J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年01月号

企業事例③ 日揮 己を知り相手を知りお互いに尊重し、協働する

企業は段階を経て、グローバル化を進めるが、日揮はすでにグローバル企業といえる。海外勤務社員はもちろん、本社にいる社員でも常に異文化の中で働くのが当然だ。そうした同社が重視しているのが、OJTと、“マルチナショナルマインド”である。

大塚 秀樹氏
管理本部人事部 人事チーム マネージャー
馬場 浩史氏
管理本部人事部 人材育成マネージャー
日揮
1928年創業の総合エンジニアリング会社。各種プラント・施設に関するコンサルテーション、事業計画、機材調達、建設工事、オペレーションなどプロジェクトの計画からメンテナンスまで行う。北京、ジャカルタ、パリなど9カ所に海外事務所、14カ国に海外子会社があり、これまで約70カ国、2万件以上のプロジェクトを行ってきた。
資本金:235億1118万円、売上高:3175億9700万円、従業員数:2132名(いずれも2010年9月30日現在)
取材・文/浅久野 映子、写真/日揮提供、本誌編集部

すべての社員がグローバル人材をめざす

日揮は、1928年に設立されたエネルギープラントなどの生産設備の建設を総合的に実現させる総合エンジニアリング会社である。全社員がグローバルな環境で働くことを前提とするグローバル企業でもある。

まず、日揮がグローバル企業となるに至った、これまでの流れを簡潔に紹介しよう。

1928年に設立された同社は、1950年代に国内の大型案件を手がけ、高度経済成長の波に乗って急成長する。1960年代に入ると、海外進出を視野に入れた事業を展開する。1975年には海外プロジェクトの受注割合が50%を超えた。その後、1985年のプラザ合意による円高を乗り切るために外国人スタッフの活用を強化する。

1990年代になるとプロジェクトの巨大化と短納期化が促進され、海外関連会社との連携や、海外の同業会社とのジョイントベンチャーによる業務遂行が進んだ。2000年代には、事業の領域をさらに拡大している。今や、海外プロジェクトの受注割合は85%以上である。

日揮のグローバル人材育成の強みは2つある。1つは、OJTが効果的に機能する海外の現場や拠点が、世界各地にあるということ。もう1つは、早くからグローバル化が進んだことにより、社内にすでにグローバルな舞台を経験した人材が豊富にいることだ。

それでは、日揮の現場とはどのようなものだろうか。

たとえば、あるサウジアラビアでのプロジェクトの現場では、27カ国の国籍、1万4900名の人員が参加。その中で、日本人はわずか50名。全体の0.3%を占めただけだった。

日揮の社員が行う主な仕事は、EPCと総称される設計(Engineering)、調達(Procurement)、建設(Construction)フェーズを中心に、プロジェクトの事業化調査から、完成した設備を設計通りに稼働させる試運転のマネジメント業務である。

一貫した流れの中で、それぞれの部門の責任を果たし、蓄積された技術をベースに全体の遂行に責任を持ち、マネジメントをする。ヒト、モノ、カネ、情報を世界中から調達し、求められる品質、コスト、スケジュールに沿ってうまく取りまとめるのである。

管理本部人事部の馬場浩史氏は、「多様な人々の中でリーダーシップを発揮して物事を進められる、世界と伍して戦える人材をいかに育成するか」が日揮の人材育成のテーマだと語る。

グローバル人材育成の基盤は現場体験

日揮が求める人材像の基本は、「自律」「技術力/専門性」の2つ(図表1)。EPCの各フェーズで、トラブルにひるむことなく、自律的に問題に取り組むことができなくては、プロジェクト完遂は達成できない。そして、多国籍のスタッフを牽引するうえでそのリーダーシップを担保するのが、高い技術力と専門性だ。

そうした人材に成長するには、どういったスキルが必要か、またどういった能力を身につければいいのかを明記したのが図表2に示す教育体系図である。なお、G1~4は日揮の人事制度に基づく4つのグレードだが、G1はいわゆる担当者、G2は係長、G3は課長、G4は部長のレベルとなっている。

ここで日本的育成の視点から注目すべきは、現場の学びを重視した「現場研修」である。

30数年前からすでに行われている研修で、入社4年目までの若手社員を対象に、3カ月から半年にわたって国内外問わず、現場に派遣するというものだ。

近年では、90%以上が海外の現場に派遣されている。入社後最初の配属先が海外プロジェクトの設計部門であることが多いので、プラントの最終工程の建設を早いうちに体験させることが目的だ。

より具体的な目的は、「現場の組織、仕事の流れ、雰囲気など現場業務の大まかな輪郭を理解すること」「担当業務に関連のある現場に派遣し、担当業務を通じて技術力のレベルアップを図ること」の2つである。

現場業務重視は、その後も続く。たとえば、異文化理解を深めるためのビジネススキル――「英語ビジネスミーティング講座」などの研修は、現場に出る前ではなく、現場を経験した後に受講する人がほとんどだという。「英語ビジネスミーティング講座」は、たとえば海外の人がいる会議で、どうしたらコミュニケーションがうまくとれるのか、といったことを体系的に身につけるもの。講座を受けることで「なぜ自分が現場で困っていたか理解した」といった感想を持つ受講者も多いと、管理本部人事部マネージャーの大塚秀樹氏が語る。

「現場という修羅場の体験を経て研修に参加すると、自分が苦労していた背景などがわかり、今後気をつけなければならないことが、整理できると思います」(大塚氏)

海外に派遣する前にこうした研修を提供する企業が多い中、日揮では、多くの場合、海外での現場を体験してからの研修となる。その理由として、本社がすでにグローバルな環境にあることも挙げられるだろう。

「海外から本社に戻っても、エレベーターの中で日本人は自分1人ということがよくあります」(大塚氏)

横浜本社の中には、イスラム教徒のための礼拝室もあり、仕事中に祈りを捧げる行為も、ごく当たり前のこととして受け入れられている(次ページ写真)。本社勤務3000人のうち、客先駐在員なども含めておよそ350人が外国籍であり、新入社員の頃からまさに本社を含む職場が異文化理解のための現場となっているのである。

欠かせない英語力はTOEIC860点をめざす

全社員を対象にしているのは、「専門性向上」「ビジネススキル」「マネジメントスキル」を磨くための研修である。特にグローバルで活躍するうえで重要になるのが「ロジカルシンキング講座」。多様なバックグラウンドを持つ人とコミュニケーションをとるうえで、論理的に説明する力は、欠かせない能力だからだ。

もちろん語学力も重視している。そもそも日揮に入社を希望するのは、海外に飛び出して、国も文化も異なる人たちと協力し、大型プラントを完成させるという醍醐味に惹かれる人ばかり。当然、海外勤務への意欲も高い。だが、採用の時点では、英語力や海外経験は重視しないという。実際、海外に一度も行ったことがない人や、TOEICが低スコアの人も入社している。英語力よりも、リーダーシップを発揮した経験があるか、チームで働くことに向いているかどうかに着目するという。

とはいえ入社後は、円滑に業務遂行できるだけの英語力を身につけることを最終ゴールとし、TOEIC860点以上獲得を目標としている。通信教育費補助や、語学学習補助などのサポートは充実しているが、これらは自己啓発に位置付けられており、語学力は自己責任で伸ばす努力をすることが前提となっている。

上司が部下の育成計画を長期間にわたりつくる

特徴的なのは、基礎的な研修については、上司が部下の育成プランを作成し、それに従い受講するということ。

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