J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年08月号

外国人材の心をワシづかみ! 日本発のマネジメント 第3回 アジア流動機づけの黄金律

世界の人材争奪戦において世界に遅れをとる日本。
打開策は現地の人々のより深い理解、そして日本企業ならではの育成、伝統にある―。
異文化マネジメントに精通する筆者が、ASEANを中心としたグローバル人材にまつわる問題の解決法を解説します。

河谷隆司氏
ダイバーシティ・マネジメント研究所 代表取締役

ダイバーシティ・マネジメント研究所代表取締役。異文化マネジメントコンサルタント。マレーシアに16 年半在住。マレーシア戦略国際問題研究所研究員等を経て現職。著書に『Winning Together at Japanese Companies』他多数。ネットテレビ番組Japan Spiritキャスター。www.diversityasia.com

Antikwar/Shutterstock.com

「フィリピンの人たちは一生懸命努力してくれて本当に助かりました。ただ日本人は99%をめざすんですが、フィリピンの人たちは85%くらいで良しとしてしまう。ここがなかなか変えられなかったですね……」

マニラ郊外で、ハードディスク工場の社長氏とご一緒した会食の席で聞いた言葉です。帰任直前に残されたメッセージでした。

この夜以来、私の頭には「どうしたら最後の15%を埋められるのだろう」という問題意識がインプットされました。それ以来、世界中で重ねてきたビデオインタビューは100 人を超え、そのたびに「What is the profile of a“good boss” in your culture here?(この国における良い上司とはどんな人ですか?)」という質問を繰り返しています。現地社員向けの研修でも必ず出てくるトピックとなっています。

驚くことに、多くの東南アジア、中国、インドの各国の現地人幹部の答えには、共通するキーワードがありました。「ボスとフレンド」です。「カリスマと温情」と言った人もいますが、意味はほぼ同じでしょう。グッドボスの黄金律ともいえる言葉です(図1)。

ボスの行動原理

その意味はこうです。多民族チームのメンバーは価値観や行動パターンがさまざまだからリーダーがブレていては無法地帯になる。だから「ボス」は、哲学と権威を持ち、有言実行の人(walk the talk)で、お家の一大事になると火消ができる実力がなければならない、といったニュアンスです。それではまるでスーパーヒーローじゃないか!と思うでしょう。実はその通りなんです。

「日本からやって来る幹部はスーパーマンであってほしい、リーダーにはヒーローを求めます」とは、マレーシア・自動車部品メーカー人事部長の言葉です。スーパーマンとは「問題解決できる力があって、かつ、人の問題でも相談に乗れる人物」です。

日本企業には焦りが足りない

この「ボス」の条件が新興国で役職に就く人の第一の資質です。しかし、タイやマレーシアのように先進国になり切れないまま「中進国の罠」(先進国入りを前に成長が停滞すること)から抜け出せない国々の産業界は、こうしたボスが少ないことに危機感を感じています。

これらの国々では、マクロでは産業の高付加価値化、ミクロでは社員の成長欲求を満たすことのできる強い指導者が求められています。また1人当たりGDPが2007年に日本を超え、豊かさを実現してしまったシンガポールでは、報酬は動機づけの最強手段にはなりにくく、建国の父リー・クアンユー元首相の2015年の死去を経て、より高度の挑戦目標の模索が国として始まっています(アジア圏の成長欲求については2016年6月号・連載第1回目をご覧ください)。

アジアでの動機づけを考える時に大切なことは、現地の勤労観は高度化しており、国としては焦燥感があるものの、日系企業はその感覚とは無縁の世界にいるということなのです。私たちには焦りが足りません。連載第1回目の冒頭で紹介した「当社には4 流人材しか来ないのです」と絶望した商社マンの話を思い出してください。

フレンドの行動原理

さて新興国におけるリーダーシップの難しさは、「ボスは強いだけではダメだ」という点です。ボスは強さと同時にスタッフの個人的な悩みや問題に時間を割く人物でなくてはならないのが、アジアの特徴です。そうでないとすぐに覇気が萎えて仕事のプレッシャーに負けてしまうからです。

こうした資質のことをアジアの現地幹部は口をそろえて「フレンド(シップ)」と呼んでいます。アジアでは、よし自分がリーダーになるぞ、と手を挙げる人は多くはありません。昇進機会があっても、今以上のストレスがかかるのは嫌だからと尻込みする人が多くいます。ですから時間を割いてまで個人的な問題で相談に乗ってくれるボスがいると、この人のために頑張ろうという意欲が湧いてきます。これが冒頭で述べた85%以上の力の源泉となります。

ファストフードチェーン大手、マクドナルド・インディアの人事部長はこう言っています。「スタッフに個人的な問題があって悩んでいたら、お尻を叩いても無駄でしょ。仕事に集中できる状態でないのなら、その問題を解決することが上司の仕事ですよ」

日本人はもっとお節介にならないと海外でグッドリーダーになれません。全く同じ声が中国、アセアン、インドの12カ国で例外なく聞かれます。

彼らに黄金律「ボスとフレンド」のそれぞれの比率、「黄金比率」を聞くと、答えは「80:20」です。職場ですから、基本はあくまで成長へ導いてくれる強さ。しかし、仕事というストレスから守ってくれる免疫力、フレンドシップもまた必要なのです。

ここで図2(74 ページ)にグッドボスの行動様式をチェックリスト形式にまとめましたので、ちょっとペンを取り出して自己診断をしてみてください。「ボスとフレンド」という基本原理の他に、効果的なマネジメントスキルも動機づけの動因として入っています。項目は全て現地人管理者の発言です。

黄金律の実践に必要なバランス

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