J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年02月号

OPINION 2 ちょっとした工夫で職場は変わる “ゆとり”と“認め合い”で回り始める「働きがい」の好循環

ゆとりが失われた職場では、プレイングマネジャーが増え、OJTが機能しない。
したがって、若手も成長を阻まれる。
目先の効率性にとらわれず、長い目でゆとりを持って働き、職場でそれを認め合うことが、結局は働きがいや成長につながる──と宮原淳二氏は言う。
あの手この手で「働きがい改革」を進める事例を紹介しよう。

宮原淳二(みやはら じゅんじ)氏
東レ経営研究所 ダイバーシティ&ワークライフバランス推進部長。大手化粧品会社で人事労務分野全般を担当、ワークライフバランス・男女共同参画・風土改革・女性活躍支援などを中心に推進。2011年1月に東レ経営研究所へ転職しコンサルタントとして活躍。内閣官房「すべての女性が輝く社会づくり推進室『暮らしの質』向上検討会」の座長。国立市男女平等推進委員(有識者)。2級キャリア・コンサルティング技能士。日本メンタルヘルス協会認定心理カウンセラー。企業や自治体、労働組合でのワークライフバランスに関する講演を多数実施。大学や専門学校でのキャリア講座の講師も務める。
[取材・文]=中津川詔子 [写真]=編集部

「働きがい」が生まれない職場

私自身は、20 代の後半からキャリアアップを強く意識するようになった。大学卒業後に入社したのは大手化粧品会社で、入社2 ~ 3年目の先輩が2人ほど、教育係についてくれた。先輩と長い時間を過ごすことで、先輩に追いつきたいという気持ちが生まれ、「働きがい」につながっていたと思う。数年後の自分の将来像を重ねられる先輩が、常に身近にいる──。思えば、非常に恵まれた環境だった。

しかし今日、先輩が複数で新人指導するほど余裕のある企業は稀だろう。管理職が使える経費も減り、部下との「飲みニケーション」もやりづらくなった。割り勘では上司の説教など誰も聞きたくないから、オフィス内の人間関係は限定的なものになってしまう。かつてのような濃い関係は築けないのが一般的だ。

また、今時の管理職は忙し過ぎて、物理的にも心理的にも、周囲を見る余裕がない。「部下の仕事をきちんとマネジメントしている実感がない」と、平気で口にする人も珍しくない。部下に権限委譲すれば余裕ができるのに、プレーヤーとして優秀な人ほど頑なに自分自身で仕事を抱え込み、部下がいつまでも育たない、という負のサイクルに陥っているのではなかろうか。

その結果、上司は疲弊し、部下は成長の機会を奪われる。このように悪循環が常態化した職場では、「働きがい」など生まれようがない。得意先に対するリスクマネジメントもおろそかになっているのでは、と思う。

「科学的ゆとり」のすすめ

先日、「渋滞学」で有名な東京大学(先端科学技術研究センター)教授 西成活裕氏から、興味深い考察を伺った。「『渋滞学』から考える科学的カイゼン」というテーマである。「アリは渋滞を起こさない」という発見から、自然界にならって人の行動の無駄やムリをなくしていくというものだ。渋滞もそのひとつだが、仕事の進め方においても、普通の「ゆとり」から「科学的ゆとり」への移行が可能だとしている。

一般的に「ゆとり」と言えば、特に目的を決めずに自由時間を設けることを指す。運がよければプラス効果をもたらすが、そうでなければ無駄になってしまう。これに対して「科学的ゆとり」は、明確な目的のために、あえて“目先のマイナス”を選択する。その代わり将来はプラス効果を得られる可能性が高い(図1)。

具体例を挙げよう。バケツリレー方式で、早く水槽を満タンにするには極力、1回に運ぶ水の量を増やしたいところだが、多過ぎると重くなり、運び手の運搬スピードは遅くなる。一方、バケツの水を減らせばスピードは速くなるが、運ぶ回数が増える。数学を使って調べたところ最も早く水を運べるのは、実はバケツに7割の水を入れた時であることが示された。遠回りのようでも、運び手の負担を3 割減らす方法が一番効率的だということが明らかになったのである(図2)。

効率的に働くため、「朝型勤務」を施行しているのが、大手商社の伊藤忠商事だ。同社は、「朝型勤務」へのシフトチェンジにより残業を減らし、社員の満足度を上げることに成功している。具体的には、20 時以降の勤務は原則禁止。その日に終わらない場合は帰宅し、翌朝早く出勤して続きの作業をするよう促している。「夜の2 時間よりも、朝の1時間」などと言われるように、同じ仕事でも、朝に振り分けたほうが頭も冴えているし、夜の残業が少ない分、肉体的負担が少ない。したがって、仕事の質もパフォーマンスも上がる。

朝型勤務シフトを加速させるため、朝5時~9時に出社した社員に残業代150%相当の早朝割増手当をつけ、バナナやヨーグルトなどの軽食を無料提供することにした。「コストカットではなく、社員の生活向上が目的」という社の姿勢が周知され、社員満足度は大幅に上がっている。6ヵ月のトライアル期間で成果が明らかとなり、2014 年5月、正式導入された。

コミュニケーションの円滑化策

政府は「2020 年までに有給休暇取得率7割をめざす」としているが、厚生労働省の調べでは48.8%(2013 年)。達成にはほど遠い。だが、前述の伊藤忠商事のように、働き方改革を実施する事例も徐々に出てきている。

最近では「かえる札」を導入している企業も見られる。朝、出社した時、パーテイションの上などにはさんで「私は今日○時に帰ります」と周囲に宣言するツールである。自分の都合を「見える化」しておけば、部下は上司からの残業依頼を回避でき、上司も配慮できる。そもそも、上司の命令ではなく、自分の裁量で残業している人は5割に達する、との調査結果もある。中には“つきあい残業”をしているケースもあるだろう。自律的な働き方を実現させるためにも「かえる札」の実施は有効ではないか。

コミュニケーションにおいて社員同士の対面スキルを向上させる施策もある。サントリーでは、毎週水曜日の12時から15時まで、社内のパソコンに接することを禁じる「プレミアムタイム」を設定している。「何でもかんでもメールでやり取りする」文化を改善することが、施策展開の目的だ。おかげでこの時間はデスクワークが減り、社内のあちこちでミーティングの輪ができるという。メールというITツールの強みを活かしつつ、対面コミュニケーションも重視するこの施策は、他社でも広がりを見せるかもしれない。

2006 年から「サンクスカード」をスタートしたのは、富士通ラーニングメディアだ。社員のコミュニケーションを円滑化するための取り組みである。「社内SNSを盛り上げてくれてありがとう」などと書いた名刺大カードを渡すことで、感謝の気持ちを表し合う(図3)。

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