J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年03月号

OPINION1 経験学習の基本と、効果を高める方法 チームでの振り返りが 「経験からの学び」を加速させる

経験学習とは、そもそもどのような概念なのか。
また、経験学習の効果を高めるには、どのような支援が考えられるのか。
この分野における第一人者である、北海道大学大学院教授の松尾睦氏に聞いた。

松尾 睦(まつお まこと)氏
北海道大学大学院 経済学研究科 教授
1988 年小樽商科大学商学部卒業。塩野義製薬、東急総合研究所などに勤務の後、東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程(人間行動システム専攻)、英国ランカスター大学経営大学院博士課程修了(Ph.D.in Management Learning)。岡山商科大学商学部助教授、小樽商科大学商学部助教授・教授、神戸大学大学院経営学研究科教授を経て現職。

[ 取材] =編集部、増田忠英 [文・写真]=増田忠英

経験学習とは

人の成長を決定する要因の比率、「70:20:10の法則」※を聞いたことがある方も多いだろう。優れたマネジャーは学びを、70%は自分自身の仕事経験から、20%は他者の観察やアドバイスから、10%は読書や研修から得ている、というものだ。

「経験」には、仕事の経験のように自分が直接的に関わる「直接経験」と、他者の教えや書籍・研修など、他人が経験したことから間接的に学ぶ「間接経験」の2つがある。そして先の法則は、直接経験である仕事の経験が、成長の大きな源泉であることを示している。

では、人は経験からどのように学んでいるのだろうか。組織行動学者のデービッド・コルブが提唱した経験学習サイクルのモデル(図1)によれば、人は何か具体的な経験をした後、内容を振り返って内省し、そこから教訓を引き出し、新しい状況に適用することで学ぶ。しかし、このサイクルが回っていたとしても、経験の質が悪かったり、自己中心的な振り返りをしていたりすれば、成長はおぼつかない。個々人が経験から適切に学ぶ力を持つことが重要になる。

※米国のリーダーシップ研究機関、ロミンガー社による、優れたマネジャーを対象とする調査で導き出された。

「経験から学ぶ力」の3要素

この「経験から学ぶ力」をより分解すると、どんなものになるのか。私はこれまでの研究を踏まえ、「ストレッチ(挑戦する力)」「リフレクション(振り返る力)」「エンジョイメント(楽しむ力)」の3要素に整理し、紹介してきた(図2)。

ストレッチとは、問題意識を持ち、挑戦的で新規性のある課題に取り組む姿勢である。次のリフレクションは、仕事の最中に試行錯誤をしたり、終了後に成功や失敗を振り返ることで、教訓を引き出すこと。このことで、新しい知識やスキルを記憶の中に刻み込む。そして、挑戦し続けるためには、仕事の中にやりがいや面白さを見つける姿勢が必要になる。それがエンジョイメントだ。

さらに、この3要素の原動力となるのが、「思い」と「つながり」である。「思い」とは、仕事に対する目標、価値観、信念であり、「つながり」とは、自分を成長させてくれる他者との関係性を指す。適切な「思い」と「つながり」を持つ人は、ストレッチ、リフレクション、エンジョイメントが活性化され、経験学習サイクルを良い形で回すことが出来る。

組織内で実践する仕組み

上記のような個々人の経験学習を、組織単位で実践するには、どのような仕組みや支援が必要だろうか。さまざまな企業の実践例から、以下の6つのポイントが挙げられる(図3)。

①方針支援……自社(自部門)が何にこだわり、どの方向をめざすのか、どのような人材を育てたいのかを組織長が明示し、部下の「思い」にアプローチする。

②ジョブアサイン支援……上司は各個人の強みや伸ばすべき課題を考慮しながら、与える仕事を考える。そのための会議を行ったり、現場の問題解決や改善に取り組むことを奨励したりする。「ストレッチ」に該当する。

③リフレクション支援……上司と部下による面談や、経験を振り返り、そこから得た学びを共有するワークショップなどを行う。経験学習の中核といえる活動である。

④スキル支援……リフレクションを促すため、指導する側に聞く力や質問する力(コーチングスキルなど)を身につけさせる。

⑤アセスメント支援……経験学習が形骸化せず、成長に結びついているかどうかを評価する。例えば、振り返りの面談やワークショップが機能しているかどうかをチェックする。

⑥経営陣による支援……経験学習を組織に定着させるために、最も重要なのが経営陣による支援である。経営陣が本気であれば仕組みは定着するが、そうでなければ形骸化しやすい。

職場全体で振り返る良い方法

経験学習サイクルがうまく回るかどうかは、リフレクションのあり方にかかっている。そのため、経験学習を実践する企業の多くがリフレクションの機会を設けている。代表的な方法には、上司と部下の面談による振り返りがあるが、1対1の面談は上司の負担が大きい。部下の人数が多ければ、それだけ長い時間を取られることになる。また、上司のコーチングなどの、気づきを引き出すスキルが、大きく効果を左右する。

そこで、より導入しやすい方法としてお勧めしたいのが、リフレクションを職場全体で行うことだ。

●10分間ワークショップで振り返る

例えば、理系研究職の人材派遣会社WDBエウレカでは、毎月1回開いている勉強会のうちの30分間を、自身が1カ月の経験から学んだことを他者と共有し、フィードバックをもらうという時間に当てている。シンプルなワークだが、経験学習サイクルをしっかりと回せるように設計されており、ルーティンワークの多い派遣社員の成長支援に役立っている。

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