J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年02月号

船川淳志の「グローバル」に、もう悩まない! 本音で語るヒトと組織のグローバル対応 第10回 グローバル人材アセスメントのヒント

多くの人材開発部門が頭を悩ませる、グローバル人材育成。
グローバル組織のコンサルタントとして活躍してきた船川氏は、「今求められているグローバル化対応は前人未踏の領域」と前置きしたうえで、だからこそ、「我々自身の無知や無力感を持ちながらも前に進めばいいじゃないか」と人材開発担当者への厳しくも愛のあるエールを送る。

船川淳志( ふなかわ あつし)氏
グローバルインパクト代表パートナー。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。東芝、アリコジャパンに勤務後、アメリカ国際経営大学院(サンダーバード校)にてMBA取得。組織コンサルタントとして活動する傍ら、以下の講師を歴任。サンダーバード日本校 客員教授(1999-2003)、NHK教育テレビ「実践・ビジネス英会話ーグローバルビジネス成功の秘訣」講師(2003-2004)、社団法人日本能率協会 主催「グローバルビジネスリーダープログラム」主任講師(2004-2007)、国際基督教大学大学院 Global Leadership Studies 非常勤講師(2011-)、早稲田大学大学院 ETP 非常勤講師(2011-)。

ヒトのデュー・ディリジェンスを

ヒトと組織のグローバル化対応が求められる昨今、採用、教育、配置、評価、処遇、代謝(再配置)という人的資源管理(HRM:Human Resources Management)のサイクルをしっかり回していかねばならないことは自明の理だ。ただし、HRMを日本人相手に行うのと、多文化、多言語環境で運用していくのとでは天と地ほどの難易差がある。

加えて、M&Aを成功に導くためには相手側企業の財務状況や、持っている技術のデュー・ディリジェンス(事前の実態調査)はもちろん、ヒトのデュー・ディリジェンスも行わなければならない。しかし、多くの日本企業には、この分野でのノウハウの蓄積がない。

そこで、今回は経営幹部候補者や管理職候補者の採用、M&Aの相手企業側の主要人材の見極めの際に重要となる「人材のデュー・ディリジェンス」について考えてみたい。

アセスメント・センターの体験

まず、私が経験したアセスメント・センターのプロジェクトを紹介する。1992 年初頭、ビジネススクールを終えた私は米・シリコンバレーのクラーク・コンサルティング・グループ(CCG)に入社した。CCGはもともと80年代にスタンフォード大学の研究機関として発足した。P&Gの技術移転の案件を受注後、民間のコンサルティング会社として再スタート。当時、異文化経営の分野では、日本に進出した米国企業の間でよく知られていた。

実はこのCCG時代に、アセスメント・センターとしての業務をあるクライアントから依頼された。その内容を図1と併せて解説しよう。米国企業A社がその日本法人の代表者にふさわしい人材を探していた。通常は、エグゼクティブサーチ、つまりヘッドハンターと呼ばれる企業が候補者を何人かA社に紹介し、A社が直接、候補者の選考作業に入る。

しかし、A社は過去に日本法人の上級職選びに失敗していたこともあって、候補者選考を我々に依頼したのだった。エグゼクティブサーチがA社に紹介した候補者は日本人合計5人。その候補者に1人ずつシリコンバレーに来てもらい、丸2日間のアセスメントを受けてもらう。候補者の中には現役のコンサルティング・ファームのディレクターや外資系企業の社長もいた。MBAホルダーは5人中、3人。履歴書を見る限り、いずれ劣らぬ「履歴書美人」ばかりであった。

一方、我々の側は日本人3人、米国人4人の7人でチームを組み、その中で米国人のコンサルタントがプロジェクトリーダーを務め、私がサブリーダーを務めた。アセスメントの初日は午前9:30からスタートし、夕食も一緒にとる。2日目の終了は午後4:30。その間、我々7人は入れ替わり立ち代わり候補者にインタビューする。さらにインバスケット(バーチャル・ビジネス・ゲーム。架空の人物になりきり、制限時間内に、より多くの案件を正しく処理する)、ケース分析、会議をまとめるシミュレーション、大口顧客への訪問や年頭挨拶のロールプレイなどを行い、いろいろな角度から候補者を観察し、アセスメントを行った。どの候補者も知力、体力、共に消耗して2日間を終えた。

カッツ・モデルの応用

我々は何を見ていたのか。次ページ図2の「問題解決とスキルセット」はスキル開発の世界では知っている人も多いロバート・カッツ(ハーバード大学教授)のモデルを応用したものだ。ここでは、スキルは「テクニカルスキル(専門能力)」「ヒューマンスキル(対人能力)」、そして概念創造能力とか構想力などと訳される「コンセプチュアルスキル」の3つに大別される。

縦軸は発揮する能力の割合、度合で、横軸は右へ行くほど、管理職に求められるものとなる。例えば、経理配属の新人は伝票の切り方から始まって小口現金を扱いながら、経理部門に必要なテクニカルスキルを習得し、それらを発揮することが期待される。しかし、経理部長になれば、経理の知識は持っていて当然。期待されるのは、いかに他部門と折衝しながら、全社戦略の中で経理の付加価値を高められるかである。「戦略」も「付加価値」も、それ自体はコンセプトである。

研究者も同様だ。研究メンバーは業務に則した専門知識を身につけ発揮していくが、研究リーダーとなるとテーマ設定から予算取り、自分のメンバーのモチベーションアップと、コンセプチュアルスキルのみならずヒューマンスキルも発揮しなければならない。

3つのスキルの中で、第三者から見て最もわかりやすいのはテクニカルスキルだろう。一方、ヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルのレベルはわかりにくい。ただし、専門知識を持った者なら、かなり正確にそのレベルを見抜くことができる。

1人につき2日かけてアセスメントを行えば、それなりの費用や時間がかかるが、しかるべきポジションに最適の候補者を見つけるため、クライアント企業は的確なアセスメントを行うよう求めていた。そこでアセスメントを行う我々も専門性の異なるメンバー7人でチームをつくり、多面的に観察しながら、課題を出した際の候補者の状況を共有し、ディスカッションを続けていた。

さらに2つのクリティカル要因

我々が見ていたのは上記のスキル要因だけではない。「職務遂行を求められている組織とフィットするか、否か」にも注目した。そこで、A社の日本法人も訪問し、何人ものキーパーソンにインタビューした。A社の事業特性だけではなく、日本法人の組織特性も理解するようにした。

「フィット」と言うと曖昧に聞こえるかもしれないが、非常に重要なポイントだ。コンサルタントとして優秀な人間が事業会社に入社したとたん、能力が発揮できなくなる、というケースもよくある。理由は「フィットしていないから」だ。

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