J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年05月号

人材教育最前線 プロフェッショナル編 人財の流動化が組織の垣根を越える イノベーション集団への変革のシナリオ

化学繊維やフィルム、医薬品、ITとさまざまな分野に事業を展開する帝人。メーカーからソリューション企業へと変貌を遂げる同社が今、力を入れているのが「イノベーションが生まれる組織づくり」だ。
「常に10個程度のイノベーションの芽を育て、そのうち5つほどが、規模は小さくとも事業化される状態が理想」と語るのは、人事・総務本部長の早川泰宏氏。そのためには事業の垣根を越えた融合と、自分で仕事を生み出せる人財が不可欠だという同氏に、その真意を聞いた。


帝人グループ執行役員
人事・総務本部長※
早川泰宏(Yasuhiro Hayakawa) 氏
1987年に帝人に入社。岩国工場、大阪本社にて購買・物流業務を担当。1995年インドネシア勤務、1999年中国新工場建設プロジェクト参画などを経て、2004 年帝人の購買・物流室長、2010 年帝人グループ執行役員に就任。2013年より人事・総務本部長。2017年4月より帝人グループ常務執行役員人事・総務管掌。
※2017年2月取材時点

会社紹介
帝人
1918年設立。レーヨン、ポリエステルなどの化学繊維、PETをはじめとするプラスチック類やフィルムの製造を通じて発展。その後ヘルスケア産業やIT分野にも進出し、メーカーからソリューション企業へと変革を遂げる。
資本金:708億1600万円(2016年3月31日現在)売上高:7907億円(2016年3月期)、従業員数:1万5756名(国内・海外合計、2016年3月31日現在)

取材・文/田邉泰子 写真/編集部

営業に憧れた購買・物流時代

帝人と聞いて、樹脂や繊維などの化学メーカーのイメージを浮かべる人は少なくない。しかし実際は、ヘルスケアやI T分野まで事業領域を広げ、近年では在宅医療や電子コミックの配信サービスなど幅広く手掛ける。まさに「だけじゃない」というコーポレートメッセージの通り、ソリューション企業としての地位を確立しつつある。

その帝人で、2013 年より人事部門のトップを務めるのが、人事・総務本部長の早川泰宏氏である。以前は購買・物流部門に長く籍を置き、人事や総務とは全く縁がなかったという。そのため、人事への異動は「晴天の霹靂だった」と当時を振り返る。だが、就任当初から余計な気負いや不安を感じることはなく、これまでとは違った形で事業部と関わることができると思うと胸が躍った。

「どんな仕事であっても、面白くなるかどうかは自分次第ではないかと思うのです」(早川氏、以下同)

どの事業でもどんな仕事でも、自分なりの付加価値をつけられるはず。そのような考え方は、早川氏のキャリアの中で培われたものだ。

もともと早川氏は入社当初、営業の仕事を希望していた。しかし、それは叶わず、素材の製造に必要な原料や資材を調達する部門へ配属された。

「最初の頃は戸惑いましたが、取引先との交渉など調達の仕事を覚えるにつれて、自分なりの工夫も取り入れられるようになりました。例えば、営業部隊がお客様に商談に行くところに同行して、調達の立場としてサポートすることで、自分が営業でやってみたかった仕事に近づくこともできました。このようにして仕事の幅を広げたり、新たな取り組みを行うことで“自分の仕事”が確立されていくことを実感しましたね」

インドネシアでの経験も、早川氏に大きな影響を与えている。37 歳の時、ポリエステル繊維事業の合弁会社に出向し、そこで購買・物流業務を担った。勝手を知る業務だが、1人で切り盛りするのは初めての経験だった。

「現地では、年間300 億円規模の原料調達を任されました。日本にいた頃は、せいぜい60 億円程度。しかし、任された調達金額は大きくても、インドネシアでは日本の本社と違って規模が小さい。ですから、自分の仕事がどの部署にどのような影響を与えるのかがよく分かる環境でした。判断ひとつで収益が大きく変わることもあり、とてもエキサイティングでしたね」

カルチャーの違いにも振り回された。工場で働く現地社員の、在庫に対する感覚が全く違っていたのだ。

「原料のストックがなくなってから報告するものですから、最初は驚きました。こうしたやり取りのギャップを解決するのにも時間が必要でした。こちら側の言い分を一方的に主張するのではなく、相手の考えに耳を傾ける必要があるということを学びました」

日本流のやり方に固執しているようでは、頭では理解できても相手を理解することは難しい。“時”と“場所”に応じたアレンジにより、仕事に自分なりの付加価値をつけていく――。早川氏がさまざまな経験を通じて見いだしたものは、「仕事の本質」と言ってもよいだろう。

成長・発展を加速する組織改革

同社は、2017 年2月に新たな中期経営計画を発表した。「未来の社会を支える会社」として、「社会の抱える問題の解決に貢献する」「外部環境の変化を先取りして変革し続ける」「常に新しい価値を創出し続ける」ことを同社のビジョンに掲げた。革新的な事業を創出することで、社会課題に貢献し続ける、つまりイノベーターとしての企業価値を明確に打ち出したのである。

実現には、組織体系も大きく影響する。機動力を備え、小回りのきく組織であるためには、人財の流動性がカギを握る。そこで同社では、より人が自由に部門間を行き来できる人事制度を設けることにした。特に重視するのは、40 代半ばのリーダー格となる人財の活用だ。

「リーダーとしてチームを束ねるこの世代に、頑張ってもらいたいと思っています。特にチームの2番手、3番手に当たる人財は、1番手の実力と遜色ないはず。ですから、新規事業などに配置転換させ、2番手、3番手をチームのリーダーに引き上げるなど、実力を発揮できる場を積極的につくっていきたいと思っています」

関係会社など、社外への出向も取り入れるほか、これまで52 歳で実施していたキャリア開発研修を、40 歳にも導入するという。また将来の幹部候補には、30 代半ばまでに海外での修羅場を、そして40 代前半のうちにプロジェクトマネジャーのような決裁権のある立場を経験してほしいと早川氏は考える。これも自身の経験によるところが大きい。

「大きな組織にいれば、確かに安心できるかもしれません。しかし、小さな組織に行かなければ見えないこともあります。特に経営者的な視点を養うには、一度会社の外に出て人を率いる経験をしたほうがいい。そのため、社員が活躍できる場を、社内外問わず広く探ろうと思っています。まずは今までと異なる環境でチャレンジし、自身にフィットすれば出向・転籍も可能、フィットしなければ戻ることも可能、というように、より適材適所を実現できる仕組みを、今後築いていきたいと思っています」

やってダメならやめればいい

同社では、今回の中期経営計画の発表よりも前に、部門の垣根を越えた柔軟な組織づくりに着手している。それが、2013 年から取り組む「OneTeijin」活動である。導入の背景には、持株会社制としたことによる“縦割りの弊害”があった。

「以前は、それぞれの事業部門が別会社となるので、自分の所属する事業以外の情報が入りにくい状態に陥っていました」

しかし、それでは複数の分野で事業を手掛ける強みを活かしきれない。特に近年は、初動の規模は小さくとも異分野とのコラボレーションがイノベーション創発のきっかけとなることが多い。

「そこで持株会社制を廃止して、組織再編に着手しました。とはいえ、構造を変えただけでは組織は活性化しません。何か、組織が一体化するような起爆剤が必要でした。そこで始めたのが『One Teijin Award』という表彰制度です」

これまでも、新事業開拓や新たなチャレンジに対する表彰制度は設けていたが、売り上げ増やコストダウンなど、一定の成果が出なければ対象とならなかった。

「新たな制度では、社内外問わず事業や機能を越えた優れたコラボレーションを表彰する“つながる”部門と、これまでにない新しい価値を創出する“生み出す”部門を設けて、まずは考え、チャレンジすることをきちんと評価するようにしました」

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