J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年01月号

経済学から見る未来  労働資源を大切に扱い “真のダイバーシティ”の実現へ

人口減少・少子高齢化が確実視される中、これからの企業はどうあるべきか。
慶應義塾大学の中島隆信教授が提言するのは、“真のダイバーシティ”の実現である。
そのヒントとなるのが、「比較優位」の考え方。
経済学的見地から見た、2030年に向けた見直しの方向性とは。


中島隆信(なかじま たかのぶ)氏 慶應義塾大学 商学部 教授
1960 年生まれ。1983 年慶應義塾大学卒、2001年同大学商学博士号取得。エール大学経済成長センター訪問研究員、内閣府大臣官房統計委員会担当室長等を経て2009 年より現職。主な著書に『障害者の経済学』『高校野球の経済学』(共に東洋経済新報社)、『こうして組織は腐敗する』(中公新書ラクレ)など。自ら脳性マヒを持つ子の親として、福祉関係者や家族だけの限られた世界で完結しがちな分野に経済学の視点から問題を捉え、社会への広がりをめざす。

[取材・文]=崎原 誠 [写真]=中山博敬

人口減少で厳しい業界

―経済学的観点から、2030 年の日本はどうなっているとお考えでしょうか。

中島

経済の状況は不確定要素が多く、予測が難しいのですが、その中で最も確実なのが人口の変化です。日本の、特に生産人口は、間違いなく減っていきます。少子高齢化が進み、最も人口ピラミッドが頭でっかちになるのは2060 年ごろ。2050 年ごろから坂道を転げ落ちるように人口減少・高齢化が加速しますので、2030 年はまだその手前の段階です。

とはいえ、現在と比べると、状況は相当悪化しています。働いて稼ぐ人よりその稼ぎに頼る人のほうが多くなる。今の生産性を維持する限り日本のGDPは減少していくので、今までのやり方では成り立ちません。

―早めに手を打つ必要がある。

中島

これから深刻になるのは、国内市場を対象とした産業です。サービス業、メディア、教育、医療、介護……。中でも特に問題なのが、医療や介護など、国の制度に依存していて、市場メカニズムが働きづらい業界です。医療は、高齢化の進展により、見かけ上のマーケットは拡大しますが、保険制度によって成り立っていますので、負担する人がどれだけいるかという問題があります。

そうした国の規制がある業界では、労働力不足の問題も生じます。

なお、経済学者は基本的には、「労働力不足は発生しない」と考えます。経済学的な市場メカニズムが働いてリソースが足りなくなれば価格が上がり、価格が上がれば、供給が増えると共に、リソースを使う側が大事に使おうとするからです。労働力の供給が減って相対的に需要超過になると、賃金が上がる。賃金が上がれば働こうとする人が増えると共に、企業が人件費を節約しようとして生産性を上げようというインセンティブが働くわけです。

ところが、規制のある業界では、報酬額が決まっていたりサービス価格が抑えられていたりするので、市場メカニズムが働きづらいのです。賃金が上がらなければ人材は集まりませんし、企業にも節約しようというインセンティブが働きにくく、「人手が足りない」と言いながら、慢性的な人手不足が解消されません。

―つまり、2030 年になっても問題なくやっていける産業と、そうでない産業に二極化していく。

中島

そうです。個々の企業で対応できる業界は「生産性を上げて高い賃金で人を雇う」、あるいは、「生産を海外にシフトして、利益を日本に持ってくる」といった対応をすればいいのですが。

ちなみに経済学には、経済成長に関する「収束理論」というものが存在します。世界経済の経験則として、おおむねどの国も発展途上の段階から経済成長の波に乗ると、次に高度成長期を迎え、その後は短期的な変動はあっても成長率を下げていきます。この理論からすると、中国はもう爆発的な成長はないでしょう。では、次はどこか。アフリカやアジアの一部の国が注目されていますが、潜在的成長力の高い国をいかに見つけるかが重要です。

―うまく対応できなかった企業は、淘汰されていく。

中島

そうなると思います。過去にも同じことがありました。日本の高度成長期にも賃金が大幅に上がり、それによって生産性を向上させようというインセンティブが各企業で働き、好循環が生まれました。ただ、当時は製造業が主体だったので、人間を機械に置き換えることで生産性を上げることができました。また、経済全体が拡大していたのでよかったのですが、今はパイが縮小しており、そこが厳しいところです。

労働資源を大切に扱う方向に

―2030 年に向けて、企業はどう変わっていくでしょうか。

中島

労働資源を希少な資源として、大切に扱うようになります。一部の企業に見られる労働資源の無駄遣い―長時間働かせて、つぶれたら仕方ないという在り方は見直されていくでしょう。十分に再生産が可能な、ゆとりある働き方をさせる方向に進むと考えられます。

ただしこれは日本全体で考えるべき課題であり、政策的な後押しが必要です。労働時間の規制や、ヨーロッパなどで行われている営業時間の規制も検討すべきかもしれません。

営業時間の規制は、企業の自由な活動を規制するので好ましくないという意見もありますが、それによって誰が得をするか考えてみてください。業界にもよりますが、土日に店が閉まっていれば、消費者は平日に買い物に行くので、売り上げはそれほど変わりません。ですが、営業時間が短くなればその分、生産性は上がります。何でも市場に介入すればよいとは思いませんが、個々の企業の努力で対応が難しい場合は、国として規制をかけるのが効果的です。

“真のダイバーシティ”とは

中島

労働力を大事に使うことと共に、今まで賃金労働をしていなかった人にどう働いてもらうか、という視点も大切です。高齢者、女性、障害者などで労働市場に参加していない人をいかに労働力として取り込むかが、より重要になります。

―今後ますます、ダイバーシティへの対応が求められるのですね。

中島

ただし、女性や外国人を雇っても、全員にこれまでと同じ働き方をさせたのでは意味がありません。

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