J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年11月号

CASE 1 ドリーム・アーツ 考える力を体験で鍛える! デジタルネイティブ世代の アナログな学び

ソリューション開発を手掛けるドリーム・アーツでは、IT企業であるにもかかわらず、「IT 断食」と称し、実務においてアナログ手法を重視する。
それは、新人の育成施策においても同様だ。
ITだけに頼らない教育が伸ばす力とは。


石田健亮氏 取締役/CTO(最高技術責任者)

ドリーム・アーツ
1996 年設立。大企業や大組織向けのグループウエアや営業支援システムなど、ITソリューション事業を主幹とする。企業メッセージは「対話から協創するソリューション」。実務においても取引先の業務に同行するなど、現場目線での開発を得意としている。資本金:3億円、連結従業員数:264名(2016年8月現在)

[取材・文]=田邉泰子[ 写真]=編集部

● 前提 IT依存への疑問

情報技術の進歩は私たちのワークスタイルを大きく変革した。今や会議やプレゼンでのタブレット使用は当たり前。手書きの書類は姿を消し、電話や対面でのやり取りはメールやチャットに変わった。あらゆる情報はウェブ上に転がっており、検索すればよい。便利な世の中になったものである。

一方でこの流れに抗うように、「IT断食」を断行する企業がある。ソリューション開発を手掛けるドリーム・アーツだ。ITと密接な関わりを持つ同社が、あえてITツールを絶つ時間を設け、デジタルな世界と距離を置くのはなぜか。

取締役兼CTO(最高技術責任者)の石田健亮氏は、情報の洪水化による弊害についてこう語る。

「確かにITの進化は、利便性と共に、少し前には考えられないほど大量の情報をもたらすようになりました。しかし、その変化が急激過ぎたこともあり、今の私たちは情報をコントロールしきれずにいます」(石田氏、以下同)

日頃の業務を思い出してほしい。会って話すべき問題についてメールで済ませようとしたために、誤解が生じたことはないだろうか。また、CCで送られてくる大量のメールに紛れ、重要なメールを見逃してしまったことはないだろうか。

インプットされる情報の量が増えるに従い、アウトプットする情報量も増えたが、その質は低下しているのではないか、とも石田氏は指摘する。

一見体裁の整った企画書も、中身はウエブサイトをコピー&ペーストしたもので、現場の実情を踏まえた企画者自身のアイデアが浮かび上がってこないとなれば、それは無駄な紙の束となる。

「ITに依存していると、人は『自分の頭で考える』ことを放棄してしまいがちです。それでも作業は山ほどこなしているので“、頑張って仕事をしている”と勘違いしてしまう。仕事をサポートする道具であるはずのITが、生産性を下げる道具と化しているのです」

同社ではトップの強い意志の下、2010 年よりIT断食の取り組みが行われた。具体的には、・メールの宛先にCCを使わない・メールの文章は“誰が”“いつまでに”“何をする”を明確にする・会議室への個人パソコンの持ち込みは基本禁止とし、議論に集中するなどだ。一時期は、全ての営業部員から生産性を高めるためにパソコンを回収したこともあるという。

IT断食の考え方は、社員の人材育成にも反映されている。というのも、同社の中核業務は顧客の課題を探り、解決策を練り上げることに尽きるからだ。それには現場、現物、現実に触れ、当事者とコミュニケーションを図って課題を掘り下げるプロセスを経なければならない。顧客の問題を「アナログな感覚」で捉えるトレーニングは必須なのである。

● 制度 アナログ式育成で思考力培う

特に力を入れているのは、若手社員を中心とした「アナログ式研修」だ。

「当社はここ数年で規模が拡大しており、特に東京本社では入社したての若手社員が、社員全体の3分の1ほどを占めます。風土や社員の意識といった、目に見えないけれど企業の核となる部分を形づくるうえで彼らの影響力は大きいと感じています。また、研修は経営層から直接メッセージを発信できる貴重な場でもあります。ボトムアップとトップダウンの両サイドからアナログ意識の醸成を図っています」

その具体的な取り組みをいくつか紹介しよう。

■感想文提出で読書の習慣づけ

1つめの取り組みは、新入社員が半年間行う読書感想文の提出である。原則隔週で課題図書1冊が配布されるため、半年で13冊程度読破する計算だ。

「本配属直後ということもあり、ただでさえ忙しい彼ら。またIT系ということもあってか、そもそもほとんどの新人には読書の習慣がありません。読書時間を設けることが最初のハードルのようです」

この世代は、生まれた時にはすでにインターネットが存在し、子どもの頃からITに触れ続けてきた、生粋のデジタルネイティブである。社会人になるより前に、情報の洪水に巻き込まれた世代ともいえる。

「情報に手軽さや鮮度、流行を求める場では、ネットは非常に強力です。しかし、正確さや精緻さ、さらに深みの点では、さまざまなプロセスを経て活字となった紙媒体にかなわない。読書は、物事の本質に触れられる最も身近な方法といえるでしょう」

なお、課題図書を選ぶのは山本孝昭代表取締役社長をはじめ、経営層や人事担当。ジャンルはビジネス書から小説まで多彩だ。ロングセラーだけでなく、最近話題の本も取り上げる。

「幅広い分野の知識や考え方に触れ、抽象的に物事を見る力がつくことを期待しています。自分の仕事と畑違いのテーマであっても、何かしら共通点を見出し、ヒントを探り出せるようになってほしい。そうなれば、読んだ本一冊一冊が彼らの“引き出し”になるはずです」

さらに、A4用紙1枚に感想をまとめることは、考える力や伝える力のトレーニングになる。

何が印象的だったか、どうして心に響いたのか、あるいは自分の意見との相違点は何かなどを、限られたスペースで書き尽くすのは意外と難しい。しかし、普段使わない“筋肉”を鍛えることが、意外と仕事の力になっているようだ、と石田氏は説明する。例えば「話の要点をつかむ精度が向上する」「課題を見いだすスピードがアップする」などだ。

■合宿で自分の殻を破る

2つめは新入社員向けの合宿研修である。2泊3日で、研修内容は参加者自身による内省、役員との対話が中心だ。朝9時から1日中、ひたすら語り合い続けるという単純かつハードな内容である。

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