J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年03月号

人材教育最前線 プロフェッショナル編 チャレンジを促す教育と評価が 「オルビスが好き」な社員を育てる

「社員に愛される会社であってこそ、お客様に愛される企業になる」――取締役管理部門担当で人事・組織改革部長の福島幹之氏が10年にわたる店舗運営の中で体感し、確信したことだ。
スキンケア用品や化粧品の開発・販売を主力とするオルビスでは、2012年から本格的にブランド再構築に取り組み、顧客への新たな価値提案をめざしている。
そうした中、福島氏は、社員一人ひとりが立場や役割を越えてチャレンジし、力を発揮するための教育と環境づくりこそが自らの役割であり、結果的に会社とお客様にプラスをもたらすという。


オルビス
取締役 管理部門担当
人事・組織改革部長※2015年12月3日取材時点
福島幹之 (Motoyuki Fukushima) 氏
2006年4月オルビスに入社。店舗事業部門で直営店の運営に携わる。
営業部長、事業本部長を経て、2012年4月、オルビスの執行役員制導入と共に店舗事業担当の執行役員に就任。
2015年1月より取締役 管理部門担当 人事・組織改革部長として、人材育成、経営管理、広報、コーポレート機能、経理など幅広く管掌。

オルビス
1984 年設立。化粧品、栄養補助食品、ボディウェアの企画・開発及び販売を行う。
100%オイルカットスキンケアや環境に配慮したリフィル式商品などを開発。
2012年より本格的にブランド再構築に取り組み、2014年には最高売上を記録している。
資本金:5億円、連結売上高:523億円(2014年12月期)、従業員数:1252名(2014年12月31日現在)

「価値観の共有」の重要性

「異なるさまざまな経験を重ねてこそ、人は成長する」と考える福島氏。大学卒業後、10年勤めた化粧品会社を辞め、転職を決意したのもそれが理由だった。

「若いうちから仕事を任せてくれる会社でしたが、当時、部門責任者等を務める中で自分に足りないものも感じていました。同じ経験からの学びには限度があり、異なる経験を積むことで視座や視点が変わると考え、一度慣れ親しんだ場所を離れ、異なる環境で学んでみようと思ったのです」

自身に足りないと感じていたことの1つが、「戦略思考」―チームで物事を進めるために何をめざすのか、それはなぜか、どうやって進んでいくのかといったストーリーを描く力だった。

そこで、経営のプロとして戦略思考に重きを置く企業に就職。その手法とノウハウに触れ、2006年4月、再び化粧品業界に戻り、オルビスに入社した。

その後、福島氏は現在の取締役人事・組織改革部長になるまで、10年近く店舗事業部門で直営店の運営に携わってきた。そこで常に意識し、取り組んだのが、店舗事業における“価値観”を、店舗と本部がしっかりと共有することだった。

「この“価値観”とは『お客様がまた来たいと思う店づくり』であり、それは『お客様一人ひとりを大事にする』こと、『お客様と接する店舗が第一』であるということです。これが全社で浸透すれば、オルビスはもっと成長できると思っていました」

さらに福島氏はこう続ける。

「『価値観』とは教わるものではなく、仕事を通じて自ら気づき、感じるものではないでしょうか。いろいろな人と仕事をし、経験を積む中で共有したり、文化として引き継がれていったりするものだと思います」

社員から愛される会社

「お客様がまた来たいと思う店づくり」を支えるのは、「オルビスという会社が好き」という社員の思想だと福島氏は言う。

なぜなら、店舗における接客や売り場づくりが、決して楽な仕事ではないからだ。例えば、化粧品の購入を「買い方」で見た時、通販やドラッグストアなどで自分で選んで買う、百貨店の化粧品コーナーでカウンセリングを受けて買う等々、人それぞれ、さまざまな方法と理由がある。そして店頭販売の場合は特に、その理由を顧客の様子や行動からいかに見定め、対応できるかが重要だ。同じ顧客だからといって毎回、同じ対応をすれば良いわけではなく、声を掛ける内容やタイミングにその都度こだわる必要がある。レイアウトや陳列など、売り場づくりも同様だ。

「接客と売り場づくりの両面から『また来たいと思う店づくり』が求められるオルビスの店舗従業員は、本当に大変だと思います。『この会社が好き』とか、『オルビスのお店で働いて良かった』という気持ちがなければ働き続けるのは難しい。ですから全ての店舗従業員の正社員化や、育児・介護と仕事の両立支援などの制度整備はもちろん、評価の軸も、社員の『お客様にまた来たいと思ってもらうための行動』を重視するというスタンスを示しています。

そもそも入社する社員のほとんどが元お客様です。販売員としての経験の有無ではなく、オルビスがもともと好きという人が多い。こうした思想を大事にすることが、結果的に会社にとってもお客様にとってもプラスに働くのです」

大切な存在だと伝える

「思想」に加え、福島氏が店舗事業部門時代から大切にしてきたことがもう1つある。それは、社員たちに、「自分は会社の役に立っている重要な存在だと分かってもらう」ことだった。

「一人の重要な人間として扱われている、受け入れてもらえていると思えるからこそ、お客様一人ひとりに心を込めた、高度な接客ができるのです。『この会社が好き』という思いと共に、『自分のことを大切にしてくれるこの会社のために頑張ろう』という気持ちがなければ、できることではありません」

そのために福島氏はコミュニケーションを積極的にとった。例えば新たに店長になる社員がいれば、自ら全国どこにでも赴き、「こんな店にしたい」「こんなことを頑張ってほしい」と時間をかけてじっくりと話した。全ての店長の顔と名前、キャリアや特性を覚え、店舗に足を運ぶ回数は本部の中でも断トツだった。

店長と1対1で話すことの意義は他にもあった。

「初めて店長になった人は、頑張ろうと思っていても、どこに向かって何を頑張ればいいかがつかめないことが多いものです。だからこそ、会社や組織がどこに向かって進もうとしているかを、責任者が直接伝えることが重要なのです」

こうした対話の中で、不安やプレッシャーを抱えながらも店舗や顧客のことを真剣に考え語る店長たちと接していると、心が洗われ「彼女らのために何かしてあげなければ」と思ったことも少なくなかったと福島氏。前職で「戦略思考」を学びながらも、社員と接すれば接するほど、戦略やテクニック以上に、アナログ的な心のつながりが大事だと感じるようになったという。

誰もが力を発揮できる環境を

そして2015年1月、取締役に就任した福島氏は、人事・組織改革部長として初めて人事業務に携わることになる。人事への異動は寝耳に水だったが、「人は経験から学び成長する」と考える福島氏にとって、これは自らの成長の機会だった。

「驚きはしましたが、『なぜ自分が』という思いより、そこに自分が行くべき意味があり、その意味は自らつくるものだと普段から思っていたので、前向きに捉えられました」

こうした考え方を持つようになった原点は、高校時代のサッカー部での経験にまでさかのぼる。

福島氏は、小学生の頃からサッカーに打ち込み、高校は全国大会に出場するほどの強豪校でプレーしていた。しかし、技術も才能もある、秀でた選手たちばかりが集まるチームの中で自分の限界を知ったという。

「どんなに本気で挑んでも、とてもかなわないと思いました。そこで、自分ができることを探すようになったのです」

チームの夢は全国大会に出て勝つこと。そのためには、一人ひとりの力をいかに発揮できるかが重要だ。しかし上下関係が厳しい体育会系では、一般的に後輩は意見を言いにくく、前にも出づらい。そこで、後輩でも物おじせずに堂々とプレーし、力を発揮できるような環境をつくろうと考えた。

「今も同じです。自分一人では大きなことは成し得ないからこそ、周りを生かそうと思います。当社にも能力のある人がたくさんいます。だからこそ、みんなの力を生かしたほうが良いお店や会社をつくれると思っています」

そして、個々の力を組織の力へと変えていくため、人事に着任した時にはメンバーにこう伝えた。

「1つめが、『皆に活躍してほしい』ということ。先輩・後輩に関係なく遠慮せず意見を言い、それを皆で聞くこと。2つめが『常に前向きに楽しく仕事をしよう』ということ。そして、3つめが『一人ひとりが考える』こと。どんなことでも自分なりに考え、意見を持ってほしいと言いました」

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