J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2010年11月号

重重無尽 新しい発想を生む若手研究者を育てる

西川 伸一氏
理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長
1948年生まれ。血液、色素細胞などの幹細胞の増殖・分化のメカニズムを研究する幹細胞研究の世界的第一人者。1973年に京都大学医学部を卒業し、1980年ドイツ・ケルン大学遺伝学研究所に留学。熊本大学医学部教授、京都大学医学部教授を経て、2000年より現職。2008年に発足した独立行政法人・科学技術振興機構(JST)「戦略的創造研究推進事業」で、“iPS細胞と生命機能”領域の研究総括をつとめる。
取材・文/木村 美幸、 写真/吉田 庄太郎

私が研究総括をつとめている「さきがけ」は、国の戦略目標に沿って設定された研究領域に関する研究テーマを公募し、選考・採択された研究をサポートする機関。科学技術振興機構の『戦略的創造研究推進事業』の1つです。最大の特徴は、対象が研究チームではなく、個人研究者だということです。

我々の研究領域は“iPS細胞と生命機能”。iPS細胞(Induces Pluripotent Stem Cell)は、ご存知のように京都大学の山中伸弥教授が、世界で初めて作製に成功しました。

私たちの体を構成している約60兆個の細胞は、たった1つの受精卵から変化したもの。その変化は一方向性のもので、二度と元に戻ることはない、というのが定説でした。ところが山中さんは、ヒトの皮膚細胞をさまざまな細胞に変化する能力を持った細胞、いわば受精卵の状態へ逆戻りさせることに成功したのです。

細胞を人間にたとえるなら、こうして研究者をしている私を、スポーツ選手や政治家など、何にでもなれる可能性を持った状態へと戻すようなもの。実に画期的な技術なのです。

「さきがけ」がサポートしているのは、30代を中心とする若手研究者。iPS細胞という全く新しい概念を、若い人たちがどう研究し、どう使うのか――ここに私は興味を持ち、コーディネーターにあたる“研究総括”を引き受けることにしました。

たとえば携帯電話1つとっても、私の年代で、携帯を使ってすることなどたかが知れていますが、若い人たちは新しい活用法を次々と考案しますよね。iPS細胞に関しても、自由で創意に満ちた発想が出てくることを期待しています。

「さきがけ」のもう1つの目的は、研究者の独立支援です。欧米の研究機関は近年どんどんフラットな組織へと変貌しています。対する日本は、まだまだ組織が階層的で、若くして独立するのが難しい。けれども独立して、外部から研究資金を獲得して、自分のしたい研究をする。そして、その結果に自ら責任を持つ。若いうちから研究者にこうした経験を提供することは、とても有意義だと思います。

私が若手研究者に対して常に言っているのは“ユニークであれ”ということです。ハーバードなど一流の大学では、活発な議論を通じて“独自の発想で、他の人が考えないような研究をすることがどれほど重要であるか”を教え込みますが、こうした教育は稀。それに研究って、何かわからない新奇なものより、人と同じようなことを選んだほうが楽だし、実は論文も通りやすいんです。しかしそれでは、新しいことは生まれない。

そこで年2回、研究領域ごとに全メンバーが集まり、1泊2日で領域会議を行っています。ここでは研究発表や議論をしますが、これまでの成果よりも“どういう研究がしたいか”という各人のビジョンを重視しています。領域アドバイザーと呼ばれる7人のベテラン研究者も交えて、互いに言いたい放題言い合い、徹底的に批判します。“それは他の人も考えている、違うことを考えろ”と言い続けることで、徐々に違う方向に目が向き、新しい発想が生まれてくるのです。

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