J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年03月号

TOPIC 日本企業復活のために 今、まさに育てるべき人材像と 人材マネジメントの在り方

経済格差や教育格差など、今、日本社会ではさまざまな分野で格差が進んでいる。
企業間格差の進行も著しい。業界により世界トップクラスの企業がある一方で、日本のお家芸とされた業界でグローバルな争いに沈む企業がある。
かつて“Japan as No.1”と世界から賞賛された日本企業が、再び輝きを取り戻すためにはどのような人材が必要なのか。
関西経済同友会常任幹事・事務局長や大阪国際会議場社長などを歴任し、半世紀以上にわたり経済界と深く関わってきた萩尾千里氏に聞いた。

萩尾千里(はぎお・せんり)氏
大阪国際フォーラム 会長/
元・関西経済同友会常任幹事・事務局長、朝日新聞社編集委員
1937年、愛知県生まれ。関西大学商学部を卒業後、60年に日刊工業新聞社入社。69年には朝日新聞社に入社し、77年編集委員(経済担当)。関西財界での人脈の広さを買われ、87年に関西経済同友会常任幹事・事務局長に就任。2006年6月から大阪国際会議場社長、2013年11月大阪国際フォーラム会長、現在に至る。

取材・文/竹林篤実 写真/大島拓也(萩尾氏)、関西経済同友会提供

強みを失った日本企業

日本企業の現状は、正直言ってあまり芳しくない。高度経済成長時代から経済界をつぶさに見てきた私には、今の日本企業は過去の強みを失い、新たな時代への対応ができていないように映る。

日本企業は戦後、敗戦のどん底から復活して奇跡的な成長を遂げ、欧米を追い越し世界に冠たる地位を築いた。奇跡を起こせた理由は、日本独自の強みを活かしたからだ。

強みとは、「教育」と「精神」である。江戸から明治そして昭和に至るまで連綿と続いた日本文化は、ハイレベルな教育を国民に授けた。さらに神道、仏教、儒教の融合が社会に、「和と寛容の精神」を培ったのだ。

この2つを背景として、日本的経営はその原点に、運命共同体としての労使関係を据えた。松下幸之助の持論は「使命感を感じたら人は動く」である。松下は労働組合に対して「あなたたちと私は運命共同体だ。私はあなたたちのためになんでもする。だから労使一体となって成果を見せよう」と訴えた。この言葉に当時の組合幹部が意気投合したのだ。

以降、松下は労使一体型の日本的経営をリードし続けてきた。週休2日制をいち早く取り入れ、労働組合のための保養所を整備するなど、労使協調に基づく経営を進めた。

松下に続いたのが鬼塚喜八郎(現アシックス創業者)や塚本幸一(ワコール創業者)などの経営者たちだ。こうして関西圏で確立された経営モデルが日本全体に広がっていく。終身雇用、年功序列型賃金、企業別組合などの日本型モデルは世界的にも高く評価された。

ところが、ある時期から世界の様相が一変した。

グローバル化と文明の液状化

転機となったのはソビエトの崩壊(1991年)である。戦後の世界の、米ソ対立による冷戦構造が一変した。歯止めを失った自由市場資本主義が暴走を始め、これに交通革命、情報通信革命が追い打ちをかけた。航空網とインターネットにより、人と情報が瞬時に世界中を駆け巡るようになった。

恐ろしい勢いで進んだこのグローバル化により、国境の壁は溶け去り、“文明の液状化”現象が起こった。

過去400年もの間、一見普遍的に見える西洋文明(キリスト教文化)や、それを土台とする科学が世界を席巻してきた、ということである(このパラダイムもさらに崩れつつあるのがこの数年だが)。

その流れの中で、ここ数十年の間に勃興してきたのがアメリカ発の新自由主義だ。市場経済はとどまるところを知らぬ勢いで膨張し続けている。世界経済は大きく様変わりし、従来の日本的経営ではどうにも太刀打ち出来ない状況になっている。

新しい日本的経営の形

市場環境の激変に対応するためには、日本的経営も変わらざるを得ない。グローバル化した世界で通用する、新しい日本的経営のあり方の模索と構築が急務である。その際、我々はどういう相手と対峙しているのかを顧みておくべきだ。

プラザ合意を覚えているだろうか。1985年、ニューヨーク・プラザホテルに欧米の蔵相が勢揃いし、円高・ドル安の流れを引き起こした歴史的転換点である。それまでの1ドル240円が一気に120円の円高となった。極端にいえば、日本の貿易競争力は半減させられたことになる。

3年後の1988年には、追い打ちをかけるように銀行に対するBIS(国際決済銀行)規制が導入された。自己資本比率が8%以上ない銀行は国際業務を禁じるというもので、結果、規制対象となった日本の銀行は、自己資本確保に多大な努力を払わざるを得なくなった。要するに欧米が日本を締め上げたのだ。

その後、1ドル240円だったレートは3倍の80円になり、日本経済に深刻なダメージを与えた。日本は、こういう手を打つ相手と勝負しているのである。

こうした経緯を踏まえるなら、昨今の円安の動きは喜ばしく見える。ただし、一時的な業績向上だけでは、日本経済の本質的な回復にはつながらない。企業構造の根本的な再構築がなされていないからだ。

必要なのは、日本企業ならではの強みの復活である。すなわち、優れた人材を再び高いレベルで教育すること。そうして育つプロ集団により創り出される品質の高さ――これらこそ、日本の強みではなかったか。

非正規社員が全体の4割にも上る現状も、早急に改善すべきである。高度なノウハウを積み上げていくプロ集団がいなければ、企業力は伸びない。しかも不安定な雇用関係は、社会全体を流動化させる。かつての松下幸之助が標榜した「人間尊重の経営」を取り戻さなければならない。

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