J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年12月号

CASE 2 郁文館夢学園 早期レジリエンス教育 ストレスフルな社会でも活躍できる “生きる力”を高める

独自の「夢教育プログラム」により、社会で輝ける人材の育成をめざす郁文館夢学園。
同校は、中高生に対して、充実したレジリエンス教育を行っている。
特に、約1年間の海外留学を経験する郁文館グローバル高等学校では、3年間で10 回に及ぶプログラムを実施。留学や大学受験のストレスを乗り越え、さらには、グローバル社会で活躍できる“生きる力”、“タフネス”を身につけさせる。


土屋俊之氏 郁文館中学校・高等学校・グローバル高等学校 教頭
鈴木水季氏 スクールカウンセラー/臨床心理士/精神保健福祉士

郁文館夢学園
東京都文京区にある学校法人で、郁文館中学校、高等学校、グローバル高等学校の3校からなる。1889 年に開設された私立郁文館が母体であり、128年の歴史を持つ。2006年に学校法人名を郁文館夢学園、国際高校をグローバル高校に改称。人間力の向上、学力の向上、グローバル力の向上を柱とする「夢教育」を掲げる。全校生徒数1231名(2016年4月1日現在)

[取材・文]=崎原 誠 [写真]=編集部

●導入の背景 根性論では乗り切れない

郁文館夢学園には、「夢教育」という独自の教育プログラムがある。国際社会で活躍する人材の育成を目的とした郁文館グローバル高等学校では、その一貫として、生徒全員が高校1年生の1月から約1年間にわたる海外留学を経験する。

留学先はニュージーランド、カナダの提携校だが、「1名1校」を原則とし、日本の保護者や級友との電話・メールも原則禁止。生徒たちは約1年間、日本人と接することがほとんどない環境で学ぶことになる。

10年ほど前に始めたこの施策によって、生徒たちは大きく成長しているが、その一方で、これまでに経験したことのない逆境に直面し、心が折れそうになる子もいる。

そこで2013 年に導入したのが、レジリエンス教育である。講師は、レジリエンス研究の第一人者でもあるスクールカウンセラーの鈴木水季氏だ。

教頭の土屋俊之氏は当時の経緯を次のように説明する。

「グローバル高校の生徒は、親元を離れて1年間、異国の地に行くわけですが、留学前・留学中・留学後とさまざまな段階において大きな環境変化にさらされます。そこで自分の心の状態をうまくコントロールできればよいのですが、時には制御の限界を超えてしまう場合もあります。元の状態に自分で整えていくスキルを身につけさせたい、と考えたのがきっかけです」

海外留学に憧れて入学する生徒は多いものの、彼らのほとんどは長く親元を離れた経験がない。それだけに、留学時期が近づくにつれ不安が募り、学校に来られなくなったり、カウンセラーのケアが必要になったりする生徒もいる。当然、留学先で悩みを抱える子も多い。「言葉が思うように通じない」、「友達ができない」、「ホームシックにかかってしまった」などだ。

日本に戻れば大丈夫かというと、そうとも言い切れない。個を尊重する海外の文化に触れた生徒には、“逆カルチャーショック”が待ち受けている。日本特有の同質性の高い人間関係が受け入れられなくなるのだ。また、その頃になると、大学受験への不安も大きくなってくる。

困難や逆境に直面した場合、「気合いで乗り切れ」などと指導する大人もいるかもしれない。しかし、同校の考え方は違う、と土屋氏は言う。

「体育会系の根性論だけではメンタルタフネスは鍛えられません。ラガーマンのように屈強な社員が、ちょっと上司にきついことを言われたら会社に行けなくなったという話もあります。心を鍛えるためには、体系的な学びが必要と考えました」

そもそも1年間の留学を必須にしたのも、生徒たちにメンタルタフネスを持ってもらうことが目的だった。

「私たちは社会で役立つグローバル力を“異なる者と共生する力”と捉えています。文化や価値観の違いを感じながらも、その中で人間関係を築いていくには、強い心が不可欠。自分の人生を追求するための精神的土台を培ってほしい、という思いもありました」(土屋氏)

●プログラムの内容 3年間で10回の授業を実施

同校のレジリエンス教育の具体的な内容を見てみよう(図1)。

グローバル高校では、1年生の7月の夏期講座で45 分×4回、9月の合宿で45分×2回の授業を行う。この6回で、プログラムの内容を凝縮して伝える。そして、留学直前の12月に90分×1回、帰国後の2年生の2月に50 分×2回、受験勉強中の3年生の9月に90分×1回の復習授業を実施する。

基本となっているのは、英国で開発された「SPARKレジリエンスプログラム」(参照:『子どもの「逆境に負けない心」を育てる本―楽しいワークで身につくレジリエンス―』法研)。ポジティブ心理学、レジリエンス研究、PTG(心的外傷後成長)、認知行動療法の実証研究に基づくプログラムである。

■自分の気持ちに気づかせる

特に重要なのが、「レジリエンスとは何か」という導入の部分である。

「まず、自分の気持ちに焦点を当てるところから始めます。人には落ち込んだり、うれしくなったりといった感情のアップダウンがありますが、その感情に気づいていない、あるいは自分の感情を言葉にできない子が多い。まず、自分の気持ちを自覚し、表現することが、レジリエンスを発揮するスタートラインになります」(鈴木氏)

ネガティブな感情が生じることもあるが、それは自然な気持ちで、生きていくために必要な生存本能に過ぎないこと、ただし、ネガティブ感情は頭にこびりつきやすいという困った特徴があることを理解させる。

さらに、そこから抜け出し、立ち直る力(レジリエンス)は誰にでも備わっており、やり方さえ学べば発揮できること、鍛えられることを説明する。

レジリエンスという、高校生には馴染みの薄い言葉を具体的にイメージできるように、ワークにも工夫を凝らしている。例えば、「レジリエンスの高い人は誰だと思う?」と質問する。スポーツ選手を挙げる生徒もいれば、身近な先生を挙げる生徒もいる。続いて、「どういう点でそう思うの?」と尋ね、自分の言葉で表現してもらう。

「レジリエンスの高い人を挙げてもらうと、意外に多いのが、『お母さん』です。前の晩はヒステリックに怒っていたのに、翌朝には笑顔になっている。『それって、どういう力が働いているせいだと思う?』と問うと、『切り替える力かな?』などの声が返ってきます。他にも、あきらめない力、余計なことを考えない力、冷静に考え続ける力、周りに流されない力、人を笑顔にする力と、答えはさまざま。身近な人、憧れの人のレジリエンスに気づき、言葉にするだけでも頑張れるものです」(鈴木氏)

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