J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年01月号

企業事例① パナソニック 国境を越えて理念を共有し長期的に現地の人材を育てる

世界中に約190もの拠点を持ち、さまざまな国籍の人が働くパナソニックでは、現地の人材を育成し、事業を任せる方法で現地法人を育てている。人種や文化、国の体制などが異なる国々で、“パナソニック”としての一体感を保つための核となっているのが同社の「経営理念」だ。

阿部 信弥氏
人材開発カンパニー 社長
上田 修治氏
人材開発カンパニー ものづくり研修センター 所長
パナソニック
1918年創業。故・松下幸之助氏が考案したアタッチメントプラグを製造・販売した松下電気器具製作所を母体とする。2008年に社名を松下電器産業からパナソニックに変更。同年、三洋電機を子会社化。電子部品から家庭用電子・電化製品、FA・産業機器、情報機器に至る幅広い商品サービスを手がける総合エレクトロニクスメーカー。
資本金:2587億円、売上高:7兆4180億円、従業員数:38万4586名(いずれも連結、2010年3月期)※三洋電機は第4期のみ連結。
取材・文/赤堀 たか子、写真/本誌編集部

従業員の6割は海外人材

パナソニックが最初の海外販売拠点「アメリカ松下電器」を設立したのは、1959年。その2年後(61年)には、同社初の海外製造拠点をタイに設立し、現地生産を開始した。以来、全世界約190社に及ぶグローバルネットワークを構築している。

海外拠点の増加に伴い海外出身の従業員の数も増えており、グループ全体(サンヨーも含む)の従業員、約38万人のうち、海外人材が6割にものぼる。

また、グループ全体の売上高のうち、海外での売上高が半分近くを占めており、今後はこの割合がさらに拡大すると見られている。

このように、パナソニックでは、事業展開における海外拠点の役割が増しており、グローバルな人材育成が重要な課題となっている。

“モノをつくる前に人をつくる”

パナソニックでは、“生産・販売活動を通じて社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与する”ことを経営理念として掲げている。

生産も販売も行うのは、人であり、したがって人を育てることが、経営理念の遂行につながる。そうした考えから、同社では、「モノをつくる前に人をつくる」という言葉で人材育成の基本の考え方を示し、グローバルな人材育成もこの考え方にのっとって行っている。

海外での「人づくり」で同社が重点を置いているのが、「現地人の経営幹部の育成」だ。

同社・人材開発カンパニーの阿部信弥社長は、その理由を次のように説明する。

「当社では、それぞれの国の人たちが自らの手でその国の会社を経営する、“現地化”を進めています。日本人が各国に出向いて指揮するよりも、現地の人が現地の言葉で指揮するほうが、コミュニケーションもスムーズになります。

また、自分たちにも経営幹部になるチャンスがあると思えば、仕事に対する意欲も高まるでしょう。そうなれば、事業もその国に定着しやすくなり、その国の社会の発展にもつながります。つまり、現地化を進めることは、『その国の社会発展に貢献する』という当社の経営理念の遂行にほかならないのです」

現地の経営幹部を育成する上で同社が特に重視しているのが、「経営理念の浸透」だ。

「同じパナソニックの製品を製造・販売する企業といっても、事業を展開する国や地域ごとに事情は違います。しかし、どこの国であっても、また、どんな組織であっても『その国の社会発展に貢献するために、事業を展開する』という考え方は、共通の経営理念として持つことができます。それができれば、製造会社は、顧客視点でいい製品を適正価格でつくれるように努力をするでしょうし、販売会社は、いい製品ができたら、それをお客様に紹介して、買っていただく努力をします。

つまり、言葉や人種、価値観、仕事内容などが違っても、経営理念が共有できれば、1つの企業グループのメンバーとしての一体感を保つことができるのです」(阿部氏)

さまざまなアプローチで経営理念を理解させる

グローバル経営をするうえで、基盤となっているのが、経営理念の浸透だ。

同社の経営理念やそれを実施するための行動基準は、創業者である松下幸之助氏の遺した言葉が基になっている。そうした言葉は、たとえば“雨が降ったら傘をさす”という具合にシンプルなものだが、そこには、松下幸之助氏が企業経営で培った自然観・人間観・経営観が反映されており、言葉の奥に込められた意味は、深い。それを理解するために、日本人が現地に出向き、現地の言葉で教授することもあれば、さまざまな人種が一緒になって英語で経営理念を学ぶこともある。だが、ユニークなのは、海外の製造現場のリーダーであり、後述する工科短期大学校で学ぶ若手に対して、日本語で経営理念を教えることだろう。その意図について、ものづくり研修センター所長の上田修治氏は、次のように語る。

「経営理念をしっかり理解するためには、表面的な意味だけでなく、その背景にあるものの考え方・価値観や習慣を理解することが重要で、そのためには、日本語で理解することも効果的です」

また、テクニカルな面でも日本語の理解は、重要だ。

製造現場では、「5S」や「カイゼン」「イタコナ(板や粉などの原材料レベルまで遡り、ムダを排除する)」など、日本語から生まれた生産性向上に関する専門用語が日常的に使われる。海外で日本に劣らない工場をつくろうと思えば、そうした専門用語は当然、頭に入っていなければならない。

経営理念の教育には、経営幹部の講義の他、創業者を知るOB・OGによる講話もある。また、講義に加え、“こうした課題に直面した際、経営理念に基づいてこう対処した”といったケーススタディーも行っている。

「単に経営理念の解説を聞いただけでは、理念がいうところの本当の意味を理解することは難しい。そのため、さまざまな経験を積んだ人たちの話を直に聞いたり、ケーススタディーで疑似体験したりすることで、経営理念の意味を実感できるようにしているのです」(上田氏)型の習得を通じて

モノづくりの心を教える

「現地の経営幹部の育成」と並び、同社が力を入れているのが、現地の「現場力の強化」だ。

グローバルな競争の激化に加え、“環境”や“社会”への配慮など、企業経営に求められるものも多様化している。経営環境の変化に迅速に対応するためには、メーカーの根幹であるモノづくりの現場においても、革新的な取り組みが欠かせない。そうした活動を指揮する人材を育てるべく、現地の製造現場の次世代リーダー育成にも取り組んでいる。

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