J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年08月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 重要なのはビジョンへの共感。 それ以外は多様でいい

グループウェア事業で、国内トップシェアを誇るサイボウズ。
「世界中のチームワーク向上に貢献する」を使命として、製品の国際化とグローバル市場への進出を進めている。
同社を率いる青野慶久社長は「人は多様であることを受け入れて、制度や風土をつくる必要がある」と明言。
実際に、9種類の選べる働き方を用意し、自身も三度の育児休暇を取得している。
その柔軟な考えの源泉と、実践の秘密に迫った。


青野慶久(Yoshihisa Aono)氏
サイボウズ 代表取締役社長

生年月日 1971年6月26日
出身校 大阪大学 工学部
情報システム工学科
主な経歴
1994年4月 松下電工 入社
1997年8月 サイボウズ設立 取締役副社長
2005年4月 代表取締役社長 就任
2010年8月 育児休暇取得 1回目
2011年8月 代表取締役社長
兼 グローバル開発本部長
2012年2月 代表取締役社長
兼 ビジネスマーケティング本部長
2012年3月 育児休暇取得 2回目
2015年1月 代表取締役社長
兼 グローバル開発本部長
2015年3月 育児休暇取得 3回目
2015年4月 代表取締役社長
兼 グローバル開発本部長
兼 サイボウズ・ラボ 代表取締役社長
現在に至る

企業プロフィール
サイボウズ
1997年の創業より、チームの情報共有を支援するグループウェアを開発・販売。2011年秋、クラウドサービス「cybozu.com」をリリース。
「世界中のチームワーク向上」をミッションとし、多様性を尊重した新しい働き方に取り組んでいる。
資本金:6億1300万円(2015年12月末時点)
連結売上高:70億1300万円(2015年12月期)
連結従業員数:464名(2015年12月末現在)

インタビュー・文/村上 敬
写真/小林 淳

いいグループウェアを世界に

―御社はチームのナレッジマネジメントやコラボレーションに寄与するグループウェアを提供しています。そうした中、今、必要としているのはどのような人材ですか。

青野

私たちがめざすのは、いいグループウェアをつくって世界に広げること。ですから、いいグループウェアをつくれる人、それを日本や世界に広げられる人がほしいという思いが基本にあります。

加えて特に今、必要としているのはマネジャーです。会社を大きくしようとしているわけではないのですが、事業を続けていく中で人が増えてきて、現在では派遣の方を含めて600人が弊社で働いています。この規模になると、一定数のマネジャーがいないと事業を維持できません。

ところが、最近の若い人はマネジメントを担いたがらず、こちらから“お願い!”と言って引き受けてもらっている状況です。

―どのような方をマネジャーに抜擢するのですか。

青野

見極めるポイントはいろいろありますが、何より大切なのはビジョンを理解していること。最初にお話ししたように、弊社のビジョンは、「いいグループウェアを世界に広げる」こと。そのゴールを真に理解して、それを体現するために必要な組織をつくる力が求められます。

時と場所に縛られない働き方

―御社のビジョンを体現する組織とは、どのような組織ですか。

青野

一言でいえば、「多様性のある組織」です。もともと従業員は一人ひとりが全く違う存在です。それを一律の規則で縛りつけるのではなく、それぞれ自分らしく働いてもらいます。多様な個性を持つ人が集まれば、会社のあちこちで個性がぶつかり合って議論が起こります。そのほうが面白いじゃないですか。

―具体的には、どのように組織の多様性を担保するのでしょうか。

青野

まず働き方の多様性を認めることです。働き方は、働く時間の長さによって3種類、働く場所の自由度によって3種類のコースを用意。掛け合わせて9種類から自由に自分の働き方を選べます。

2015年10月の段階では94%の社員が残業ありのコースを選択しました。残業なしのコースを選ぶのは、育休明けの社員が多いです。もちろん生活環境の変化に合わせて途中からコースを変更することも可能です。

また、働き方のコースとは別に、短期的に働く時間や場所を変更できる「ウルトラワーク」を始めました。

例えば普段オフィスに出勤する人が在宅で仕事をしてもいいし、東京の社員が週末旅行と仕事をセットにして、全国に11カ所ある他の拠点のオフィスで働いてもかまいません。

―育児休業制度も充実しているそうですね。青野社長ご自身もお取りになったと聞きました。

青野

育児休業制度は最長6年間。おそらく日本最長です。産前休暇や育児短時間勤務は妊娠判明時から取ることができます。私も第一子と第二子の時に育児休暇を取り、2015年は第三子が誕生したので半年間、16時までの短時間勤務でした。

それまで定時前に帰る社員は申し訳なさそうにしていましたが、私自身が早く帰るようになって社内の空気も変わりました。今は時短のママやパパも、元気に帰っていきます。

ビジョンさえ共有できればいい

―先ほど求める人材像についてお伺いしました。多様化を認めて人それぞれでいい、ということは、理想の人材像は1つではない、ということですか。

青野

確かに多様性を認める一方で、人材はこうあらねばならないという言い方をすればおかしいですよね。ただ、私たちが仲間に求めているのは、ビジョンに共感してもらうことだけ。それ以外は多様でいいと考えています。

裏を返すと、ビジョンへの共感については厳しいです。共感できないなら出ていってもらったほうがいいんじゃないか、というくらいに縛りをかけています。

―ビジョンの共有を促すために、どのようなことをされていますか。

青野

みんながビジョンに100%の共感ができているわけではないし、誰がどこまで共感できているのかを定量的に測ることも困難でしょう。ですから、手を変え品を変え、メッセージを出し続けるしかない。「グループウェアが世界中で使われるのっていいよね~」って、みんなの耳元で繰り返しささやき続けています。

といっても全国に拠点があるので、本当に耳元まで行ってささやくことはできません。実際にやるのはグループウェア上です。私からまとめてみんなにメッセージを出すのは週に1 ~ 2回。その他、みんなグループウェアに日報を毎日書くので、それにコメントする中で、さまざまにビジョンを吹き込んでいます。おそらく1日30件以上はコメントしているはずです。

興味深いのは、メンバー同士でコメントが交わされるという点です。アクセス制限をかけなければ、グループウェアはフルオープンです。隣の部署の人が何をしているのかがすぐ分かるので、議論が生まれてビジョンの共感が広がっていくことがある。これはとてもいい動きです。

―ビジョンに向けて議論を行うための共通言語についても、そうした場でことあるごとに伝えているそうですね。

青野

はい。建設的な議論を重ねるためには、事実と解釈を分けて考えることを徹底したり、共通のフレームワークを使うとより進みやすいだろうと考え、「問題解決メソッド」(図)や「理想マップ」※といったものを全社標準としてみんなに使ってもらっています。これらも実は、多様性のある組織を維持しながら議論を進めていくための手段の1つです。

※理想マップ 問題がどのくらいの規模で解決でき、いつまでにどこまでの解決を図るのかを確認しながら議論を進めるためのフレームワーク。

全員の成長を前提にしない

―多様性を認めた結果、のんびり働く社員が増えると、会社の成長に影響は出ませんか。

青野

そもそも、会社の“成長”は、そんなに必要なのでしょうか。世間には「事業の目的は成長することだ」という風潮がありますが、それでは成長にとらわれ過ぎだと思います。何度も繰り返しますが、私たちのビジョンは、いいグループウェアをつくって世界に広げること。そのことに共感してくれる人が増えて、ビジョンが実現できるなら、極端な話、製品はサイボウズでなくてもいいのです。

それなのに、世間は「会社VS会社」の構図をつくり、ライバル会社に勝つために自分たちはこうしなければいけないという発想で物事を考えてしまう。戦国武将などは自分の土地を広げるために戦争をしましたが、現代の私たちの感覚では「何それ!」という感じではないですか。同じように、今の私たちが会社同士で争っているのを、未来の人たちが見たら、同じ感想を抱くでしょう。いずれ、みんな仲良くして気持ちよく働ければいい、という時代が来るはずです。

―会社が成長をめざさないとすると、人材も成長する必要はないのでしょうか。

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