J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年11月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 皆の思いと能力を引き出す 仕組みづくりが人事の役割

「バリューチェーン・イノベーター」を標榜する技術者派遣会社VSN。
派遣したエンジニアが、現場での技術サービスの提供にとどまらず、そこから1歩踏み出し、派遣先が抱える事業課題の発見・提案から改善策の実行までを行う独自のサービスを展開している。
顧客のニーズを汲み、期待値を超えて貢献できる“ 人財”をどう育てているのか。
「人財育成は自社の存在意義」と言い切る川崎健一郎氏に話を聞いた。


川崎 健一郎(Kenichiro Kawasaki)氏
VSN 代表取締役社長

生年月日 1976年7月15日
出身校 青山学院大学 理工学部物理学科

主な経歴
1999年 4月 株式会社ベンチャーセーフネット(現VSN)入社
2003年 2月 同社 IT 事業部長
2003年 3月 同社 取締役就任
2004年 3月 同社 取締役退任
2004年 4月 VSN 常務取締役就任
2004年12月 専務取締役就任
2010年 3月 代表取締役社長就任(現任)
2012年 3月 アデコ株式会社 取締役就任
2014年 6月 代表取締役社長就任(現任)

企業プロフィール
VSN
2004年、特定労働者派遣を事業目的に設立。技術者派遣に特化し、IT・情報システム分野、メカトロニクス・エレクトロニクス分野、バイオ・ケミストリー分野の3分野を中心に事業を展開。2012年よりアデコグループに参画。独自の「バリューチェーン・イノベーター」をめざした事業計画の取り組みにより、日本能率協会主催「KAIKA Awards 2015」にて「KAIKA賞」を受賞。
資本金:10 億6300万円、売上高:193億7900万円(2015年12月期)、従業員数:3064名(2016年4月1日現在)


インタビュー・文/崎原 誠
写真/山下裕之

バリューチェーン・イノベーターとは

―まず、御社の事業の特徴を教えてください。

川崎

当社は技術者派遣に特化した人材派遣会社です。派遣の仕組みには有期の登録型派遣と無期雇用型の派遣があり、当社は後者です。当社の正社員として雇用したうえでお客様先に派遣します。事業の特徴としては、「バリューチェーン・イノベーター」という、一般的なエンジニア派遣会社が提供しない独自のサービスを行っている点が挙げられます。

2010年までは、当社も普通の派遣会社でした。お客様先に技術者を派遣し、指揮命令を受けて技術サービスを提供する。良くも悪くも指示範囲からはみ出さず、指示されたことをきっちり行う役割です。

しかし、リーマンショックを経て事業の在り方を見直し、それまでになかったサービスを生み出しました。

バリューチェーン・イノベーターとは、技術者として技術を提供しながら、それだけにとどまらず、お客様の事業課題を自ら発見・提言し、主体的に解決していくというものです。コンサルテーション的な問題発見・抽出や、解決のためのソリューション提案をし、さらにはその実行まで行うことが、他にはない、VSNだけの強みです。

同サービスをスタートさせてから昨年までの5年間で400 件を超える実績があり、中には、派遣先のお客様の売り上げ向上に、数億円レベルで寄与した案件や、当社の提案を全社目標に設定いただいた例もあります。

不況でも必要とされる人の特性

―派遣エンジニアといっても、求められる技術を提供して終わり、ではないのですね。

川崎

この事業コンセプトは、社員が考え出したものです。営業、エンジニアなど各分野のエース社員16名を集め、彼らだけで検討してもらいました。テーマはただ1つ、「我々は何屋になるのか」。8カ月間に及ぶ議論の末に生み出されたのが、バリューチェーン・イノベーターのコンセプトです。

きっかけは、リーマンショックでした。景気が悪くなれば、派遣契約更新のハードルは高くなります。御多分に漏れず、当社も多くの社員が契約終了となりました。ところが、そういった状況下でもお客様から契約の継続を望まれるエンジニアがいました。彼らより技術力の高いエンジニアがどんどん解約されているのに、です。

理由を探る中、ある共通項に気づいたそうです。それは、彼らが技術提供だけでなく、お客様先の課題を主体的に発見して解決策を提案し、実行していたことです。そのことで、もはやお客様にとって事業を運営するうえで必要不可欠な存在となり、景気が後退した中でも手放すことができなかったんですね。

こうした働きを個人の能力にとどめず、会社としてのサービスに昇華すれば、“派遣”の在り方そのものを変えられると考えたのです。

―本来、外部の社員がそこまで踏み込むのは、なかなか難しいのではないでしょうか。

川崎

お客様先で業務を行っていると、ごく自然に、「ここをもっとこうすればいいのに」という改善点が見えてきます。第三者だからこそ、内部では気づきにくい要素が発見できるのです。また、人間関係のしがらみがないため、役職や部署間の関係にとらわれず、忌憚のない意見が言えます。

―「会社の中のことに口を出すな」という声はありませんか。

川崎

ほとんどありません。経営に近い立場の方ほど、共感していただけます。

提案するだけでなく、自分たちで提案内容を実践する点もポイントです。コンサルタントの多くは、アイデアの提供や問題点の指摘はしても、実際の現場に入り込んでまで取り組むことはありません。バリューチェーン・イノベーターは第三者的立場でありながら、提案書だけ置いて「後は頑張ってください」ではなく、一緒にゴールをめざします。問題も明らかで、解決策もある。しかもそれを実行すると提案している。経営者として、断る理由はありませんよね。

社員が事業の在り方を検討

―事業の方向性の検討を社員に任せるのは、経営者として勇気がいることだったのでは。

川崎

仮に同じアイデアを経営側から発案したとしても、共感を得るのに相当な時間がかかったでしょう。私は、トップダウンとボトムアップのどちらも大切だと思っていますが、当時の状況では、ビジネスを根底から見直すにあたり、ボトムアップが有効だと考えました。経営陣が一方的に決定したことと、仲間たちが魂を込めて考えたことでは、受け止め方が違います。

そこで、検討メンバーの16名には、「経営理念からぶれないこと。そのうえで、細かい分析はいったん置いておき、自分たちが何をしたいかという“主観”を大切にしてほしい」とお願いしました。経営陣には定期的な報告がある程度で、後はただ待つ状態でした。当時いた2000名近い社員が、自らめざしたいと思えるものを実現したかったのです。

この16名はビジョンの浸透役となり、今も各事業の中核として活躍してくれています。

―当時、社員の提案をご覧になって、どうお感じになられましたか。

川崎

鳥肌が立ちました。彼らの提案は、自分たちの業務の周りにとどまらず、お客様のバリューチェーン、事業の流れの問題解決までしてしまおうという、大胆で本質的な問題を突くものです。我々経営陣の視座が一段上がるような内容でした。

理念は熱量をもって、何度でも伝える

―16名が考えたコンセプトを、どのように社員2000名に浸透させていったのですか。

川崎

とにかく繰り返し、熱量をもって伝えることを意識しました。経営理念やビジョンを浸透させることは、経営者の最も重要な役割です。

派遣先に常駐する社員が多い会社で理念やビジョンを浸透させるポイントの1つは、情報のオープン化です。

当社では、経営会議の議事録を全社員に公開しています。決定事項だけでなく、誰がどう発言し、どんな議論が展開しているかまでを開示し、今、経営で何が問題なのか、経営者が何を重視しているかが分かるようにしています。社内SNSも導入し、社員と経営陣がフラットにコミュニケーションをとっています。物理的な距離を、デジタルツールで埋めているのです。

一方、リアルなイベントでの交流も多く、部署や社歴等、関係なく触れ合える機会を設けています。

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