J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年01月号

KEYWORD 7 レジリエンス・トレーニング

日本でも2013年頃から関心が高まっている「レジリエンス」。
「精神的回復力」「抵抗力」などと訳される心理学用語であり、ビジネスパーソンのメンタルヘルスケアが重要視される昨今、注目すべきキーワードの1つである。
外資系企業を中心に、すでに「レジリエンス・トレーニング」を企業内研修に導入している例もある。そこで、日本でレジリエンス・トレーニングを広める活動を行っている久世浩司氏に、レジリエンスとはどんな概念か、また、どのようにしたら高めることができるのかを聞いた。

久世浩司( くぜ こうじ)氏
ポジティブ サイコロジー スクール 代表
慶應義塾大学卒業後、P&Gに入社。その後、ポジティブ心理学を活用したコーチ・講師を育成する社会人向けスクールを設立。専門はレジリエンス。NHK「クローズアップ現代」ではレジリエンス研修が取り上げられた。著書に『「レジリエンス」の鍛え方』(実業之日本社)、『なぜ一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?』(SBクリエイティブ)などがある。認定レジリエンス マスタートレーナー、ザ・アカデミージャパン エグゼクティブ・トレーナー。

[取材・文]=木村美幸 [写真]=編集部

「レジリエンス」とは

「レジリエンス」の定義は人や団体によってさまざまだが、アメリカ心理学会は「逆境や困難、強いストレスに直面した時に適応する精神力と心理的プロセス」と説明している。

では“レジリエンスのある人”とは具体的にどんな人を指すのか。私は以下の3つの力を持っている人のことだと捉えている。

<回復力>

ストレスなどによって一時的に落ち込んでも、そこからすぐに立ち直れる力である。この力がなければ、いつまでもくよくよ悩み続け、生産性を低下させてしまう。

<緩衝力>

いわば精神の“弾力性”だ。弾力性を持つ人の心はテニスボールのように、外からのストレスを跳ね返すことができる。しかし弾力性がないと、卵の殻のようにパキッと割れ、心が折れてしまう。

<適応力>

次は「適応力」。例えば企業人の場合、リストラ、組織改革、異動、昇格といった変化は、どれも基本的にはストレスとなるが、それらに上手に適応していける力のことだ。

ここで明確にしておきたいのは、こうした力は本来誰もが持っており、「自分は非常に打たれ弱い」と考えている人でも、訓練によって高めたり引き出すことが可能であるということだ。

ただし、レジリエンス・トレーニングが機能するのは、ストレスを抱えてはいるがメンタルヘルス不調にまでは至っていない層。予防には効果を発揮するが、不調に陥った場合は臨床心理士などの専門家を頼るべきだ。

必要とされる3つの理由

そもそもレジリエンス研究は、うつ病の若年化が深刻になりつつあった30 年ほど前に始まった。“思春期以降にうつ病にかかると、成人以降での再発リスクが一気に高まる”というデータに注目した研究者たちによって、将来うつ病にかかりにくくするために、子どもたちへのレジリエンス教育が進められた。その後、企業でのメンタルヘルスの問題が顕著になり、レジリエンス・トレーニングの企業への導入が始まった。具体的な企業名を挙げれば、ロイヤル・ダッチ・シェルやゴールドマン・サックスなどである。

日本でも2013年頃から徐々にレジリエンスに着目する人や企業が増えてきたが、その理由は主に3つ考えられる。

1つめは、職場におけるストレスの増大。精神障害の労災請求件数は、1998 年頃から多少の上下はあるが増え続け、2013年度には1409 件と過去最多となった(厚生労働省調べ)。また、2015 年中には従業員数50人以上の、全事業所でのストレスチェックの義務化がスタートするため、人事関係者の多くが、こうした問題に対してセンシティブになっている。

2つめには、グローバル化が挙げられる。海外、特に新興国でのビジネスは変化が激しく、担う人のストレスも大きいため、冒頭で挙げた3つの力を持たない人材が海外に駐在した場合、任期半ばで帰国してしまうケースが少なくない。これは企業にとっては大きな損失であり、本人のキャリアにもダメージを与える。そうした、グローバル人材の育成方法を模索している人事担当者たちが、レジリエンスという概念に光明を見出したのだ。

3つめは、人事担当者による、若年層の“打たれ弱さ”への懸念。特に“ゆとり世代は対人関係のストレスに弱い”と一般的に言われていることが、レジリエンスへの関心を高める1つの要因になっているであろう。

しかし、実際に今一番苦しいのは、30、40代のミドル層だ。若手社員には転職というオプションもありうるが、その多くが家庭を持つミドル層は、強くストレスを感じていても環境を変化させにくい状況にある。切実にレジリエンスを必要としているのは彼ら彼女らなのである。

トレーニングで何をするか

私がレジリエンスという概念と出会ったのは7年ほど前、P&Gの社員としてシンガポールに赴任した頃のこと。担当していたビジネスが予想外の危機に直面し業績も悪化。私は責任者として精神的に追いつめられた。そこで現状を打破するための方法を探していたところ、社会人向けスクールで偶然出会ったのが「レジリエンス」の講座だった。しかもその際、レジリエンス・トレーニングの開発者イローナ・ボニウェル博士がイギリスから来ており、博士自身による集中講義を受けることができた。そしてその内容に、「これこそが自分にとって必要なものだ」という直感を得た。

ここでレジリエンス・トレーニングの概要を紹介しよう。レジリエンスを体系的に鍛えるために必要となるのは7種類の技術である(図1)。

まず、失敗やトラブルなどによる精神的な落ち込みを“底打ち”させるために必要なのが「1 ネガティブ感情の悪循環から脱出する」「2 役に立たない“思い込み”をてなずける」という2つの技術である。

次に「3“ やればできる”という自信を身につける」「4 自分の“強み”を活かす」「5 こころの支えとなる“サポーター”をつくる」「6“ 感謝”のポジティブ感情を高める」の4つの技術で、“底”から上方向に這い上がるための“レジリエンスの筋力”を鍛える。

そして、立ち直ることができた段階で、逆境体験を教訓化し、自らの成長につなげる技術が「7 痛い体験から意味を学ぶ」だ。

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