J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年05月号

CASE 1 タマノイ酢 意図的に“ 不安定な状態” をつくり出す 頻繁なジョブローテーションで長期的・持続的に活性化

ジョブローテーションを頻繁に行うことにより長期的・持続的な組織活性化を実現しているのがタマノイ酢だ。
理想とするのは、“甲子園をめざす野球チーム”。
厳しさの中で、互いに支え合いながら成長できる組織の秘密とは。

篠原美和子 氏 社長室 ドリームクエスト チームリーダー

タマノイ酢
1590 年頃、堺の製酢業者が大阪で酢を製造するようになり、酢の商標として「玉廼井(たまのい)」が用いられる。1907年、5つの蔵が集まり、「大阪造酢合名会社」を創立。醸造酢、粉末酢、各種調味料、レトルト食品および菓子・健康飲料などを製造・販売。
資本金:2億円、従業員数:300名

[取材・文]=増田忠英 [写真]=タマノイ酢 提供、編集部

● 取り組み状況 支店長から工場長への異動も

世界で初めて酢を粉末化した「すしのこ」や、ビネガードリンクの草分け「はちみつ黒酢ダイエット」などの商品で知られるタマノイ酢。大阪・堺に本社を構え、100 年以上の歴史を持つ老舗企業だ。

300人の従業員がいる同社では、入社5年目までの若手社員を中心に、3カ月~ 2 年という短いサイクルで頻繁にジョブローテーションが行われている。文系・理系も分け隔てなく、文系大学出身者が研究部門に配属されることもあれば、理系の大学院を卒業した社員が営業職に就くこともある。こうしたジョブローテーションはベテラン社員も例外ではなく、昨日まで支店長を務めていた社員が、次の日に工場長になることも珍しくない。

また、同社は「若手最前線」という取り組みも行っている。入社1 ~ 2 年目の社員に、大手企業との商談や新製品開発などの大きな仕事を経験させるのである。

「これらの取り組みは、現社長の播野(勤氏)が約30 年前に導入したものであり、今では企業文化として定着しています」と、社長室の篠原美和子氏は語る。

● 狙い 不安定な状態が成長につながる

同社が頻繁なジョブローテーションを行ったり、若手社員に責任の大きな仕事を任せる狙いは何か。

第一には、個々の社員の可能性を広げるということだが、組織全体に対しても大きな効果がある。

「ジョブローテーションを頻繁に行っていると、チームに常に新しいメンバーが入ってきます。新しい風を入れることでチームを安定させず、あえて“いっぱいいっぱい”な状態にすることで、常に変化に対応できる組織に成長できるのです。また、若手社員が責任の大きな仕事を遂行するには、周囲の支援が不可欠ですから、チームの結束力も高まります。

当社のような規模の会社では、社員一人ひとりの個性を活かしていかなければ大手企業に伍していくことはできませんが、個々の力を引き出すにはリーダーの姿勢や関わりが非常に重要です。その意味でも、多様な個性を持った若いメンバーに数多く接することによって、リーダーが鍛えられ、成長していきます」

さらに、多くの社員がお互いの仕事を理解し合うことによる効果も、決して小さくない。

「ジョブローテーションの効果として、社長の播野が次のようなエピソードをよく話します。

昔、ある2つの部署のリーダー同士が非常に仲が悪かったことがあり、互いに相手の部署が悪いと言い合うため、ある時2つの部署のリーダーを入れ替えました。すると、それぞれ相手の立場に立つことで、互いの理解が進み、文句も言わなくなったそうです。このように、ジョブローテーションにはビジネスの捉え方を変え、部署間の壁を取り払い、社内コミュニケーションを円滑にする効果も期待できるのです」

● 背景 自立と成長を何よりも重視

こうした取り組みの背景には、「会社の成長とは社員一人ひとりが成長すること」という播野社長の考えがある。一人ひとりの自立と成長を何よりも大切にし、その環境づくりを会社の使命としている。頻繁なジョブローテーションもその一環なのだ。

「個人が自立し成長するためには、自分の可能性を追求する姿勢が不可欠です。そのため当社では、結果よりも、それまでの過程において持てる力を精一杯発揮できたかどうか、一人ひとりがいかに目を輝かせているか、ということが重視されます。

したがって各部署のリーダーには、メンバーの目が輝くよう、自立や成長を促す指導が求められます」

● 土台 新人研修で価値観を注入

未経験のことを精一杯やることによって自分の可能性を追求する─この姿勢を社員が習得する最初の機会は、毎年行われている入社前の3 泊4日の新人研修だ。

「この研修では、新人はそれまでに体験したことのないようなハードなトレーニングにより、肉体的にも精神的にもギリギリまで追い詰められます。しかし、それでも負けずに頑張り続けることで、自分が無意識につくっている、自身や周囲に対する壁を乗り越える体験をしてもらいます。私も研修のトレーナーを務めていますが、壁は自分でつくったものなんだということをわかってもらうために、こちらも必死に取り組みます」

今では大半の社員がこの研修を受けているため、社内のミーティングなどで「新人研修だったら今、何日目だね」「新人研修中ならこうするよね」といった会話が交わされており、研修での体験は社員の間で、新たな壁を乗り越える際の共通言語になっている。

● 評価と組織風土 よく関わるが、馴れ合いではない

社員の自立と成長を重視する同社の姿勢は、人事評価においても一貫しており、個人の成果よりも成長度合いが重視されている。チームとしての目標はあるが、個人にノルマは課されない。

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