J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2010年11月号

中原 淳の学びは現場にあり! 第4回 “協力と競争”で美容師の成長を促す 育成マインドを醸成するチーム制

誰にとっても身近な存在である美容室。日本国内に美容室は20万軒、美容師は40万人以上いるといわれています。しかしその育成は個々の店舗により異なります。
今回はチーム制で人材育成を行っているという美容室を訪問しました。

中原 淳 (Nakahara Jun)氏
東京大学 大学総合教育研究センター准教授。「大人の学びを科学する」をテーマに研究を行う。共著に『リフレクティブ・マネジャー』(光文社)など多数。
Blog :http://www.nakahara-lab.net/blog/
Twitter ID : nakaharajun
検証現場 資生堂ビューティーサルーンそごう横浜店
取材・文/井上佐保子、写真/真嶋和隆

チーム制で人を育てる美容室での取り組み

お邪魔したのは資生堂ビューティーサルーンそごう横浜店。ここは資生堂の100%子会社、資生堂美容室が運営するヘア、エステティック、メーキャップから着付までトータルに対応するサロンです。

店に入って驚いたのは、なんといってもその広さ。窓から日差しが差し込む明るい店内にゆったりと配置された椅子は30席、シャンプー台だけでもずらっと13席設置されています。僕が普段行く近所の美容室とは、レベルが違います。

スタッフは60名。忙しい土日ともなると1 日に160名が来店、予約の電話は毎日200本以上かかってくるとのこと。横浜の優雅なマダム御用達という、この大店舗を取り仕切るのは若き店長、板野寿之さん。美容師の世界は、個々の能力に応じた完全成果主義というイメージがありますが、横浜そごう店ではチーム制を取り入れ、チーム全体の能力向上を図っているといいます。この美容室では、なぜチーム制を導入するに至ったのでしょうか。

美容師育成の現場は超成果主義、実力主義

まずは板野さんに、ご自身の経歴をお聞きしつつ、一般的な美容師の育成についてお話を伺いました。

板野さんが、美容学校を卒業し、就職したのは19歳の時。入社したのは、今から13年前の当時、急成長していた某有名美容室でした。

板野さんによると、美容師が一人前になるまでには、通常以下のような過程を経るということです。①美容学校を卒業後、美容室に就職。②アシスタントとして、掃除、用具の準備など雑用をしながらマナー、接客技術を学び、シャンプーの練習。③就職して1 ~ 1.5 カ月程で、実際のお客様にシャンプー。以後はシャンプーを担当しつつ、スタイリストの手伝いをしながら、段階的に技術を習得していく。毛質の違いなどをOJT で習得する。④3年3カ月~5年でスタイリストデビュー(実際に客の髪を切ることができ、指名を取れる)。⑤スタイリストになってからは、指名客数や売り上げによって、ランク付けがされ、それによって給料が変化していく。

アシスタント時代の板野さんは、日中は食事する時間もないほど忙しく、開店前、閉店後には雑用をこなしつつ技術習得の練習、と早朝から深夜まで働きづめ。上下関係も厳しく、先輩が教えてくれることはほとんどなかったそうです。「『指名が取れるかどうかがすべて』という世界です。しかり飛ばしていたアシスタントがある日、スタイリストとなって、自分を脅かすかもしれない。そうなると、誰もがライバル。育成する意識は生まれません。『教えて欲しければ頭を下げて教わりに来い』という雰囲気でした」

入社2 年目の1999年、“カリスマ美容師”ブームが巻き起こり、業界は急成長。そんな中、板野さんも3年目にしてスタイリストとしてデビューしました。

人気スタイリストとしてすぐに多くの指名客を持つようになった板野さんでしたが、悩みもありました。「大勢の指名客に対応するため、短時間にたくさんのお客様に対応しなくてはならなかったのです。そのため、1 人のお客様と接する時間はわずか。1 人ひとりのお客様に満足のいく対応ができなかったのです」

何度も上司に訴えましたが、売り上げを重視する経営層とは意見が合わず、デビュー後1 年で他店に移る決意を固めたといいます。

中原

一般的な美容師の育成方法は先輩の手伝いをしながら、見よう見まねで技能を習得していく徒弟的なOJTといえる。先輩の手法を観察して学ぶ「観察学習」はとてもパワフルだが、学ぶ側のモチベーションを高く保つことができなければ、機能しない。若手美容師は、一発逆転、下剋上もありうる実力主義、超成果主義によって、「自分で学ぶ」モチベーションを保っているのかもしれない。

チーム制の導入で業績が大幅に改善

転職先は資生堂美容室。板野さんは、以前の職場と違う、会社組織的な風土に戸惑います。「まず労働時間の短さに驚きました。以前に比べて、労働時間は約半分。喜ぶべきなのですが、当時は、『生ぬるい』としか感じられなかったんです(笑)」

個々の顧客にじっくりと接客する、という希望は叶ったものの、今度は別の不満も出てきました。それは、新規客が指名客の予約で埋まっていないスタイリストばかりに回されること。当然、指名客で一杯の板野さんには、回ってきません。「自分のほうが多くお客様を持って、指名客にすることができるのに、新規客を取れないのは不公平だと感じたんです」

また、アシスタントがどのスタイリストにつくかも決まっていなかったので、忙しい時にはアシスタントの取り合いになるなど、毎日のようにいざこざがあり、人間関係がギスギスしていたのだそうです。

そこで板野さんが提案したのが、チーム制成果主義でした。店内を公平に2 つのチームに分け、チームの業績に応じて、新規客やアシスタントを振り分ける仕組みです。板野さんは「自分が働きやすい環境をつくりたい、という考えから導入した」と笑いますが、この制度を導入したところ、今までのような新規客やアシスタントの振り分けに関するもめごとがぐんと減ったのです。また、成果が目に見えるようになったことで、平等に与えられた環境の中で、どれだけ成果が上げられるか、チーム内では協力し合い、チーム間では競い合うようになってきました。

そのうえ、チームの成果を上げるために、アシスタントの育成にも力を入れるようになってきました。結果的に、店の雰囲気も良くなり、店舗の業績が大幅に改善したのです。

中原

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