から現在までのATDの軌跡をたどる展示ブースが設けられるなど、記念大会にふさわしい内容となりました。今回は主に基調講演の内容をレポートします。

基調講演1:オバマ前大統領の思慮深いメッセージ(5月7日)

毎年、様々な領域で活躍するリーダーが3名ほど登場する基調講演ですが、今年はなんといってもオバマ前大統領による講演が最も印象に残りました。当日は早朝から会場の回りに長蛇の列ができ、開場時間が繰り上げられるという前代未聞の事態も起こる中、オバマ氏が登場するや、会場はしばらくの間拍手と大歓声に包まれました。ATDプレジデントCEOのトニー・ビンガム氏とのインタビュー形式で行われましたが、ときにユーモアを交えながらも、自身の考えを率直に、かつ思慮深く言葉を選びながら話すオバマ氏の人間性に、会場中が引き込まれていきました。

自身の人生のストーリーを紐解きながらオバマ氏は、社会が教育に投資し続けること、大事なのは「何になりたいか」ではなく「何をしたいか」であり自分が情熱を感じられることを見つけること、透明性があり有効なデータがフィードバックされる環境をチームにつくり経験から学ぶこと、そして、バリューを実践し継承する重要性を語ったうえで、「一人ひとりが誰かの役に立つ責任を引き受けて1日1日をよりよい状態にすることで、世界は良くなっていく」とメッセージを送りました。一言ひと言から、オバマ氏の価値観と信条が感じられ、まさに「オーセンティック・リーダーシップ(真の自分らしさのリーダーシップ)」を体感した時間でした。

  • <オバマ氏の主なメッセージ>
  • ・「何になりたいか」ではなく「何をやりたいか」。自分が情熱を感じられることに集中しよう。
  • ・ほとんどのことは心を込めてやれば何とかなる。大切なのはチームとして、失敗も含め、経験から学ぶことだ。
  • ・意思決定において重要なのは、透明性があり有効なデータがフィードバックされる環境をつくることだ。
  • ・自分と異なる価値観の人に対して、対立ではなく、より良い変化のために責任を持ってYouではなくWeとして向き合わねばならない。
  • ・両親、祖父母から教えられたこと――「誠実であること」「役に立つこと」「責任を持つこと」といった価値観を持って物事に取り組む中で自分なりの基準ができ、それが問題解決や苦境を乗り越えるベースとなる。そうした受け継がれる価値観こそ大切だ。
  • ・変化はすぐに起きるものではない。状況をアセスメントしながら1日1日をより良い状態にして、新しいやり方に慣れていくことで起きるもの。すぐにパーフェクトにはならない。
基調講演2:強みのスペシャリスト、マーカス・バッキンガム氏(5月8日)

2人目の基調講演者は、「ストレングス・ファインダー」の開発者であり「強み革命」の主導者として著名なマーカス・バッキンガム氏です。彼の講演も素晴らしいものでした。近々上梓される研究成果『Nine lies about work(仕事に関する9つの嘘)』の内容を紹介しながら、弱みよりも強みを見つけてそれを伸ばすことの重要性を、リオネル・メッシ選手の「左足」を例に挙げながら情熱的に語りました。

  • <バッキンガム氏の主なメッセージ>
  • ・BADを研究しても、BADでなくなるだけだ。
    素晴らしいやり方にはパターンがある。失敗を学んでも分からない。
    メッシ選手のような、あなたの「左足」を見つけよう、そしてそれを賢く使おう。
  • ・それは、悪い点を無視するということではない。
    ネガティブ・フィードバックでストレスをかけ続けると、学べない状態になってしまうため、強いところにフォーカスすることでオキシトシンを出して、脳が学びに対して開かれる状態にするのだ。
  • ・強みは自然に自分の中にあるために気づきにくい。
    強みは既に自分の中にあるが、あまりにも自然に自分の中にあるために気づきにくい。強みが見えたら、見えたことを本人に伝えること、その反応によって才能が延びていく。素晴らしいやり方にはパターンがある。「パターン・ディベロップメント」をすることが必要だ。
  • ・仕事とLOVEを繋げていく
    人は、自分が好きなことを少しでも自分の仕事の中に織り込んでいけば、それが20%だったとしても、今とは別人のようになれる。一人ひとりが熱中できる活動(赤い糸)を見つける手助けをするのがL&D(Learning &Development部門)の役目だ。
基調講演3:爆笑の渦を起こしたコニー・ポデスタ氏(5月9日)

最後の基調講演を担ったのは、作家・教育者でありコメディエンヌのコニー・ポデスタ氏です。カウンセラーでもあるポデスタ氏は、心理学に基づいたユニークな人間分析を、パワーポイントなしの天性のトークで展開し、数千人の会場は終始爆笑に包まれました。大会のエンディングを飾るにふさわしい笑いと知性あふれる内容で、誰もが「来年も来よう!」と感じながら会場を後にしたのではないかと思います。

次回は、今大会で最も論じられた、テクノロジーがもたらす未来に向けた、人々の学習と成長の支援の在り方や、「リーダーシップ開発」「学習の科学」など、主だったテーマに関する潮流を解説します。

【ATDとは】

ATD(Association for Talent Development)は、1943年に設立された産業教育に関する世界最大の会員制組織。会員は世界中の企業、公共機関、教育機関で学習と開発に携わる人々で、その数は120カ国約4万人に及ぶ。学習と開発に関する国際的なネットワークを有し、調査研究、出版、教育、資格認定、およびカンファレンスを展開。年1回開催されるICE(International Conference and Exposition)は学習と開発に関する世界の潮流をつかむ機会でもある。

【日本支部よりお知らせ】

ATD-IMNJでは、今年も恒例の『JAPAN SUMMIT』を、ATD講演者を招いて12月に開催予定です。詳細は今後、日本支部ATD-IMNJのサイトhttp://www.astdjapan.com/等でお知らせします。

ARCHIVE
過去の連載記事

2019年05月21日

2018年のサミットを振り返る(後編)

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2019年02月14日

T&Dコンピテンシーと人材開発の新しい役割(後編)

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2019年01月31日

T&Dコンピテンシーと人材開発の新しい役割(前編)

この連載では米国の人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の日本支部ATD-IMNJより、人材開発の新潮流をレポートします。今回取り上げるのは、人材開発が持つべき専門性と新しい役割について。時代の変化にあわせ、アップデートすべきものとは。『Learning Design』で連載中の『Learning Report from ATD』第3回の詳細版をお送りします。

2019年01月17日

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この連載では米国の人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の日本支部ATD-IMNJより、人材開発の新潮流をレポートします。今回取り上げるのは、「Science of Learning(学習の科学)」。今年5月にカリフォルニアで行われたカンファレンス「ATD-ICE2018」でも注目されたテーマです。 (『Learning Design』で連載中の『Learning Report from ATD』の詳細版です)。

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米国の人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の日本支部ATD-IMNJより、5月にカリフォルニアで行われたカンファレンス「ATD-ICE2018」より、新潮流をレポートします(『Learning Design』で連載中の『Learning Report from ATD』の詳細版です)。前回記事では基調講演について解説しました(こちら)。

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